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逢瀬の鈴

登場人物:4人 (男:2女:1人 不問:1)

・新田桜子 :女性

・達也   :男性

・新田宗叡 :男性

・佐伯   :不問

宗叡「久しぶりだな、桜子。」
桜子「うん。」
宗叡「話は聞いている、達也君のことは……その、残念だった。」
桜子「……」
宗叡「お前も心の整理ができておらんだろう、しばらくはここでゆっくりしていきなさい。」

SE:玄関のチャイム

宗叡「来客の予定はなかったはずだが…少し待っていなさい。」

SE歩き去る音

桜子「……心配かけちゃった…駄目だな私。」

(遠くから聞こえる声)
宗叡「知らんと言っているだろう!!」

桜子「おじいちゃん?」

 

佐伯「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ新田さん、近所の人がびっくりしちゃいますよ?」
宗叡「いいからさっさと出ていけ。」
桜子「おじいちゃん、大丈夫?」
宗叡「桜子、お前は奥に行ってなさい。」
佐伯「あ、新田さんのお孫さんですか?」
桜子「え、あ、そうですけど、貴方は?」
宗叡「構うな、桜子。アンタもとっとと帰らんと警察呼ぶぞ。」
佐伯「それは勘弁してもらいたいですねぇ、今日の所は退散させてもらいますよ。」
宗叡「二度と来るんじゃない!」

SE:扉を閉じる音

桜子「おじいちゃん、失礼だよ。」
宗叡「構わん、どうせろくでもないやつだ。」
桜子「おじいちゃんがそんなに怒ってるの初めて見た。」
宗叡「む…すまんな、お前が大変な時に。」
桜子「気にしないで…それより結局なんだったのあの人。」
宗叡「神様や物の怪を食い物にしとるペテン師、ワシら神職の真反対の人間だ。」
桜子「ペテン師…」
宗叡「それより長旅で疲れただろう、夕餉を食べて今日はもう休むといい。」
桜子「うん、そうするね。」


佐伯「うーん、ここが本命だと思ったんですけどねぇ。お孫さん、確か桜子さんだっけ
   かな?そっちからなにか出ないか調べてもらいますか。」

 


SE:時計の針の進む音

桜子「(眠れない…目を閉じると達也さんの顔ばかり思い出してしまって……嘘でも幻でもいい…もう一度達也さんに会いたい。)」

SE:鈴のなる音

達也「桜子さん。」
桜子「(声、達也さんの優しい声聴きたい。)」
達也「桜子さん、起きてます?」
桜子「(駄目だな、私。頭の中に達也さんの声が聴こえてくるなんて。おじいちゃんの言う通り大分まいっちゃってるみたい。)」
達也「少しお話しませんか?」
桜子「(したい、達也さんともう一度お話したい。)」

SE:起き上がる音

達也「桜子さん?」
桜子「え……?」
達也「やっとこちらを向いてくれましたね。」
桜子「た、つや…さん?」
達也「はい、僕です。」
桜子「達也さん、私っ!私…」
達也「大丈夫です、大丈夫ですよ。」
桜子「(嗚咽)」

 


SE:箒で掃く音

桜子「(昨日のは夢…だよね。)」
宗叡「どうした桜子、なにやら嬉しそうだな。」
桜子「そ、そう?」
宗叡「元気が出たようでなによりだ。」
桜子「うん、ありがとうおじいちゃん。」
宗叡「すまんな、朝から境内の掃除を手伝ってもらって。」
桜子「ううん、しばらくお世話になるんだからこれくらいはやらせて。」
宗叡「この後は氏子の方々と集まりがあるから、桜子は町を見て周ってくるといい。」
桜子「うん、そうする。」
宗叡「あまり遠くまで行くんじゃないぞ、迷子にならないようにな。」
桜子「もう、私だって子供じゃないんだから大丈夫だよ。」
宗叡「ワシからするといつまでたっても子供だ、心配もする。」
桜子「はいはい、ありがとうおじいちゃん。」

 


桜子「この町も10年ぶり位になるけど、あんまり変わってないなぁ。」
佐伯「おや?アナタは新田さんのところの、」
桜子「え?あ、昨日の……」
佐伯「そう警戒しないでくださいよ、怪しい者じゃありませんって。こう見えて有名人なんですよ、僕。」
桜子「有名人?」
佐伯「お孫さんはクーチューブとかご覧になりません?」
桜子「偶に見ますけど…あれ?」
佐伯「お気づきになられました?」
桜子「もしかして貴方…」
佐伯「そう、登録者10万人越え!大人気心霊系ク―チューバー、サエキンとは僕のことさ!」
桜子「本物だ…!」
佐伯「いいリアクション、ありがとうございます。」
桜子「どうしてこの町に?撮影ですか?」
佐伯「いやいや、この町に来たのは本職の方の用事ですね。」
桜子「本職?」
佐伯「心霊スポット巡りはあくまで趣味、実は僕の本職はお祓い的な奴なんですよ。」
桜子「お祓い…霊能力者とかそういう?」
佐伯「どちらかというと君のおじいさんとかに近いかな。」
桜子「はぁ。」
佐伯「で、今聞き込み調査をして周ってるんですよ、君のおじいさんには門前払いされちゃいましたケド。」
桜子「あ、昨夜は祖父が失礼を。」
佐伯「まぁよくあることなんで気にしてないですよ。」
桜子「祖父の代わりとはなりませんが、私でよければご協力させていただきます。」
佐伯「本当ですか?いやぁ助かるなぁ。」
桜子「それで、どのようなお話が聞きたいのでしょうか?」
佐伯「実は、鈴を探していまして。」
桜子「鈴、ですか?」
佐伯「はい、なんでも二度と会えない人に会える鈴、とのことで。」
桜子「…え?」
宗叡「桜子!」
桜子「おじいちゃん?」
宗叡「桜子から離れろ、このペテン師め!」
佐伯「落ち着いてくださいよ、新田さん。」
宗叡「まだこの町をうろついていたのか。」
佐伯「僕もお仕事なもので。」
宗叡「別にお前がなにをして金を稼ごうともワシは知らん。そのうち罰が当たるだろうからな。だが、それに孫を巻き込むなら只じゃおかんぞ。」
佐伯「わかりましたよ、でも最後に一つだけ、桜子さん。」
桜子「はい?」
佐伯「鈴には気を付けてください。あれは良くないものだ。」

 


佐伯「新田さんのあの剣幕、こりゃビンゴかな?」

 

SE:時計の針が進む音

桜子「鈴は…良くないもの。」
桜子「(昨日達也さんの声が聴こえてくる前に聴こえた音は……)」

SE:鈴の鳴る音

桜子「(鈴の音だ。)」
達也「桜子さん。」
桜子「達也さん…」
達也「またあなたに会えて嬉しい。」
桜子「私も、嬉しい。もう二度と会えないと思ってたから。」
達也「そんなことないです。僕はいつだって貴女のそばにいますよ。」
桜子「うん、私もずっとそばにいたい。」
桜子「(鈴が良くない物だとしても……私は達也さんに会えるならそれでいい。)」

 

SE:箒で掃く音

佐伯「ごめんくださーい」
桜子「はーい…あ、サエキンさん」
佐伯「ああ、お孫さんでしたか。新田さん、宗叡さんはいらっしゃいます?」
桜子「いえ、祖父は出かけておりますが。」
佐伯「ありゃ、まいったなぁ。」
桜子「あのっ!」
佐伯「はい?」
桜子「先日お話されていた、鈴の件ですよね?」
佐伯「はい、そうなんですよ。」
桜子「おじいちゃんは関係ないと思います、家の中で鈴を見たこともないですし。」
佐伯「えぇ、そうなんですか?ここが本命だと思ったんだけどなぁ。」
桜子「どうしてそう思われるんですか?」
佐伯「だってアナタ、会いたくても会えない人、いるでしょ?」
桜子「……いえ、心当たりないです。」
佐伯「本当に?」
桜子「はい、本当です。」
佐伯「そうですか、それなら良かった。すみませんねぇ早とちりしちゃって。」
桜子「ご理解いただけて良かったです、もういいですか。」
佐伯「そうですね、では。」
桜子「(これでいい、これでいいんだ。)」


佐伯「もうあんまり時間が無いな、こうなったら多少無茶してでも確保しないと。はぁ…
   まーた本家の人らに怒られそう。」

 


SE:鈴の鳴る音

達也「桜子さん、今日も会いに来たよ。」
桜子「嬉しい。」
達也「君が僕のことを想ってくれるから、僕はこうして君に会いに来られるんだ。」
桜子「私ずっとずっと達也さんのこと想ってるよ。」
達也「それなら、僕たちは永遠に一緒だね。」
桜子「うん、ずぅっと一緒。」

SE:障子を開ける音

佐伯「そこまでっすね、新田桜子さん。」
桜子「きゃぁ!」
佐伯「深夜に失礼しまーす。」
桜子「なんですか!勝手に人の家に!」

SE:走ってくる音

宗叡「どうした!桜子!……貴様っ!」
佐伯「こんばんは。」
宗叡「いけしゃあしゃあと!今警察を呼ぶ、そこを動くな。」
佐伯「まぁまぁ、そう怒らないで。」
桜子「こんな時間に女性の部屋に押し入ってなにを、」
佐伯「こんな時間じゃないとお会いできないじゃないですか。」
桜子「誰と?」
佐伯「達也さんですよ。」
達也「……」
宗叡「訳のわからんことを言いよって!」
佐伯「またまたぁ、新田さんは知ってるでしょ、逢瀬の鈴。」
宗叡「っ!」
桜子「逢瀬の…鈴?」
佐伯「先日とある神社の蔵から、封じられていた呪物が盗まれたんですよ。逢瀬の鈴と呼ばれるそれは、理想の姿の死者と会えるとされている呪物です。」
桜子「死者と?」
佐伯「とても強力な呪物でね、死者の国から魂を引っ張ってきて、実際に会える代物なんですが。」
宗叡「そいつの話を聞くな!桜子。」
佐伯「厄介なことに、生きてる人からも魂を引っ張ってしまうんですよ。」
宗叡「貴様、いい加減に黙らんか!」
佐伯「いい加減にするのは貴方の方ですよ、新田宗叡さん。」
桜子「意味が分からない、何を言ってるの?おじいちゃんは何を知ってるの?」
佐伯「だからその鈴、」
宗叡「黙れ!」
佐伯「須賀達也さんの魂を引っ張っちゃってるんですよ。」
桜子「……え?」
佐伯「須賀達也さん、ご存じですよね?」
桜子「達也さんは……私の恋人で…」
佐伯「いやいや、違いますよね?」
宗叡「桜子っ……」
佐伯「だって須賀達也さんには五年以上付き合ってる彼女がいるんだから。」
桜子「違う…違う違う違う!私が達也さんの彼女で!」
佐伯「君は自分のことを達也さんの恋人と思い込んでるだけでしょ?」
桜子「嘘だ!私は!私と達也さんは恋人同士で!」
佐伯「今会うことが禁止されてるのに?」
桜子「あ、あぁ……私、は」
宗叡「落ち着け、桜子……桜子は関係ない、ワシが勝手にやったことじゃ。」
桜子「おじい、ちゃん?」
宗叡「ワシが、孫可愛さに邪道に手を染めてしまったんだ。」
桜子「なに言ってるのおじいちゃん。」
宗叡「今……達也君はどうなっている?」
佐伯「一ヵ月前から謎の意識不明。このままだと死に至りますね。」
宗叡「そうか……」
桜子「……その鈴の所為で、達也さんが死にそうなの?」
佐伯「ええ、早々に魂を送り返さないとね。」
桜子「なんで、そんな危ないことを…」
佐伯「それだけアナタが可愛かったんでしょうね。それこそ自分の命を差し出すくらいには。」
桜子「……え?」
宗叡「言うな。」
佐伯「もう二度と会えない人と会える呪物、なんの代償もなしにそんな奇跡が起こせるはずないでしょう?」
桜子「代償?おじいちゃん?」
宗叡「……」
佐伯「魂を引っ張るには燃料となる魂が必要になる。おじいさんはね?あなたの代わりに代償を支払ったんですよ。」
桜子「そんな…おじいちゃんが?」
宗叡「すまない桜子…お前に少しでも前を向いてほしくてこんなことをしてしまった…それが余計にお前を傷つけることになるとわかっていたのに……達也君にも酷いことをしてしまった。」
桜子「……謝らないでよおじいちゃん。」
宗叡「桜子。」
桜子「ありがとうおじいちゃん、私にもう一度夢を見させてくれて。」
宗叡「ああ……佐伯君、魂をもとの所へ帰してやってくれ。」
佐伯「では。」

SE:柏手
SE:鈴の鳴る音

桜子「さようなら、達也さん……」
宗叡「桜子…」
桜子「……」
佐伯「これで一件落着っと。では、僕はこれで、これっきりにしてくださいね、こういうこと。」
宗叡「色々とすまなかった。」
佐伯「まぁもう神職は続けられないだろうし、これからは真っ当な方法でお孫さんを導いてあげてください。」
宗叡「警察には…」
佐伯「オカルト関係は立件が難しいんでねぇ、達也さんの方には何らかの形で謝罪が必要になると思いますが、それは僕の本家の方が間に入ってくれると思いますよ。」
宗叡「最後まで世話になりっぱなしで本当に申し訳ない。」
佐伯「あ、僕が不法侵入したこと本家には秘密にしといてくださいね?怒られちゃうんで、それでは。」

SE:立ち去る音

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