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​ふたりは魔法少女☆

登場人物:11人 モブ多数(女:2人 不問:9)

・キョウ  :女性

・ヒナ   :女性

・担当官  :不問

・魔獣   :不問

・生徒①  :不問

・生徒②  :不問

・生徒③  :不問

・織田   :​不問

・先生   :不問

・医師   :不問

​・キャス  :不問

医師 「お名前と生年月日をお願いします。」
ヒナ 「雛崎日向乃。2007年6月12日生まれです。」
医師 「ありがとうございます。どうぞおかけください。」
ヒナ 「失礼します。」
医師 「それでは、わかる範囲で大丈夫です。順を追って、話して頂けますか?」
ヒナ 「はい。彼女の話と合わせてお伝えするので…少し長くなるかもしれません。でも、
    事実なんです。どうか笑わずに聞いてください。私と彼女の犯した、罪の話を。」

 


SE:戦闘音

キョウ「はぁっ……はぁああああ!」

SE:攻撃音

魔獣 「ヴルォアアアアア!!!!」

SE:魔獣が消える音

担当官「お疲れさまでした。今日の仕事は終了です。」
キョウ「そう。」
担当官「順調じゃないですか。さっきのやつで4体目。いいペースです。」
キョウ「約束、忘れてないよね。」
担当官「もちろん。30体の魔獣討伐と引き換えに彼女を助ける、そういう契約ですから。」
キョウ「帰る。」
担当官「はい。また明日の夜に。」

SE:転移魔法


SE:変身を解く音

キョウ「…ジュース買って帰ろ。」

 


キャス「本日未明、××市の住宅街で女子中学生が通り魔に襲われる事件が発生しました。
    犯人は背後から女子中学生の腕を掴み、刃物で切りつけたあと腹部を数か所刺し
    逃走した模様です。警察は先月22日に発生した通り魔事件と同一の手口である
    ことから、同一犯による犯行とみて捜査を」

SE:鞄を勢いよく置く音


SE:教室のガヤガヤ

ヒナ 「あ…おはようキョウちゃん。大丈夫?」
キョウ「はぁ、はぁ……寝坊した。」
ヒナ 「あはは。走って来たんだ。寝ぐせついてるよ。」
キョウ「え、どこ。」
ヒナ 「横のところ。結構はねてるね。結っちゃおっか。」
キョウ「ん。ありがと。」
ヒナ 「また夜更かししたんでしょ。勉強?」
キョウ「…いや、バイト。」
ヒナ 「夜に?危ないんじゃないの。」
キョウ「別に平気だよ。」
ヒナ 「でも…あんまり無理しないでね。はい。これ1限の小テストの出題範囲まとめてある
    から。半分ぐらい覚えれば居残りは回避できると思うよ。」
キョウ「ありがと。…ヒナってさ、甘いよね。」
ヒナ 「え、何か匂う?今日はお菓子とか持ってないんだけどな。」
生徒①「雛崎~ノート写させ…お、いいの持ってんじゃん。一緒に見せてよ。」
ヒナ 「いいよ。でもキョウちゃん優先ね。」
生徒①「やり~!後ろから見させてもらうわ」
生徒②「え、何テスト対策会?お邪魔しよっかな。」
生徒③「雛崎さん、ここ聞いてもいい?」
ヒナ 「あー、ここ難しいよね。これは問1の解を使って…」
キョウ「……。」

SE:チャイム

先生 「はい。後ろから回収ー。そのまま休み時間ね。」
生徒②「よし。ギリ行けた気がする。」
生徒③「いいな。僕居残りかも…」
ヒナ 「キョウちゃんどうだった?…キョウちゃん?起きてー。」
キョウ「…んあ、うん。半分ぐらい。」
ヒナ 「やっぱり寝不足なんでしょ。保健室いく?」
キョウ「あー……行ってくる。あとでノート見せて。」
ヒナ 「うん。気をつけてね。」

 


SE:ドア開く音


キョウ「……なんでいるの。昼間は接触しない契約でしょ。」
担当官「朗報です。すぐお伝えした方が良いかと思いましてね。」
キョウ「は?…場所変える。」
担当官「大丈夫ですよ。前にも言った通り、私の姿は他の人間には見えませんから。それに」

SE:カーテンをめくる音

キョウ「!なんで私が寝て…」
担当官「幻影です。あなたが結界の中にいる限り、人間は”これ”を”あなた”として認識し
    ます。もちろん完全防音ですよ。ああ、カーテンの向こうには出ないでくださいね。
    結界の範囲外なので。」

SE:ベッドに座る音

キョウ「…で、朗報って?」
担当官「あなたが最初に狩った魔獣、どうやらお仲間がいたようで。このあたりをうろついて
    いるらしいんですよ。」
キョウ「それのどこが朗報なの。」
担当官「討伐が捗るじゃないですか。」
キョウ「……は?」
担当官「もしかしたら他にもまだお仲間がいるかもしれませんし、芋づる式にできれば目標ま
    でぐっと近づいて…」
キョウ「もういい。黙って。」
担当官「あれ、本当に寝るんですか。せっかく幻影出してるのに。」
キョウ「……。」
担当官「結界解きますよ?いいんですか?」
キョウ「帰れ。」
担当官「ふむ。夜までに居場所は調べておきますね。では、おやすみなさい。」

SE:転移魔法

キョウ「……くそが。」

 


キョウ(「……ヒナ?」)
ヒナ (「……キョ…ちゃ。」)
キョウ(「ヒナ、しっかりして、ヒナ!一体何が……ぁ。」)
ヒナ (「…げて……キョ…ちゃ…」)
キョウ(「血が……っ止め、ないと。救急車…誰か!誰かいないの!ねぇ!」)
キョウ(「ヒナ?…ねえヒナ返事して。嫌だ。死んじゃだめ。ヒナ。ヒナ!ヒナ!!!!」)
キョウ「ぁ!!!!」
ヒナ 「わ、大丈夫?キョウちゃん。」
キョウ「ヒナ。ごめん、夢見てた…外、暗いね。夜?」
ヒナ 「ううん、まだ5時だよ。最近陽が落ちるのが早いね。」

SE:カップに液体を注ぐ音

ヒナ 「あったかいお茶と水、どっちがいい?」
キョウ「じゃあお茶で。ありがと。」
ヒナ 「どういたしまして。…まだ顔色悪いね。今日は無理しない方がいいよ。」
キョウ「ん。そうする…あつっ。」
ヒナ 「あはは。いいよゆっくりで。もう少しまったりしてから帰ろう。」
キョウ「…そうだね。」

 


ヒナ 「ほんとにここでいいの?家まで送った方が…」
キョウ「大丈夫。結構回復したから。また明日ね。」
ヒナ 「…うん、お大事にね。危ないから気をつけて帰るんだよ!じゃあね!」

SE:遠ざかる足音

キョウ「……ごめん、ヒナ。」

 


SE:ドア閉じる音

ヒナ 「(キョウちゃん、やっぱり無理してるよね。もしかしたら今日もバイト行こうとして
     るんじゃ……)」
ヒナ 「ううん。キョウちゃんは無理しないって言ってたし。信じなきゃ。」

SE:鞄置く音

ヒナ 「あれ?お母さん、カーテン閉めるの忘れて……え?」
ヒナ 「(キョウちゃん?)」

SE:ドア閉める音


SE:走る音

ヒナ 「(確かあっちに向かって……でもなんで?キョウちゃんの家は反対方向のはず。
     買い物?いや、スーパーは大通りの方だし……まさか、本当にバイト行く気
     なんじゃ…!)」
ヒナ 「…余計なおせっかい、かな。」
ヒナ 「(……でも。)」
(キャス「本日未明、××市の住宅街で女子中学生が通り魔に襲われる事件が…」)
ヒナ 「(友達として放っておけない。何かあってからじゃ遅いんだから!)」

SE:走り去る音

 


SE:歩く音

キョウ「このあたりで間違いないんだよね。」
担当官「はい。結界内で、かすかに気配を感じます。」
キョウ「それ、もっとわかりやすくできないの。結界内は色変えるとか……いる。」
担当官「近いですね。」
キョウ「…スペクルムスパリフィーチェ。」

SE:変身音


SE:歩く音

魔獣 「ヴルルルル……ヴルォオオオ!」
キョウ「ふっ……はあっ!」

SE:攻撃音

魔獣 「グファッ!……ヴゥ……ヴゥ。」
キョウ「(…弱い。これならすぐに片がつく。)」
キョウ「アブルート。」

SE:無数の破片が刺さる音

魔獣 「ヴルァアア!!…ヴヴ、ヴォオオオオオオ!!!!」
キョウ「っ逃げるな!」
魔獣 「ヴァオ!!!!ヴァオ!!!!」
キョウ「くそ、待て!!!!」
ヒナ 「キョウちゃん?そこにいるの?」
キョウ「!?なんでヒナが…」
ヒナ 「あ、やっぱりキョウちゃんだ!無理しないって言ってたのに何して…」
キョウ「逃げて!!!!ヒナ!!!!」
魔獣 「ヴルォアアアアアアアア!!!!」

SE:切り裂かれる音


SE:派手に吹っ飛ぶ音

ヒナ 「……え?」
魔獣 「ヴルルルル……ヴルルル……」
ヒナ 「キョウ、ちゃん?……なにこれ。なんで、キョウちゃん。」
魔獣 「ヴルルル……ヴルォアアア!!」
ヒナ 「……だ、誰か。キョウちゃ、キョウちゃんが。あ、ああ……あああ!」
担当官「はっはっは!酷くやられましたね。これは死んだかな。」
ヒナ 「!…まだ生きてる。助けて。助けてください!止血、救急車、なんでもいいから
    助け」
担当官「そんな人間の常識で助かるわけないでしょう。もう手遅れです。」
ヒナ 「それでも何もしないよりいいでしょ。なんで、なんで繋がらないの。お願い、
    止まって。このままじゃ死んじゃう。嫌だ。嫌だよキョウちゃん…!」
担当官「結界内は圏外ですからね。助かる方法、教えてあげましょうか?」
ヒナ 「どうすればいいんですか。」
担当官「あなたが戦うんです。あの化物と。」
ヒナ 「化物…?」
担当官「見たでしょう?さっきの…」
担当官「(いや、この反応…彼女にはアレが見えていなかったのか。)」
担当官「ふむ。結界に入れたのはまぐれですかね。まあいいでしょう。彼女を救ってあげます
    から、私と契約してください。条件は」
ヒナ 「キョウちゃんを助けてください。キョウちゃんが生きていけるならそれだけでい
    い。」
担当官「…なるほど。ではそのように。あなたの名前は?」
ヒナ 「雛崎日向乃。」
担当官「ヒナノ様。契約の元、あなたに力を授けましょう。ベリス・ペレニス。それがあなた
    の、戦士としての名です。」
ヒナ 「ベリス・ペレニス…?」

SE:変身音

ヒナ 「なに、これ。」
担当官「よくお似合いです。戦装束というやつですよ。ああ、キョウカ様は無事ですのでご心
    配なく。失血のせいで眠っていますが、そのうち起きるでしょう。」
ヒナ 「傷が……!よかった。生きてる。生きてる…!」
担当官「さあ、まだ仕事は終わっていませんよ。やつはまだ、そう遠くへは行っていないはず
    です。ついてきてください。」
ヒナ 「は、はい!」

 


魔獣 「ヴルォアアアアアアアア!!!!」

SE:吹っ飛ばされて叩きつけられる音

ヒナ 「っがぁ!」
担当官「ふむ。やはり能力値が足りませんか。これは時間の問題ですね。」
キョウ「……ん。」
担当官「おや、お目覚めですか。おはようございます。」
キョウ「…おろして。」
担当官「そんな睨まなくても。命の恩人に対する態度じゃないですよ、それ。」
キョウ「は?何言って…」
担当官「もっとも、救おうとしたのは私ではなく彼女ですがね。」
キョウ「……なに、してるの。なんでヒナが戦って」
担当官「覚えていませんか。あなたヒナノ様を庇って死にかけたんですよ。結果ヒナノ様は
    魔法少女になり、契約の元あなたの傷は全快した、というわけです。お分かりいた
    だけましたか?」
キョウ「ふざけるな!!!!何を勝手に」
担当官「ヒナノ様が望んだことです。私を怒鳴るのはお門違いですよ。それより…いいんです
    か?彼女、そろそろ死にますよ。」
キョウ「……くそっ。」
担当官「ではお気をつけて。」

ヒナ 「っはぁ……はぁ…。」
(担当官「あれがキョウカ様を襲った犯人、魔獣です。早速ですが、あなたには討伐をして頂
     きたい。ああ、気張らずとも大丈夫ですよ。適当に殴ればいけますから。」)
ヒナ 「(あの人はそういってたけど、無理だよ。力押しじゃ勝てない。スピードも体力も相
     手の方が上。このままじゃ…考えなきゃ。弱点は?攻撃はパターン化されてる。
     それなら…)」
キョウ「ヒナ!」
ヒナ 「キョウちゃん!怪我は。もう大丈夫なの。」
キョウ「うん。あとは私に任せて。辛い思いさせてごめん、ヒナ。」
ヒナ 「いいの、キョウちゃんが無事なら。ねえ、私も戦うよ。」
キョウ「でも傷が……ヒナはここにいて。大丈夫、私一人でも倒せるから。これ以上無理は」
ヒナ 「キョウちゃんが傷つくところはもう見たくないの!……確かに私、戦ったことなんて
    ないし、今も怖くてたまらないよ。でも…一緒に考えることはできる。あの化物、
    逃げ足が速いんでしょ?」
キョウ「ヒナ……わかった。でも危険なことはしないで。二人で無事に帰ろう。」
ヒナ 「うん、ありがとう。キョウちゃんと一緒なら、絶対勝てるよ。」

魔獣 「ヴヴヴ……ヴルォウ!」
キョウ「さっきはどうも。今度は逃がさないから。はぁっ!」
魔獣 「ヴルァアア!!…ヴヴ、ヴォオオオオオオ!!!!」
キョウ「待て!」

魔獣 「ヴォッ…ヴォッ……ヴルルル!」
ヒナ 「ここは通さないよ。」
魔獣 「ヴー…ヴルル!ヴルァアアア!」
ヒナ 「!」
ヒナ 「(やっぱり、倒せると思った相手にはまっすぐ突進してくる。これなら…!)」
魔獣 「ヴルオオオオオオオオ!!!!」
ヒナ 「キョウちゃん!」
キョウ「うん。」
キ・ヒ「「アブルート!」」

SE:無数の破片が刺さる音(大)

魔獣 「ヴルォアアアアアアアアアア!!!!」

SE:魔獣が消える音

ヒナ 「……やっ……た。倒せた?」
キョウ「ヒナ!怪我は。」
ヒナ 「大丈夫だよ。キョウちゃんこそ、怪我は?」
キョウ「ないよ。一緒に戦ってくれてありがと。ヒナ。」
ヒナ 「キョウちゃん……よかった。よかったあああ。」
担当官「お見事。相手を油断させて的確に罠で仕留める、まるで狩人のような素晴らしい作戦
    でしたよ。」
キョウ「…ちっ。」
担当官「おや、お邪魔でしたか。」
ヒナ 「よかった!無事だったんですね。怪我はありませんか?」
担当官「怪我…っはは!面白いことを言いますね。心配されたのは初めてです。」
キョウ「大丈夫だよ、ヒナ。そいつ戦闘中は隠れてるから。ほら、帰ろ。」
担当官「ふむ。今日は特別に、お二人とも1体とカウントしましょう。楽しませてもらいまし
    たからね。」
キョウ「は?今なんて…」
担当官「討伐数ですよ。キョウカ様とヒナノ様、それぞれ1体ずつ討伐したことにして差し上
    げます。上への報告は私の方でちょろまかしておきましょう。どうせバレません。」
キョウ「ヒナ、あいつとなんて契約したの。」
ヒナ 「え、それは…」
担当官「彼女も知りませんよ。キョウカ様が無事ならそれでいい、ですよねヒナノ様?」
キョウ「この…」
担当官「大丈夫、業務内容は単純です。魔獣を狩ればいいんですから。ノルマについてはまた
    後日お話ししましょう。それでは、明日の夜に。」

SE:転移魔法

キョウ「言いたいことだけ言って消えた…なんなの。」
ヒナ 「あの人、人間…なのかな。」
キョウ「さあ。名前も知らない、ただの担当官だよ。行こう。手当てしないと。」
ヒナ 「う、うん!」

SE:歩く音

 


SE:教室のガヤガヤ

生徒①「雛崎~。どしたのその怪我。」
ヒナ 「あー…階段から落ちちゃって。」
生徒①「うわ痛そ。雛崎ってそーゆーところあるよね。天然っていうの?」
ヒナ 「あはは。気をつけないとだよね。」
生徒①「笑い事じゃないっしょ。あ、そういや聞いた?3組の織田、失踪したんだって。」
ヒナ 「織田くん…よく先生から呼び出しされてた子?」
生徒①「そ。元々ワルってのもあって、家に帰らないことはしょっちゅうあったらしいんだけ
    どさ。2ヶ月も無断欠席してるのを先生が気にして、電話とか家凸とかしたらしー
    の。でも全然ダメ。親もつかまらなくてお手上げ状態。今頃どこでなにしてんだ
    ろーね。」
ヒナ 「心配だね。危ないことに巻き込まれてないといいけど。」
生徒①「あ~通り魔のやつ?さすがの通り魔もあんな強面襲わないっしょ。むしろ返り討ち、
    みたいな?」

SE:チャイム

先生 「はい席について―…ってそこの。早く教室に戻れー。」
生徒①「やば。じゃーね雛崎。お大事に~。」
ヒナ 「うん、ありがとう。」
キョウ「……。」

 


担当官「さて今日の討伐対象ですが、まず…」
キョウ「その前に質問。」
担当官「なんでしょう。」
キョウ「とどめをさしたらカウント、って認識で合ってる?」
担当官「その通り。過程は問いませんよ。」
キョウ「わかった。続けて。」
担当官「では今日の討伐対象についてです。先日の魔獣からお仲間との繋がりを辿ったとこ
    ろ、根城を発見しました。」
ヒナ 「その根城に私たちが乗り込む…ってことですか?」
担当官「それもいいんですがね。袋叩きにするにはまだ実力が足りないでしょう。」
キョウ「1体ずつ根城からおびき出せって?」
担当官「話が早くて助かります。お二人で協力して倒すんです。」
ヒナ 「でもどうやって?昨日の魔獣みたいに、意思疎通はできないんですよね?」
担当官「ああ、説明していませんでしたね。ヒナノ様の魔法を使うんですよ。」
ヒナ 「私の、魔法?」

キョウ「音声がなんとか…魔力の素体……あー、ヒナ、理解できた?」
ヒナ 「うん。なんか学校の勉強みたいだったね。これが会社の研修ってやつなのかな。」
キョウ「たぶん違うと思う。」
ヒナ 「…着いた。工場、結構広いね。作戦通りいけそう?」
キョウ「うん。ちょっと時間はかかるかも。」
ヒナ 「大丈夫、慎重に罠を仕掛けていこう。」

キョウ「ここで最後。ほんとに一人で大丈夫?」
ヒナ 「うん。キョウちゃんは逃げた魔獣を倒すことに集中して。」
キョウ「気をつけてね。また後で。」

SE:歩く音

ヒナ 「(…いた。全部で3体。教えてもらった通りにやれば、うまくいくはず。)」
ヒナ 「トキシコスネブラ。」

SE:魔法陣の音


SE:蒸気・霧のような音

魔獣 「ヴヴ……ヴ……ヴルッ!?」
(担当官「ヒナノ様の魔法は所謂、毒です。魔獣を弱らせる程度の力ですが…使い方によって
     は役に立つでしょう。」)
魔獣 「ヴルルァ!!!!ヴッ!ヴッ!」
ヒナ 「(1体出てきた!それなら…)」
ヒナ 「アブルート。」

SE:無数の破片が刺さる音

魔獣②「ヴルォ!?」
魔獣③「ヴッヴッ!」
ヒナ 「(分断できた!あとは…)」
ヒナ 「キョウちゃん…私も戦うよ。」

SE:走り去る音

魔獣②「ヴッ!…ヴッ!…」
キョウ「(来た。魔獣は2体…だいぶ弱ってる。これなら。)」
キョウ「アブルート。」

SE:無数の破片が刺さる音

魔獣②「ヴルォアアアア!!!!」
魔獣③「ヴルル!?ヴッ!ヴッ!」
キョウ「(1体逃げた…!)」
キョウ「ふんっ!」
魔獣②「ヴルォオオオ!!!!ヴヴッ!!!!」
キョウ「はあああああああああ!!!!」

SE:攻撃音

魔獣②「ヴルァアアアアア!!!!」

SE:魔獣が消える音

キョウ「…とりあえず1体。……次。」

ヒナ 「…っはあ。はぁ。」
魔獣 「ヴルルルル……ヴォウ!!!!」
ヒナ 「っ!あぶない。」
魔獣 「ヴヴ…。」
ヒナ 「(毒で弱ってるはずなのに…このあたりはキョウちゃんの罠も少ないから隙が作れな
     い。有利な場所に移動しないと。でも…)」
魔獣 「ヴヴ…ヴルォアアア!!!!」
ヒナ 「っぐ!!……う、ああああ!!!!」
魔獣 「ヴルァッ!……ヴヴ。」
ヒナ 「(ここでやらなきゃ。他の魔獣と合流したら不利になる。その前に…!)」

魔獣③「ヴッ!ヴッ!」
キョウ「見つけた。」
魔獣③「ヴッ…!ヴルォオオオ!」
キョウ「待て!」

SE:走る音

キョウ「(どっちに行って…!まずい、あの先は…)」

担当官「結界の外に向かっている。厄介ですね。お二人の距離が離れすぎているせいで、結界
    を移動させるとヒナノ様がはみ出てしまう。範囲を拡大してもいいのですが…ふむ。
    いけませんね、少し…興味が出てきてしまった。」

キョウ「(あの角を曲がったら結界の外のはず。一旦先回りして、結界内に戻すしかない。
     この時間なら人目も…)」
キョウ「!」
織田 「っああ!なんで、う、あ…」
キョウ「(人間!?嘘でしょ…!)」
キョウ「今すぐここから逃げて!獣がうろついてる。繁華街のほうに行けばたぶん」
織田 「来るなぁあああ!あ、わ、うわあああ!!!」
キョウ「だめ!そっちは獣が!…くそっ。」
織田 「あ!っああ!あああ!」
キョウ「(あいつ…今朝ヒナたちが話してたやつだ。学校で見た覚えがある。なんでこんな場
     所に…)」
キョウ「話を聞いて!逃げるならあっちに……え。」
魔獣③「ヴッ!ヴッ!ヴルォオオ!」
キョウ「なん、で……。」
キョウ「(人が魔獣に変わった?そんなはず……脇道はない。すれ違ってもいない。じゃああ
     の逃げている魔獣は…)」
魔獣③「ヴッ!…ヴヴッ!」
キョウ「…そんな。」

担当官「はっはっは!いい表情ですね、実に滑稽だ。さあ見せてください。真実を知ったあな
    たの、選択を。」

SE:無数の破片が刺さる音

魔獣 「ヴルォアア!!!」
ヒナ 「…っはああああ!」

SE:攻撃音

魔獣 「ヴルルルアアアア!」
ヒナ 「(効いてる。けど、力が足りない!残りの罠は2つ。私の攻撃じゃ仕留めきれない。
     考えなきゃ。何か使えるものは……あれだ!)」
ヒナ 「こっちだよ魔獣さん!」

SE:走る音

魔獣 「ヴヴ…ヴルルァ!」
ヒナ 「(ちゃんと着いてきてる。)」
ヒナ 「ほっ!」

SE:着地音

魔獣 「ヴヴ!……ヴォルォオオ!!!!」
ヒナ 「アブルート!」

SE:無数の破片が刺さる音

魔獣 「ヴルォアアアアアア!!!!」
ヒナ 「まだだよ。これで……当たれええええ!!!!」

SE:金属がひしゃげる音


SE:大きなものが雪崩れるように落下する音

ヒナ 「……や…った?のかな。」
担当官「気配が消えました。お見事です。」
ヒナ 「担当官さん!よかった。戦えました。」
担当官「息をつく暇はなさそうですよ。1体来ます。ご武運を。」
ヒナ 「は、はい!」
ヒナ 「(罠はあと1つ。さっきみたいにはいかないよね。残りの魔獣は最高でも2体。それ
     ならキョウちゃんと合流した方が……)」
ヒナ 「…!あれって。」
魔獣③「ヴッ!ヴッ!」
キョウ「っは、っは…ヒナ!」
ヒナ 「キョウちゃん!」
魔獣③「ヴヴ……ヴァ……ヴルァアア……。」
ヒナ 「(逃げ場がないなら、私の方に向かってくるよね。だって、私強くないもん。でも、
     それでいいんだよ。)」
ヒナ 「アブルート!」
魔獣③「ヴルォアアアア!!」
キョウ「…っ!」
ヒナ 「はああああ!」

SE:攻撃音

魔獣③「ヴルアアア!!!!」
ヒナ 「キョウちゃん!」
キョウ「…っあ、う……うわあああああああああ!!!!」

SE:強い攻撃音

 


SE:ドアを閉める音

担当官「五日ぶりですね。お元気でしたか?」
キョウ「何の用。」
担当官「話したいことがあるのでは、と思いまして。」
キョウ「…ないよ。帰って。」
担当官「ふむ。それは今後も魔獣の討伐を続ける、と解釈しても?」
キョウ「さあね。どいて。寝に来たの。」
担当官「困りますね。契約の不履行は重大な服務違反ですよ。」
キョウ「どいて。」
担当官「……見たんでしょう?人が魔獣になる瞬間を。」
キョウ「!やっぱりあんたが結界で」
担当官「アレは犯罪者です。」
キョウ「は…?」
担当官「正確には、法で適切に裁かれなかった犯罪者、ですね。理由はさまざまですが。」
キョウ「…それでも人でしょ。」
担当官「贖罪もせずただ他人をいたぶるだけの存在を、人間とは呼びたくありませんが。それ
    でも躊躇してしまうでしょう?自分と同じ、人の姿をしているとね。」
キョウ「だから魔獣に?……悪趣味なやつ。」
担当官「物事が円滑に進むならそれでいいんですよ。」
キョウ「じゃあ私たちは。同じ犯罪者でしょ。」
担当官「これは業務の一環です。表に出ることはありません。あなたが契約を破棄しない限り
    はね。それに…まあ、これ以上は野暮でしょう。」
キョウ「……わかってる。やるよ、最後まで。でも。」
担当官「?」
キョウ「ヒナは解放して。私が契約を満了したらすぐに。」
担当官「おや、なぜですか?契約を破棄した瞬間、あなたの身体にはあの傷が甦ります。とて
    も助かりませんよ。」
キョウ「それでもいい。私が魔獣を狩りきるまで、ヒナを戦わせないで。あの子はまだ戻れ
    る。今まで殺してきたのは全部、私の魔法だから。」
担当官「ふむ…それは無理な相談ですね。」
キョウ「なんで。もしかして、ヒナの契約内容と関係あるの?」
担当官「いえ、そうではなく。すでに彼女一人で魔獣を討伐しているんですよ。確か…4体で
    すね。まさかここまで化けるとは思いませんでした。」
キョウ「…は?」
担当官「戦闘力はとても使えたものじゃありませんが、頭脳は優秀でしてね。彼女の学習能力
    と発想力には目を見張るものがあります。特に昨晩の戦闘は秀逸で」
キョウ「黙れ!」
担当官「…ヒナノ様は強くなろうとしています。それもこれもあなたのために。愛されていま
    すね。」
キョウ「……。」
担当官「それでは、また夜に。」

SE:転移魔法

 


SE:チャイム

ヒナ 「キョウちゃーん。具合、どう?」
キョウ「…大丈夫。」
ヒナ 「そうは見えないけどな。はい、どっちがいい?」
キョウ「コンポタ。ありがと。」
ヒナ 「どういたしまして。」
キョウ「……。」
ヒナ 「これ今日の分のノート。最後に要点をまとめてるから、そこだけでも見てみてね。」
キョウ「…うん。」
ヒナ 「ふふ。あ、今日3限目が体育だったんだけどね、鹿野ちゃんが3Pシュート2回も決
    めたんだよ。みんなで『すごいね』って盛り上がってたんだけど、鹿野ちゃんは『鏡
    花に勝てないと意味ない』ってすごく悔しがってたの。」
キョウ「そうなんだ。」
ヒナ 「次は参加できるといいね。きっと楽しいよ。」
キョウ「…ヒナ、あのさ。」
ヒナ 「うん?なあに。」
キョウ「あ……その……」
(担当官「……見たんでしょう?人が魔獣になる瞬間を。」)
(担当官「アレは犯罪者です。」)
(担当官「すでに彼女一人で魔獣を討伐しているんですよ。」)
キョウ「う……ぁ…………い、一緒に寝よ。」
ヒナ 「え!一緒に…いいの?それはすごく嬉しい……けど、そろそろ帰らないと先生に怒ら
    れちゃうよ。」
キョウ「あ、そう、だよね。ごめん忘れて。」
ヒナ 「ああ、違うの!そうじゃなくて、その……月末、泊まりに行ってもいい?」
キョウ「…うん。もちろん。」
ヒナ 「ほんと?やった!えへへ、キョウちゃんとお泊りなんていつぶりだろう。お菓子とか
    持っていってもいい?」
キョウ「うん。お母さん仕事でいないから、自由にできるよ。」
ヒナ 「そっか。じゃあお料理もしないと。何食べたいか考えておいてね。」
キョウ「わかった。楽しみにしてる。」

 


SE:無数の破片が刺さる音

魔獣 「ヴルォアア!!!」
キョウ「これで…!」
魔獣 「ヴ……ヴヴ……ヴルァ……」
キョウ「!」
魔獣 「ヴルル……ヴルァア……ヴ、ヴヴ……」
キョウ「ぁ……っ違う!これは……ぐ、ああ、ああああああ!!!!」

SE:魔獣が消える音

キョウ「……。」
担当官「お疲れさまでした。今日の仕事は終了です。」
キョウ「…あと何体。」
担当官「ん?ああ、あと8体です。この数日で随分狩りましたね。」
キョウ「ヒナは。」
担当官「退勤済みですよ。少し遠方だったので、どうせならと1グループを掃討して頂きまし
    た。もちろん家まで送り届けましたよ。」
キョウ「そうじゃない。あの子はあと何体倒せばいいの。」
担当官「なぜそんなことを。まさか肩代わりでもする気ですか?はっはっは!やめておいた方
    がいい。何の得にもなりませんよ。」
キョウ「契約では禁止されていなかった。そうでしょ。」
担当官「もちろん不可能ではありません。ですが、そうですね…ヒナノ様の同意なしに契約内
    容を変更するのはいかがなものかと。肩代わりする理由も含め、話してみてはどうで
    しょう?もう一度、ね。」
キョウ「見てたの。最低。」
担当官「従業員の管理も仕事の内です。まあ話したところで、彼女は了承しないでしょうが…
    むしろあなたのノルマを肩代わりしようとするんじゃないですか。」
キョウ「…っ。」
担当官「もちろんどうしてもというのであれば、変更には応じます。従業員に寄り添うタイプ
    のホワイトな企業ですからね。話がまとまったら、肩代わりなり何なりお申し付けく
    ださい。では、また明日の夜に。」

SE:転移魔法

キョウ「……ヒナ…。」

 


SE:チャイム

先生 「HR始めるよ―。欠席は足立と雛さ…京極、ギリギリすぎ。早く席つきな。」
キョウ「すみません。」
キョウ「(…ヒナがいない。体調、悪いのかな。)」
先生 「1限は…移動か。遅れないように。解散。」

SE:教室のガヤガヤ

生徒③「雛崎さん休みって珍しいね。風邪?」
キョウ「え、いや、連絡は何も。」
生徒③「そっか。」
生徒②「おーい。授業遅れるぞー。」
生徒③「うん、今行く。」
キョウ「……。」

 


キョウ「(…来ちゃった。)」
キョウ「……ぅ……んん……っはぁああああ~……っすう。」

SE:玄関チャイム

キョウ「…………出ない。寝てるかな。」
キョウ「(NINE入れておこう。『大丈夫?泊まりの件はまた今度でも…』)」

SE:ドアの開く音

ヒナ 「…あ、キョウ、ちゃん。」
キョウ「ヒナ……大丈夫?ふらついてる。」
ヒナ 「ちょっと体調悪くて。ごめんね。ありがとう。」
キョウ「いいよ全然。あがってもいい?部屋に戻ろう。」

キョウ「…あ、ごめん。ドリンクとか、気の利いたもの持ってきてなくて。」
ヒナ 「そんな、いいんだよ。来てくれて嬉しい。」
キョウ「あと…これ。今日の授業分。ノートはそのまま、あげる。」
ヒナ 「え……いいの?ありがとう!」
キョウ「ヒナみたいに要点まとめるとか…そういうの、できないから。板書しただけだけ
    ど。」
ヒナ 「すごく嬉しい!私のためにしてくれたんでしょ?えへへ。いい友達を持って私はとて
    も誇らしい~!なんて。」
キョウ「思ってたより元気そうでよかった。」
ヒナ 「うん。キョウちゃんがいれば元気になれるんだよ。」
キョウ「そんなわけ……ヒナ。」
ヒナ 「ん?なあに。」
キョウ「このところ、ずっと魔獣を狩ってるってあいつから聞いた。本当?」
ヒナ 「…うん。そうだよ。前よりも戦い方がわかってきて、少しずつだけど強くなってる気
    がするの。それが嬉しくて。」
キョウ「そう……でも、ちゃんと休んで。そんなに頑張らなくていい。ヒナの身体が一番大事
    なんだから。」
ヒナ 「そうだね。自分の限界はわかったし、無理しないようにするよ。」
キョウ「……ヒナは怖くないの。」
ヒナ 「怖いって、何が?」
キョウ「よくわからない化物と戦わされて、怪我して。普通だったら逃げ出したくなるで
    しょ。」
ヒナ 「そうかな。確かに最初はびっくりしたし、怖かったよ。でも、キョウちゃんが傷つく
    のはもう見たくないなって……すごく強くなって、キョウちゃんを守れるようになら
    なきゃって思ったんだ。」
キョウ「ヒナ……私ヒナに、話さなきゃいけないことがあって。でもその前に一つ、いい?」
ヒナ 「うん。」
キョウ「あいつとの契約について、教えて欲しい。」
ヒナ 「契約……キョウちゃんの知ってる通りだよ。魔獣を倒すからキョウちゃんを助けてっ
    て。その通りにしてくれた。」
キョウ「倒すって、どれだけ?いつまで続くの。」
ヒナ 「それは……。」
キョウ「聞かされてないの?」
ヒナ 「ううん、知ってるよ。でもキョウちゃんには話せない。」
キョウ「なんで。」
ヒナ 「ごめんね。それで…話さなきゃいけないことっていうのは?」
キョウ「…こんな仕事、早く終わらせたいでしょ。だからあいつに相談して…ヒナがいいよっ
    て言ってくれれば、ノルマを二人で分けることも、肩代わりすることもできる。私も
    ヒナの力になりたいんだ、だから」
ヒナ 「だめ。」
キョウ「……ぇ。」
ヒナ 「私の分は、ちゃんと私がやるよ。大丈夫。もう無理はしないし、怪我だってしない。
    だから一緒に頑張ろう?ね、キョウちゃん。」
キョウ「ヒナ……。」
ヒナ 「飲み物取ってくるね。何がいい?」
キョウ「……ううん、大丈夫。今日はもう帰るよ。」
ヒナ 「…そっか。来てくれてありがとう。また明日学校でね。」

SE:ドア閉じる音


SE:変身を解く音

担当官「お疲れさまでした。…酷い顔ですね。何かありましたか?」
キョウ「白々しい。これであと3体、だよね。」
担当官「はい。あっという間でしたね。」
キョウ「…明日からヒナと組ませて。」
担当官「おや。契約満了祝いでもするんですか。」
キョウ「違う。そんなんじゃない。」
担当官「む?……ああ、なるほど肩代わりの件ですか。断られたはずでは?」
キョウ「契約はそのままでいい。要するに、ヒナがとどめを刺せばいいんでしょ。こんな仕
    事、すぐに終わらせてやる。」
担当官「ふむ…わかりました。これからはお二人で討伐をして頂きましょう。期待しています
    よ。それではまた、明日の夜に。」

SE:転移魔法

 


SE:転移魔法

担当官「お疲れ様です。おや、こちらも顔色が悪い。仲良しですね。」
ヒナ 「ん?……あ、おつかれさまです。ちゃんと討伐は終わりましたよ。」
担当官「ええ、見ていました。それにしてもすごい集中力ですね。数週間前のあなたとは比べ
    物にならない。大した成長です。」
ヒナ 「ありがとうございます。キョウちゃんは?」
担当官「もう帰られましたよ。怪我もしていません。」
ヒナ 「そっか、よかっ……」
担当官「おっと。ヒナノ様?どうされました?」
ヒナ 「ぁ、ご、めんなさい。ちょっとふらついて。もう大丈夫です。」
担当官「無理をする必要はないんですよ?あなたが倒れればキョウカ様は…」
ヒナ 「わかってますよ!大丈夫です。ちゃんと討伐しますから。」
担当官「そうですか。休みが必要なら言ってくださいね。もちろん……その間の保証はできま
    せんが。では明日の夜に。」

SE:転移魔法

ヒナ 「……はぁ。」
担当官「伝え忘れてました。」
ヒナ 「わぁ!!!」
担当官「明日からはキョウカ様とお二人で討伐して頂きます。彼女の希望でしてね。何かあれ
    ば本人に言ってください。それでは。」

SE:転移魔法

ヒナ 「……キョウちゃんの希望で、二人。」

 


SE:チャイム

ヒナ 「キョウちゃん。帰ろう?」
キョウ「…うん。」

SE:歩く音

ヒナ 「…今日の討伐、私と組みたいって担当官さんに言ってくれたんだね。嬉しいよ。」
キョウ「あー…うん。よろしくね。」
ヒナ 「でもどうして急に?寂しくなっちゃった?」
キョウ「うん、まあね。」
ヒナ 「そっか……どうして嘘つくの?」
キョウ「え?」
ヒナ 「ほんとは何か考えてるんだよね。私には、話せない?」
キョウ「…別に、話せるよ。でも、ヒナだって隠し事してるでしょ。」
ヒナ 「…ごめんね。」
キョウ「……はぁ。」
キョウ「(もう、疲れた。話せないなら、それでいい。このまま契約さえ終われればそれで
     ……)」
ヒナ 「……キョウちゃん。私ね、討伐を続けようと思うんだ。」
キョウ「……は。」
ヒナ 「だって、討伐していればいつかは全部倒せるでしょ?それがいつになるかはわからな
    いけど、戦ってる人や、魔獣に脅かされている人たちはみんな解放される。それって
    すごく大事なことじゃないかな。」
キョウ「(討伐を、続ける?全部倒すまで?そんなの)」
キョウ「ヒナじゃなくてもいいでしょ。そんなの他の誰かが…」
ヒナ 「せっかく力を貰ったんだもん。使わないのはもったいないよ。」
キョウ「でも……」
キョウ「(だめ。これは言っちゃいけない。でもヒナを辞めさせないと。これは言っちゃだ
     め。何か他に。やめろ。言うな。やめろ!)」
キョウ「あ……ぅ……っ」
キョウ「(やめろ……!)」
キョウ「…ねえヒナ、魔獣って何だと思う?」
ヒナ 「…え?」
キョウ「考えたことないよね。私も知らなかったし……知りたくなかった。」
ヒナ 「キョウちゃん?」
キョウ「ねえ、ヒナは今まで何体討伐した?私は27体。それは全部…」
キョウ「(言うな…言うな!!!!)」
キョウ「犯罪者。人間だよ。」
ヒナ 「……え。」
キョウ「(ああ……あああああ!絶対に!言っちゃいけなかった、なのに…!傷つけた。ヒナ
     を、私が。最低だ。私が。ああ、あああああ!)」
ヒナ 「……どうして泣いてるの?」
キョウ「…え。」
ヒナ 「そっか。私、酷い事言っちゃったね。ごめん。でも…私は討伐を続けるよ。最低な友
    達で、ごめんね。」
キョウ「ヒナ…?」
ヒナ 「話してくれてありがとう。怖かったよね。大丈夫。私も一緒だから、泣かないで。」
キョウ「違う。ヒナはわかってない。私たちは…」
ヒナ 「いいよ言わなくて。隠し事はそれで全部?」
キョウ「…まだ。でも、もう意味はないよ。」
ヒナ 「そっか。じゃあ私も話すよ。契約内容は前にも言った通り。魔獣を倒す代わりにキョ
    ウちゃんを助けてもらうこと。ほんとにそれだけなんだ。」
キョウ「それって…」
ヒナ 「うん。魔獣がいる限りずっと。さすがにキョウちゃんを看取るまでには終わるかなっ
    て思ってたけど……でも、そっか。ほんとに”ずっと”だったんだね。」
キョウ「そんなの契約を破棄すれば」
ヒナ 「だめだよ。キョウちゃんを傷つけるぐらいなら、魔獣を狩り続ける方がずっとい
    い。」
キョウ「ヒナ…おかしい、おかしいよ。」
ヒナ 「うん。おかしいぐらいキョウちゃんのことが好き。ごめんね。」
キョウ「私は……っヒナに魔獣を殺して欲しくない。そんなのに縛られる人生なんて嫌だ。」
ヒナ 「キョウちゃん…。」
キョウ「私だってヒナの事が好き。大事なんだよ。だからやめて。やめてよ……。」
ヒナ 「……また酷いこと言っちゃったね。ごめん。でも、嬉しいな。キョウちゃんからそん
    なこと言ってもらえると思ってなかったよ。ありがとう。」
キョウ「ぅ……っぐ。」
ヒナ 「ねえ、キョウちゃん。私と生きてくれる?戦いなんてもういいよ。私はキョウちゃん
    が望む形で、ずっと隣にいたい。幸せになりたいんだ。」
キョウ「うん……ヒナが幸せじゃなきゃ嫌だ。」
ヒナ 「じゃあ、賭けてくれる?幸せになるための、一歩。うまくいくかわからないけど。」
キョウ「可能性があるなら、試したい。ヒナを信じるよ。」
ヒナ 「ありがとう。キョウちゃん。」

 


SE:無数の破片が刺さる音

キョウ「はあああああああああああ!!!!」

SE:攻撃音

魔獣 「ヴルォアアアアア!!!!」

SE:魔獣が消える音

キョウ「……ふぅ。」
ヒナ 「終わったね。あとは……」
キョウ「…どうしたの。」
ヒナ 「ううん、何でも。キョウちゃんが信じてくれたんだもん。きっとうまくいくよね。」
キョウ「大丈夫。ヒナと一緒なら、絶対できるよ。」
ヒナ 「…うん!」

SE:転移魔法

担当官「お疲れ様でした。今日の仕事は終了です。そしてキョウカ様。ノルマ達成おめでとう
    ございます。」
キョウ「どうも。」
担当官「これにて契約は満了。もちろん更新も可能です。どうしますか?」
キョウ「更新するなら、対価は新しくもらえるんだよね。」
担当官「もちろん。何をご所望で?」
キョウ「ヒナの契約を変更させて。魔獣30体の討伐、今までのを合わせればもう10体もい
    らないでしょ。」
ヒナ 「加えて、キョウちゃんの新しい討伐ノルマを10体分、私に流してください。討伐数
    の調整は、双方の了承があれば可能なはずです。」
担当官「ふむ。面白い冗談ですね。無理です。」
キョウ「……そう。それなら!」
キ・ヒ「「トキシコスアブルート!」」
担当官「!」

SE:無数の破片が刺さる音(大)

担当官「…驚きましたね。合体技ですか?」
キョウ「(……なっ。)」
ヒナ 「(効いてない…!)」
担当官「素敵ですが、試し撃ちするなら魔獣にしたほうがいいですよ。私では威力がわかりま
    せんからね。」
キョウ「なんで効かないの。結界?」
担当官「簡単な話です。あなた方が同士討ちできないのと同じ、魔力素体に魔法は効かないん
    ですよ。」
キョウ「ご高説どうも。」
担当官「ところで…」

SE:転移魔法

キョウ「(近…っ!)」
担当官「なぜ私を攻撃したのか、説明してもらっても?」
ヒナ 「キョウちゃん!…はぁ!」
担当官「おっと。質問には答えて頂けませんか。」
ヒナ 「幸せになるためです。そのためには、この契約が邪魔なんですよ。」
担当官「つまり職務放棄の上取引相手を消してとんずらしようということですか。はっはっ
    は!とんだ腐れ野郎ですねぇ!!!!」
ヒナ 「っが!」
キョウ「ヒナ!」
担当官「これは教育です。あなたのことはそこそこ気に入っているのでね。失うのは惜しいん
    ですよ。」
キョウ「ヒナを離せええええええええええ!」

SE:転移魔法

キョウ「なっ…。」
担当官「どうぞ。受け止めてください。それ!」
ヒナ 「っあ……ぅあああああ!」
キョウ「ヒナ!!!!」

SE:衝撃音


SE:転移魔法


SE:軽やかに着地する音

担当官「おや、受け止めましたか。お見事です。」
キョウ「っはぁ…は……はぁ。」
ヒナ 「キョウちゃん…ありがとう。」
担当官「さて、まだ続けますか?私に攻撃は当たりませんよ。」
キョウ「くそ……。」
ヒナ 「(魔法は効かない、攻撃はかわされる。せめてあの転移魔法がどうにかできたら
     …。)」
担当官「終わりなら、契約の話に戻りましょう。満了か、更新か。」
キョウ「それは…」
ヒナ 「(思い出して。今まで何度も見てきた。何か。何かあるはず。転移魔法に対抗する手
     段が何か…!)」
担当官「さっさとしてください。いい時間ですからね。私もそろそろ休みたいんですよ。」
ヒナ 「!」

(担当官「そうですか。休みが必要なら言ってくださいね。もちろん……その間の保証はでき
     ませんが。では明日の夜に。」)

(SE:転移魔法)

(ヒナ 「……はぁ。」)
(担当官「伝え忘れてました。」)
(ヒナ 「わぁ!!!」)

ヒナ 「……もしかして。っ!」
キョウ「ヒナ!?」
ヒナ 「ちょっと待ってて!」
担当官「おや、逃亡。今日は解散ですかね?」
キョウ「そんなわけないでしょ…契約の話だけどその前に一つ。」
担当官「時間稼ぎですか?いいですよ付き合いましょう。」
キョウ「あの日、どうして魔獣の正体を見せたの。」
担当官「見せたわけじゃありませんよ。魔獣が結界の外に逃げたせいで見えてしまっただけ
    です。」
キョウ「結界の範囲はいじれるでしょ。」
担当官「そうですね。どうして結界を操作しなかったんでしょう?不思議ですね。」
キョウ「とぼけないで。」
担当官「ふむ……興味が湧いたんですよ。正体を知った人間が何をするのか。」
キョウ「どういうこと?」
担当官「あなたは魔獣の正体を知ってなお、戦うことを選んだ。するとどうでしょう。ただ無
    感情に駆逐するだけの戦闘が一変、ドラマのあるショーに変わったんです。私は感銘
    を受けました。あの憎らしい魔獣共が、あなたの見せた隙に希望を見るんです。勝て
    るんじゃないか、と。しかし結果は変わらない!淘汰されるのはいつだって悪です。
    クソ犯罪者共のにやけ面が絶望に染まった時、私の心はどうしようもなく満たされる
    んですよ。」
キョウ「…悪趣味。」
担当官「生きている価値のないやつらでも…いや、だからこそ!最高の見世物になる。これは
    裁きです。本来受けるはずだった制裁を、ようやく下すことができたんですよ。回答
    になりましたか?」
キョウ「十分。イカレてるってことはわかったよ。」
ヒナ 「っはぁ、っは…キョウちゃん!」
キョウ「ヒナ!」
担当官「おかえりなさいませ。どこに行っていたんですか?」
ヒナ 「色々ですよ。色々っ!!」
担当官「ボール?球技大会ですか?」

SE:転移魔法

担当官「ドッジボールにしては数が多すぎると思いますがね……おや。」
キョウ「これ…カラーボール?」
ヒナ 「担当官さんに向かって投げて。せーの!」

SE:転移魔法

担当官「なんです?お遊びなら帰らせて頂きますよ。……!クソッ。」
キョウ「ペンキが…!」
ヒナ 「やっぱり……キョウちゃん。これなら勝てるかも。」
担当官「何のつもりですか。まだ教育が足りないと?それなら遊んであげますよ。私は面倒見
    がいいのでね。」
キョウ「…それ、本当?でもどうやって…」
ヒナ 「二人でやれば逃げられる範囲が限られてくる。うまく誘導できれば…」
キョウ「やってみる。っはあああ!」

SE:転移魔法

担当官「数分前のことをもう忘れたんですか?」
ヒナ 「はあああ!」

SE:転移魔法

担当官「当たりませんよ。」
キョウ「はぁ!」

SE:転移魔法

担当官「無駄です。」
キ・ヒ「「はああああ!」」

SE:転移魔法

ヒナ 「まだ!」
キ・ヒ「「はぁ!!!!」」

SE:鈍い攻撃音

担当官「!?」
キョウ「!当たった。もう一撃……ックソ!」
担当官「(どうして当たった。闇雲に攻撃したのか?それにしては…)」
担当官「…驚きました。運がいいんですね。」
キョウ「どうも。正直自分でもびっくりしてる。」
キョウ「(ヒナの言ってた通りだ。転移魔法は移動までにラグがある。その間、あいつは透明
     になって自分で攻撃を避けてる。)」
ヒナ 「(さっきの感じだと、ラグは1秒ないぐらいかな。それなら逆算できる。限られた時
     間で移動できる範囲は、そんなに広くない!)」
ヒナ 「キョウちゃん!」
キョウ「うん。」
キ・ヒ「「はあああああああ!」」

SE:転移魔法

キ・ヒ「「はあっ!」」
キョウ「はあああああっ!」

SE:攻撃音


SE:吹っ飛ぶ音

キョウ「っはぁ……はぁ。」

SE:転移魔法

ヒナ 「!」
担当官「っはぁ。痛いじゃないですか。まったく…っふん!」

SE:攻撃音

キョウ「っああ!!」
ヒナ 「キョウちゃん!!!!」
担当官「っは!おいたが過ぎましたね。反省してください!!!!」

SE:攻撃音

ヒナ 「っかは!」

SE:どさっと倒れる音

担当官「ふむ。やりすぎましたかね。これぐらいにしておきましょう。明日も仕事があります
    から。」
キョウ「まだ……まだだ!」
担当官「…なぜそんなに固執するんです?あなたは契約満了で解放される。それでいいじゃな
    いですか。」
キョウ「だめ。私はヒナと二人で幸せになる。そう決めたから。」
担当官「幸せに?あななたちが?はっはっは!人殺しの分際で、よくもまあそんな妄言を吐け
    ましたね。そんな未来は訪れないんですよ。」
キョウ「く……っはああああ!」
担当官「ぐ。ふっ。」
キョウ「ふっ!はぁ!!!」
担当官「はっは!それでは。」

SE:転移魔法

ヒナ 「行かせない!はあああ!」
担当官「ぐっ!……この!!!」
ヒナ 「がああ!!!」
キョウ「くそっ…はああああ!!!!」
担当官「ふっ!ぐっ……はあっ!!!」
キョウ「っ……ふふっ。アブルート!!!!」
担当官「血迷いましたか。魔法は効かないと言ったはずで……っ!なんだ!?」
キョウ「あなたの負けだよ、担当官。」
ヒナ 「アブルート!!!!」

SE:無数の破片が刺さる音(大)


SE:巨大なものが崩壊する音

ヒナ 「キョウちゃん!……そんな。」
キョウ「……っかは……だい、丈夫。生きてるよ。」
ヒナ 「キョウちゃん…!よかった、よかったああ!」
キョウ「…帰ろう。ヒナ。」

 


ヒナ 「これで私たちの話は終わりです。警察にも同じことを話したんですけど…信じてもら
    えなくて。」
医師 「そうですか……他に何か思い出したらいつでも呼んでください。私は親御さんと話し
    てきます。」
ヒナ 「はい。ありがとうございました。」
ヒナ 「(……帰ろう。)」

 


SE:歩く音

ヒナ 「(…あれ。家の前に誰かいる。)」
ヒナ 「あの、何か御用ですか。両親なら呼んで…」
キョウ「…ヒナ。」
ヒナ 「え、キョウちゃん?」

 


ヒナ 「髪伸びたね。後ろ姿じゃわからなかったよ。」
キョウ「切るタイミングがなくて。ずっと病院をたらいまわしにされてたから。」
ヒナ 「私もだよ。どこに行っても手に負えない、みたいな反応されちゃって。正直少しま
    いってたんだ。だから、会えてすごく嬉しい。」
キョウ「学校、行ってるの?」
ヒナ 「ううん。来月までは休学する予定。テストは別室で受けさせてもらったから、進級に
    差支えはないって先生が言ってたよ。」
キョウ「そうなんだ。よかった。」
ヒナ 「…ねえ、なんでやめちゃったの。」
キョウ「なんとなく。卒業資格だけなら、学校じゃなくてもとれるから。」
ヒナ 「復学してもいないなんて。さみしいよ。」
キョウ「ごめん。」
ヒナ 「…ふふ。いじわる言ってごめんね。いいんだよ。キョウちゃんの人生なんだから、好
    きにしないと。あ、そうだ。約束覚えてる?」
キョウ「約束。うん、いつでも待ってるよ。」
ヒナ 「じゃあ今日行ってもいい?」
キョウ「え、今日……少し時間ちょうだい。片付けるから。」
ヒナ 「今いつでもって言ったのに!」
キョウ「そんなすぐとは思わなくて。でも、嬉しいよ。」
ヒナ 「ほんとかな。うーん。」
キョウ「ふふっ……最近さ、実はすごく長い、悪い夢を見てたんじゃないかって、思うように
    なって。みんなありえないって言うから、本当のことも、本当じゃないような気がし
    てたんだ。でもヒナの顔見て、ああ、間違ってなかったって思った。」
ヒナ 「夢だったらよかった?」
キョウ「どうだろう。でも、忘れたくはないんだ。何度でも思い出して、ずっと覚えておきた
    い。私が奪ったものはもう戻らないから。」
ヒナ 「…うん、私も。だから、ずっとそばにいてね。いつでも思い出せるように。隣にい
    てね。」
キョウ「うん。ずっと一緒だよ。ヒナ。」

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