
この先の僕らは 4話
登場人物:4人 (男:2女:1人 不問:1)
・律 :不問
・宗明 :男性
・透夏 :男性
・冬希 :女性
SE:ドア開ける音
律 「生徒会長就任おめでとう!」
透夏「律、随分気が早いね。」
律 「なんだか自分の事のように嬉しくてさ。つい。」
透夏「そんなに喜んでもらえるとは。役職に恥じない働きができるよう頑張るよ。」
律 「任期は来月からなんだっけ。また忙しくなるね。」
透夏「ああ。だからその前に、ケリをつけようと思っているんだ。色々と、ね。」
律 「(そっか、透夏の中で決心がついたんだ。)」
律 「応援してるよ。何かできることがあったら遠慮なく言って。」
透夏「本当?助かるよ。じゃあまずは…この山のような備品たちの検品と、発注データの照合から始めようか。」
律 「え、そっちの話!?」
透夏「そっち?」
律 「あ、ううんなんでもない。体育祭近いもんね。」
透夏「そうなんだよ。期間がないからどうしようかと思ってね、途方に暮れていたんだ。」
律 「あはは、改めて見るとすごい量…それじゃ、さっと片付けて帰ろうか。よし、やるぞ!」
SE:玄関ドア閉じる音
透夏「ただいま。」
透夏「(なんとか終わってよかった。あとで律にお礼をしよう。)」
(律「応援してるよ。何かできることがあったら遠慮なく言って。」)
透夏「(…俺のことを気遣ってくれている。いい加減向き合わないと。)」
冬希「お兄ちゃん、おかえり。」
透夏「冬希、ただいま。母さんたちは。」
冬希「ご飯食べに行ったよ。今日、結婚記念日だから。」
透夏「あ…そうか。もうそんな時期なんだね。」
冬希「毎年ちゃんとお祝いしてて、なんかいいなぁ。わたしもいつかそうなりたいよ。」
透夏「……冬希なら、なれるよ。」
冬希「そうかな?ふふ。そうだといいなぁ…あ、ごめんねずっと立ち話してて。ご飯できてるから一緒に食べよう?」
透夏「ああ、荷物置いたらすぐ行くよ。…冬希。」
冬希「なぁに?」
透夏「夕飯の前に、話したいことがあるんだ。」
冬希「話したいことって、なぁに?」
透夏「……ごめん。俺は、冬希を利用してた。」
冬希「…何の話?」
透夏「冬希の恋を応援したのは、自分のためなんだ。ただ純粋に、お前の幸せを祈って背中を押していたわけじゃない。」
冬希「…。」
透夏「俺も、ずっと一緒に居たかったんだ。宗のことが、好きだから。」
冬希「お兄ちゃん…。」
透夏「俺は家族になりたかった。でも、無理なんだ。俺は男で、友人で。こんな気持ち、宗が知ったらきっと」
冬希「もういいよ。お兄ちゃん。…わかったから、それ以上はもう、いいんだよ。」
透夏「…ごめん。」
冬希「謝らないで。お兄ちゃんは悪い事なんてしてないでしょ?それに…お兄ちゃんが謝ったら、わたしも謝らなくちゃいけなくなるもん。」
透夏「…え?」
冬希「わたし、知ってたよ。お兄ちゃんがしゅーちゃんのこと好きなんだって、ずっと前から知ってた。」
透夏「……。」
冬希「酷いやつかな。でも、後悔はしてないし、するつもりもないよ。わたしはわたしの掴んだ幸せに、申し訳ないなんて思いたくないの。だから普通に話すし、変に気を遣ったりしない。わたしはこれからも、しゅーちゃんの隣で幸せになるよ。」
透夏「(…ああ、そうか。俺は勘違いをしていた。男だからとか、友人だからとか関係ない。最初から冬希の足元にも及んでいなかったんだ。)」
透夏「…冬希のそういうところに、惹かれたんだよ。きっと。俺にはない、冬希の長所だ。」
透夏「(そう、敵わない。こんな俺じゃ、到底…)」
冬希「ありがとう。でもね、いいところって、裏を返すと悪いところでもあるんだよ。その見方とか捉え方によって、人を好きになったり、嫌いになったりするんだと思う。だからお兄ちゃんは、自分のことを否定しちゃだめだよ。」
透夏「!」
冬希「お兄ちゃんがしゅーちゃんを想う気持ちは、お兄ちゃんだけのものなんだから。大事にしてあげなきゃ可哀想だよ。それをしゅーちゃんに伝えるのも、胸にしまっておくのも、お兄ちゃんの自由。だからお兄ちゃんも、わたしに”申し訳ない”とか、思わないでね。」
透夏「…俺の、自由?」
冬希「そうだよ。だって、好きになっちゃたんだもん。好きなのに遠慮しなきゃとか、諦めなきゃいけないとか…そんなの苦しいでしょ?わたしだったら嫌だよ。」
透夏「盗られたらとか、考えないの。」
冬希「うん。だってわたし、しゅーちゃんのこと大好きだもん。しゅーちゃんが大事にしてくれてるわたしも、しゅーちゃんも大好き。だから不安にはならないよ。」
透夏「……っははは。あははは!敵わないな。」
冬希「えへへ。そうでしょ?…やっぱりお兄ちゃんは、笑顔が似合うね。」
透夏「え?」
冬希「んーん。なんでもない。お腹すいたし、ご飯にしよ?今日はサバの味噌煮だよぉ…ほら見て。」
透夏「ああ。美味しそうだね。」
冬希「お母さんが作る味噌煮、大好きだもんねぇ。あ、そうだぁ。冷蔵庫におひたしも…」
BGM:がやがや
宗明「あー…十月だってのに、クソあちー……。」
律 「最高気温32℃だって。まだまだ夏だね。」
宗明「あ?律?ここD組のテントだぞ。」
律 「うちのクラス、ガチ勢多くてさ。なんというかこう…熱気が凄いんだよね。」
宗明「あー、運動部のエースが揃ってんのか。だりーな。」
律 「宗明の出番いつ?」
宗明「午後のリレー。お前は?」
律 「騎馬戦。さっき終わったよ。」
宗明「わりぃ、見てなかった。」
律 「だろうね。みんなの圧が怖かったよ。殺られる前に殺れーって。でも上を取られたらひとたまりもないからさ、できるだけ逃げ続けてって言ったんだけど…みんな好戦的なんだよね。」
宗明「はっ。めんどくせー。てめーらの勝手にエンジョイ勢巻き込むなっての……あ?」
律 「ん?どうしたの?」
宗明「そこ、血ぃ出てんぞ。」
律 「腕?…あ、ほんとだ。競技中に爪が当たったのかも。ちょっと救護室行ってくるね。」
宗明「おう。」
律 「すみません。腕切っちゃったんですけど…」
冬希「あ、りっちゃんいらっしゃ~い。」
律 「冬希。どうしたの、怪我?」
冬希「違うよぉ、保健委員。自分の出番以外はここで救護のお手伝いしてるの。涼しいし、麦茶もあって最高だよぉ。」
律 「そ、そうなんだ。」
冬希「ここに腕乗せてね。…ちょっとしみるよぉ。泣かないでねぇ。」
律 「ちょっと、僕を何だと思ってるのさ。」
冬希「はぁい、よく我慢できました~。絆創膏どっちがいーい?」
律 「からかってるでしょ!普通のでいいよ!」
冬希「ふふふ。りっちゃん面白いねぇ。」
律 「もう…。」
冬希「はい、お疲れさまぁ。りっちゃんもおせんべい、食べる?」
律 「…食べる。ありがとう。」
SE:昼のサイレン
BGM:遠のく
透夏「いい場所を取ったね。」
冬希「ここ風が気持ちいいんだよ~。」
律 「全員揃ったし、食べようか。いただきます。」
冬希「いただきま~す。運動した後ってお腹すくよねぇ。」
宗明「まだ何もしてねぇだろ。」
冬希「救護室でお手伝いしてたよ~?ね、りっちゃん。」
律 「うん。手当てしてくれたんだ。ほら。」
宗明「むぐ…ほーはお。」
透夏「それより…食べすぎるなよ、宗。ぎりぎりまでバトンパスの練習するんだから。」
宗明「食わないと力出ねーだろ。それに、こんなのメシのうちに入らねぇよ。」
透夏「ならいいけどね。」
宗明「……気持ちわりぃ。」
律 「(あーあ。言わんこっちゃない。)」
律 「大丈夫?水とってこようか?」
宗明「いや…いい。お前はテントに戻れよ。」
律 「でも…」
宗明「クラスの奴らにどやされるだろ。サボり判定くらう前に戻って応援しとけ。」
律 「サボりでもいいよ。出番終わったし…」
宗明「……なんかあったのか。」
律 「…騎馬戦、僕のせいで負けちゃったからさ。戻るの気まずくて。」
宗明「は?何言ってんだ。勝手に突っ込んだのはクラスの奴らで…」
律 「僕がもっと好戦的だったら。逃げるばかりじゃなくて、点を取ろうと頑張っていたら…少しは違ったかもしれないでしょ。」
宗明「律……クラスの奴らに何吹き込まれた。」
律 「え?」
宗明「何か言われたんだろ。だからそんなに思いつめて」
律 「言われてないよ。」
宗明「!」
律 「何も…言われてないんだ。ただ僕が、気にしてるだけで。クラスのみんなは、小柄な僕に向いてる種目だからって…僕の長所を活かせるように、気を遣ってくれたんだよ。」
宗明「(律に向いてる?ふざけんな!争いを好まないこいつが、騎馬戦のトップなんてやりたがるわけねぇだろ!)」
宗明「クソッ!」
律 「ちょっと、宗明!どこいくのさ!」
宗明「A組に決まってんだろ。てめぇらのエゴに律を巻き込みやがって。」
透夏「お前のやるべきことは”それ”じゃないだろ、宗。」
宗明「っ!透夏……どけよ。俺はA組の奴らに言わなきゃならねぇことが」
SE:水がかかる音
宗明「!?…な、なにしやがる!」
透夏「バトンパスの練習、忘れたわけじゃないよな。お前が来ないと俺も練習できないんだよ。…少しは頭、冷えた?」
宗明「……。」
律 「ごめん。僕が変な話したから…これ使って。」
宗明「おう。」
透夏「律、大丈夫?」
律 「…うん。僕、テントに戻るね。」
透夏「…。」
宗明「…練習、するんだろ。行こうぜ。」
透夏「体調は?」
宗明「どうってことねーよ。アップは…してる時間ねぇな。急ぐぞ。」
透夏「…ああ。」
BGM:がやがや
冬希「しゅーちゃーん!お兄ちゃーん!がんばれ~!」
透夏「…手ぐらい振ってあげなよ。」
宗明「あ?」
透夏「顔が怖いし、全身力んでる。そんな状態でいい走りができるとは思えないな。」
宗明「んだよ。てめぇは余裕綽々ってか。」
透夏「ああ。少なくとも周りは見えているよ。宗と違ってね。」
宗明「なっ……。」
透夏「なんだ。言い返さないのか。」
宗明「…勝つぞ。お前に文句を言うのはその後だ。」
透夏「ふっ。そうだね。」
宗明「いいか、走り出したら振り向くな。さっきの調子でやれば俺たちは勝てる。最速でバトン回せ!いくぞ!」
律 「…ここ、座ってもいい?」
冬希「りっちゃん。どーぞ。もうすぐリレー始まるよ~。」
律 「うん。楽しみだね。」
冬希「ねー。ふふっ。しゅーちゃん顔こわーい。緊張してるのかなぁ。」
律 「…。」
SE:パァン
冬希「始まった!…わぁ。りっちゃんのクラスの人速いね~。」
律 「運動部のエースばっかりだからね。…差が、ついてきた。」
冬希「でもD組の人、頑張ってついていってるよぉ。わ、バトンタッチで縮んだ!」
律 「全然減速しなかったね。すごい…。」
律 「(A組との差は2mちょっと。もしかしたら宗明の番で…!)」
律 「いける!宗明!」
冬希「しゅーちゃーん!がんばれ~!」
宗明「!」
宗明「(あいつら声でけーんだよ!んなこと言われなくたって…勝つに決まってんだろ!)」
律 「っ!速い!」
冬希「バトンゾーンぎりぎり…しゅーちゃん攻めてるねぇ。」
律 「このスピードなら次のコーナーで…抜いた!」
冬希「すごい!しゅーちゃーん!そのままー!」
律 「いけー!宗明ー!」
宗明「(ここで差をつける!最速であいつに渡せば…)」
SE:足を強く地面につく音
宗明「っ!」
透夏「(!減速した…?)」
律 「宗明!」
宗明「(クソッ!こんな事で…負けるわけにはいかねぇんだよ!!!!)」
宗明「っいけ!透夏ああああああああ!」
SE:バトンパスする音
冬希「しゅーちゃん!」
SE:どさっと倒れる音
宗明「……ん。!っい、てぇ…。」
透夏「っはぁ…はぁ……馬鹿だな。」
宗明「おい、どうなった。」
透夏「当然、勝ったよ。」
宗明「そうか。ならいい。」
透夏「いいわけないだろう。救護室行くぞ。」
宗明「…何怒ってんだよ。」
透夏「呆れてるんだ。お前の無茶な行動に。」
宗明「別に…ゾーンには入ってたし、バトンパスで飛び込んじゃいけねぇってルールはないだろ。あのまま走るより速かったんだよ。」
透夏「学校行事じゃなければアウトだ。まったく…。」
宗明「勝てたんだからいいだろうが。」
律 「宗明!大丈夫?」
宗明「おー。勝ったぜ。」
律 「そうじゃなくて!足!」
宗明「あ?大丈夫だろ。挫いただけだし。」
律 「冬希が心配してたよ。丁度集合時間だから付き添えない、ごめんって。」
宗明「あー、そういやあいつの出番次か。」
律 「…無理、してくれたんでしょ。」
宗明「あ?」
律 「僕があんなこと言ったから、きっと気にして…。」
宗明「はぁ?馬鹿かおめーは。」
律 「え?」
宗明「俺もこいつも、勝ちたいから勝ったんだよ。ついでにA組のやつらの悔しそうな面拝んでやったってだけだ。」
律 「宗明……ありがとう。二人ともかっこよかったよ!」
宗明「はっ。いちいち大袈裟なんだよ。」
律 「透夏も疲れてるでしょ。代わるよ。」
透夏「いいよ。こいつ重いから。」
宗明「あ?なんだとてめぇ」
透夏「自分の体格を考えろって話だよ。いいから口じゃなくて足動かせ。」
律 「じゃあ、先生呼んでくるね。先に救護室で休んでて!」
透夏「…ふぅ。こんなものかな。あとは先生が来たら診てもらおう。」
宗明「いてぇ。」
透夏「自業自得だ。我慢しなよ。」
宗明「…ここからだとよく見えねぇな。あいつどこにいるんだ。」
透夏「運営テントの手前。まさか障害物競走に出るとはね。」
宗明「しかもコーラ一気飲みゾーンかよ。食い意地張ってんなあいつ。」
透夏「体張ってるって言いなよ。あ、冬希のチームだ。」
SE:パァン
宗明「あ?手前の網からやんのか。あいつ匍匐前進なんて…っふは!絡まってやがる!」
透夏「すごい顔。あれは文句言ってるね。」
宗明「おー。コツ掴めば速ぇんだよなあいつ…おい!砂払ってる暇あったら走れよ!」
透夏「手についたままだと、ペットボトルが開けられないんだろうね。ほら。」
宗明「おいおい。先頭のやつコーラ半分切ったぞ。勝てるか?」
透夏「大丈夫だよ。冬希は…」
宗明「開いた!行け冬希!一気に片を…早ぇな!!!!」
透夏「ふふっ。」
宗明「ぶっちぎりの1位じゃねーか…なんだあいつ、周りもドン引いてたぞ。」
透夏「言っただろう?大丈夫だって。まあ暫くはこっちに来られないだろうけど。」
宗明「あ?なんで…あいつそんなこと気にするか?」
透夏「するさ。乙女だからね。」
宗明「ほーん…。」
透夏「…本当に冬希のこと好きなんだな。」
宗明「は?なんだよ。」
透夏「いや、兄として誇らしいと思ったんだよ。いい妹と友人を持ったことがね。」
宗明「なんだそれ。つーか今更兄貴面すんなよ気持ち悪い。」
透夏「兄貴面も何も…いつか兄になるんだろう。他にどんな面しろって?」
宗明「べ、別に今のままでいいだろ!俺とあいつがどうなろうが、お前はダチに変わりねぇんだし。」
透夏「…それもそうか。でも、少し妬けるね。」
宗明「何が。」
透夏「宗。お前は気づいていないかもしれないけど、俺も好きなんだよ。お前のことが。」
宗明「は…?わざわざ言うことでもねぇだろ。なんで今そんな…」
透夏「友達として、親友として、だろう?間違ってないよ。でも…それ以上に、俺はお前が好きなんだよ、宗。」
宗明「……。」
透夏「…何も、答えなくていい。俺が伝えたかっただけだから。聞いてくれてありがとう。」
宗明「…前に言ってた、伝えたいことって、これか。」
透夏「そうだよ。よく覚えていたね。」
宗明「お前、いなくならないよな。」
透夏「……どうして?」
宗明「言うだけ言って、俺らの前から消えるつもりじゃねぇよな。」
透夏「そんなことしないよ。俺はこれからも3人の幸せを願うし、傍で見届けようと思ってる。…宗が嫌じゃなければ、ね。」
宗明「そんなわけあるかよ。今更お前にどう思われてたって、俺は……お前とダチやめる気はねぇよ。」
透夏「…っはは。優しいな、宗は。気持ち悪いって、突き放してもいいのに。」
宗明「お前……俺の知ってる透夏って人間はな、憎まれ口は叩いても人が本気で嫌がることはしねぇんだよ。そんな奴を、俺が傷つけてどうすんだ。むしろ…」
透夏「…?」
宗明「…いや、なんでもねぇよ。とにかく、その……俺は冬希を幸せにする。お前とダチをやめる気もねぇ。そんだけだ。」
透夏「…ああ。答えてくれて、ありがとう。」
宗明「……おら、ティッシュ。律が戻って来るまでには泣き止めよ。」
透夏「…余計なお世話だよ。」