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hollow

登場人物:5人(男:1人 女:1人  不問:3人)

・ジャック …不問

・ヴァン  …男性

・ウィッチ …不問

・アン(女) …女性

・猫    …不問

SE:カップにコーヒーを注ぐ音


ジャック「……うん、今日もいい味だ。」
ヴァン 「ジャック、またそんな泥水みたいもん飲んでるのか。飽きないな。」
ジャック「今日のはいつもと少し違うんだ。鬼灯で淹れた珈琲でね。人間の世界では我々のような霊的存在に干渉しやすくなる代物なのだそうだよ。」
ヴァン 「干渉って言ってもご先祖さまをお迎えするとかそういう類のもんだろ?俺たちにゃ関係ない話だ。」
ジャック「まあそう言わずに。君も一杯どうだい?ヴァン。ずいぶん余らせているんだ。」
ヴァン 「いらねーよそんなもん。」
ジャック「そうかい、それは残念。……ああ、人間と言えば。そろそろ訪問する時期だね。君はどこに行くか決めたのかい?」
ヴァン 「ああ、なんとなくはな。でも結局、当日行ってみないとわかんねぇんだよ。死神の連中がどこまで目光らせてるかによるしな。」
ジャック「去年の暴動で一層警備が厳しくなるらしいからね。区域によってはコースまで指定しているところもあるらしい。」
ヴァン 「ガキの修学旅行かよ、ウザってぇ。」
ジャック「決まりが守れないならより厳しくする、理にかなった対応だ。仕方ない。自由の効く中で楽しむのが吉だろうね。」
ヴァン 「ジャック、そういうお前はどこ行くんだよ。またキッサテン巡りか?それともコットウヤか?」
ジャック「それも素敵だけどね。今年は趣向を変えてみようと思うんだ。ちょうどいい、君も参加するかい?」
ヴァン 「なんだよ。スタンプラリーでも企画してんのか?」
ジャック「少し違うな。まあ簡単に言うとスカウトの旅だよ。人間を辞めようとしている人達に声をかけてこの店に……ゴホンッ、こちらの世界に招き入れるのさ。」
ヴァン 「声かけるって、手当たり次第じゃねぇよな。あてはあるのか。」
ジャック「ああ、それなら……」


SE:ドアとベル


ウィッチ「いつも通り閑古鳥が鳴いていると思ったが……どうやら邪魔してしまったようだな。」
ヴァン 「げぇ。」
ジャック「ウィッチ、いい所に。ちょうど例の件について話していたんだ。彼女の黒猫ちゃんが巡回ついでにリストを作ってくれてね。今回はそこを当たってみようと思うんだ。」
ヴァン 「黒猫って、死神連中の管轄じゃねぇか。お前とうとうあっち側に……!」
ウィッチ「アレと一緒にするな。ノワールはただのバイト……もとい潜入調査要員だ。」
ヴァン 「……ケッ。」
ジャック「そういうことで、案内は頼むよ。ところで今日はどうしたんだい?」
ウィッチ「巡回途中で寄っただけだ。ダージリン一杯。チケットで頼む。」
ヴァン 「お前らよくそんなもん飲めるな。」
ウィッチ「……?美味いだろう。」
ジャック「ヴァンにはこの良さがわからないようでね。疑似血液以外は受け付けないらしい。」
ウィッチ「酔狂な奴だな。」
ヴァン 「は?良さがわかってねぇのはお前らの方だろ。PBシリーズ1回飲んでみろ。めちゃくちゃ美味いぞ。最近は新商品も出てパッケージもだんだんスタイリッシュになってきてるから若い連中にも人気が」
ウィッチ「黙れ紅茶が不味くなる。」
ヴァン 「あ?なんだとてめぇ!」
ジャック「うちで暴れないでくれ!」


BGM:ハロウィンぽいやつ


ウィッチ「賑わっているな。」
ジャック「こう見ると、どれが人間でどれがこっち側の存在かわからないな。年々クオリティが上がっているし、一体何を目指してこうも発展したのだろうね。」
ヴァン 「馬鹿な奴らが頭空っぽにして騒ぎたいってだけだろ。お、あの娘可愛い……ちっ、人間かよ。」
ウィッチ「……本当に、どっちがどっちかわかったものじゃないな。」
ジャック「もういい時間だ。始めよう。それぞれ"痕跡"は持ったかい?」
ヴァン 「こんな紙切れでたどり着けるのかよ。」
ジャック「道案内は黒猫ちゃんがしてくれる。我々は着いていくだけだ。そうだね?ウィッチ。」
ウィッチ「ああ。その紙には適合者の情報が術式によって綴られている。これを元に、この子達が魔力源を探し出してくれるはずだ。ちなみにジャックの案内をするのがシュバルツ、ヴァンの案内が」
ヴァン 「名前なんざどうでもいい。猫は猫だ。行くぞチビ助。」
猫   「んなー。」
ウィッチ「まったく勝手な。」
ジャック「悪気はないんだ。許してやってくれ。」
ウィッチ「構わない。僕達も行こう、ノワール。ではジャック、また後で。」
ジャック「ああ、気をつけて。……さて、私達も行こうか。黒猫ちゃん……あれ、どこに……?」


BGM:遠くにハロウィンぽいやつ


ヴァン 「……なんかさっきから背中がもぞもぞするんだが。これもお前の主人の仕業か?」
猫   「んなー。」
ヴァン 「いや、わかんねぇよ。っだああああもう焦れったい!おら!俺から離れろもぞもぞ!気持ち悪いんだよ!おらぁ!」
猫   「んなー!」
ヴァン 「……あ、猫?なんで2匹も……お前くそウィッチの飼い猫か。ほら、帰れ。案内は1匹いればいいんだよ。」
猫   「んなー。」
ヴァン 「なんだよその目は。連れていけってか?嫌に決まってんだろ。歩くのがダルいならここからあいつのところまで投げてやるから方向を」
猫   「んなぁ……。」
ヴァン 「な、なんだよ。」
猫   「んなぁ……。」
ヴァン 「……ちっ。勝手にしやがれ。」
猫   「んなぁ!」
ヴァン 「おま、擦り寄るな!毛がつくだろ!おいこらやめ」
女   「あの。」
ヴァン 「……あ?」
女   「そこ、どいて貰えますか。」
ヴァン 「は?なんでだよ。」
女   「なんでって、それは」
ヴァン 「お前人間か。こんな所に何の用だ?こんな何もねぇ屋上に。」
女   「そこの」
猫   「んなー。」
ヴァン 「……あ?こいつがそうなのか。なんだよ意外と楽勝じゃねぇか。」
女   「?何の話ですか。私はそこの扉の先に行きたいんです。どいてください。」
ヴァン 「なあ、お前。人間やめてみねぇか?」
女   「?!」
ヴァン 「まあやめたからって得するかはわかんねーけど。」
女   「……あなたもしかして死神なんですか?」
ヴァン 「あぁ?あんな連中と一緒にするんじゃねぇよ。俺は吸血鬼、ヴァン様だ。」
女   「へえ、あなたコスプレイヤーにしては面白いこと言いますね。」
ヴァン 「おいこら、俺をその辺の人間風情と一緒にするんじゃねぇよ。俺は高貴な」
女   「ねえ、吸血鬼さん。あなたが本当に吸血鬼ならできるでしょう?私の血を吸ってください。そして、私を人間から解放してください。眷属って言うんでしたっけ?まあなんでもいいですけど。もうね、疲れちゃったんですよ。」
ヴァン 「お前、俺をおちょくってんのか?血を吸ったところで眷属なんかにゃならねぇよ。常識だろ。それとも人間渾身のジョークか何かか?」
女   「できないんですか?あははは!そうですよね。所詮はコスプレイヤー。ただの人間にそんな力あるわけないですもんね!」
ヴァン 「……あ?」
女   「ねえ、どいてくださいよ。もういいです。最後に愉快なものが見られましたし、終わりにします。」
ヴァン 「勝手に話まとめてんじゃねぇよ。人間やめてぇんだろ?だったら」
女   「どけって言ってるんですよ!!!!わからない人だなぁ!!!!私はね、今から死ぬんです。なんの希望もない、救済すらも与えられないこの世界からさよならするんです!神とか天国なんてものは信じてませんけどね、死ねば人間ではなくなれるんですよ。そのために私は」
ヴァン 「ぺちゃくちゃとうるせえ口だなぁ!!!!ああ?そんなに死にたいなら死ねよ。死ねば人間じゃなくなるんだもんなぁ?楽だもんなぁ人間にすらなれなかった落ちぶれがよ!!!!……俺はな、てめぇみたいな何者にもなろうとしないクズみてぇな奴、大っ嫌いなんだよ。もう二度とツラ見せんじゃねぇ。行くぞチビ。」
女   「……何者にもなろうとしないクズ、か。はは、あっははははははは!!!!勝手なこと言ってんじゃないわよ。私だって必死に生きてきたの。親には殴られ、学校では虐められ、それでも必死に勉強していい企業に入って。就職してからもパワハラ、セクハラ、責任のなすり付け、いびり……嫌なことだらけだった。それでも生きて生きて生きて、生きるために働いてきたの!!!!……それでも、何者にもなれなかった。私は私でしかなかった!!!!」
ヴァン 「……。」
女   「……私ね、一度だけ身篭ったことがあるの。密かに思いを寄せていた人に呼び出されて。遊びだってわかってた。それでも、嬉しくて。こんな私でも、たとえ誰でもよかったのだとしても、求めてもらえることが嬉しかった。妊娠が発覚して、距離を置かれて。それでも、この子は絶対に育てようと思ったの。母親になれば、何か変われる気がして……ううん。もうその時点できっと変わってた。この子が愛おしくて仕方なくて。私の人生は、この子のためにあるんだって思った。……でもね、産めなかったの。産休を取る直前、会社の帰りにね、襲われちゃって。お腹を蹴られて、殴られて。最後にはよく分からない液体を無理やり飲まされた。顔はよく見えなかったけど、きっとあれは……私はその時、神様なんていないんだって確信したわ。だって、酷すぎるじゃない。そんなの、許せるわけないじゃない。」
ヴァン 「……それでも被害届を出さなかったんだな。」
女   「ははは、何よあなた。本当に死神みたいこと言って。全部知ってるの?」
ヴァン 「吸血鬼だって言っただろうが。吸い殺すぞ。」
女   「それもいいかもしれないわね。きっと幸せだわ。」
ヴァン 「……お前が望むなら、人間以外の何かにしてやることもできる。くそウィッチ曰く、素質があるらしいからな。ただ、何になりたいかは自分で選べ。」
女   「あなた、優しいのね。」
ヴァン 「閑古鳥をシメる手伝いをしてるだけだ。」
女   「……?そう。ねえ、あなたの世界にはどんなものがいるの?吸血鬼って遺伝?」
ヴァン 「うるせぇな知りたきゃてめぇで調べろ。」
女   「調べたって、人間界には正しい情報なんて出回ってないの。人間やめるって言っても、何になれるかわからなければ選びようがないじゃない。」
ヴァン 「何になるかを決めるのはてめぇだ。縛りも、何も無い。虫けらが良ければそうしてやる。俺は短気なんだよ早くしやがれ。」
女   「……じゃあ、不死(アンデッド)。」
ヴァン 「数分前まで死にたいって言ってた人間とは思えないチョイスだな。」
女   「自分への戒めにはちょうどいいかなって。これでもう、逃げられない。」
ヴァン 「はっ、悪くねぇな。いい見物になりそうだ。掴まれ。その望み、叶えてやるよ。」
女   「!ちょ、急に担いで、あああ!」
ヴァン 「っはは!落ちるんじゃねぇぞ!不死になる前に死んだら笑えねぇからな!」
女   「も、もう笑ってるじゃない!」
ヴァン 「細かいことはいいんだよ!」


SE:飛び去る音
BGM:遠のく


ジャック「一人でも収穫があってよかったよ。私は結局迷子になったけれどね。君が戻ってこなかったらどうしようかと思った。」
ヴァン 「……。」
ジャック「どうしたんだい?そわそわして。」
ヴァン 「気のせいだ。放っとけ。」
ジャック「彼女がどうなったか気になるのかい?」
ヴァン 「気のせいだって言ってんだろ。しつこいぞ。」
ジャック「すまない。でも、ウィッチの腕は確かだからね。心配はいらないよ。」
ヴァン 「……そうかよ。」


SE:ドアとベル


ウィッチ「閑古鳥は……今日も鳴かず、か。そろそろクビにできるな。」
ジャック「お陰様でね。おや、その娘は。」
アン  「その節はどうも。すっかりこの体ですよ。」
ジャック「上手くいったようだね。おめでとう。ほら、ヴァン。君も。」
ヴァン 「あ?……ああ、血色悪くなったな。」
ウィッチ「失礼な奴だな君は。」
ジャック「素直じゃないだけだよ。記念に何か振舞おう。ああ、そうだ。鬼灯があるんだ。ぜひ君も」
ヴァン 「それは俺が飲む。……から、そいつにはココアでも出してやれ。」
アン  「……え、あ、別に私は」
ヴァン 「いいから普通の飲んどけ!」
アン  「あはは、ありがと。」
ジャック「……なんだ君たち、そういう仲になったのかい?」
ヴァン 「そういう仲ってなんだよ。何もねぇよ!」
ウィッチ「案外相性いいかもしれないな。血を吸っても死なないし。」
ヴァン 「吸わねぇよ!俺はPBシリーズの中でも特にこだわってPB-10wと」
ウィッチ「アン、ここはサンドイッチが美味いぞ。」
ヴァン 「聞きやがれ!」
アン  「じゃあオススメのサンドイッチと、アイスココアで。」
ウィッチ「ダージリン。チケットで。」
ジャック「ああ、ご注文承ったよ。これはおまけのパンプキンパイ、みんなでつまんで待っていてくれ。ヴァンは鬼灯珈琲でいいのかい?」
ヴァン 「……いつもの。」
ジャック「ふふ、了解。それでは少々お待ち下さい、お客様方。提供まで暫しご歓談を。」

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