凶刃は白百合の花に
登場人物:3人(男:0人 女:3人 不問:0人)
・アン …女
・フィル …女
・エリサ …女
SE:ぶつかる音
アン 「あら、ごめんなさい。」
エリサ「こ、こちらこそすみません!よそ見をしていて……」
フィル「お嬢様、お怪我は?」
アン 「大丈夫よ、ありがとうフィー。あなたは大丈夫かしら?」
エリサ「だ、大丈夫です!失礼します!」
SE:走り去る音
アン 「フィーが怖い顔で睨むから逃げちゃったじゃない。」
フィル「御冗談を、お嬢様の笑顔に圧力を感じたのでは?」
アン 「面白い冗談を言うようになったわね、ここにきてあなたも変わったのかしら?」
フィル「冗談のつもりはなかったのですが……」
アン 「ん?」
フィル(やはりお嬢様の笑顔には圧がありますね……)
アン 「それにしてもあの子、見ない顔ね?転入生?」
フィル「はい、エリサ・ブラン。今季からの転入生です。極々平凡な少しお金持ちに生まれた一般人…ですが。」
アン 「相変わらず仕事が早いのね、続けて。」
フィル「この時期に転入というのが少し引っかかりますね。追加で調べても?」
アン 「許可します。あなたはあなたが思うようにしなさい。」
フィル「では、そのように。」
エリサ(ヤバイヤバイヤバイ!変にターゲットに接触しちゃった……なんとか計画を修正しないと……)
アン 「あら?あなたはこの前の…」
エリサ「ア、アンリエッタ様…!この前は大変な失礼を……」
アン 「そんなに畏まらなくていいのよ?私もあなたも同じ、この学園の生徒なんですから」
エリサ「そ、そんな!私のような一般家庭の生まれの私と貴族であるアンリエッタ様では全然違いますよ!」
アン 「そうかしら?人間なんてそんな大層な肩書を取っ払ってしまえば皆同じだと思いますけれど?」
エリサ「その肩書が重要なんですよ、私達一般人にとっては。」
アン 「そういうものかしら?」
エリサ「現にここにいる皆さんはアンリエッタ様のお名前は知っていても私の名前は知らないでしょう?これが世間というものなんですよ。」
アン 「ふぅん。でも私はあなたの名前を知っていますわよ、エリサさん。」
エリサ「なんっ…で、私の名前をご存じなんでしょうか?」
アン 「私には優秀な部下がいますのよ。彼女があなたのことを教えてくれましたわ。」
エリサ「そ、そうなんですね…あはは、なんだか恥ずかしいなぁ…」
エリサ(ヤバイ!ヤバイヤバイヤバイ!もしかして全部ばれてるの?嘘でしょ?)
アン 「あの時はきちんとお詫びも出来ませんでしたからね?その為に調べてもらったのよ」
エリサ「そっ、そうだったんですか。わざわざお手間を取らせてしまって申し訳ないです…」
アン 「そんなことないわ。お詫びと言ってはなんですけれど、これから少しお時間はありますか?」
エリサ「ええ、全然大丈夫ですけど……」
SE:手を叩く音
アン 「まぁ良かった!それならば、今から私とお茶会などどうかしら?」
エリサ「わ、私なんかがアンリエッタ様とお茶会を…そんな恐れ多い……」
アン 「気にしないで、いつも私と友人の二人だけなの。偶には新しい風もないと寂しいものね。」
エリサ「私、お茶のお作法なんかまだ全然で…」
アン 「大丈夫よ、私が教えて差し上げますし……フィー、もう一人の子も作法なんて全然なの。あっ、私がこんなこと言ってたなんて秘密よ?あの子拗ねちゃうから。」
エリサ「ふふっ、そうなんですね。それじゃあ少しだけお邪魔させてもらいます。」
アン 「ええ、きっとあの子も喜ぶわ。」
エリサ(ってアンリエッタ様はおっしゃってましたけど!)
フィル「……」
エリサ(私、滅茶苦茶すごい顔で睨まれてますけど!?なんだこの不純物は?って顔で睨まれてますけどー!?)
フィル「お嬢様……」
アン 「なに?フィー?」
フィル「いえ、なんでも。」
エリサ「あ、あのぉ…私お邪魔のようですし、この辺で……」
フィル「貴様、お嬢様のお誘いを無碍にするのか?」
エリサ「い、いえ……ナンデモアリマセン。」
アン 「もう、フィーが怖い顔で睨むからエリサが怖がってるじゃない。」
フィル「この顔は元々です。」
アン 「嘘。夜はもっとかわいらしい顔してるじゃない。」
エリサ「ぶっ!」
フィル「なにか?」
エリサ「お、お気になさらず……」
エリサ(え?なに?この二人ってそういう関係なの?百合なの?そう言えばなんというか距離感が近いというかなんというか……貴族って凄いなぁ。)
アン 「そんなことより、エリサ。今日の主賓はあなたなのよ?もっと堂々としてなさい。」
エリサ「そんな、お二人を前にとてもとても……」
アン 「そもそも畏まり過ぎているのよね……そうだ!これから私たちはお友達、ね?」
エリサ「私なんかがアンリエッタ様と…?」
アン 「そう、だから様付けは無し、アンって呼んで?」
エリサ「えっ……」
フィル「……」
エリサ(また凄い顔で睨んでくる―!無理無理絶対無理!)
エリサ「あの…それは……」
フィル「お嬢様の願いが聞けないと?」
エリサ「そ、そのようなことは決して!」
アン 「こら、フィー。私のお友達を脅すなんて駄目よ?」
フィル「脅してなどいません。念を押しただけです。」
エリサ「ぷっ…」
アン 「やっと笑ってくれたわね?あなた、そっちの方が素敵よ。」
エリサ「アンリ…アン様の笑顔には負けますよ。」
アン 「うーん。今はこれで満足しましょうか、今はね?」
エリサ(怪我の功名というかなんというか、なんとかターゲットに接触することが出来た。で
も……)
アン (やっと笑ってくれたわね?あなた、そっちの方が素敵よ。)
エリサ(私はこれから……あの笑顔を奪わなければならない……)
アン 「フィー。」
フィル「はい、こちらに。」
アン 「流石ね?……ふぅん。」
フィル「なにか?」
アン 「随分お優しいのね、あなた。あの子のこと、気にいっちゃった?」
フィル「意味がわかりません。」
アン 「そう、で?いつから動けるのかしら?」
フィル「ご命令とあらば今すぐにでも。」
アン 「そう、じゃあこの無粋者達に、アンリエッタ流のやり方、存分に思い知らせてあげなさい。」
フィル「お心のままに。」
アン 「さて、後は……」
エリサ「あれ?アン様、お一人ですか?珍しいですね。」
アン 「あら?私よりフィーの方がお好みかしら?駄目よ。あの子は私のモノよ?」
エリサ「そ、そういうつもりでは……あの、お二人はやはりそういうご関係なのですか?」
アン 「そういうってどういう関係かしら?私に詳しく教えてくださる?」
エリサ「あ、あははー!冗談、冗談ですって!」
アン 「まぁ、そのことは追々問い詰めるとして、今あの子がいなくて手持無沙汰なの。少し付き合ってくれないかしら?」
エリサ「は、はい!」
エリサ(これは…またとないチャンス?あの番犬見たいなフィルさんが居ないなんてそうそうないもの……このチャンスに…私は……)
アン 「どこか上の空ね?エリサ。今日のお茶、美味しくなかったかしら?」
エリサ「そ、そんなことありませんよ?私の舌には勿体ないくらい美味しいです。」
アン 「そう?それは良かったわ。」
エリサ「は、はい……」
アン 「それで?なにか気になる事があるのかしら?」
エリサ「そ、それは……あ、あの、今日はフィルさんはどちらに?」
アン 「あの子は今私のお願いでちょっと遠出してるのよ。」
エリサ「そうなんですね……」
アン 「やっぱりあの子が気になる?」
エリサ「い、いえ……」
アン 「そうよね?あの子が居ない方があなたは嬉しいものね?」
エリサ「え?そんなことは……」
アン 「だって、あの子が居ない方がやりやすいでしょ?暗殺。」
エリサ「……なんのことですか?」
アン 「そんなに取り繕わなくていいわよ?全部分かってるから。」
エリサ「そ…んな……」
アン 「私のフィーは優秀なのよ?あなたのことを調べるなんてわけないわ。あなたの後ろに誰が居るのかも含めてね?」
エリサ「本当に、全部ばれてるんですね……」
アン 「あまり私のことを舐めないように、あなたの後ろ盾に言っておきなさい。まぁもうそんな機会なんてないでしょうけど。」
エリサ「そうですね、でもアン様。」
アン 「なにかしら?」
エリサ「今、ここには私とあなたの、二人だけです。」
アン 「そうね。」
エリサ「今なら、私はあなたを…」
アン 「出来もしないことを言うものじゃないわ。」
エリサ「出来ますっ!だってそうしないと!」
アン 「そうかしら?今日チャンスは何度もあったはずだけど?」
エリサ「あなたが悪いんですよ!追い込まれたら、私もやるしかなくなるじゃないっ!私だって、嫌だったんですよ!こんなこと本当はしたくないっ!でも、そうしないと!」
アン 「家族の命が危ないものね?」
エリサ「そこまでわかってるんなら!なんで逃げてくれないんですか!逃げて、隠れて、私が排除されるのを待ってればよかったじゃないですか!」
アン 「それはできないわ。」
エリサ「なんでですか!ああ、なるほど。無様な私を見て笑いたかったんですね?こうやって必死になってる私を見て、馬鹿にしてるんですね?」
アン 「違うわ。」
エリサ「なにが違うって言うんですか!あなたたちは皆そう!私達みたいな平民が必死に足掻いてるのなんて、さぞ滑稽でしょうね!」
アン 「うるっさいわね!!!!」
エリサ「!?」
アン 「少しは人の話を聞いたらどう?それこそ滑稽よ、あなた。」
エリサ「……余裕ぶって……どうせどこかにあの狂犬見たいな女が隠れてるんでしょう?二人して私を馬鹿にしてるんだ!」
アン 「あの子はお使い中よ、そう言ったでしょう?」
エリサ「こんなタイミングで一体どこに……」
アン 「もうそろそろ終る頃じゃないかしら……」
SE:電話をかける音
フィル『もしもし』
アン 「フィー?終わったかしら?」
フィル『丁度今終わったところです。滞りなく。』
アン 「そう、今エリサが目の前にいるのだけれど、お話するかしら?あなたのこと狂犬って言ってたわよ、この子。」
フィル『ほぅ……少しかわっていただけますか?』
アン 「はい、エリサ。狂犬からよ。」
エリサ「え?え?」
フィル『どうも狂犬です。お嬢様と随分お楽しみのようで。』
エリサ「ち、違うんです。あれはその」
フィル『そのことは後で問い詰めるとして、あなたの家族、無事ですよ。』
エリサ「えっ……?」
フィル『お嬢様の寛大な心に感謝しなさい。』
エリサ「一体…どういう……」
アン 「言ったでしょう?フィーは優秀なの。」
エリサ「なんで……私の家族を、あなたが……」
アン 「だって、お友達が困っていたら助けるでしょう?」
エリサ「そんな、そんな理由で?私…私はあなたの命を狙って……」
アン 「あなたはチャンスがあったのにそうしなかった。それはなんで?」
エリサ「私は…私は……」
アン 「ね?あなたがそう思ってくれてるのと同じくらい、私もあなたのことは好きなのよ」
エリサ「そんなこと…私にはそんな資格なんてない……ないんです。」
アン 「はぁ…まったく……」
エリサ「アン様…?」
アン 「ねぇ?私が伊達や酔狂だけでこんなことするわけないでしょう?」
エリサ「……そう、ですよね……」
アン 「あなた、私に凄い恩が出来たのよ?わかっているかしら?」
エリサ「はい…家族を助けて頂いて、ありがとうございます……」
エリサ(ああ、そうか。結局この人もあいつらと同じなんだ……)
アン 「じゃあこれからもずっとお友達でいてね?」
エリサ「はい……え?」
アン 「一生私を裏切らない、生涯ずっと私の傍にいる、そんなお友達。フィーと一緒ね。」
エリサ「え?いや?」
アン 「拒否権はないわよ、わかるわよね?」
エリサ「は、はい!」
フィル『ああ、お嬢様の犠牲者がまた一人。こうなる気がしてたんですよね、私。』