
罪喰いⅦ
登場人物:5人 (男:3女:1人 不問:1)
・シン :男性
・ルドヴィカ(ヴィカ) :女性
・ライモンド(ライモ) :男性
・ゴヨー :男性
・ネヴィオ(ネヴ) :不明
BGM:観客の野次
シン 「……っはぁ。はあ。」
シン 「(くそ、どうしてこんなことに…)」
SE:水鳥の鳴き声
シン 「…うまかった。」
シン 「(この国は食の水準が高いな。景色も悪くない。気候も…どこか懐かしい感じがして、心地いい。)」
女 「キャー!」
シン 「?…なんだ。」
女 「ひったくりよ!捕まえて!」
男 「邪魔だどけぇっ!!!!」
SE:ぶつかられる音
シン 「いっ……!」
SE:運河に落ちる音
ネヴ 「一応確認だけどさー、収監理由って無許可での運河遊泳と、ひったくりの実行犯に協力したことで合ってる?」
シン 「合っているわけないだろう。俺は巻き込まれたんだ。」
ネヴ 「でも調書に書いてあるんだよねー。運河遊泳で周囲の注目を集め、相方の逃亡に協力したって。」
シン 「俺は橋で、犯人に突き落とされた。被害者の女も見ていたはずだ。」
ネヴ 「その被害者女性が、君を共犯者だって言ってるんだよ。まー決まっちゃったものはどうしようもないから、諦めて償うんだね。じゃあ行こっか。」
シン 「おい、どこに連れて行くつもりだ。」
ネヴ 「地下の応接室だよ。お呼ばれされてるからねー。」
SE:歩く音
SE:ノック音
ネヴ 「失礼します。件の人物をお連れしました。」
ヴィカ?「ご苦労。下がっていいぞ。……よく来たな、罪人。」
シン 「冤罪だ。」
ヴィカ?「わかっている。君がひったくり犯でないことは明らかなのだよ。」
シン 「は?それならどうして…」
ヴィカ?「面倒なことに、表向きには”共犯者”とされている。これは上の意向だ。しかし処遇は我々に一任されているのでね。君の働き次第では、この件について不問にしたいと考えている。」
シン 「…運河遊泳も俺の故意ではないぞ。」
ヴィカ?「残念だが、それについては紛れもない事実だ。いかなる理由があろうとも、罰金は払ってもらう。しかし……君の所持金では少し足りないらしい。そうだな?ライモンド看守長。」
ライモ 「はい。不足分を換算し、1ヶ月の禁固刑となっています。」
ヴィカ?「そういうことだ。他に聞きたいことは?」
シン 「……はぁ。拘束されている間、衣食住は保障してもらえるんだろうな。」
ヴィカ?「それは君の頑張り次第だな。ついてきたまえ。」
SE:歩く音
ヴィカ?「君、仕事は?調書には住所不定としか書いていなかったが。」
シン 「…罪喰い。故人の罪を喰らい、引き受ける存在だ。旅をして回っている。」
ヴィカ?「兵役の経験は?」
シン 「ないな。」
ヴィカ?「そうか。では精々頑張るんだな。」
シン 「は?なにを」
SE:どんっと押される音
SE:檻が締まる音
ヴィカ?「ここで一戦やって場を湧かせろ。そうすれば、ひったくりの件は不問として話を通す。”特別待遇”なら、上も納得せざるを得ないからな。うまくやれば、仕事も紹介しよう。」
シン 「要するに、誤認逮捕を表沙汰にしたくないから金で黙らせるってことか。」
ヴィカ?「酷い言い草だな。悪い話ではないと思うが?」
シン 「断る。そもそもあんたたちの不手際だろう。」
ヴィカ?「残念だが君に選択の余地はない。生きて帰りたいなら死に物狂いであがくんだな。」
シン 「おい待て。命を張る気はないぞ。おい!……くそ。」
ライモ 「これを使え。」
シン 「…木の剣か。」
ライモ 「相手を殺すか戦闘不能にすれば試合終了となる。棄権もできるが、その場合は審議の余地なく処刑だ。」
シン 「死人に口なしか。随分な待遇だな。」
ライモ 「相手も罪人、条件は同じだ。殺らなければ殺られるとだけ言っておこう。」
シン 「…戦うしかないということか。」
BGM:観客の野次
ゴヨー「よお。お前さんが今日の相手か?」
シン 「ああ。そうらしいな。」
ゴヨー「ひょろっちいなぁ。少しは楽しませてくれよ!」
SE:木の剣がぶつかる音
シン「っう!」
SE:壁に打ちつけられる音
シン 「っああ!……っはぁ。はあ。」
シン 「(くそ、次まともに食らったら本当に死にかねない。何か策を練らないと……)」
ゴヨー「どうした。逃げるだけじゃ勝てねぇぞ。」
シン 「(確かに、このまま逃げ続けてもスタミナ切れで殺られる。それなら…!)」
ゴヨー「お、正面突破か。そういうのは嫌いじゃねぇぜ!」
SE:木の剣がこすれる音
ゴヨー「!」
SE:木の剣が折れる音
ゴヨー「(……躱された。いや、あっちの剣も割れてるってことは、受け流されたのか?)」
ゴヨー「こいつはもう使えねぇな。」
SE:木が地面に放り投げられ落ちる音
シン 「(剣を捨てた。相手は拳で戦うつもりだろう。同じ手は二度使えない。次で決め
る。)」
SE:外套をバサッとする音
ゴヨー「なんだ、俺と拳でぶつかり合っちゃくれねぇのか。」
シン 「勝ち目のないことはしない。」
ゴヨー「ほぅ。つまり、勝算があると?いいじゃねぇか。」
ゴヨー「(欠けた剣に巻き付けた外套…ただの補強じゃなさそうだな。なに考えてんだ?)」
シン 「ふんっ!」
ゴヨー「(正面から来た?)」
ゴヨー「おいおい、同じ手は通用しねぇよ!」
SE:巻き付いていた外套がバサッと広がる音
ゴヨー「あ?」
SE:手ごたえのない打撃音
ゴヨー「(この手ごたえのなさ…武器を手放した?外套が邪魔で見えねぇがどうせこの
あたりに…!)」
SE:外套をバサッと振り払う音
ゴヨー「…あ?」
シン 「動くな。」
SE:カランカランと木の剣が落下する音
ゴヨー「(こいつ、いつの間に…!)」
シン 「動けば首を斬る。折れた切っ先でも、頸動脈を切るには十分だろう。あんたの
負けだ。」
SE:野次たちの歓声
SE:殺せコール
シン 「……ふぅ。俺たちは見世物か。酷いものだな。安心しろ。あんたを殺すつもり
は───」
ゴヨー「なめてんじゃねぇよ!!!!」
SE:殴る音(大)
シン 「……っ。」
ライモ「…起きたか。」
シン 「いっ……どこだ、ここは。」
ライモ「医務室だ。貴様は試合に負けた。」
シン 「なんで生きてるんだ。」
ライモ「ゴヨーが貴様を殴り気絶させた。あいつは戦闘不能になったやつに興味がない。
殺さなかったのはそれが理由だろう。観客も沸いていたようだしな。」
シン 「(この頬の痛み…さっきの話は嘘ではなさそうだな。確かこいつは、あの女に
付き従っていた…看守長、だったか。)」
シン 「なぜあんたが監視している。部下はどうした。」
ライモ「貴様に用があったのでな。罪喰いなんだろう。」
シン 「そうだが。俺に何をさせるつもりだ。」
ライモ「ここでは、闘技場で勝ち上がった者を兵として起用している。彼らは一度死に、
別の人間として兵士に生まれ変わる。」
シン 「それがどうした。」
ライモ「罪人としての過去は必要ないということだ。貴様は罪を引き受けるのが仕事だろ
う。」
シン 「俺が引き受けるのは故人の罪だ。そいつらは”世間的に死んだことになった”
だけだろう。」
ライモ「では、貴様にとっての死とはなんだ。何を以って死んでいると言える。」
シン 「あんたに話す義理はない。」
ライモ「…そうか。」
SE:ドアが開く音
ヴィカ「ライモンド、そろそろ巡回を……っ!お前、起きたのか。」
シン 「ああ、ついさっきな。」
ヴィカ「よかった…改めて、申し訳ないことをしたな。私はルドヴィカ・マルケイ。
ここの管理人だ。ひったくりの件は当然不問となった。」
シン 「(なんだ?さっきとは雰囲気が…)」
ヴィカ「詫びと言っては何だが、仕事を紹介したい。引き受けてくれるか。」
シン 「…それなら、故人の元へ連れていけ。過去を捨てた兵士に用はない。」
ヴィカ「?何の話だ。さては私が来る前に何か話していたな?ライモンド看守長。」
ライモ「いえ、特に何も。」
ヴィカ「嘘つけ。何か隠しているだろう。」
ライモ「隠してません。」
ヴィカ「面倒くさそうな顔するな!ライモンド!」
シン 「…このまま暫く待つ。俺はここにいるから見張りでもなんでも好きにしろ。」
ヴィカ「供える品はこんなものでよかったのか?ただのトマトだが。」
シン 「なんだっていい。食い物じゃないことも多いからな。」
ヴィカ「そうか…お前はどうして、罪喰いをしているんだ。」
シン 「仕事だからだ。」
ヴィカ「では、何を想ってこの時間を過ごしている?」
シン 「何も。故人に想いを馳せることもないし、依頼者に同情することもない。
……そういうあんたはどうなんだ。ここの管理人なんだろう。」
ヴィカ「私は……。」
シン 「……。」
ヴィカ「……金になるんだ。こういうアンダーグラウンドな競技は金持ちに受けがいい。
組織の維持に、金は必要不可欠だ。教会からの支援も受けられるしな。」
シン 「だったら、俺なんかに頼らず免罪符でも」
ヴィカ「それをよしとしない受刑者が一定数いる。人の思想とは難しいものなのだよ。」
シン 「……。」
ヴィカ「いつまでここで待てばいい?」
シン 「明け方だ。」
ヴィカ「では毛布でも持ってこさせよう。夜は冷える。」
シン 「この身にとりつけ給へと、恐み恐みも白す。……この男の穢れは俺が請け負った。
身も魂も、潔白のまま天に召すことができるだろう。」
ネヴ 「お疲れー。もう運び出してもいい感じ?」
シン 「ああ。次の仕事は。」
ネヴ 「今はないってさ。ほら、房に戻るよー。」
シン 「…この報酬を罰金の支払いに充てたいんだが。」
ネヴ 「俺に言われても。まー掛け合ったところで無理だと思うけどね。」
シン 「そうか。」
シン 「(まあ、出所したときに無一文で放り出されるよりはマシだな。)」
ネヴ 「ほら、着いたよ。今日からこの人と一緒だから、面倒起こさないでねー。」
ゴヨー「おお?なんだ、あの時の兄ちゃんじゃねぇか。」
シン 「な……。」
ネヴ 「あれ、知り合い?」
ゴヨー「ああ、闘技場でちょっとな。ゴヨーだ。よろしく。」
シン 「…シンだ。」
ゴヨー「そんなにビビるな。ここで戦う気はねぇよ。それに、次の試合で勝てば軍に戻れる
からなぁ。それまでの辛抱だ。」
シン 「戻れる?もともと軍にいたのか。」
ゴヨー「ああ、陸軍の歩兵部隊だったよ。気に食わねぇ上官を殴り殺しちまってな。
このザマだ。」
シン 「そうか。」
ゴヨー「あのクソ野郎、くだらねぇ賄賂で手ぇ引きやがって。おかげで暴れ回る機会を
一つ逃しちまった…でまあ、その証拠を誰かさんが上に突き出してくれたおかげで、
俺は生きたままここに収監されたってわけだ。お前さんは?」
シン 「運河遊泳だ。実際は突き落とされただけだがな。」
ゴヨー「あぁアレか!ツイてねぇな!ははは!」
シン 「笑い事じゃないんだが。」
ゴヨー「まぁそう言うな。ここのメシはそこそこうまい。タダで寝泊まりできると思って
気楽にしておけよ。」
ネヴ 「ちょっとー。外まで聞こえてるよー。少しは罪人らしい態度で過ごしなさーい。」
ゴヨー「ははは!気が向いたらなぁ。」
シン 「(能天気だ…。)」
ライモ「あの東洋人を留めておくのはなぜですか。運河遊泳の件も、その気になれば不問に
できたでしょう。」
ヴィカ「交渉の材料だ。こちらの手にあって損はない。」
ライモ「彼は何も知りません。とても役に立つとは思えませんが。」
ヴィカ「あくまで保険だ。だが、怪しまれない程度に警護しておけ。」
ライモ「…潰されますよ。あのお方に。」
ヴィカ「構わん。私は、私のやり方を貫くだけだ。」
ネヴ 「今日の業務終了ー。はーい、お疲れ。」
シン 「…はぁ。」
ゴヨー「近頃呼び出しが増えたな。」
シン 「いいように使われている気がする。」
ゴヨー「ははは!まぁ金が出るだけいいだろ。」
シン 「…監獄というのは、こんなに死者が出るものなのか。」
ゴヨー「ここのシステムからして不思議じゃねぇが…たしかに多い気がするな。昨日も
殺れ殺れってコールが止まなくて困ったぜ。」
シン 「まさかあの遺体、あんたの仕業か。」
ゴヨー「違ぇよ。骨のねぇ奴を殺ったって、つまんねぇだろ?」
シン 「同意しかねるな。…そういえば、次勝ったら軍に戻るとか言ってなかったか。
もう何勝もしてるだろう。」
ゴヨー「そうなんだよ。話が違うじゃねぇかってキレたら、刑期を伸ばされちまった。
俺もいいように使われてるのかね。」
シン 「……。」
ゴヨー「まぁ、本気で殺りあえるなら軍でもどこでもいいけどよ。でもこの監獄、ちょっと
おかしいよなぁ。キナの匂いがプンプンするぜ。」
シン 「…は?今なんて。」
ヴィカ「拘束期間が延びたと言っている。」
シン 「ふざけるな。ここに留まる理由はないはずだが。」
ヴィカ「お前をとある事件の重要参考人として保護することにした。くれぐれも外に出て
くれるなよ。」
シン 「何の話だ。事件に関与した覚えは」
ヴィカ「話は以上だ。連れ出せ。」
ライモ「はい。」
シン 「おい待て。まだ話が」
SE:ドア閉まる音
シン 「…はぁ。なんなんだ。」
ライモ「今日から部屋を移す。ついてこい。」
シン 「…今度は独房か?」
ライモ「いや、普通の部屋だ。一人に違いはないがな。」
シン 「それなら、移る前に房へ寄りたい。別れの挨拶ぐらいしてもいいだろう。」
ライモ「…そうだな。手短に済ませろよ。」
シン 「ああ。」
看守 「捜せー!」
ヴィカ「…で、まんまと逃げられたわけか。」
ライモ「申し訳ありません。」
ヴィカ「やはり正面から協力を仰ぐべきだったな…。」
ライモ「囚人番号540番、ゴヨーの処遇はどうなさるおつもりですか。」
ヴィカ「脱走ほう助で刑期を伸ばせ。それよりも…吐いたぞ。ひったくり犯の男と被害者は
監視されていた。」
ライモ「……。」
ヴィカ「指示を出した人物はおおよそ絞れたが…このまま突き出しても尻尾切りだ。取引に
関与した人物を洗い出して追跡しろ。繋がりを、必ず掴んでやる。」
ゴヨー「…行ったか?」
シン 「ああ。巻いたな。しかし、どうして俺に協力する?あんたにメリットはないだろう。」
ゴヨー「俺もあいつらには腹たててんだよ。やたら殺せ殺せ命令してきてなぁ…俺は体の
いい処刑人じゃねぇっての!…それよりも、これからどうするんだ?」
シン 「まずは情報が欲しい。俺が重要参考人になっているという事件について何か…」
ネヴ 「君たちなにやってんの。」
シン 「!」
ネヴ 「あーステイステーイ。今はチクらないから。ね?」
シン 「(今はって言ったな…。)」
ゴヨー「じゃあ後でチクるんじゃねぇか。」
ネヴ 「あはは。たまには手柄にさせてよ。」
ゴヨー「ん?ああ、こいつは看守だが、何かと融通を利かせてくれる”不良看守”だ。
悪い奴じゃねぇから安心しろよ。」
ネヴ 「ちょっと言い方。今日の夕飯抜きにするよー?」
ゴヨー「そんな権限ねぇだろ。」
シン 「…あんた、俺が部屋を移される理由って知ってるか。」
ネヴ 「さあ。担当の房ならお達しがあるはずなんだけど…ないってことはまあ、
トップシークレットな事情があるんじゃない?それより…」
シン 「なんだ。」
ネヴ 「聞いた?あのひったくりがグルだったって話。」
シン 「初めて聞いたな。」
ネヴ 「俺も噂程度にしか知らないんだけどさ?どうも君が巻き込まれた一件は、
犯人と被害者が繋がっていたらしいんだよ。」
シン 「何のために。」
ネヴ 「さあ?何か別の目的があったんだろうね。」
ゴヨー「なんでそんなこと知ってるんだ?」
ネヴ 「色々あるんだよ。立ち聞きしたり囚人から聞いたり。」
ゴヨー「ロクでもねぇな。」
ネヴ 「さっきから酷くなーい?俺何かした?」
シン 「(この話と重要参考人の件は、関係があると考えていいだろうな。共犯、別の目
的…犯人たちと面識はない。俺個人を狙った犯行ではないだろう。それなら…)」
シン 「あの一件が何らかの理由で利用されたなら、まだ共犯者、あるいは手引きした人間が
いるはずだ。」
ゴヨー「心当たりでもあるのか?」
シン 「ない。でも重要参考人として保護する理由にはなる。」
ネヴ 「なるほど。わかるような、わからないような。」
シン 「とにかく、直接説明を受けた方が早いだろう。俺を連れていけ。」
ネヴ 「え?いいの?」
シン 「手柄にしたいんだろう。さっきの話が本当なら、手荒には扱われないはずだ。」
ネヴ 「いやいや噂だってば。そんな責任感じるようなこと言わないでよー。」
ゴヨー「なら俺も一緒に行こう。それで上手いこと誤魔化してくれ。」
ネヴ 「うわ役目が重ーい。俺ただの看守なんだけど。」
ゴヨー「手柄と引き換えだ気張れよ。」
ネヴ 「以上が経緯になります。報告が遅くなり申し訳ございませんでした。」
ヴィカ「…思い出巡りツアー、か。まあいいだろう。捜索終了を知らせて回れ。」
ネヴ 「はい!失礼します!」
ヴィカ「ゴヨー。」
ゴヨー「なんだ?」
ヴィカ「今回の件でお前の刑期が延びる。覚悟しておけ。それと…闘技場の戦闘に、
極力参戦して欲しい。」
ゴヨー「ほう。一体どうして。」
ヴィカ「お前は強敵を求めている。故に、興味のない相手を殺めないだろう。その能力を
買いたい。」
ゴヨー「随分頓珍漢なこと言うんだな。あれだけ殺せ殺せ言ってきたくせに。」
ヴィカ「なんだそれは。」
ゴヨー「いや、それを言ったのは嬢ちゃんじゃないか。まあいい。要するに殺すなって
ことだろう?」
ヴィカ「ああ。私としてもあの闘技場で死者は出したくない。任せたぞ。」
ゴヨー「おうよ。先に言っておくが、ヒリつくやつに会っちまったらごめんな?たぶん
殺るぜ。」
ヴィカ「…極力殺すな。そして、お前も死ぬな。」
ゴヨー「ははは!俺は死なねぇよ。じゃ、失礼するぜ。」
シン 「…俺を重要参考人として保護しているのは、犯人をおびき出すためか。」
ヴィカ「誰から聞いた。」
シン 「別に。考えればわかる話だ。協力を仰ぐなら正直に話せ。」
ヴィカ「…そうだな。お前には全て話そう。闘技場のシステムは知っているな。」
シン 「ああ、勝ち抜けば軍に起用されるんだろう。」
ヴィカ「そう言われれば聞こえはいいが、実際のところは都合のいい処刑システムに過ぎん。
最近は以前にも増して、軍にとって不都合なものが投獄されている。」
シン 「軍の連中が仕向けていると?」
ヴィカ「ああ。見世物にすることで金を稼ぎ、異分子を消している。その遺体を教会に
回収させ、ずぶずぶと…それを先導しているのが陸軍中将アドリアーノ・
マルケイ、私の父だ。」
シン 「あんた一人でどうするつもりだ。」
ヴィカ「一人ではない、部下もいる。だがあの悪魔を失脚させるにはそれなりの材料が
必要でな。そこで目をつけたのが教会との取引、そして相次ぐ冤罪だ。この2つには
関連性があった。お前の件もそうだが…表で起きた事件が目くらましになっている。」
シン 「俺がひったくりに巻き込まれ、運河に落とされたとき、取引が行われていたという
ことか。」
ヴィカ「可能性は高い。その証拠に、犯人と被害者の女は軍の何者かに監視されていたと
吐いた。二人に接触した軍人はおおよそ調べがついている。そこから上層部に繋がる
決定的な人物が洗い出せれば…あとは現場を押さえるだけだ。」
シン 「そこまで分かっていて、俺をここに留める必要があるのか?」
ヴィカ「…掴めていないんだ。その決定的な人物に、我々は辿り着けていない。こんなこと、
あまり考えたくはないが…」
(ゴヨー「「随分頓珍漢なこと言うんだな。あれだけ殺せ殺せ言ってきたくせに。」)
(ゴヨー「いや、それを言ったのは嬢ちゃんじゃないか。」)
ヴィカ「我々の中に、裏切り者がいるかもしれない。」
シン 「そいつを見つけ出さない事には、事態が進展しないということか。」
ヴィカ「あくまで可能性の話だ。しかし、それなら合点がいく。お前が闘技場に放り込まれた
のも…。」
シン 「なんだ。」
ヴィカ「いや、なんでもない。私は、この監獄を糺したいと考えている。本来あるべき、
人が罪を償える場所へ戻すのだ。そのために協力してほしい。」
シン 「付き合っていられないな。俺の目的はあくまで解放されることだ。」
ヴィカ「わかっている。お前を危険には晒さない。ここを安全に離れられるそのときまで、
少しでいい。力を貸してくれ。」
ライモ「利敵行為は上に報告するぞ。ネヴィオ・グラッシ看守。」
ネヴ 「看守長殿。一体何のことですか。」
ライモ「白を切るか。その首、いつ飛んでもおかしくないと思えよ。」
ネヴ 「(あはは、おっかねー。元はと言えば取り逃がしたのは看守長でしょーに。)」
ライモ「それからゴヨー、明日の対戦相手は殺せ。」
ゴヨー「あ?でもあの嬢ちゃんから殺すなって」
ライモ「例外だ。何としてでも殺せ。これは上からの命令だ。」
ゴヨー「…命令、ねぇ。」
ライモ「軍に戻りたくはないのか?」
ゴヨー「……。」
ライモ「奴は手練れだ。備えろ。」
SE:足音遠ざかっていく
ゴヨー「…はぁ。わけわかんねぇよ。なぁ。」
ネヴ 「俺に同意を求めないでよ。」
(ヴィカ「我々の中に、裏切り者がいるかもしれない。」)
ヴィカ「(軍からしてみれば、私こそ裏切り者だ。何を馬鹿なことを…)」
SE:ノック音
ヴィカ「入れ。」
ライモ「失礼します。罪喰いの男は部屋に戻しました。」
ヴィカ「ご苦労。彼は協力すると言ってくれたよ。」
ライモ「そうですか。」
ヴィカ「……。」
ライモ「…何か?」
ヴィカ「いや……確か、彼を手違いで闘技場に連れ込んだのはボネット看守部長だったな。」
ライモ「はい。」
ヴィカ「やつの周りを詳しく調べろ。もしかすると、我々の邪魔をする裏切り者が紛れて
いるかもしれん。」
ライモ「承知しました。」
ヴィカ「それと…君は、その……なぜ私に付き従うのだ。上官だからか。」
ライモ「他に理由が必要ですか。」
ヴィカ「いや…そうだな。それでいい。」
ライモ「…私はすべてを尽くし、職務を全うするつもりです。ご随意のままに、この身を
使ってください。」
ヴィカ「ライモンド…それなら、誓ってくれ。君だけは、私を裏切ってくれるなよ。」
ライモ「……御意。」
ゴヨー「裏切り者、ねぇ。」
シン 「ああ、何か知らないか。」
ネヴ 「なーんで当然のようにここにいるのさ。一人部屋に移ったんだよね?」
シン 「許可は得ている。それで、情報は?」
ネヴ 「よく俺にそれを聞けたね?裏切り者だったらどうするの。」
シン 「いや、別に…。」
ネヴ 「脅威でもなんでもないってこと!?俺ナメられてる?!」
ゴヨー「そもそも嬢ちゃんの味方してねぇだろ。論外だ論外。権力の犬め。」
ネヴ 「くぅーん…。」
ゴヨー「話を戻すが、情報ならあるぞ。確証はないがな。」
シン 「!本当か。」
ゴヨー「ああ。というか、看守も一緒だっただろ。」
ネヴ 「え、そうだっけ?」
ゴヨー「矯正副長の嬢ちゃんと話したあと、看守長に呼び止められたんだ。明日の対戦相手は
殺せ、これは上からの命令だってな。」
ネヴ 「それがどしたの。指示が変わるのなんてよくあることでしょー?」
ゴヨー「あいつは嬢ちゃんの部下だぞ?上官が真反対の命令出してんのに覆すわけねぇ。」
ネヴ 「看守長の言う”上”が矯正副長を指してるとは限らないって。」
シン 「それはおかしい。ここの管理を任されているのはルドヴィカだろう。なぜあいつを
通さない。」
ネヴ 「…確かに。しかも意見が割れてる。妙だね。」
ゴヨー「この監獄は軍が管理してる。嬢ちゃんよりも上となると、それこそ軍の人間、
それも上層部からの指示になるだろうな。」
シン 「(軍上層部のやり方に不信感を覚え、反旗を翻したルドヴィカ。対立する看守長。
もはやこの監獄で、誰がどの陣営についているかを判断する方法はない。)」
ネヴ 「つまり、長いものに巻かれるなら看守長の言う事よーく聞けよって話か。嫌んなるね
こういうの。」
ゴヨー「俺は強い奴と闘えりゃそれでいいけどよ…あの仏頂面の指示を聞くのはごめんだな。
つまんねぇことさせやがる。」
シン 「それなら俺につけ。ここから出たらあんたの望む”強い奴”を紹介してやる。」
ゴヨー「本当か?どれくらい強いんだ?」
シン 「俺を担いで軽々と走り、銃で撃たれても平然と戦う。おまけに精神力が異常なほど
強い厄介な男だ。」
ネヴ 「うーわ敵に回したくないやつー。」
ゴヨー「ほぅ。俺とその男、どっちが強い?」
シン 「…さあな。闘ってみればいいんじゃないか。」
ゴヨー「いいぜ、興味が湧いた!絶対約束守れよ。」
シン 「ああ。無事に出られたらな。」
ヴィカ「(犯人二人に接触した可能性の高い上等兵、彼の動向を監視してはみたものの…)」
ヴィカ「そう易々と尻尾は出さないか。」
SE:ノック音
ヴィカ「入れ。」
ライモ「失礼します。報告書をお持ちしました。」
ヴィカ「ああ、確認しよう。…施設内はどんな様子だ。」
ライモ「特に変わりなく。罪喰いは独自に調査をしているようですが。」
ヴィカ「私が許可した。君や他の看守も監視している。逃げだしはしまい。」
ライモ「そうですか。」
ヴィカ「…8人か。今日は随分と多いな。」
ライモ「先月宝石店で起こった立てこもり事件の実行犯と協力者、計6名が闘技場で死亡
しました。内4名が同士討ち。他2名に勝利した元情報商の男が軍へ入隊を希望
しており、現在審議中です。」
ヴィカ「他2名は。獄中死としか書かれていないが。」
ライモ「先日のひったくり実行犯2名です。獄中で自害しました。」
ヴィカ「なっ……そうか。」
ヴィカ「(また一つ、手がかりを…)」
ライモ「…少し休まれては。顔色があまり」
ヴィカ「問題ない。他に報告は。」
ライモ「以上です。」
ヴィカ「そうか。下がれ。」
ライモ「…この部屋の長椅子は。」
ヴィカ「?なんだ。」
ライモ「あの長椅子です。確か柔らかめの素材でしたね。」
ヴィカ「ああ、そうだな。」
ライモ「8名の診断書はこちらに置いておきます。お手すきの際にご確認ください。
サインは必要ありませんから、横になりながらでも業務にあたれるでしょう。」
ヴィカ「…そうか。」
ライモ「午後の巡回前にお声がけします。それでは。」
SE:ドアの閉まる音
SE:カーペットを歩く音
SE:ソファに沈む音
ヴィカ「……こんなことをしている場合ではないのだよ。馬鹿者め。」
ネヴ 「看守長殿。お疲れさまです。」
ライモ「…何の用だ。」
ネヴ 「いやー。休憩がてらお話でもと思いまして。矯正副長も今はお休みになられて
るんでしょう?」
ライモ「いつから聞いていた。」
ネヴ 「たまたまですよ。場所変えましょっか。」
ネヴ 「…亡くなったんですねー。あの2人。」
ライモ「ああ。それがどうした。」
ネヴ 「いやー、そんなに獄中が嫌だったのかと思いまして。『闘技場にぶち込む予定はな
かったし、話してもいないはずなんですがね?』って担当している看守が零して
たんですよ。なんででしょーね。」
ライモ「さぁ。犯罪者の心理など知るか。」
ネヴ 「ですよねー。でも好都合じゃないですか。”勝手に死んでくれた”おかげで手間が
省けたんじゃ?」
ライモ「…何の話だ。」
ネヴ 「あはは!ご冗談を、ライモンド・フランチェスキ准尉殿。」
SE:抜刀、剣がぶつかる音。
ライモ「…腕は落ちていないようだな。次その呼び方をしたら貴様を闘技場にぶち込むぞ。
ネヴィオ・グラッシ。」
ネヴ 「肝に銘じておきます…それにしても、いいんですか?あなたが矯正副長と敵対して
るって、あいつらにバレましたよ?」
ライモ「そうか。邪魔するなら処分しろ。」
ネヴ 「難しいことを仰る。罪喰いのほうはまだしもゴヨーは無理ですよ。とても手が
付けられない。」
ライモ「そうか?”仲のいい”貴様なら、不意をつけそうなものだがな。」
ネヴ 「…勘がいいんですよねーあいつ。まーぼちぼち頑張りますよ。ところで看守長。」
ライモ「なんだ、まだ何かあるのか。」
ネヴ 「矯正副長を消すつもりはないんですか?」
ライモ「……ない。」
ネヴ 「これまたどうして。」
ライモ「彼女の血筋はここのトップとして都合がいい。彼女にとっても、我々にとってもな。
たとえ軍に歯向かおうとも、部下の力なしでは何もできまい。」
ネヴ 「ふーん。失礼を承知で申し上げますがね、上はそんなに甘くないですよ。抑えて
おけるのも今だけ。利用価値がなくなれば、すぐに消されます。」
ライモ「……。」
ネヴ 「おっとこんな時間だ。では失礼します。さーて巡回巡回ー。」
SE:ノック音
シン 「いないのか?……む、鍵が開いている。俺だ。入るぞ。」
ヴィカ「……すぅ。すぅ。」
シン 「(眠っているのか。この紙は……くそ、読めない。何かの資料か?他に手掛かりに
なりそうなものは…)」
ライモ「動くな。」
シン 「!」
ライモ「そこで何をしている。」
シン 「……ルドヴィカに話があって来た。眠っていたので近くにあった資料らしきものを
眺めていた。」
ライモ「寝込みを襲うとはいい度胸だな。協力するんじゃなかったのか。」
シン 「妙な勘違いをするな。彼女とは協力関係にある。」
ライモ「貴様の言動は信用に値しない。」
シン 「面倒な奴だな…それとも、俺が離反した方があんたにとって都合がいいのか。」
ライモ「…なぜそう思う。」
シン 「いちゃもんをつけられるときは大抵、何らかの思惑があるものだろう。目的は
何だ。」
ライモ「貴様に話すことはない。失せろ。」
シン 「断る。」
ライモ「そうか。ならばここで死ね!」
シン 「っ!」
ゴヨー「おらあああああああああ!」
SE:殴り飛ばされる音
ライモ「ぐはっ!」
シン 「…ゴヨー。助かった。」
ゴヨー「おう。嬢ちゃんは無事か?」
シン 「ああ、寝ているだけだ。」
ライモ「…なぜ貴様がここにいる。房に戻れ。」
ゴヨー「外出許可は貰ってるぜ。なぁ?」
ネヴ 「どーしても散歩がしたいって言うから、巡回の合間に仕方なくねー。あ、ライモンド
看守長。お疲れ様です。」
ライモ「ネヴィオ、貴様…。」
ネヴ 「酷い顔ですね。何かありました?」
ライモ「白々しい。貴様どういうつもりで…」
ヴィカ「何だ、ずいぶん騒がしい……っなぜお前たちがここにいる。」
シン 「ああ、あんたに話が…」
ライモ「今すぐそこから離れてください!その者は貴女の命を狙っています!」
ヴィカ「!」
シン 「おい、だからそれは勘違いだと」
ゴヨー「危ねぇ!避けろ!」
SE:斬撃
シン 「っぐ!」
ゴヨー「おい大丈夫か。」
ヴィカ「待て、剣を納めろライモンド!落ち着け!」
ライモ「危険分子を野放しにするおつもりですか!」
ヴィカ「だが…!」
ライモ「ネヴィオ看守、捕らえろ。」
ネヴ 「はい。」
ゴヨー「おい、なんでだよ。」
ネヴ 「いいから大人しくしててよ。シンも怪我してるんだし。」
シン 「…はぁ、はぁ…。」
ゴヨー「……仕方ねぇか。」
ライモ「速やかに連行しろ。手負いの方は救護室に運べ。」
ネヴ 「はい。行くよー。ゴヨーはあいつらに連れて行ってもらって。シン、歩ける?」
シン 「ああ……ルドヴィカ。」
ヴィカ「…なんだ。」
シン 「そいつは…看守長は、ゴヨーに対戦相手を殺すよう、命じていた。あんたが殺すな
と命じた直後に、だ。」
ヴィカ「!」
シン 「上からの命令だと…看守長が言ったのを、この看守も、聞いている。だから……」
ネヴ 「…そろそろ行こう。手当てしないと死ぬよ。」
シン 「うっ……。」
ネヴ 「失礼します。」
SE:ドア閉まる音
ヴィカ「……今のは、本当か。」
ライモ「襲撃者の戯言です。気に留める必要はありません。」
ヴィカ「そう、だよな。まさか君が、そんな……。」
ライモ「……。」
ヴィカ「……なぜだ。なぜ、辻褄が合う。」
ライモ「……。」
ヴィカ「私の指示が通らないのも、捜査が異様に進まないのも、彼が手違いで闘技場に連れて
行かれた件だって……君なら、辻褄が合ってしまう。」
ライモ「…そうですね。」
ヴィカ「なぜだ!なぜ君なんだ!私を裏切ったのか!」
ライモ「裏切ってなどいません。私は己の職務を全うしたまでです。」
ヴィカ「何を言っている。君は私の部下だろう!」
ライモ「私は軍の人間です。貴女の部下である以前に、貴女の御父上の駒なんですよ。」
ネヴ 「容赦ないねーあの人。まあ内臓は無事だったし、ラッキーってことで。」
シン 「ぅ……。」
ネヴ 「しばらくは絶対安静だなー。結構血出ちゃったし…あ、痛かったら言ってね。
鎮痛剤足すから。」
シン 「…あんた、誰の味方、なんだ。」
ネヴ 「急になにー?別にとって食いやしないよ?」
シン 「看守長の、あの反応……軍についているはず、なのに。なぜ、かき回している。」
ネヴ 「…俺は、俺のやるべきことをしているだけだよ。」
シン 「おい、どこに…っ!うぅ、くそ……。」
ライモ「私は貴女の父君、アドリアーノ・マルケイ中将の命で、看守長の任に着きました。
貴女を監視し、この監獄を中将殿の管理下へ置くためです。」
ヴィカ「ずっと、私をだましていたのか。」
ライモ「貴女が父君に反抗すれば、中将殿は身内であろうと容赦なく消しにかかるでしょう。
そうなっては困りますから、いくつか工作をさせて頂きました。…騙していたと
言われれば、そう、なのかもしれません。」
ヴィカ「私の身を案じてのことか?」
ライモ「…そうですね。」
ヴィカ「何故話してくれなかった。」
ライモ「話したところで貴女は信念を曲げないでしょう。」
ヴィカ「……。」
ライモ「それとも、全てを投げ出して私と一緒に逃げますか?」
ヴィカ「!見くびるなよ。私は己の責任を投げ出すほど愚かな人間ではない。」
ライモ「それなら、もうやめてください。本当に消されてしまう。」
ヴィカ「構うものか!父の愚行を白日の下に晒し、この監獄を”正しく罪を償える場所”へ
還すこと。これが私の使命であり、戦いだ。心身を賭した、最大の願いだ。
君こそなぜわかってくれない!」
ライモ「…なりません。私にも為すべきことが、守りたいものがあります。」
ヴィカ「それなら、やはり道は違えている。」
SE:剣を抜く音
ヴィカ「剣を抜けライモンド!」
ライモ「嫌です。貴女を傷つけるつもりはありません。」
ヴィカ「いいから剣を抜け!そうでないと……っ決心が鈍りそうで、怖いのだ。」
ライモ「…どうして。」
ヴィカ「正直に言うと、私は君を好いていたよ。君が私を想うのと同じぐらい、私も君を
喪いたくない。父上も、兄さまたちも、部下も…皆喪いたくはないのだ。でも、
看過できない。父上が指揮し、君たちが賛同したその行動は、到底許されるもの
ではないのだよ!だから私は」
SE:銃声
ライモ「……ぁ?」
SE:倒れる音
ライモ「……ルドヴィカ矯正副長?しっかりしてください。ルドヴィカ矯正副長!」
ネヴ 「死んでますよ。見ればわかるでしょ。」
ライモ「…なぜ、殺した。」
ネヴ 「マルケイ中将殿への明確な反逆宣言。そしてライモンド准尉に向けられた切っ先。
被害を最小限に抑えるための最適な措置だと思いますが?」
ライモ「未遂だろう!殺さず捕らえて聴取をすべきだ!」
ネヴ 「何寝ぼけたこと言ってるんですか。相手は軍に戦争吹っ掛けてきたんです。
さっき全部話していたでしょう?これ以上聞くこともありませんよ。」
ライモ「しかしっ……くそっ、どうして……。」
ネヴ 「どうして?そんなの決まってるじゃないですか。マルケイ中将が”彼女を切った
から”ですよ。」
ライモ「……は?」
ネヴ 「聞こえなかったんですか?彼女は用済みになったんです。というか、血縁に
反乱分子がいると自分たちまでとばっちり受けるから処分してくれって。」
ライモ「なんだそれは。聞いていないぞ。」
ネヴ 「そりゃそうでしょう。これは俺が受けた任務ですから。あなたが彼女を庇っていた
ことはぜーんぶ筒抜けでしたし、当然じゃないですか?」
ライモ「……。」
ネヴ 「じゃ、運ぶのでそのへんのお掃除お願いしますね。報告書はまた後ほど。」
シン 「……ん。」
ライモ「……。」
シン 「な、なんであんたがっ……っー!」
ライモ「動くな。傷口が開く。」
シン 「……殺しに来たのか。」
ライモ「いいや。頼みに来た。」
シン 「頼み?何の冗談だ。」
ライモ「傷が治ってからで構わない。もう墓の下だが、弔ってくれないか。」
シン 「弔うって、誰を。」
ライモ「ルドヴィカ矯正副長だ。先日亡くなった。」
シン 「本当にこれでいいのか。金具のようだが。」
ライモ「ああ、他の遺品は全て押収されてしまった。彼女が運ばれる直前、辛うじて
むしり取ったのがその釦だ。」
シン 「…以前、俺にとっての死とはなんだと聞いたな。」
ライモ「ああ。」
シン 「俺にとっての死とは、肉体の死だ。だからこの仕事を受けた。」
ライモ「そうか。」
シン 「俺も聞きたいことがある。あんたは罪人たちの過去を俺に請け負わせようとして
いたが、それはなぜだ。たとえ潔白の兵士に生まれ変わっても、戦場に出れば人を
殺めることになるだろう。」
ライモ「…あれは建前だ。本当は、彼女を救いたかった。責務を捨て、自由に生きる道を…
新しい人生を、歩んでほしかった。…しかし、彼女はそれを拒んだよ。全て私の
独り善がりだったと気づかされた。」
シン 「……。」
ライモ「高潔など、身を滅ぼしてまで守るものではないと、そう思っていたのに…今は
それすら愛おしい。彼女は最期まで美しく、強いままこの世を去った。彼女自身は
そう思っていないだろうが。」
シン 「だから頼んだのか。」
ライモ「ああ。せめてもの気休め、私のエゴだ。責任は生きている人間が負えばいい。
これからは矯正副長でも、陸軍将校の娘でもない一人の人間として、安らかに
眠って欲しいと、心から願っている。」
ゴヨー「おう、戻ったか。もう荷物まとめて出るんだろ?」
シン 「ああ、まあ。」
ゴヨー「出る前に教えてくれよ。例の強い奴。」
シン 「そういう約束だったな。待っていろ、紙に書いてやる。」
ゴヨー「助かるぜ。俺もようやく自由の身だからな。」
シン 「軍に戻るのか?」
ゴヨー「いや、やめた。今回の件で色々めんどくせぇと思ったんでな。」
シン 「まあ、そうか。ここなら新しい就職先も見つかるかもしれない。」
ゴヨー「本当か?ますます楽しみだな。」
シン 「そういえば、あの看守はどうした。いないようだが。」
ゴヨー「それがよぉ、あのあと消えちまったんだ。看守長も変わっちまったし、
なんかあったのかね。」
シン 「…かもな。世話になった。」
ゴヨー「おう、達者でなぁ!もう運河に落とされるんじゃねぇぞ!」
シン 「ああ、気をつける。」