栄寿祭
登場人物:4人 (男:1人 不問:3)
・夏樹 :不問
・瀬名 :男性
・塚田 :不問
・春/少年 :不問
BGM:人ごみざわざわ
夏樹「うわー!賑わってますね。栄寿祭。」
塚田「今時期のイベントって言ったらこれしかないっすからね。地元民も張り切ってるんす
よ。というか、祭に合わせて観光しに来た訳じゃないんすね。」
瀬名「建物巡りと食べ歩きが目的だったので。教えてもらえてよかったです。」
塚田「折角なんでおすすめの屋台とか紹介しましょっか。食べ物系ならイカ焼きと…」
夏樹「……。」
瀬名「…夏樹?どうした。」
夏樹「…え、ああ。知り合いに似てる人がいたからつい。あはは。たぶん人違いだね。」
瀬名「そうか。」
塚田「あれ、お二人ともー?聞いてます?」
夏樹「すみません!イカ焼きいいですね、食べたいです!」
塚田「ほんとっすか!じゃあ案内するっす!」
夏樹「はい!」
(春 「お兄ちゃん!こっちこっち!」)
(夏樹「待って!春!」)
(瀬名「おい二人とも!走るな!転ぶぞ!」)
(春 「見て、美味しそう!買っていい?」)
(瀬名「一人で食べきれるか?結構量あるぞ。」)
(夏樹「みんなで分けて食べようよ。春、いいよね?」)
(春 「もちろん!…あ。」)
(夏樹「どうしたの?」)
(春 「あのクマ、可愛い。」)
(夏樹「射的かぁ…お家にもぬいぐるみあるよね?」)
(春 「でも…」)
(瀬名「…取ってやろうか。」)
(夏樹「セナ。でも、いいの?」)
(瀬名「どうせ射的やるつもりだったし。ついでにな。」)
(春 「わぁ…!セナにい、ありがとう!」)
夏樹「昔、地元のお祭りによく行ってたよね。懐かしい。」
瀬名「そんなこともあったな。あ、射的。」
塚田「お二人とも、ここがおすすめのイカ焼き屋っす!向かいの串焼きもなかなかイケるっす
よ。隣のチョコバナナはじゃんけんで勝つとオマケでサービスしてくれるっす。」
夏樹「どうする?射的するならイカ焼き買ってくるよ。」
瀬名「ついでに牛串も頼む。」
夏樹「わかった。」
塚田「じゃあこの辺り自由に見て回っててください。僕は本部に顔出してくるんで。すぐ戻
るっす!」
夏樹「(わぁ、結構並んでる。塚田さんのオススメだけあって、人気なんだな。あーいい匂
い。お腹すいてきた…。)」
少年「ねえ。」
夏樹「え?あ。」
少年「さっき僕のこと見てたよね。入り口で。」
夏樹「あー…ごめん。弟に似てたからつい。びっくりさせちゃったよね。」
少年「ううん。大丈夫だよ。イカ焼き買うの?」
夏樹「うん。友達と食べようと思って。並んでるってことは君も?」
少年「うん!お腹すいたからね。あとは串焼きと、綿あめと、チョコバナナと…」
夏樹「すごい、たくさん食べるんだね。」
少年「成長期だから!…あ、順番来たよ。」
夏樹「すみません、イカ焼き2つ…いや、3つお願いします。1つだけ袋分けてもらえます
か?」
少年「…?」
夏樹「ありがとうございます。はい。どうぞ。」
少年「え。あ、ありがとう!」
夏樹「お祭り楽しんでね。」
瀬名「(調子に乗って取りすぎた…ぬいぐるみは夏樹にやるか。)」
SE:人とぶつかる音
瀬名「っと、すみません。…!」
瀬名「(母さん…なわけないな。他人の空似か。)」
瀬名「…旅行の疲れ、か?」
瀬名「(そういえばさっき夏樹も…)」
夏樹「あ、いたいた。セナ!イカ焼きと串買えたよ。」
瀬名「ああ。おつかれ。」
夏樹「わぁ大漁だね。ぱっくりんチョだ懐かしい。」
瀬名「やるよ。あとこれも。」
夏樹「ぬいぐるみ?あはは。ありがとう。」
塚田「お二人とも~!よかった。ちょうど合流出来たっすね。このあと演舞とか出し物系ある
んで、近くの飲食スペースまで移動するっすよ。」
瀬名「演舞、いいですね。」
塚田「出し物の後は花火の打ち上げっす。結構派手で綺麗なんすよ~!ささ、こっちっす!」
夏樹「ん~おいしかった!ごちそうさまでした。ちょっとお手洗い行ってくるね。」
瀬名「ああ。」
塚田「行ってらっしゃいっす~。」
瀬名「……塚田さん。聞きたいこと…いや、聞いてほしい話があるんですが。」
塚田「ん?なんすか?」
瀬名「その…さっき出店通りで人とぶつかってしまって。その人が亡くなった母によく似てい
たんですよ。だから驚いてしまって。夏樹も会場についてすぐぐらいに、知り合いとよ
く似た人を見かけたらしいんです。すごい偶然ですよね。」
塚田「…その話、本当っすか?」
瀬名「ええ。何かあるんですか。」
塚田「それは…あんまり大声では言えないんすけど。噂というか、何というか。」
瀬名「噂。」
塚田「こういう、人がたくさん集まるところでは結構ある話らしいんすけどね。たまーに、人
間以外の存在が紛れてたりするんす。死んだ人の姿を真似て、ね。そいつらが僕たち生
者を手招きして、連れて行ってしまう、みたいな。」
瀬名「それって大丈夫なんですか。被害とか。」
塚田「そういうことが起こらないように本部が見回りしてるんすよ。不審者とか浮かれたや
べーやつとかもたまにいるんで。」
瀬名「はぁ。」
塚田「だからできるだけ一人にならないように…あ。」
瀬名「!夏樹…っ塚田さん、その噂知っててなんであいつを一人で行かせたんですか。」
塚田「だってすぐそこっすよ?人目もあるし…いや、でも迂闊だったっすねすみません。」
瀬名「(さすがに遅い。腹下してるだけならいいが…)」
瀬名「とりあえず連絡を…え?」
塚田「お、夏樹さんからの連絡っすか?」
瀬名「迎えに行きます。」
塚田「どうしたんすか。一体何が…ん?ええと、『迷子を送り届けてくるから先に演舞見て
て』?」
夏樹「さすがに食べすぎたかな…あれ。」
少年「あ、さっきの。また会ったね。」
夏樹「どうしたの、その怪我。」
少年「花緒が切れて転んじゃった。」
夏樹「手当てしないと。そこの水道で洗っておいで。」
夏樹「これでよし。帰ったらちゃんと消毒するんだよ。」
少年「うん、ありがとう。」
夏樹「あとは花緒か…家族の人は?一人で来たの?」
少年「ううん、お父さんと待ち合わせしてるんだ。遊歩道の休憩所…ちょっと登ったところな
んだけど。」
夏樹「携帯は…持ってないよね。番号とか覚えてる?」
少年「ううん。歩いていくから大丈夫だよ。」
夏樹「裸足で?危ないよ。」
少年「じゃあおんぶしてくれる?」
夏樹「いいけど…君、もうちょっと警戒心持った方がいいよ。」
少年「君じゃなくて春だよ、お兄ちゃん。」
夏樹「うちの弟と同じ名前だ。すごい偶然だね。あ、連絡入れておかないと。」
少年「お友達?」
夏樹「うん。『~先に演舞見てて』と。これでいいかな。じゃあ、行こうか。」
少年「うん!」
塚田「どうしたんすか急に。迷子の世話してるだけっすよね?」
瀬名「あいつ弟がいたんです。10歳のとき事故で…っくそ、いない。夏樹!夏樹!」
塚田「まさかそんな…連絡はさっきのだけっすか?」
瀬名「いまどこだ、って送ったんですけど既読にならなくて。」
塚田「うーん…迷子なら本部のテントに向かってるかもしれないっすね。あそこなら会場にア
ナウンスできるっすから。」
瀬名「行ってみましょう。」
夏樹「春くん、凄く軽いね。ちゃんと食べてる?」
少年「食べてるよ。イカ焼きと、牛串と、焼きそばと…」
夏樹「あはは、そうだった。いっぱい食べるって言ってたね。」
少年「うん!僕のお兄ちゃんよりもたくさん食べられるんだよ。」
夏樹「へぇ、すごいね。お兄ちゃんの名前はなんて言うの?春くんだから…秋人とか?」
少年「違うよ。名前はね…あ、着いた。」
夏樹「ここ?結構近かったね。」
少年「うん。花火がすごく綺麗に見える穴場なんだって。見て。星がいっぱい。」
夏樹「すごい。ちょっと登っただけなのに、こんなに星が近くなるなんて。」
少年「とおくに街も見えるよ。」
夏樹「ほんとだ。ホテルはあのあたりかな。せっかくだし写真撮って送ろ。」
夏樹「…そういえば一人で待ってて大丈夫?星は綺麗だけど、ここ結構暗いよ?」
少年「慣れてるから大丈夫。あ、でも…もう少しだけお話しててもいい?」
夏樹「うん。もちろん。」
少年「えへへ。ありがとう。さっきのお話の続きだけど…僕のお兄ちゃんはね、夏樹っていう
んだ。」
瀬名「来てない?そうですか…ありがとうございました。見かけたらここに連絡ください。」
塚田「道中すれちがってないし、一体どこにいっちゃったんすかね。連絡はどうすか?」
瀬名「いや、返信は…。!来た。写真?暗いな。」
塚田「これ…遊歩道の休憩スペースっすね!花火の穴場なんすよ。」
瀬名「行きましょう。案内お願いします。」
塚田「うっす!任せてください!」
夏樹「夏樹って……え?」
少年「ねえ、お兄ちゃん。僕だよ。春だよ。」
夏樹「そんなわけ…だって春は」
少年「そう。死んじゃった。でも今はここにいるんだよ。」
夏樹「…。」
少年「ごめんね、僕ひとつだけ嘘吐いちゃった。お父さんと待ち合わせなんてしてないよ。
だって、お父さんは生きてる。そうだよね?」
夏樹「…なん、で。」
少年「ねえお兄ちゃん、僕と一緒にいてよ。一人にしないで。」
夏樹「それは…」
少年「一人ぼっちは寂しいよ。だから、僕と一緒に…」
瀬名「夏樹!」
夏樹「セナ…!」
少年「ちっ。」
塚田「瀬名さん足はや…っはぁ。よかった、無事っすね。」
瀬名「こいつ…悪趣味だな。見た目は本人そのものだ。」
少年「久しぶりだね。そうだ、セナにいもおいでよ。また一緒に遊ぼう。」
瀬名「また一緒に?ふざけるな。俺はお前なんかと遊んだことは一度もない。偽物風情が、
俺らの大切な思い出を騙って、踏みにじるな。」
少年「酷い。そんなこと言うんだ…じゃあセナにいはいらない。お兄ちゃん、行こう。」
夏樹「でも…」
少年「どうしたのお兄ちゃん。」
瀬名「耳を貸すな!夏樹!」
少年「行こう。」
夏樹「…っだめだよ。たとえ君が春でも、一緒にはいけない。だって、俺の居場所はここしか
ないから。」
少年「どうして…セナにいが言ったことを気にしてるの?あんなのお兄ちゃんを連れ戻すため
の嘘だよ。僕に取られそうになって嫉妬してるんだ。」
夏樹「そうかもしれないね。でも、俺はセナと一緒に生きていたいんだ。春の分まで生きるっ
て、決めたから。」
少年「そんな……わかった。もういいよ。だったら…お前らまとめて食ってやる!」
夏樹「っ!」
瀬名「夏樹!」
塚田「あーもう仕方ないっすね。そら!」
SE:シャン!と鈴のようなものが鳴る音。
少年「グアアアアアア!」
塚田「手ぇあげるのはいただけないっす。そんなんだから信仰が薄れるんじゃないんすか?
…って君に言ってもしょうがないか。」
夏樹「つ、塚田さん…?」
塚田「下がっててください。力は弱いっすけど、こいつ一応神様の分身なんで。」
少年「貴様ぁ、小癪な手をおおおおお!」
塚田「はああああああああああ!」
SE:閃光と衝撃音
少年「ウガアアアアアアアアア!」
塚田「……ふぅ。本体に帰ってくれたっぽいっすね。一件落着。」
夏樹「あの、一体何がどうなって…?」
塚田「ああ、すんません。順を追って説明するっす。」
瀬名「つまり食いしん坊の氏神が食糧調達のために分身を派遣した結果、空腹に耐えかねて
分身が暴走し、今回のようなことが起きた…と。」
塚田「そうっす!瀬名さん飲み込み早いっすね。」
瀬名「いや、まとめただけで全然飲み込めてはいないです。神様ってのは随分理不尽な奴なん
ですね。」
塚田「いや、悪気はないんすよ。実際氏神様はいい神様だし、分身の暴走に関しても「私のせ
いでごめんね…」って感じっす。」
瀬名「案外人間味あるんですね…。」
塚田「せめて分身の数が分かれば楽なんすけどね。どこに潜んでいるやら。」
夏樹「…あの、塚田さんは一体何者なんですか。」
塚田「僕っすか?ちょっと霊感が強いだけの、ただのガイドっすよ。…お、始まったみたいっ
すね。」
SE:花火ばーん。
夏樹「綺麗…。」
瀬名「塚田さん、見ないんですか。」
塚田「僕は一旦戻って本部でタダ酒もらってくるっす。お二人はゆっくり楽しんでください。
それでは!」
夏樹「…なんか、すごい日だったね。」
瀬名「知らない奴にのこのこついていくな。迷子は祭の運営に届けろ。」
夏樹「ご、ごもっとも…。」
瀬名「とにかく、お前が無事でよかった。」
夏樹「心配かけてごめん。ありがとう。演舞見逃がしちゃったね。」
瀬名「また来年くればいい。その次の年でも、きっと祭はやってるだろ。」
夏樹「…そうだね。」
SE:花火ばーん。
夏樹「た~まや~!」
瀬名「…かーぎやー。」