top of page

​ロータスペイン

登場人物:5人 (男:1 女:1人 不問:3)

・ロータス  :不問

・ベイリー  :女性

・ルイス   :男性

・室長    :不問

・兵士    :不問

ベイリー「お呼びでしょうか、室長。」
室長  「来たか、まぁ座ってくれ。」
ベイリー「失礼します、それでご用件は?」
室長  「うむ…最初に断っておくが、君は新人の身でありながら優秀で、周りの評価も高
     く、我が部署には必要な人材だ。」
ベイリー「ありがたいお言葉です。」
室長  「だから、これから君に伝える件に関して、私は納得していない。」
ベイリー「それは、どういう?」
室長  「ベイリー・ブラックウッド、君へ異動の命令が下された。」
ベイリー「異動、ですか、急なお話ですね。」
室長  「重要な部署に空きがでたから補充要因をよこせということらしい。」
ベイリー「新人の私をですか?経験豊富な先輩方の方がよろしいと考えますが。」
室長  「そう考えるのが普通なのだが、先方が言うには一般業務と大きく異なるため、
     新人の方が向いているとのことだ。」
ベイリー「だから私が選ばれたというわけですか。」
室長  「ああ、先程も言ったが私は納得していないがね。だが、どれだけ私がごねようとも
     この異動は覆せない。」
ベイリー「室長でもですか。」
室長  「この命令は私の遥か上、国が直接下してきたんだ。」
ベイリー「国が…?話が大きすぎてついていけないのですが。」
室長  「私もだよ、長年勤めてきたがこんなことは初めてだ。よほど優秀な人材を早急に補
     充したいらしい。」
ベイリー「私が異動するのはそれだけ重要な部署、ということですね。」
室長  「そういうことだ。心してかかれよ、ベイリー。この件は相当きな臭い。」
ベイリー「はい、肝に銘じます。」
室長  「では、これが命令書と向こうに関する資料だ。本日中に引継ぎを終わらせ、明日以
     降はそれに従うように。」
ベイリー「ありがとうございます、今までお世話になりました。」
室長  「短い間だったがね、向こうでも頑張ってくれたまえ。」
ベイリー「はい、失礼します。」


SE:扉の閉じる音
SE:歩く音

ベイリー(これが、新しい部署に関する資料……)
ベイリー「なんだこれは?」

 

SE:ノック

ベイリー「失礼します。」

SE:ドアの開く音

ロータス「やぁ。」
ベイリー「あなたは…」
ロータス「あれ?今日こっちに来る新人さんって君じゃないのかい?」
ベイリー「いえ、失礼いたしました。本日付で補佐官に就任いたしました、ベイリー・ブラッ
     クウッドです。」
ロータス「初めまして、僕はロータス、知ってるかな?」
ベイリー「はい、頂いた資料で確認しております。」
ベイリー(知っていたのはその名前と役割だけ。まさかこんな)
ロータス「こんな優男が極刑執行人だとは思わなかった?」
ベイリー「っ!?いえ、そのようなことは…」
ロータス「顔に書いてあったよ、ベイリー。といっても僕の補佐官になる人は大体同じ顔をす
     るけどね。」
ベイリー「…失礼いたしました。」
ロータス「気にしなくていいよ、さっきも言ったけど大体皆同じ反応するから。というか僕自
     身自分がこの仕事に向いてるなんて思っちゃいないよ。」
ベイリー「それはどういう?」
ロータス「好き好んでこんなことやってないのさ、僕は。ただロータスに生まれたからロータ
     スになっただけ。」
ベイリー「おっしゃっている意味がわかりません。」
ロータス「おっと、初対面の人に話すことじゃなかったね。それじゃお仕事について話そう
     か。」
ベイリー「よろしくお願いします。」
ロータス「ここがどのような所か理解しているかい?」
ベイリー「特別極刑執行部、国政にまつわる重罪人を極秘裏に処理する部署です。」
ロータス「うーん、惜しいね。正確には重罪人の最終審査を行って、その結果妥当だった場合
     刑を執行するって感じかな。」
ベイリー「失礼しました。」
ロータス「いーよいーよ、最初だしね。で、その審査と執行をするのが僕、ロータスさ。」
ベイリー(ロータス、特別極刑執行人、本名は不詳。その権限は大きく、罪人の命を左右する
     ことが許された特別役人。)
ロータス「で、君がその補佐官に任命されたというわけ、これからよろしくね。」
ベイリー「はい、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。」

 

ベイリー(ロータスから話された私の仕事は三つ、彼の執務室に罪人を連れていくこと、罪状
     の読み上げ、そして罪人の処理、その三つだ。内容自体は簡単なことだが、内容が
     内容だ。慎重にこなさねば……)
ベイリー「ふぅ…」
ロータス「おや、溜息かい?これから初仕事だっていうのに。」
ベイリー「失礼しました。」
ロータス「ごめんごめん、冗談だよ。誰でも嫌なものだよ、こんな仕事は。」
ベイリー「それは…そう、ですね。」
ロータス「でも、大事な仕事だからね、誰かがやらなきゃいけないのさ。」
ベイリー「はい。」
ロータス「それじゃ、僕は第二執務室で待ってるから、そこまで案内よろしくね。」
ベイリー「承りました。」
兵士  「それではご案内します、こちらへ。」
ベイリー「よろしく頼む。」

SE:歩く音

ベイリー「すまない、あなたはここに来て長いのか?」
兵士  「はい、もう6年ほどこちらの守衛をやっております。」
ベイリー「あの人は一体どういう人なんだ?」
兵士  「あの人…ロータスさんですか?」
ベイリー「ああ。」
兵士  「すごく気さくな方ですね。我々のような下っ端にも気兼ねなく話しかけてくれま
     す。一緒に飯も食べたことありますよ。」
ベイリー「普段からあのような感じなのか。」
兵士  「すごく偉い人ってのは聞いてますけどね、それを感じさせない優しいお方です
     よ。」
ベイリー「そうか、すまなかったな職務中に。」
兵士  「いえ、こんな仕事をしていると人と話す機会なんか全然ないので、むしろありがた
     いです…着きました、こちらに。」

SE:ノック音

ベイリー「入るぞ。」
ルイス 「どなたですか?」
ベイリー「貴様の案内人だ。」
ルイス 「……なるほど、私の番が来たということですね。」
ベイリー「そういうことだ、ついてこい。」
ルイス 「あなたのような美しい方に見送られるとは、私は幸運ですね。」
ベイリー「無駄口を叩くな、黙ってついてこい。」
ルイス 「ああ、これは申し訳ございません。」


SE:歩く音

ベイリー「ここだ。」

SE:ノック音

ベイリー「補佐官及び執行対象、到着いたしました。」
ロータス「どうぞ。」

SE:ドアを開く音

ベイリー「入れ。」
ルイス 「はい、失礼します。」
ベイリー「では、待機を。」
兵士  「はい、いつも通り中から呼ばれるまでこの部屋には誰も近づけさせません。」


SE:歩く音

ロータス「こんにちは、ルイス・テイラー。」
ルイス 「あなたが……」
ロータス「そう、僕がロータス。君の執行人だ。」
ルイス 「随分、お若いのですね。」
ロータス「すまないね、僕のような若輩がこんな役目を担っていて。」
ルイス 「そんなことは…いえ、正直驚いてしまいました、すみません。」
ロータス「正直な人だ。さて、そろそろ本題に入ろうか。」
ルイス 「そうですね。」
ロータス「まず最初に言っておくけど、君は極刑が決定しているわけではない。」
ルイス 「え?」
ロータス「これから君の罪状を読み上げ、君に状況確認をする。その中で君の罪が極刑ではな
     いと僕が判断したら、君は極刑を免れる。」
ルイス 「私はもう、極刑が決定したとばかり……」
ロータス「まぁ、あまり期待はしないように。では、ベイリー。彼の罪状を。」
ベイリー「はい、ルイス・テイラー。彼の犯した罪は。」
ベイリー「戦場における敵国兵士及び不穏分子への必要以上の殺戮です。」
ロータス「だ、そうだ。なにか言いたいことはあるかな?ルイス。」
ルイス 「いえ、おっしゃる通りです。私はする必要のない殺戮を繰り返しました。極刑に
     なってしかるべき人間です。」
ロータス「随分物分かりが良いね、君。普通の人なら反論したり、泣き叫んだり、許しを請う
     たりと大騒ぎなのに。」
ルイス 「自分の犯した罪は理解しています。」
ロータス「そうか、ではベイリー、続けて。」
ベイリー「ルイス・テイラーは16歳の時に兵士へと志願、当時戦争状態にあったA国との国境
     付近へと送られます。そこで初陣を経験、16人の敵兵を殺害し、部隊を勝利へと導
     きます。」
ロータス「輝かしい初陣だね。君はどうして志願を?」
ルイス 「私は、田舎の小さい村の出身だったんです。母は女手一つで私を育ててくれて、私
     は早く稼ぎに出て母を楽させてあげたかったんです。」
ロータス「親孝行がしたかった、と。」
ルイス 「はい。でも私には学がなく、早くお金を稼ぐ手段が兵士になるくらいしかなかった
     んです。」
ロータス「では何故戦場へ?内地勤務でも良かったはずだよね?」
ルイス 「兵舎で仲良くなった友人が前線へ行くことになりました。しかしその友人には結婚
     を約束した相手がいたので、私が代わりに前線へ志願したのです。」
ロータス「へぇ、友人の為に志願を?ベイリー?」
ベイリー「当時の上官と友人の証言はとれています。間違いありません。」
ロータス「なるほど、君の話は真実らしいね。」
ルイス 「この期に及んで嘘なんてつきませんよ。」
ロータス「そのようだ、じゃあベイリー続きを。」
ベイリー「初陣の成果を認められ、彼は激戦区に送られます。」
ロータス「優秀というのも考え物だね。」
ベイリー「そこで彼は英雄と呼ばれるほど活躍します。着任した戦地数58、成功した任務数
     236、取り返した戦地52、そして殺害した敵兵の数432人、と公的に記録されていま
     す。」
ロータス「大活躍だ。ルイス、君は素晴らしい兵士だったんだね。」
ルイス 「私はただの人殺しです。だから今、ここに居るんです。」
ロータス「君はなぜ沢山の人を殺したんだい?」
ルイス 「最初は、訳も分からず殺しました。上官が殺せと言ったから。殺さないと国が焼か
     れるからと、無我夢中で殺しました。」
ロータス「そうだね、戦争だから仕方なかった。」
ルイス 「途中からは味方を守るために必死でした。自分が沢山殺せばその分味方が助かると
     思って殺しました。」
ロータス「君は人より殺すのが上手かったようだね、記録を見る限りだと。」
ルイス 「そんなことはありません、ただ必死だっただけです。」
ロータス「ふむふむ、ここまでを見る限り、国としては君を極刑にする理由はないように思う
     けども。」
ルイス 「それは…」
ロータス「むしろ国の危機を救った英雄だ。褒められこそすれ、咎められる謂れはない。」
ルイス 「違うのです。」
ロータス「うん?」
ルイス 「私は……」
ロータス「……ベイリー、続きを。」
ベイリー「後の調べで判明したことですが、戦地においてルイス・テイラーの殺害した人数
     は、公的に記録された人数より100人程多いとのことです。」
ロータス「さてさて、どうやらここからが本当に君に問い質さねばならないところのよう
     だ。」
ルイス 「そう、ですね。」
ロータス「それじゃあベイリー、詳しく頼むよ。」
ベイリー「ルイス本人の証言によりますと、兵を見捨てようとした上官、見方を裏切ろうとし
     た同僚、情報を敵国に流していた民間人、等がその被害者となっています。」
ロータス「へぇ…証拠は?」
ベイリー「彼に殺害された上官十数名の身辺調査及び聴き取り捜査を行いましたが、決定的な
     証拠はありませんでした。」
ロータス「だ、そうだよ?」
ルイス 「彼らは狡猾でした。だから形に残る証拠は残っていなかったんでしょう。自分達だ
     けが生き残ることだけ考えて、国も兵士も見捨てて逃げようとするあいつらを、私
     は許せませんでした。」
ロータス「君は義憤に駆られて彼らを殺害したと?」
ルイス 「そんな立派なものではありません。ただ、犬死する同僚たちのことを考えると頭が
     カッとなって……」
ベイリー「彼の元同僚には彼の言葉に同意する者、彼を支持する者も多数いるようです。」
ロータス「なるほどね、あながち全部嘘というわけでもないようだ。」
ベイリー「同様に、同僚殺害の件に関しましても、殺害された被害者達の素行の悪さが報告と
     して上がってきています。」
ロータス「彼らが本当に裏切っていた可能性は否定できないと?」
ベイリー「物的証拠はありませんが。」
ロータス「ルイス、君は彼らも先ほどの上官達と同じように怒りにまかせて殺害したのか
     い?」
ルイス 「はい、彼らは国の為に命を懸ける仲間を裏切ったのです。許すわけにはいきません
     でした。」
ロータス「ふむふむ、民間人に関しては?」
ベイリー「被害者たちは皆困窮していたと報告が上がっております。また、素性の知れないも
     のと交流があったとの証言もあります。」
ロータス「うわぁ、黒っぽいねぇそれは。」
ルイス 「私たちは国民の為に一日も早く戦争を終わらそうと必死だったんです、なのに彼ら
     は…」
ロータス「君は裏切られてばかりだね、同情するよ。」
ルイス 「いえ、どのような理由があろうとも私が人殺しであることに間違いはないので
     す。」
ロータス「ここまでの話を聞く限りでは、彼は極刑に値しないと僕は思うんだけど?」
ベイリー「彼の証言が正しければ、ですが。」
ロータス「君は疑わしいと?」
ベイリー「確定的な証拠がありません、あるのは状況証拠ばかりです。」
ロータス「そうだね、それに極刑を撤回するには少し被害者の数が多すぎる。それこそ国が
     黙っていられないほどにね。」
ルイス 「わかっています、私は自らの罪を認め、裁きを受けます。」
ロータス「ただね?このまま極刑を執行するのは僕が少しもやもやするんだ。」
ベイリー「なにを?」

SE:剣の落ちる音

ロータス「どうだろう?君がその剣で僕を殺せたら極刑は中止ということで。」
ベイリー「あ、あなたはご自身が何をおっしゃっているのか理解していますか!」
ロータス「理解しているさ。あ、ちなみに僕を殺しても罪には問われないよ、僕はロータス、
     この国に僕の戸籍はない。」
ルイス 「わ、私は……」
ロータス「いいかい、ベイリー。彼が僕を殺せたら、僕の言葉通り彼を釈放するんだ。」
ベイリー「そ、そんなことできるわけが」
ロータス「できるんだよ、僕はロータスだ。この部屋に入った時から彼の命は僕の采配しだい
     なのさ。それがこの国が決めたルールだよ。」
ベイリー「ですが…」
ロータス「さて、どうする?ルイス・テイラー。」
ルイス 「…るな…」
ロータス「うん?」
ルイス 「ふざけるなっ!人の罪を散々掘り起こして!心をかき乱して!命を弄んで!これが
     この国の極刑執行官だと?」
ロータス「落ち着きなよ。」
ルイス 「私は国の為に命を懸けた!人の命を奪った!その私に対しての仕打ちがこれか!」

SE:剣を構える音

ルイス 「許せない、許せない許せない許せない!」
ロータス「許せなかったらどうするんだい?」
ルイス 「貴様を殺してここを出る!」

SE:剣を振る音
SE:剣を弾く音

ロータス「本性が出たね、ルイス・テイラー。」
ルイス 「なんだと?」
ロータス「それが君の本性だと言っている。」
ルイス 「ふざけるな、貴様が殺せと言ったんだろう?」
ロータス「君はいつもそれだ。」
ルイス 「は?」
ロータス「母の為、友人の為、国の為、同僚の為、見捨てた上司の所為、裏切った仲間の所
     為、密告した民間人の所為、今度は僕の所為かい?人殺しの理由に他人を使うな
     よ。殺したのはお前で他の誰でもない。」
ルイス 「な、んだと。」
ロータス「君は今まで正しさの為に人を殺してきたみたいな言い方をしてたけどさ。」
ルイス 「その通りだ!私は今まで正しく剣を振って」
ロータス「じゃあ僕は殺したら駄目じゃない。」
ルイス 「貴様が殺せと言ったんだろうが!」
ロータス「僕は何も悪いことはしていない、むしろこの国の正しさの象徴だよ?なにせ極刑執
     行人だ。君は自分の命欲しさに、怒りに任せて僕の所為にして切りかかったの
     さ。」
ルイス 「そんなことは」
ロータス「君が今までの罪を認め裁かれようというのならば、大人しく僕に斬られるべきだっ
     たんだよ。だけど君はそうしなかった。態度では反省しているように見せかけてい
     たようだけど、心の奥底では誰かの所為にし続けていたんだ。」
ルイス 「違う、違う違う違う!私は、」
ロータス「君が殺した死体を見たよ、嫌々殺したとは思えない殺し方だったね。怒りに任せて
     何度も切りつけた跡があった。」
ベイリー「報告書にはそのような記載はありませんでしたが?」
ロータス「誰が隠したんだろうね?君の信奉者かな?事が公になると困る誰かかな?お生憎
     様、僕は自分の目で見たものを信用するようにしているのさ。」
ルイス 「貴様、最初から全部分かった上で、」
ロータス「そうだよ、君を試した、これが僕の仕事だ。」
ルイス 「悪魔がっ!!」

SE:剣を弾く音
SE:首を斬る音

ルイス 「この私が、剣で…」
ロータス「この国の極刑執行人の条件はね、」

SE:首が落ちる音

ロータス「首を斬るのが一番上手いということなんだよ。」

SE:体の倒れる音

ベイリー「……」
ロータス「さて、ベイリー。」
ベイリー「は、はい。」
ロータス「さっきの兵士に伝えてくれるかな?今回の結果は正だったと。そうすれば処理班が
     全部お片付けしてくれるから。」
ベイリー「…承りました。」

SE:ドアの開く音

ロータス「はぁ、疲れた……何度やっても慣れないね、ロータスなんて役目はさ。」


暗転


ロータス「今度の新人は何日もつかな。」

bottom of page