悪いバイト
登場人物:3人(男:2人 女:1人 不問:0人)
・山田 …男
・石垣 …男
・桜/ピンクブロッサム …女
桜 「あ、山田君。今日もバイトなの?頑張ってね?」
山田 「あっ、ありがとう、桜さんもバイト?忙しそうだね?」
桜 「最近シフトが多くなっちゃってねぇ。」
山田 「あ~僕もなんだよね。最近人がいっぱいやめちゃってさぁ。」
桜 「お互い大変だけどがんばろうね?」
山田 「うん、桜さんも頑張って。」
山田 「(桜さんも頑張ってるんだ。僕もバイト頑張ろうっと)」
山田 「って思ってたんだけどなぁ。」
石垣 「どうした山田。そんな顔して」
山田 「いやだって……バイトが悪の組織の戦闘員だったら誰でもこんな顔になりますよ……はぁ……」
石垣 「はっはっは!小さいことを気にするなぁ山田は。」
山田 「だって悪の戦闘員ですよ、悪の。」
石垣 「いいじゃねぇか。別に法に触れてるわけでもねぇ立派な仕事だろ?」
山田 「そりゃそうなんですけど、イメージ悪いじゃないですか。悪の組織って。」
石垣 「秘密結社、とかだったらカッコいいんだけどなぁ。」
山田 「いやそうじゃなくて…しかも下っ端の戦闘員なんてやられ役じゃないですか。」
石垣 「改造手術受けて怪人になるか?給料もあがるぞ?」
山田 「まだ人間やめる気ないので。」
石垣 「じゃあ文句言わず頑張るんだな。」
山田 「うっす。」
山田 「(おかしいとは思ったんだよなぁ。このご時世に高収入短時間のバイトなんて)」
山田 「最近みんなやめちゃいますねぇ、戦闘員。」
石垣 「まぁな。最近ヒーロー側も余裕なくなってるのかマジできやがるからな。皆ビビっちまってるんだ。」
山田 「最近きついっすよね。この前B班の斎藤さんが大けがしたって聞きました。」
石垣 「ありゃあやばかった。周りに戦闘員居るのにいきなり必殺技ぶっぱしてきた奴らがいてなぁ。いくら敵同士とはいえ最低限のルールぐらいは守ってほしいもんだわ。」
山田 「うっわぁ。今日もう帰ってもいいっすかね?」
石垣 「駄目にきまってんだろ、ほらついたぞ。」
山田 「はぁ…大丈夫ですかねぇ?」
石垣 「いざとなったら俺が庇ってやるから安心しな。」
山田 「石垣さん…ありがとうございます。」
石垣 「いいってことよ。ほら、いくぞ山田。」
山田 「今は戦闘員Yっすよ。」
山田 「(いつもと同じように適当に街の中で悪さして、ヒーローに邪魔されて、追いかけられて、怪人にバトンタッチして…それで家に帰れるってそう思っていたんだ。でも、その日は違った)」
SE:爆発音
石垣 「山田っ!危ねぇ!」
山田 「石垣さんっ!」
石垣 「クッソ。あいつら手加減もなしにこっち殴ってきやがる。強化スーツが無かったら死んでるぞ。」
山田 「すみません、ほんとに庇ってもらっちゃって…俺…びびっちゃって…」
石垣 「いいから。とっとと逃げるぞ。これ以上ここにいたらやべぇ。」
山田 「うっす。立てますか?」
石垣 「すまねぇな。」
山田 「いいんすよ、これぐらい。」
ピンク「待て!悪党ども!」
山田 「ひっ!ピンクブロッサム…」
石垣 「五人組ヒーローの紅一点様のお出ましってわけか…」
ピンク「逃がさないわよ!ここで逃がしたらまた面倒なことになる。」
山田 「こっちはけが人だってのに手加減なしかよ!ふざけんな!」
石垣 「山田!避けろ!」
ピンク「はぁっ!」
石垣 「ぐわっ!」
山田 「石垣さん!?クッソォ!」
ピンク「なっ!?」
山田 「戦闘員だからって舐めるなぁ!」
ピンク「キャッ!」
山田 「はぁ…はぁ…どうだ…戦闘員だってやればで…き…る…」
山田 「さく、らさん…?」
ピンク「な、なんで私の名前を…?」
山田 「僕だよ、山田…」
ピンク「嘘でしょ?山田君?あなたのバイトってもしかして…」
山田 「そうだよ…僕のバイトは悪の戦闘員。ヒーローである桜さんの…敵さ。」
ピンク「そんな…なんでこんなひどいバイトを…」
山田 「そっちこそ、よくもまぁこんなひどいことができるね?」
ピンク「何を言ってるの?」
山田 「今君が倒した石垣さんはね…良い人だったよ。石垣さんだけじゃない。今日君らに倒されていった人たち皆…良い人だった。」
ピンク「悪の戦闘員が良い人?そんなわけないじゃない。」
山田 「君に!」
ピンク「っ!」
山田 「君に彼らの何がわかるっていうんだ…石垣さんは良い人だった。ビビってばっかりの僕をいつもかばってくれた。斎藤さんは良く僕にジュースをおごってくれた。新堂さんは人を傷つけないようにいつも気を遣ってた。」
山田 「なのに!君らヒーローは、僕たちが悪の戦闘員って言うだけでそんなにもむちゃくち
ゃに暴力を振るうんだね…」
ピンク「だって…私は…」
山田 「いいよ。君たち正義の味方がそうだというんだったら…」
ピンク「山田君…?」
山田 「僕は一生悪のまま生きていく。」
山田 「(僕はこの時から、悪の組織としての矜持を持って、悪として戦うと決めたんだ)」
ピンク「山田君!いい加減にそんなことはやめて!」
山田 「もう僕は山田じゃないんだよ、ピンクブロッサム。」
ピンク「あなた…その体…」
山田 「僕は『怪人・蛇男』だ。」
ピンク「っ…もう、人間を辞めてしまったのね…」
山田 「そうさ!僕はこの力で!必ず悪を貫き正義を討つ!」
山田 「それが、あの日死んでいった仲間たちへのせめてもの手向けだ。」
山田 「僕を止めて見ろ。正義のヒーロー。」