
古田霊能探偵事務所
登場人物:4人 (男:1 不問:3)
・古田新田朗 :不問
・桐島灯火 :男性
・小岩 :不問
・町田 :不問
古田「さて、開幕早々この探偵事務所最大の危機を迎えたわけだが。」
桐島「毎月の事ですが。」
古田「迎えたわけだが!」
桐島「はぁ。」
古田「依頼が無さすぎて金がない。」
桐島「知ってます。」
古田「このままだと明日の飯代もない。」
桐島「ご愁傷様です。」
古田「もちろん君の給料もない。」
桐島「ふざけんなよクソ野郎。」
古田「あんまり強い言葉使わないで、泣いちゃうから。」
桐島「いい歳したおっさんの涙とかマジできついのでやめてください。」
古田「は、はい…」
桐島「で?」
古田「で?」
桐島「どうするおつもりなんですか?」
古田「どうしようかね。」
桐島「確か所長は生命保険入ってましたよね?」
古田「今なんか怖いこと考えてない?」
桐島「いえ、完全犯罪について考えているところです。」
古田「完全にヤル気だね君。」
SE:玄関のチャイムの鳴る音
古田「お、来客だ。助手よ、対応してくれたまえ。」
桐島「私は助手ではなく事務員なので職務外ですね、ご自分でどうぞ。」
古田「あ、はい。」
SE:ドアを開ける音
古田「はい、こちら古田霊能探偵事務所です。」
小岩「すみません、知人の紹介で伺ったのですが。」
古田「ご依頼のお方ですね、奥へどうぞ。」
小岩「失礼します。」
古田「こちらにお掛けください、今お茶を入れてきます。」
小岩「はい。」
SE:お茶を用意する音
SE:お茶を置く音
古田「では改めまして、ここの所長を務めている古田です。」
小岩「小岩と言います…あの、ここのことは」
古田「町田さんの紹介ですね?」
小岩「な、なぜそれを?」
古田「一応霊能探偵ですので、ね。」
小岩「す、すごい。本当に霊能力ってあるんですね。」
桐島「詐欺師。」
小岩「ん?」
古田「コホン、それでどういった内容のご相談でしょうか?」
小岩「その…こんなことを言って信じてもらえるかわかりませんが。」
古田「はい。」
小岩「ずっと、声が聞こえていまして。」
古田「声?」
小岩「はい、最初は私の勘違いだろうと、たまたまそんな声が聴こえてきたんだと思ってい
ました。」
古田「そうではなかったと?」
小岩「はい、もう二週間もずっと聞こえてくるんです。」
古田「病院には行かれましたか?」
小岩「はい、耳にも脳にも異常はないと診断されました。」
古田「一体どのような声が聴こえてくるんですか?うめき声?恨み言?」
小岩「それがその、聴こえてくるのは悪口なんです。」
古田「では小岩さんの話をまとめましょう。」
小岩「お願いします。」
古田「声が聴こえ始めたのは二週間ほど前、声は決まって小岩さんんが一人になったタイミ
ングで聴こえてくる。」
小岩「そうです。」
古田「聴こえてくるのは小岩さんへの悪口、カメラやボイスレコーダーではその声を録音す
ることはできなかった。」
小岩「はい、できませんでした。」
古田「声は一種類ではなく小岩さんの知人友人家族など様々な声の悪口が聴こえてくる、
間違いないですか?」
小岩「間違いないです、一人の声の時もあれば複数人の声が聴こえてくることもあります。」
古田「病院に行っても異常なし、と。」
小岩「はい…一人になったら悪口がずっと聞こえてきて、頭がおかしくなりそうで、それで
藁にも縋る思いで町田さんに相談して」
古田「ここに来た、ということですね。」
小岩「ここならば不思議なことも何とかしてくれるって町田さんが。あんまりあてには
してなかったんですけど。」
古田「お任せください、こう見えても界隈じゃ凄腕で通ってるんですよ。」
小岩「そ、それじゃあもう原因は分かったんですか。」
古田「もちろんですよ。」
小岩「や、やっぱり私の悪口を言っている人たちの心の声が聞こえてているとかそういう?」
古田「…なぜそう思われるんですか?」
小岩「聴こえてくる声が知人ばかりだし、実際皆言ってそうな悪口ばかりなんですよ。」
古田「悪口を言われている自覚があると?」
小岩「私、人より目立つんで妬まれているんじゃないかと。」
古田「なるほどなるほど。」
小岩「どうせ皆裏では言いたい放題に決まってます。だからその声が私に聞こえてきてる
んじゃないかって。」
古田「まぁそういう事例がいままでなかったわけではないんですが。」
小岩「それじゃあ」
古田「しかし、今回の件は別ですね。」
小岩「別、ですか…」
古田「ええ、今回の件の原因はおそらく耳ではなく口にあるんですよ。」
小岩「それはどういう…?」
古田「さて、ここからは解決策の提示なのですが。」
小岩「解決できるんですか?」
古田「ええ、ですが完全解決となると少々お値段がかかってしまいまして。」
小岩「あの、あんまりお金を多くは用意できないんですが。」
古田「それならばお安いコースも用意できますよ。そちらをお試しいただいてからでも
大丈夫です。」
小岩「それでしたらそちらの方でお願いします。」
古田「でしたら……これだけいただけますでしょうか?」
小岩「思ったよりもお安いですね、こういうところってもっとお金を取られるイメージ
でした。」
古田「ウチは良心でやらせていただいていますので。」
小岩「それで、どうすればいいんですか?」
古田「少々お待ちを。」
SE:足音が遠ざかっていく
小岩「まったく…なんで私がこんな胡散臭い所に相談しなきゃいけないの…それもこれも
あの人たちが…」
桐島「コホン。」
小岩「あっ……」
桐島「……」
小岩「あの……古田さんは本当に霊能力者なんですか?」
桐島「私にはわかりかねますね、私にはそういう不思議な力はないもので。」
小岩「じゃあなんでこんなところで働いているんですか?」
桐島「それは…」
古田「いやぁおまたせしました。こちらをどうぞ。」
小岩「これは…リップクリーム?」
古田「ちょっと特殊な奴でして、これから毎朝こちらをお塗りください。」
小岩「それで声が聞こえなくなるんですか?意味が分からないんですが。」
古田「効果がみられないようでしたら代金はお返ししますよ。」
小岩「それなら…」
古田「それからサービスでアドバイスを一つ。」
小岩「なんですか?」
古田「言葉を発する前によく考えてから発してください。」
小岩「?」
古田「はいそれではこちら請求書になります、お支払いは銀行振り込みまたは……」
※音声フェードアウト
桐島「結局なんだったんですか?アレ。」
古田「小岩さん?」
桐島「はい、耳の異変に対して対処は口、どういうつながりがあるんですか?」
古田「まぁ簡単コースだからね、とりあえずはあれで様子見だよ。」
桐島「意味が分からないんですが。」
古田「あれはね、本来耳でも口でもない異変なんだ。」
桐島「わかりやすく簡潔にお願いします。」
古田「はいはい、あれはね」
SE:扉の開く音
町田「こんちはー!」
桐島「お帰りはあちらです。」
町田「ちょっ、酷くないですか!」
古田「やぁ町田君、相変わらず元気そうでなによりだ。」
町田「古田さんも相変わらず胡散臭そうですねぇ!」
古田「そうだろうそうだろう。」
桐島「誰も褒めてませんが。」
町田「そして相変わらず塩っ塩の塩対応、桐島さんも元気そうで。」
桐島「それで、ご用件は何ですか?お帰りはあちらです。」
町田「めっちゃ帰らそうとしてくるじゃん!折角依頼人紹介してあげたのに。」
古田「おお、そうだったそうだった、町田君には毎度のことながら感謝しなくてはな。
おかげで明日のご飯にありつける。」
町田「またそんな限界ギリギリの生活してるんですか?」
古田「毎回なんとかなってるからそれでいいのだ、それよりも」
SE:肩を叩く音
町田「あれ?また憑いてきてました?」
古田「いい加減そのお人よしを治した方がいいな君は。そんなんだから霊に憑かれる。」
町田「そんなお人よしですかね?僕。」
古田「無限に浮遊霊を引き付けるくらいにはな。」
桐島「ではこちらお祓いの料金となります。」
町田「ちょっ!勝手に祓っておいて料金発生するんすか?」
古田「我々の生活、主に桐島君の給料がかかっているんだ、許せ。」
桐島「毎度ありがとうございます。」
古田「と、言いたいところだが今回は特別にタダで良い。」
町田「え?」
桐島「正気ですか?一回死にますか?」
町田「あのクズの古田さんがお金を取らないなんて…とり憑かれてます?」
古田「失礼だな君たちは、今回は町田君のお陰で稼げそうだからね。それで相殺という
ことで。」
町田「あれ?もう解決したんじゃないんですか?小岩さんの件。」
古田「解決していればそれに越したことはないんだがね。」
桐島「微塵も思ってないことを。」
古田「まぁあれじゃ解決しないだろうね。そうだ、参考までに町田君、君から見て小岩さん
はどういう人物だい?」
町田「小岩さんですか…?そうですねぇ、よく人の悪口を言ってますね、AさんにはBさんの悪
口を、BさんにはCさんの悪口を、という感じで。」
古田「私の予想通りだな。」
町田「因みにここのこともめっちゃ胡散臭いし貧乏くさいって言ってました。」
桐島「事実ですね。」
町田「桐島さんのことはクールぶってる不愛想な男って言ってました。」
古田「事実だ。」
桐島「は?」
古田「スミマセン。」
町田「でも古田さんだったらチャチャっとなんとかすると思ったんだけどなぁ、僕の時
みたいに。」
古田「言っておくが町田君の時には割と命がけだったんあだぞあれでも。」
町田「え、そうなんですか?」
古田「ちゃんと説明したと思うんだがね…まぁいい。それで小岩さんの件だが」
町田「うん。」
古田「あれは私がどうこうするものじゃない、本人の問題という奴さ。」
SE:ドアを開ける音
小岩「どういうことですか!」
古田「いきなりご挨拶ですね、小岩さん。」
小岩「ふざけないでください、この詐欺師!」
古田「事情が呑み込めないんですが?」
小岩「全然声が無くならないじゃないですか、少しは減ったけど、ずっと頭の中で声が聞こ
えてくる。」
古田「リップクリーム、効果ありませんでしたか?」
小岩「貴方から高いお金で買ったコレ、唇にぬると凄く痛いだけなんですけど。」
古田「痛い…ねぇ。」
小岩「何を笑って!」
古田「少しは声が減ったんですよね?」
小岩「そりゃ少し減りましたけど…今も全然聞こえてます。」
古田「なるほど、私のアドバイスは覚えていますか?」
小岩「アドバイス?」
古田「まぁそうでしょうね。」
小岩「どうにかしてください!もう限界です。声を減らせたんなら完全に消すこともできる
んでしょう?」
古田「できますけど、完全解決となるとそれなりの料金が発生しますよ?」
小岩「それで声が消えなかったらちゃんと全額返してもらえるんですか?」
古田「ええ、もちろん全額お返しさせていただきます。」
小岩「なら早く消してください!一時でも早く!」
古田「では小岩さん、アナタはこれから一生他人の悪口を言わないでください。」
小岩「はい?なにを…」
古田「アナタのソレは反響怨音と言いまして、他人の悪口を言う人間にとり憑く怪異です。」
小岩「何を言ってるんですか?悪口?」
古田「他人の悪口を言う人間はね、心のどこかでこう思うんですよ、自分も悪口を言われて
いるハズ、と。」
小岩「それは…」
古田「自分がこう思っているから他人もこう思っているハズ、自分もやっているのだから
他人もやるハズ、自分が悪口を言っているんだから他人も言っているハズ。そういう
心理にとり憑くのが反響怨音なんですよ。」
小岩「私が原因?そんな」
古田「アナタに聞こえた声はね?アナタが発した声が反響して聞こえてきた声なんですよ。」
小岩「私が、悪口を言ったから…」
古田「なのでアナタが悪口を言わなければ声は聞こえなくなるんですよ。」
小岩「私、他人の悪口なんて」
古田「リップクリーム。」
小岩「え?」
古田「あのリップクリームは唇に塗って悪口を言うと痛むようになってるんですよ。」
小岩「……」
古田「私としては、ご自身で気づいてほしかったんですが。」
小岩「悪口を…言わなければいいんですね?」
古田「ええ、自信がないならこのようなものもご用意できますが?」
小岩「チョーカー?」
古田「他人の悪口を言うと首が絞まるチョーカーです。」
小岩「い、いりません!そんな物騒な物。」
古田「そうですか、ではご自身で頑張ってください。」
小岩「……はい。」
古田「それでは、こちら完全解決の請求書となります。もしこれで解決しなかったらまた
いらしてください、全額お返ししますので。」
小岩「わかりました…その、お世話になりました。」
古田「はい、今後とも古田霊能探偵事務所をよろしくお願いします。」
SE:扉の開く音
町田「こんにちはー!」
桐島「お帰りはあちらです。」
町田「今日もいい感じの塩対応だね?桐島さん。」
古田「おお、町田君じゃないか?今日も憑いてるね。」
SE:肩を叩く音
町田「ありがとうございます!」
古田「そういえば小岩さんはあれからどうだい?」
町田「そうですねぇ…口数がめっちゃ減ったんですけど。」
古田「ああ。」
町田「前よりは人間関係が良好に見えますね。」
古田「それは良かった。」
桐島「ずっと疑問に思っていたんですが。」
古田「ん?」
桐島「どうして最初から解決策を教えなかったんですか?」
古田「そのことか、町田君はわかるかな?」
町田「うーん…本人が気づかなければ駄目だったから、とかですか?」
古田「正解だ、心の陰に自ら気付き、改善しないといけない怪異だったからね、自覚する
ことが必要だったんだよ。」
桐島「そういうものですか?」
古田「そういうものだよ。」
桐島「本音は?」
古田「お金いっぱいで嬉しいな。」
桐島「クズ。」
町田「あはは、やっぱりここを紹介して正解でしたね。それでは僕はこれで!」
SE:扉の閉じる音
