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​墓守の狗

登場人物:5人(男:3人 女:2人  不問:0人)

・レイチェル(表記レイ) …女

・バルド …男

・フィン …男

・喰種  …女

・看守  …男

   「野狗子。獣のような頭部と人間の身体を持った妖怪。人の頭蓋骨を破り脳みそを喰ら
       う奴らは、餌を求め死体が埋葬された墓場に出没するという。これは野狗子を追って
       世界中を旅した少女の復讐の記録である。」

 


レイ 「ねえ、あんたの声頂戴。」
フィン「断る。第一その見た目から俺の声が出てきたら気色悪いだろうが。」
レイ 「夢がないわねフィンは。そういうギャップこそ人の心を掴むってのに。」
フィン「エンターテイナーでも目指してるのかお前。」
レイ 「じゃあ目!眼球交換しましょ。その青くて綺麗な瞳には何が映るのかしら~。」
フィン「断る。」
レイ 「ちょっと、ノリ悪くない?何か言ってやってよバルド。」
バルド「ノってあげなよ。可愛いレイチェルちゃんの頼みなんだからさ。」
フィン「そんな義理はない。というか、そこまで言うならお前が代わりにやればいいだろ。」
バルド「俺?もちろん大歓迎だよ!俺は頭からつま先、この熱ぅ~いハートだってひとつ残らずレイチェルちゃんのものだからね。さあレイチェルちゃん俺の全てを受けとって」
レイ 「こっちから願い下げよ……はぁ。これじゃいつになっても入国できないじゃない。」
フィン「何の話だ。」
レイ 「あんた入国審査ガイド見てないの?……いや、そうよね。見るはずないわよね。知ってた。いい?次に向かう国はね───」

 


バルド「なるほど、こういうことね。」
フィン「碧眼の……それも男ばかり。究極の男尊女卑だな。」
レイ 「そう。それも信仰に支配されたね。女は堕落を招き、赤い瞳は災厄をもたらすんですって。失礼しちゃう。」
フィン「役満だな。」
バルド「こんなめんどくさいところに何の用があるの。宿なら前の国でも良くない?もしくは俺の腹の上とか。」
レイ 「仕事よ仕事。この国の地下に集合墓地があるの。そこの調査。」
バルド「だったら融通利かせてくれればいいのに。」
レイ 「あの腐れ上層部がそんなことしてくれるわけないでしょ。交通費だって自腹よ。」
バルド「世知辛いねぇ。で、どうする?結構警備厚いけど。」
レイ 「仕方ないわね。こうなったら正面突破よ。」
フィン「どうするつもりだ?」
レイ 「決まってるじゃない。男装よ!」

 


看守 「そこで大人しくしていろ。アバズレ。」
レイ 「ちょ、そんな言い方される筋合いないんだけど。待ちなさい。ねぇったら!……なんでバレたんだろ。結構自信あったのに。」

 


バルド「……こんな状況でよく飯食えるねお前。」
フィン「?何が。」
バルド「いや、仲間が捕まったんだよ?もうちょっとこう……助けに行かなきゃ、とかさ!」
フィン「興味無いな。」
バルド「お前さぁ……とにかく、食べ終わったらやることやれよ?」
フィン「ああ。地下調査だったか。」
バルド「いやいや救助が先でしょ。」
フィン「あいつなら一人でどうにかなるだろ。どこに連行されたかも分からないしな。」
バルド「薄情な犬。」
フィン「なんとでも言え。」

 


レイ 「持ち物全部押収しやがって。あの看守どこに隠して……」
看守 「何をしている。」
レイ 「別に何も?退屈だから話し相手いないかなって見てただけよ。」
看守 「くだらない事を。ここにはお前一人だ。もっとも、明日には誰もいなくなるだろうがな。」
レイ 「どういうこと?罪人はどこにいるのよ。」
看守 「すぐにわかる。大人しくしていろ。」
レイ 「(……もしかして。)ねえ、看守さん。お昼ご飯ってまだ?」
看守 「そんなものは出ない。」
レイ 「えー。じゃあお夕飯は?」
看守 「黙れ。」
レイ 「(なるほどそういうことね。)ねぇ看守さん。」
看守 「黙れと言っている。」
レイ 「いいからこっち向いてったら。」
看守 「そんなに死にたいか。ならば望み通り……」
レイ 「ううん。死にたくないし死なない。だから"交換"しましょ?」
看守 「何を……?!どういうことだ。なぜお前が外に!」
レイ 「ちょっとしたマジックみたいなものよ。あ、あたしの荷物こんなところに隠してたの
    ね。」
看守 「この……クソアマがぁ!」

 


SE:空撃ち

 


看守 「な、何故だ。弾は装填して……」
レイ 「へ〜なかなかいい銃使ってるじゃない。貰っていくわね。ああ、それあげる。オモチャでもあるだけマシでしょ?」
看守 「くそ……クソォ!!!!」
レイ 「(さてと、まずは二人と合流しないとね。ここが地下だったら手っ取り早くて助かるんだけど……)」
レイ 「階層案内図……もしかしてビンゴ?」

 


バルド「案外手薄だったね。」
フィン「救助に行くんじゃなかったのか。」
バルド「行くよ?今から。俺がレイチェルちゃんの匂いを辿れないわけないでしょ。」
フィン「犬。」
バルド「お前には言われたくないね。」
フィン「……なんとなく察しはついていたが。酷い有様だなこれは。」
バルド「いや~な匂いだね。こんなところに一人は酷だよ。」
フィン「一人じゃない。この下に沢山いる。」
バルド「死体が?」
フィン「死体が。」
バルド「やっぱり一人じゃ……おおっ!」
フィン「地震か。」
バルド「もっと下の階だね。急ごう。」

 


レイ 「いっててて。なんなのよもう……土?」
レイ 「(外から来てる。確かこの階って集合墓地が……)」
レイ 「……なにこれ。真ん中だけ沈下してる?」
レイ 「(表層は硬い。ってことはもっと下の層で何かが崩れて……)」
レイ 「きゃっ!何?!」

 


SE:猪の鳴き声

 


レイ 「……媼(アオ)。」
レイ 「(死体の脳を食らう妖……こいつらの仕業だろうけどなんか腑に落ちないのよね。まさか。)」
レイ 「あんた達を使役してる黒幕がいたりして。」
喰種 「察しのいいお嬢さんね。」
レイ 「これはこれは。こんな簡単な鎌に引っかかってくれてどうもありがとう。黒幕さん」
喰種 「さしずめ貴女は正義の退魔師といったところかしら?」
レイ 「残念不正解。確かに雇われの身ではあるけどね。野狗子を探してるの。その道すがら
    墓荒らしを懲らしめてるってだけ。」
喰種 「そう。じゃあ私も今から懲らしめられちゃうのかしら。困ったわね。もっと、もっともっともっともっと食べたいのに!」
レイ 「!」
喰種 「私ね、生きている人間に興味はないの。屍肉。屍肉が欲しい。蛆が集るほど甘く濃く熟れた屍肉が欲しい。この子達はね、すごく優秀なの。屍肉を見つけてきてくれる。今日だって、ほら。少し時間がかかるけれど、貴女だって。とびっきり美味しくしてあげるわ。」
レイ 「それはどうも。ありがた迷惑って言葉知ってる?」
喰種 「分かって貰えないのね。悲しいわ。」
レイ 「うぐっ……。」
喰種 「力が弱くてね。自分で手を下すことなんてほとんど無いの。苦しかったらごめんなさいね。」
フィン「そいつは好都合だな。」
喰種 「誰!」
バルド「そこのお嬢さんの犬でーす!お迎えにあがりましたってね。」
フィン「その女は誰だ。」
レイ 「敵、に……決まってる、でしょ。」
喰種 「来ないで!それ以上近づいたら今すぐに食って……」
フィン「それ以上近づいたら、何だって?」
喰種 「なっ……!」
レイ 「げほっ!げほっ……はあ、死ぬかと思った。来るのが遅いのよ。」
喰種 「なぜ……私はあの子の首を捕らえていたはず!」
フィン「あいつと俺の場所を"交換"した、それだけだ。どうした、そんな力じゃ俺は殺せないぞ。」
喰種 「ひっ……媼!喰らいなさい!全員まとめて……媼?」
バルド「あ、ごめん。全部食べちゃった。俺"雑食"だからさ。」
喰種 「そん、な……うぐっ!」
フィン「今度は俺の番だ。答えろ。誰の差し金だ。」
喰種 「だ、誰も……。」
レイ 「無駄よフィン。彼女は何も知らない。ただの喰種よ。」
フィン「……そうか。」
喰種 「っかは……はぁ、はぁ。」
バルド「投げ捨てるなんて酷いなぁ。ごめんね美しいお姉さん。」
喰種 「な、なに。後ろの。」
バルド「ん?ああ、これ?口だよ。お姉さんにはどんな形に見えてるのかな。食虫植物?深海魚?それとも……」
喰種 「来ないで……ば、化け物……」
バルド「化け物?っはは。そうさ、君と同じ"化け物"だよ。」
喰種 「いや、いやああああ!」
バルド「ああ、甘美だね。」
フィン「悪趣味。」
バルド「何言ってんの。きれいなお姉さんが目の前にいたら食べたくなるでしょ?据え膳食わぬはなんとやらだよ。」
レイ 「悪趣味ね。」
バルド「レイチェルちゃんまで?!」
レイ 「違うわよ。これ。」
バルド「これって俺が食べた猪……アオだっけ?の残骸だけど。」
レイ 「これは媼じゃないわ。真似て作っただけの器よ。その証拠にほら。」
フィン「脳漿か。ここに埋められていた遺体のものだろうな。」
バルド「こいつら脳みそ食べるんでしょ?」
レイ 「食べるって言っても、吸収して妖力に変換するだけ。溜め込んだりしないわ。」
バルド「じゃあ何のために。運搬とか?それこそ悪趣味だよねぇ。」
レイ 「……。」
バルド「……まじで?」
フィン「さあな。誰かさんが平らげてしまった以上、追跡はできない。真相は闇の中だ。帰るぞ。」
バルド「ええー!どうしよう……ご、ごめんねレイチェルちゃん?」
レイ 「ふんっ。」
バルド「ごめん、ごめんってぇ!なんでもするから、お馬さんでもお医者さんでもなんでも」
レイ 「黙らっしゃいこの駄犬!」
バルド「わう~~ん!」
フィン「腹が減ったな。どこか寄るか。」
レイ 「やった!あの監獄ご飯出なかったのよね。もうお腹すいちゃって。」
フィン「……ん。」
レイ 「ん?なによ。それあんたのマフラーじゃない。」
フィン「巻いておけ。DV男に間違われるのは御免だからな。」
レイ 「え、そんなに赤くなってるの?やだ~跡残ったらどうしよう。」

バルド「その時は俺の首と交換する?レイチェルちゃんが俺の一部になって俺がレイチェルちゃんの一部になるなんて夢みたいな痛いっ!」
フィン「馬鹿言ってないで歩け。出国出来なくなる。」
レイ 「さっきなんでもするって言ってたし、今日はバルドの奢りにしよっか~!高いところ行こー!おー!」
フィン「おー。」
バルド「ノー!!!!」

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