
鬼退治する侍の話
登場人物:3人 (男:1女:1人 不問:1)
・三倉 :女性
・佐助 :不問
・四郎 :男性
三倉「いやぁのどかなものだねぇ、この辺は。」
佐助「周辺の国は同盟を結んでいる関係上、大きな戦も起きていないので。」
三倉「なるほど、仲良しなんだねぇ。」
佐助「納めている犬塚殿は聡明で、民のことを第一に考えられている人物だそうです。」
三倉「以前お会いしたことあるよ、剣の腕も相当な人だったね。」
佐助「ええ、良く覚えておいでで。」
三倉「あの人が納めてるんなら納得だ。」
佐助「そろそろ関所が見える頃です、手形はなくしていませんか?」
三倉「過保護だねぇ佐助は、大丈夫だよ。」
佐助「前回無くされた時は丸二日探し回る羽目になりましたが。」
三倉「ごめんごめん、ほらもう無くさないように紐でしっかり固定してるでしょ。」
佐助「はぁ……三倉様。」
三倉「うん、鬼の気配だ、急ごう。」
SE:走りだす音
四郎「クソ!てめぇら!こっから先には一歩も進ませねぇぞ!」
SE:剣戟の音
四郎「数ばっかり揃えやがって!」
SE:剣を弾く音
三倉「後ろがお留守だよ。」
四郎「な、なんだてめぇは。」
三倉「通りすがりの旅人だよ、助太刀いたす、なんちゃって。」
四郎「とっとと逃げろ!こいつらは」
三倉「鬼、でしょ。だいじょーぶだいじょーぶ。慣れてるから。」
SE:切り裂く音
四郎「なんなんだ、コイツ…強ぇ…」
三倉「もう疲れたかい?」
四郎「馬鹿にすんな!オイラはまだまだやれらい!」
三倉「そう、じゃあとっとと片づけようか。」
SE:激しい剣戟の音
四郎「はぁ…はぁ…はぁ…」
三倉「お疲れ様、いい腕だったよ、えーと」
四郎「……オイラは四郎…アンタは?」
三倉「僕は佐倉、さっきも言ったけど旅の者だよ。」
四郎「助かった、正直あの数相手はオイラでもしんどかった。」
三倉「それは良かった…けどなんで君みたいな子供が一人で?関所のお侍さんは?」
四郎「大将がやられて皆逃げちまった。」
三倉「子供一人を置いて?」
四郎「違う!オイラが一番強いから、皆を逃がすために残ったんだ!」
三倉「そう、良く頑張ったね四郎。」
四郎「別に褒められたくてやってるわけじゃねーよ。」
三倉「じゃあ四郎はなんの為に頑張ったんだい?」
四郎「……オヤジへの恩返しだ。」
三倉「お父さん?」
四郎「ここの大将やってたんだ、もう死んじまったけど。」
三倉「お父さんの名前は?」
四郎「犬塚、犬塚政義。」
三倉「犬塚殿、ご自身で先陣を切って戦死なされたのか。」
四郎「アンタオヤジのこと知ってんのか?」
三倉「昔むかーしね、遠くから見たことがあるくらいだよ。」
四郎「そっか。」
三倉「ご立派な御父上だね、犬塚殿は。」
四郎「オヤジは皆を守るために死んだんだ、だからオイラも皆を守らなきゃ。」
三倉「そうか……そうだね…佐助。」
佐助「ここに。」
四郎「うわぁっ!急に出てきた。」
三倉「城内の様子を見てきて。」
佐助「御意。」
四郎「消えた…アイツは?」
三倉「忍者だよ忍者、すっごい頼りになるんだ。」
四郎「初めて見た、ホントにいるんだな忍者って。」
三倉「頼りになるよ佐助は。実はさっきもずっと僕たちの後ろを守ってくれてたんだから。」
四郎「ぜ、全然気づかなかった…」
四郎「なぁ、なんでアンタあんなに強いんだ?」
三倉「僕?うーん小さい頃からいっぱい鍛えたからかな。」
四郎「オイラもアンタみたいに強くなれるか?」
三倉「強くなりたいのかい、四郎は。」
四郎「さっきも言ったけどオイラは恩返しがしたいんだ。だからもっと強くならないと。」
三倉「どうして御父上に恩返しを?」
四郎「オイラはオヤジに拾われたんだ。」
三倉「なるほど。」
四郎「身寄りのなかったオイラを拾って、育ててくれて、剣も教えてくれた。そんなオヤジ
に、オイラは何も返せてねぇんだ。」
三倉「いい御父上だったんだね。」
四郎「そうだ!だからオイラはオヤジの代わりに皆を守らなくちゃならねぇ!」
三倉「だから強くなりたいって?」
四郎「ああ、頼むよ、アンタすげぇ強ぇじゃん。」
三倉「駄目だね。」
四郎「なんでっ!」
三倉「自分の生きる意味を他人に委ねちゃいけない。」
四郎「意味がわかんねぇ!」
三倉「まぁもうしばらくは僕がここにいて一緒に闘ってあげるからさ、少しは考えてみると
いい。」
四郎「なにを?」
三倉「君自身の生きる意味をさ。」
三倉「で、どうだった?」
佐助「犬塚殿が戦死されたのは一週間ほど前でした。」
三倉「その間ずっと一人で闘ってたのか、四郎は。」
佐助「ええ、その間に都へ人をやり代わりの城主を呼んでいるそうです。」
三倉「関所はほったらかしかい?」
佐助「あの小僧、場内ではあまり評判が良くなく」
三倉「拾われた子だから?」
佐助「ええ、むしろ戦死してくれた方が助かるとほざく始末です。」
三倉「一体誰のおかげで自分たちが生きているのか、なにもわかっちゃいないんだね。」
佐助「あの量の鬼がなだれ込めば城下どころか城まで落ちるでしょうね。」
三倉「ちょっと多すぎだよね?」
佐助「地理的に、南と東から流れてきているのでしょう、ここが丁度ぶつかる地点なので。」
三倉「今までよく持ちこたえてたよ、犬塚殿は。」
佐助「しかしその犬塚殿ももうおりませぬ故、これ以上はもたぬでしょう。」
三倉「大本を叩けばちりじりになってくんだけどね。」
佐助「お館様。」
三倉「その呼び方やめてってば、今は只の旅の侍だよ。」
佐助「失礼。三倉様、またよからぬことを考えておいでで?」
三倉「またってなにさまたって。」
佐助「ご自身の使命をお忘れなきよう。」
三倉「わかってるって。」
三倉「今日も沢山鬼が来たねぇ。」
四郎「はぁっ…はぁっ…なん、でアンタはそんなに余裕なんだよ。」
三倉「最初に言ったでしょ、慣れてるんだよ僕は。」
四郎「鬼を斬るのをか?」
三倉「そ。」
四郎「教えてくれよ、オイラにも。」
三倉「やーだね。」
四郎「ケチ。」
三倉「今の四郎に教えても無駄だからね。」
四郎「なんだよそれ。」
三倉「君自身の生きる意味、わかった?」
四郎「……わかんねぇ。」
三倉「じゃぁ駄目。」
SE:歩き去る音
四郎「なんなんだよ!ちくしょう!」
佐助「荒れているな、小僧。」
四郎「うわぁ!って忍者の…佐助だっけ?」
佐助「左様。」
四郎「急に出てくるからびっくりしたじゃねぇか。」
佐助「鍛錬が足らぬ故。」
四郎「アンタでもいいや、俺を鍛えてくれねぇか?」
佐助「それは無理だ。」
四郎「なんで?」
佐助「拙者は忍の鍛え方しか知らぬ。小僧は忍になりたいのか?」
四郎「いや、オイラはオヤジみてぇな剣士になりてぇんだ。」
佐助「ではやはり無理だ。」
四郎「なんだよ、どいつもこいつもさ。」
佐助「……一つ、昔話をしよう。」
四郎「急になんだよ。」
佐助「まぁ聞け。」
四郎「……」
佐助「その昔、後継ぎに恵まれぬ城主がいたそうだ。なかなか男児の生まれぬその城主は
唯一生まれておった女児を男子として育てた。」
四郎「なんだそりゃ。」
佐助「男子として育てられたその子は父の期待に応えようと、自分を捨て後継ぎとなるべく
己を鍛え続けた。」
四郎「なんかオイラと似てんな、ソイツ。」
佐助「だが、その城主についに待望の男児が生まれた。」
四郎「え。」
佐助「今更最初の子が女子であったとは言えぬ。だが家は男児に継がせたい、その城主は
どうしたと思う?」
四郎「…わかんねぇ。」
佐助「最初の子を拾われた子としたのよ。なので後に生まれた子こそが正当な後継ぎである
と。」
四郎「なんだそりゃ!最初の子がかわいそうじゃねぇか!」
佐助「父の為にと己を捨て続けたその子は、急に全てを失った。」
四郎「あんまりじゃねぇか、そんなの…」
佐助「小僧、今ならわかるんじゃないのか。」
四郎「なにをだよ。」
佐助「三倉様が貴様に言ったことの意味だ。」
四郎「……まさか、今の話」
佐助「拙者は只の昔話を語ったまでだ。」
四郎「……」
佐助「貴様、自分の城内での評判を知っているな?」
四郎「なんでアンタが」
佐助「だから先程の話にあれほど怒った。自身と重ね合わせてしまったから。」
四郎「オイラは、」
佐助「三倉様の言葉、もう一度よく考えてみることだ。」
四郎「おいっ…ってもういねぇ。」
SE:剣戟の音
三倉「どうした四郎?今日は剣の腕が鈍いね。」
四郎「うるせぇよ。」
三倉「何に怒っているのか知らないけど、そのままじゃ君、死ぬよ?」
四郎「アンタのせいだろ!」
三倉「僕?何かしたっけ?」
四郎「アンタの言ってること全っ然わっかんねぇよ!」
三倉「ははははは。」
四郎「なに笑ってやがる!」
三倉「いやいや、四郎は素直でいいね。」
四郎「でもな、いっこわかったことがある。」
三倉「なんだい?」
四郎「オイラは別に皆を守りたかったわけじゃねぇってことだ。」
三倉「へぇ。」
四郎「オヤジが口癖みてぇに言ってたから真似してただけなんだよ。」
三倉「じゃあ今は何のために闘ってるんだい?」
四郎「親父を殺したこいつらが憎い、絶対ぇ許さねぇ!」
三倉「いいね、四郎。」
四郎「なにがだよ!」
三倉「その怒りの気持ちは君だけのものだ、他の誰でもない君自身のね。」
四郎「それがどうしったって言うんだ。」
三倉「今の君なら強くなれるってことだよ。」
四郎「それって」
三倉「君が僕の家来になるんなら、剣を教えよう。」
四郎「オヤジの城を、皆を見捨てろって?」
三倉「すぐに代わりの城主が来る、そうなったら君はお払い箱さ。」
四郎「わかってんだよそんなこたぁ!」
三倉「だからさ、僕と一緒に行こうじゃないか。」
四郎「……アンタ、なんのために旅してるんだ?」
三倉「あれ?言ってなかったっけ?」
四郎「そんなんで一緒に来いって言ってんのかよ!」
三倉「僕たちの旅はね」
三倉「鬼退治の旅さ。」
三倉「と、いうわけで新しい仲間の四郎だ。」
四郎「よろしくな。」
佐助「まずは言葉遣いからだな、小僧。」
四郎「なんだよ、同じ家来だろ。」
佐助「年も歴も拙者の方が上だ、敬え。」
三倉「まぁまぁ、もう知ってると思うけどこっちが佐助、苗字は…猿飛だっけ?」
佐助「猿飛佐助、三倉様の一の家来だ。」
四郎「一を強調しやがって。」
三倉「四郎にも苗字があったほうがいいね。」
四郎「いらねぇよ、そんなの。」
三倉「君は今日から犬塚を名乗り給え。」
四郎「っ…そりゃあ」
三倉「君の気持を忘れないためにも、ね。」
四郎「……わかったよ、オイラは今日から犬塚四郎だ。」
三倉「うん、いい名前だ。」
四郎「そういやまだアンタの名前聴いてなかったな。」
三倉「あれ、そうだっけ?」
四郎「そうだよ。」
三倉「僕の名前はね、桃太郎。三倉桃太郎だよ。」
