サンタの真似事
登場人物:5人(男:3人 女:1人 不問:1)
・マスター …男性
・逢坂 …男性
・荒木 …男性
・唯 …女性
・唯の弟(表記???)…不問
逢坂「ねーねーてんちょー。クリスマスってお休みっすよね?」
店長「マスターと呼びなさい。いつも通り営業予定ですが?」
逢坂「え~マジっすか!俺ちょっと予定があってぇ…」
店長「駄目です。」
逢坂「まだなんも言ってないっすよ!」
店長「クリスマスは忙しいんだからお休みはナシです。」
逢坂「そんなぁ……デートの予定がぁ…」
店長「逢坂君に特定の相手はいなかったと記憶しているのですが?」
逢坂「これから作るんですよ!クリスマスに恋人の一人も居ないなんて耐えられないっすよ」
店長「じゃあ予定は無しなんだね。バイトよろしく。」
逢坂「鬼!悪魔!守銭奴!珈琲狂い!」
店長「珈琲狂いはほめ言葉なんですが…?」
逢坂「うるせー!毎日毎日珈琲がぶがぶ飲んでるとそのうち血が珈琲になるっすよ!」
店長「望むところです。」
逢坂「うわ、マジやっば。」
SE:ドアベル
逢坂「いらっしゃいませー!」
店長「ファミレスじゃないんだからもう少し静かにといつも……」
荒木「あ、どうも。」
店長「おや、荒木さん。いらっしゃい。」
逢坂「お知り合いっすか?」
店長「少しね。いつものでいいかな?」
荒木「はい。」
逢坂「それではこちらのカウンターでよろしいですか?」
荒木「ありがとうございます。」
逢坂(てんちょーてんちょー!)
店長(マスターと呼びなさい……なんですか?)
逢坂(めちゃくちゃ影があるイケメンなんすけど!?)
店長(そうだね。)
逢坂(半分くらいイケメン度分けてくれないっすかねぇ。)
店長(そういうことを言っているうちは無理だと思いますが。)
逢坂(解散!)
荒木「あの?」
店長「この子のことはお気になさらず。どうぞ」
荒木「え、ええ。」
店長「どうですか?あれから。」
荒木「その、恥ずかしながら特に進展はなしで……」
店長「まぁまぁ、そう焦らずに。恋愛には待つことも大事ですよ。」
逢坂「独身貴族のてんちょーが恋愛相談とかクソ笑えるっすね……」
店長「逢坂君、なにか?」
逢坂「なんでもないっす。こちら、おしぼりとお水です。ご注文…は大丈夫ですね。」
荒木「はい、いつも同じものなので。」
店長「私のオリジナルブレンドを気に入ってもらえて嬉しいね。」
荒木「初めて飲んだ時はちょっとしたカルチャーショックでしたからね。」
店長「それからはずっとこれですからね。それでは少々お待ちを。」
SE:珈琲淹れるっぽい音
逢坂「オリジナルブレンドお待たせしました!」
荒木「ありがとう……うん、やっぱりいい味だ。」
店長「お褒めにあずかり光栄です。」
荒木「それで…えっと、どこまでお話しましたかね?」
店長「クリスマスに…唯さんでしたか?その方とデートしたい、というお話だったかと。」
荒木「そうでした。私のようなものがお声を掛けたら迷惑になるのでは……と。考えてしまって。そもそも私は…」
逢坂「そんなもん当たって砕けろっすよ!」
店長「ちょっと、逢坂君。」
逢坂「世の中のカップルはみんな告白っていう一大イベントを乗り越えて晴れてカップルになってるんすよ?なんの覚悟もなしに恋人になろうなんて考えが甘いんすよ!」
荒木「は、はぁ…」
逢坂「そもそもっすよ!荒木さんみたいなイケメンにクリスマス誘われて断る女なんて要るわけないんだからもっと胸はって堂々としてたらいいんす!」
荒木「あ、ありがとうございます?」
店長「逢坂君、落ち着きなさい。ほら、これ飲んで。」
逢坂「頂くっす。んぐっ!あっつ!これホットじゃないっすか!」
店長「ほら、裏行って冷やしてきなさい。」
逢坂「行って来るっす!」
SE:走り去る音
荒木「なんというか、台風みたいな子ですね。」
店長「大分オブラートに包まれた表現ありがとうございます。ですが。」
荒木「はい?」
店長「あの子の言っていることも一理あるんですよ。恋愛というものには。」
荒木「それは…そう、ですね。」
店長「勇気を出したからこそ得られる結果、というものもあると思いますよ。」
荒木「……そうですね。ありがとうございます。私、頑張ってみようと思います。」
店長「はい、頑張ってください。」
荒木「あの子にもお礼を言っておいてください。」
店長「調子に乗るのであんまり言いたくないんですが。ええ、承りました。ああ、それと。」
荒木「なんでしょうか?」
店長「クリスマス当日、唯さんに会いに行く前にお時間がありましたらこちらにお寄りください。」
荒木「それは構いませんが…」
店長「私からささやかなプレゼントをご用意しておきます。」
荒木「そんな、そこまでしていただかなくても。」
店長「いえいえ。あの子の無礼のお詫びと、私からの後押しです。年寄りのお節介と思って受け取ってください。」
荒木「マスター……ありがとうございます。」
逢坂「てんちょー、クリスマスなのになんでこんなに忙しいんすか!」
店長「マスターと呼びなさい。私が作るケーキが意外と常連さんに好評でね。注文が殺到しているんだ。」
逢坂「勘弁してくださいよー!折角のクリスマスなのになんでこんなトナカイの格好で…」
店長「お客さんも喜んでくれているからいいじゃないですか。」
逢坂「うちの常連お年寄りばっかりなんですよねぇ!もっとこう若い世代にウケたいんですけどぉ!」
店長「荒木さんとか、そこそこ若い方もいらっしゃいますが?」
逢坂「女性!女性でお願いします!ってそういえば荒木さん、最近来ないっすね?」
店長「ええ。お悩みが解消したんでしょう。いいことです。」
逢坂「いーなー!俺も恋人とクリスマス過ごしたいっす!」
店長「まずはきちんとバイトをこなしてからだね。さぁ頑張ろうか逢坂君。」
逢坂「うーす!」
店長「ああ、そうそう。このケーキ。バイトが終わったら持って帰りなさい。」
逢坂「え!いーんすか?ありがとうございます!」
店長「今回は私ではなく君の言葉が響いていたみたいだからね。報酬みたいなものだよ。」
逢坂「何の話っすか?」
店長「なんでも。ほらほら働きますよ。」
店長(クリスマスに奇跡を起こす、サンタさんの真似事ですが。まぁ偶にはいいでしょう。)
唯 「窓になにか……ケーキ?このお店って……」
??「おねーちゃん!クリスマスケーキ食べよう!ってあれ?」
唯 「私はもうあるから、残りは皆で食べてね。」
??「それはいーけど、そのケーキどうしたの?っておねーちゃん泣いてるの?」
唯 「あれ?ほんとだ…私泣いちゃってるね。」
??「大丈夫?どっか痛いの?悲しいの?」
唯 「違うの。私の大好きだった人がね?約束を守ってくれて嬉しいの。」
??「約束?」
唯 「うん、去年の約束。」
荒木(凄く雰囲気のいい喫茶店があってですね?そこのケーキが凄く美味しいんですよ。で、
ですね?よかったらクリスマス、私と……ご一緒していただけませんか?)
唯 「手紙にはごめんなさい、と約束のケーキです。の一文だけ。自分の名前も書いてない。
……あの人らしいなぁ。」
SE:ケーキを食べる音
唯 「本当に凄く美味しいケーキ。どうせなら、一緒に食べたかったなぁ……」