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​勇者というもの

登場人物:4人(男:1人 不問:3)

・レオン:不問

・キール:男性

・ヴァン:不問

・魔王 :不問

SE:たき火


レオン「いよいよここまで来たな。」
キール「ええ、明日には魔王城に突入できます。」
レオン「人類の未来は俺達にかかってる、気合いいれていくぞ。」
キール「あまり気負いすぎないように、冷静になることも必要ですよ。」
レオン「時間がねぇのはわかってるだろ?キール。こうしている間にも魔王軍が王国に進行してるんだ。とっとと魔王を倒して魔物共を弱体化しねぇと国自体があぶねぇんだ。」
キール「それはわかっています。しかし、冷静さを欠いては勝てる闘いも勝てなくなってしまいます。」
ヴァン「料理、出来ましたよ。すみません、あまり食材とか残ってなくて量は無いんですが」
レオン「気にするな、今日で最後だ。」
キール「ええ。それに貴方のおかげでここまで食料が持ったのです。感謝こそあれど不満なんてありませんよ。」
ヴァン「そんな、俺みたいな足手まといがいなけりゃもっと早くここに来れたんです。食料が足りないのも俺のせいなんです。」
レオン「違う、それは違うぞヴァン。確かに俺とキールは強い、けどな強いだけじゃ駄目なんだ。お前みたいに戦い以外の部分で俺達をサポートしてくれる奴が居なければ、ここまで来れなかった。」
キール「フッ…最初はヴァン君のことを足手まといだといっていた人のセリフとは思えませんね。」
レオン「うるせぇよ。お前だって「ここから先の戦いにあなたは付いてこれません」つって置いて行こうとしてただろーが。」
キール「あれはヴァン君の身を案じてのこと、決して軽んじていたわけではありません。あなたと違ってね。」
ヴァン「あはは…俺が足手まといだったのは事実なんで…でもお二人と一緒にここまでこれて俺嬉しいです。」
レオン「おいおい、明日が本番なんだぜ?旅が終わったみたいな空気にはちっと早いんじゃないか?」
キール「まぁまぁ。こうして三人でたき火を囲むのも最後になりそうですし、いいんじゃないですか?こういうのも。」
レオン「まだ帰りの旅があるけどな?」
ヴァン「そういえばそうですね。魔王を倒してはい終わりってわけじゃないんですもんね。」
キール「そうなんですよ。帰りの旅程ももちろんですが、魔王を倒した後も問題は山積みなんです。」
レオン「俺そういうめんどくせぇのは知らねぇ。出来るやつに任せる。」
キール「まぁあなたは元々一般人ですから、そういう政治的な話とは無縁だったでしょうからね。でも魔王を倒したとなったら話は別ですよ。」
レオン「そうなのか?」
ヴァン「魔王を倒した者は勇者として名前が知れ渡りますから。」
レオン「勇者…勇者ねぇ。」
キール「なんですか?その名前に不服でも?」
レオン「いや、この旅をしてきてさ、まぁ勇者って呼ばれることも増えてきたじゃん?」
ヴァン「そうですね。キールさんは王国の王子にして司祭から認められた賢者様ですから。必然的にレオンさんが勇者と呼ばれるようになりましたね。」
レオン「いまいちよくわからんのよなぁ、勇者。」
キール「勇者とは勇ある者、義に熱いもの、武勇に優れし者。それら全てを兼ね備え、かつ世界の危機を救った者に与えられる称号、私はそう認識しています。世間も大体はこのような認識なのでは?」
ヴァン「ええ。俺もそうだと思います、まさにレオンさんにぴったりだと。」
レオン「うーん……俺の考えはちょっと違うんだよなぁ。」
キール「ほぅ?」
ヴァン「じゃあレオンさんにとって勇者というのは一体どういう人のことを指すのです?」
レオン「ああ、俺が思う勇者ってやつはな……」

 

キール「これは少しマズイですね。」
レオン「なに冷静に言ってやがる?このままだと俺達は全滅だぞ!」
ヴァン「まさかこの階全体がトラップになってるなんて……」
キール「少々時間を稼いでいただけますか?急いでこの魔道具の解析を終えますので。」
レオン「なるはやでな!こっちもあんまりもたねぇぞ!」

 

SE:剣戟

ヴァン「くっ!流石は魔王城。そこら辺にいるモンスターでさえ桁違いに強いっ!」

 

SE:剣戟

キール(これは……そういうこと、ですか)
キール「お二人とも、聞いてください。」
レオン「トラップの解除できそうか?」

SE:剣戟

キール「今からお二人に強化魔法をありったけかけます。」
レオン「は?なに言って」
ヴァン「キールさん?」
キール「お二人は先ほどの分かれ道を逆側に行った先に向かってください。」
レオン「お前はどうするんだよ?」
キール「このトラップの解除にはこの壁に備え付けられた魔道具を操作する人間が必要です」
ヴァン「それって…」
キール「ここに一人残らなければならない、ということです。」
レオン「じゃあ俺が。」
ヴァン「いえ、ここは俺が残ります。お二人は先に進んでください。」
キール「駄目です。ここに残るのは私です。」
ヴァン「なぜです?一番戦力にならない俺が残るのが一番でしょう?」
キール「残念ながらヴァン君の魔法力ではこの魔道具を操作できません。単純に魔力不足ですね。」
ヴァン「そんな…」
レオン「じゃあ俺でいいだろ。」
キール「いいえ。誠に遺憾ながらあなたは我がパーティーの最高戦力です。こんなところで失うわけにはいきません。それにあなたは、倒さなければいけない相手がいるんでしょう?」
レオン「……お前、死ぬ気じゃないだろうな?」
キール「まさか、こんなところで死ぬつもりはありませんよ。出口ができたら私もそちらへ向かいます。」
レオン「……わかった。」
ヴァン「レオンさん?」
レオン「いくぞ、ヴァン。出口まで突っ切る。しっかりついてこい。」
ヴァン「わ、わかりました。」

SE:走り去る音

キール「行きましたか……レオンは…気づいていましたね。流石は勇者、勘が良い。」
キール「あなたたちならばきっと、世界を救えるでしょう。王国一の大賢者である私が保証します。レオン、ヴァンくん、良い旅路を。」

SE:魔法の発動する音


レオン「良し、扉が開いた!飛び込め!」
ヴァン「っ!……」

SE:扉の閉じる音

ヴァン「そんな…扉が…キールさん!」
レオン「ちっ…嫌な予感は当りやがる…」
ヴァン「レオンさん!キールさんが……」
レオン「……先へ進むぞ、ヴァン。」
ヴァン「どうしてです?キールさんがまだ…」
レオン「ヴァン、俺達のやらなければいけないことはなんだ?」
ヴァン「……魔王を倒して、世界に平和を取り戻すことです……」
レオン「そうだ、そのために俺達は戦ってきた。今更こんなところで立ち止まっているわけにはいかねーんだ。」
ヴァン「でも、それなら……俺が残ってキールさんを連れてきます。レオンさんが先に…」
レオン「馬っ鹿野郎!キールにかけてもらった強化魔法を無駄にするんじゃねぇ!それは、俺達が前に進むための力だ!アイツの気持ちを無駄にするんじゃねぇ!」
ヴァン「……そう、ですね…わかりました。」
レオン「いいか?ヴァン。この旅の成功に俺達の命は数えられちゃあいないんだ。わかるか?キールも俺もお前も、魔王を倒すために命をかけるんだ。それだけを考えろ。」
ヴァン「はい……」

SE:歩き出す音

 

 


SE:剣戟
SE:血の流れる音

レオン「くっそ…ここでお前が出てくるのかよ。」
ヴァン「レ、レオンさん…俺を庇って……血が……」
レオン「ヴァン、お前は先へ行け。」
ヴァン「駄目です!レオンさんを置いては行けません!」
レオン「さっき言ったことをもう忘れたのか、ヴァン!」
ヴァン「っ!」
レオン「いいか?アイツは多分魔王軍で一番強い、それこそ魔王よりもな。俺がやらなきゃいけねーんだよ。」
ヴァン「それならなおのこと二人で…」
レオン「足手まといだ、お前を庇いながらじゃ、全力が出せない。」
ヴァン「庇わなくていいです、見捨ててください!俺なんかのこと!」
レオン「わかってるだろ?俺の性格。そこにお前が居るのに見捨てられねぇって。」
ヴァン「さっきはキールさんのことは見捨てたじゃないですか!」
レオン「アイツには覚悟があった……お前に、あるのか?今だって震えてるお前に。」
ヴァン「俺はっ……」
レオン「俺も!キールも強いんだよ!でもお前は弱い。勇者が弱い奴を見捨てられるか!」
ヴァン「っ!」
レオン「わかったらとっとと行け!俺もキールも後から追いつく!お前はまっすぐ先に進め!後ろを振り返るな!」
ヴァン「……待ってますから!早く来ないと魔王、俺が倒しますから!」

SE:走り去る音

レオン「やれるもんならやってみやがれ、一般人……」
レオン「さて、待たせたな?親父、勇者のくせして死体乗っ取られるとかなっさけねぇな?」

SE:剣戟

レオン「クッソ、死体のくせして強さは据え置きかよ。悪ぃが抜くぜ?アンタが残した勇者の剣。とっととアイツ追いかけねぇといけねぇからよ。今から世代交代だ、旧勇者!」

 

SE:走る音


ヴァン「はぁ…はぁ…魔王の部屋までもう少し……この廊下を抜ければ…」

SE:魔法のかかる音

ヴァン「なん…だ…?足が重く、なって……」
ヴァン(闇が、視界を覆って……俺は…進まなくちゃ……いけないのに……)

 

魔王 「賢者はトラップで己を犠牲にし死亡、勇者は父親の亡霊と相打ち……これで残りはなんの変哲もない兵士一人。その兵士も恐れの回廊に囚われた。只の人間があの回廊を抜けることは無い。つまらん終わりだったな、人間最後の希望は。」


ヴァン(一歩…踏み出した。幼い兄弟が、魔物に襲われて、死んだ。レオンさんが居たら助けられていたのに、俺しかいないから助けられなかった。)
ヴァン(一歩…踏み出した。村が魔物による疫病で、滅んだ。キールさんがいたなら、食い止められたのに、俺しかいないから、皆死んだ。)
ヴァン(一歩…踏み出した。盗賊団に襲われた。レオンさんが居たら、説得できたのに、俺しかいないから、殺すしかなかった。)
ヴァン(一歩…踏み出した。魔物に乗っ取られている国があった。キールさんが居たなら知恵で何とかできたのに、俺しかいないから、見殺しにした。)
ヴァン(一歩…踏み出した。レオンさんは居ない。)
ヴァン(一歩…踏み出した。キールさんは居ない。)
ヴァン(一歩…踏み出した。俺には何も出来ない。)
ヴァン(一歩…踏み出した。俺には何も救えない。)
ヴァン(一歩…踏み出した。)
ヴァン(一歩…)
ヴァン(一歩)
ヴァン(一歩)

 

 


ヴァン(一歩…踏み出した。誰も救えないまま、魔王城の前までやってきた。只一人、味のしないご飯を腹に詰め込む。勇者も、賢者もここにはいない。)

レオン(勇者…勇者ねぇ。)
キール(なんですか?その名前に不服でも?)
レオン(いや、この旅をしてきてさ、まぁ勇者って呼ばれることも増えてきたじゃん?)
ヴァン「でも、勇者と呼ばれたレオンさんは、ここにはいない。勇者はもういない。」
レオン(いまいちよくわからんのよなぁ、勇者。)
キール(勇者とは勇ある者、義に熱いもの、武勇に優れし者。それら全てを兼ね備え、かつ世界の危機を救った者に与えられる称号、私はそう認識しています。世間も大体はこのような認識なのでは?)
ヴァン「俺もそうだと思っていた。レオンさんこそ、勇者にふさわしい人だと。」
レオン(うーん……俺の考えはちょっと違うんだよなぁ。)
キール(ほぅ?)
ヴァン「それじゃあ……勇者というのは一体どういう人のことを指すのです……どこにいるんですか……」
レオン(ああ、俺が思う勇者ってやつはな……)

 

 


魔王 「はぁ……なぁ?只の人間。何故貴様がそこに立っている?何故恐れの回廊を抜け出せた?」
ヴァン「俺は……弱い…」
魔王 「ああ、貴様は弱い。なんの血筋もなく、才能もなく、その力はワシの足元にも及ばん只人だ。」
ヴァン「俺は……臆病者だ…」
魔王 「ああ、貴様は臆病者だ。今も足を震わせながらワシの前に立って居る。ならばこそ、なぜ貴様があの恐れの回廊を抜けそこに立っているのか不思議でならんのだ。あの回廊は人の恐れを掴み離さん。心を恐怖に支配された只人が抜け出せる通りは無い。」
ヴァン「…だから……」
魔王 「んん?」
ヴァン「俺が臆病で、弱いから、だから俺が勇者だって。」
魔王 「ははははは!!!なんだそれは!なんの冗談だ?」

 

 


レオン(俺が思う勇者って奴はな?ヴァンみたいなことを言うんだと思うぜ。)
ヴァン(お、俺がですか?弱くて、臆病者の俺がですか?)
キール(どういうことですか?レオン。)
レオン(俺とか、キールとかはさ?強いじゃん。)
キール(ええ、少なくとも王国内では一二を争うと自負してます。)
レオン(一番は俺だけどな?んでさ、強い奴は強いから戦えるんだよ、だって強いから。)
ヴァン(?)
キール(はぁ……意味がわかりませんね。)
レオン(最後まで聞けよ、でもさ、弱い奴は戦えないじゃん?普通。)
キール(……なるほど)
ヴァン(え?え?)
レオン(弱いけどさ、それでも歯を食いしばって戦える奴はさ、強い俺らよりも何倍も勇気が要ると思うんだ。)
キール(そうですね。)
レオン(だからさ、弱くて、怖くて、でも前を向いて一歩一歩進める。そういう奴こそきっと勇者って呼ばれる奴なんじゃねぇかなって俺は思うんだ。)
ヴァン(だから…俺?)
レオン(ああ、お前はずっと俺達について来てくれた。弱くて怖くて、自分のことを足手まといって思いながら。)
キール(そうですね。力のない一般人には辛い道のりだったでしょう。それでも、ここまで私達について来てくれて、後ろで支えてくれた。)
ヴァン(それは、二人が居たからです。一人だったら、無理でした。)

レオン「でもお前はここにいるよ、ヴァン。」
ヴァン「……え?」
キール「たった一人でこの暗闇の中を、絶望を感じながらも、それでも一歩一歩進んで。」
ヴァン「それは……」
レオン「ここまで来てくれて、サンキュウな。お前が来なけりゃ終わってた。」
キール「ええ。あなたが進んでくれたからこそ、ここで会えた。」
ヴァン「あ……」
レオン「託すぞ、俺の剣。勇者様が使っていた、正真正銘勇者の剣だ。」
キール「私からはこれを。私がずっと魔力をため込んでいたペンダントです。」
ヴァン「これを…俺に?」
レオン「オラ!とっとと行って魔王なんかぶっ飛ばして来い!お前が勇者だ!今回は譲ってやるよ!」
キール「貴方の勝利を願っています。ヴァン君。」
ヴァン「待っ……」

 

 


魔王 「ははははは!……つまらない冗談だったな。まあよい、運命は変わらぬ。ここで死ぬが良い。」
ヴァン「俺は、勇者だ。」
魔王 「そうか、死ね。」

SE:剣戟

 

魔王 「……なんだその剣は?只の鋼の剣だろう?」
ヴァン「これは勇者から託された、勇者がずっと使っていた剣だ。これが俺の、勇者の剣だ」

魔王 「そうか、勇者の剣を持ってきたか。だがな?それだけではワシは倒せん。」

 

SE:魔法の音

 

魔王 「死んだか……いや、砕け散った身体が再生している?……馬鹿げた回復力、そのペンダントか?」
ヴァン「これが、俺が託された、賢者の意思だ。」
魔王 「はははははっ!面白い!勇者の剣に賢者の意思か!確かにこのワシを倒す条件をそろえてきたな!?いいぞ!只人よ!抗ってみろ!」
ヴァン「何度死んでも、お前だけは必ず倒す。」
魔王 「やってみせろ!人類最期の希望!お前が膝を付いた時が人間の最後だ!!」

 

SE:激しい剣戟
SE:魔法の音

 

 


魔王 「はぁ……はぁ……」
ヴァン「…………くっ」
魔王 「しつこい!しつこいぞ!何度死ねば気がすむ!」
ヴァン「お前を……倒すまで…と言った。」
魔王 「いい加減に折れろ!お前では無理だ、ワシには届かん。」
ヴァン「お前が折れるまで続ける、それが俺に出来る唯一のことだから。」

魔王 「ふざけるなぁ!」

 

SE:激しい剣戟
SE:魔法の音

 

 


魔王 「……馬鹿な……お前のような…只人に……」
ヴァン「違う……俺は…勇者だ。」

SE:斬撃音

ヴァン「……終わった……かな…」
ヴァン「レオン…さん……キールさん……あり…が、とうござい……」

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