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​僕らへの罰

登場人物:3人(男:2人 女性:1)

・達也 …男性

・修二 …男性

・奈緒 …女性

SE:蝉の鳴き声


達也「(言い訳をするならば、嫉妬心だった。知った風な顔で奈緒を小馬鹿にして、それで保護者みたいな顔でいつもそばにいるアイツに、僕は嫉妬していたんだ。だからちょっと痛い目を見てもらおうとしたんだ。)」
修二「(あれは、いつものいたずらのつもりだった。いつも通り奈緒にちょっかいかけて、それであいつが怒って、俺がふざけて。そうなると思っていた。ぶっちゃけあいつらが仲良さそうにしているのが気に入らなかったんだ。いつの間にか俺だけが取り残されたみたいで。)」

達也「だから、そんなつもりじゃなかったんだ。」
修二「だから、そんなつもりじゃなかったんだ。」

 


SE:救急車

 

達也「奈緒はどう?変わらない?」
修二「あれから2週間、まだ目も覚まさないってお袋が言ってた。」
達也「そっか……」
修二「俺に聞かなくても直接病院行けばいいだろ。」
達也「行けるわけないだろ。どんな顔してご両親に会えって言うんだ。」
修二「まぁ…そりゃ俺だってそうだけど。」
達也「はぁ……」
修二「医者の話じゃいつ目を覚ましてもおかしくないらしいんだけどな。実際、怪我自体は大したことないんだと。」
達也「じゃあなんで……」
修二「俺が知るかよ。アイツのことだから夏休みが伸びたーって喜んでグースカ寝てるんじゃねぇの?」
達也「僕は」
修二「あん?」
達也「君のその奈緒のこと小馬鹿にしたような冗談、あんまり好きじゃない。」
修二「あっそ。こっちはずっと前からこの調子なんでね、今更直せって言われてもな。」
達也「……」

SE:スマホの着信

修二「お袋から……?」
修二「なんだよ、今学校。ダチと一緒……なに?……は?マジ!?早く言えよ!」

SE:スマホを切る音

修二「おい。」
達也「なに?」
修二「奈緒、目覚ましたってよ。」

 

SE:走る音
SE:病院のドアを開ける音

達也「奈緒!」
修二「奈緒!」

奈緒「あ、修二。やっほー。」
修二「おまっ軽っ!」
奈緒「いやだってねぇ。2週間寝たきりでしたーって言われてもこっちとしては寝て起きたらこの状況なんだし。」
修二「まぁお前からしたらそうだろうけどよ。俺もコイツも滅茶苦茶心配したんだぞ。」
奈緒「そいやさっきから気になってたんだけど」
修二「あ?」
奈緒「そのヒト、修二のお友達?」

 


修二「お袋が奈緒の親から聞いた話だと一時的な記憶障害?ってやつらしい。」
達也「記憶障害?」
修二「大体のことは覚えてるけどここ1年くらいの記憶だけぶっ飛んじまってるんだと。」
達也「それって」
修二「お前とアイツ出会ってからこっちの記憶ほぼ全部だな。」
達也「そん…な……」
修二「だからアイツの中じゃ未だに俺も中学生らしいぜ。それどこの制服?って聞かれたわ」
達也「……治る…のかな?」
修二「医者の話じゃ一時的なものだからすぐ治るだろうってさ。意外と多いらしいぜ。こういう記憶障害。」
達也「そうなんだ。漫画とかアニメの中だけの話かと思ってたよ。」
修二「俺も又聞の又聞だからな。あんま良く知らねぇけど。」
達也「僕は…どうすればいいと思う?」
修二「なにが?」
達也「君と僕は恋人だったんだって言った方がいいのかなって。」
修二「あー……辞めといた方がいいかもな。」
達也「え?」
修二「今アイツの頭ん中しっちゃかめっちゃかで混乱してる状態でな。まぁ二週間も寝てたからバグってんだろうけど。そこに今新しい情報入れても飲み込めねーんじゃねぇのかって。」
達也「それは……そう、だね。」
修二「まぁさっきも言ったけどすぐ直るだろうし、あんま考え過ぎんなよ。」
達也「うん…」

 

SE:蝉の鳴き声

奈緒「ほら!こっちこっち!」
修二「あんまりはしゃぐなよー!恥ずかしい。」
奈緒「うっさい!ほらー達也もそんなとこ居ないでこっち来なよー!」
達也「うん!今行くー!」
奈緒「もう夏休みも終わりだからさー!今のうちに目一杯やりたいことやるんだー!」
修二「わかったって…はぁ、このクソ暑いのに元気な奴。」
達也「いいじゃん。ああいう所が僕は好きなんだ。」
修二「うっわ、こいつ真顔でのろけてきやがった。お熱いこって。」
奈緒「この後は川で遊んで、BBQして、肝試しして、それで最後に花火!」
達也「ほんとに目一杯だね。」
奈緒「うん!三人で夏の思い出いっぱい作ろうね!」

 

奈緒「いやぁそれにしてもまさかこの私としたことが川で溺れちゃうとはねぇ。」
修二「お前自分は人魚だーっつうくらい泳ぎに無駄に自信あったからな。」
奈緒「あははー。しかし起きて見たら2週間寝たきりだった―とか言われてさ。こっちの記憶ではまだ中学生だったあんたがもう高校生だってんだからびっくりだよねー。」
修二「能天気馬鹿。」
奈緒「あん?」
修二「普通もっと不安がるだろうが。自分の記憶ぶっ飛んでるんだから。」
奈緒「そうは言ってもねぇ。こちとらその消えた記憶に思い当たらないんだから不安もクソもないんだよねぇ。」
修二「はぁ…ったく。お前もなんか言ってやれよ。」
達也「え?あっ……記憶、早く良くなるといいね。」
奈緒「達也くん…だっけ?修二の友達の、ありがとね。」
達也「ううん。僕もな…清水さんには早く良くなってもらいたいから。」
奈緒「あんたこんな出来た友達どこで拾ってきたの?脅してるの?」
修二「何でだよ。」
達也「修二とは高校入ってから仲良くしてもらってるんだ。」
奈緒「へぇ…そういえば私もあんたらと同じ高校なんだよね?」
修二「そうだよ。こいつとも面識あるからな、お前。今めっちゃ失礼かましてるから。」
奈緒「うっそ!ごめんねぇ達也君。」
達也「いや、全然そんな……」
修二「……」

 


SE:階段を下りる音

修二「お前さ、」
達也「うん…」
修二「そんなにしんどそうな顔するなら見舞い行くのやめたら?」
達也「え…?」
修二「今のアイツはお前のこと完全に忘れてるだろ?思い出してからまた会いに行けばいいんじゃね?」
達也「修二にはっ!」
修二「っ!」
達也「修二には僕の気持ちはわからないよ!自分は奈緒に覚えてもらってるもんね!」
修二「お前……」
達也「君はいいよね、幼馴染だから。小さいころから奈緒の事知ってて、仲良くして。」
修二「……」
達也「僕は出来る事なら君と変わりたいってずっと思ってた。今、前よりもずっとずっとそう思ってるよ!」
修二「すまねぇ……」
達也「……ごめん。八つ当たりだ、これ。」
修二「いや、俺の方が無神経すぎた……」
達也「……記憶、早く良くならないかな……」
修二「そうだな……」

 

SE:蝉の鳴き声

奈緒「うわー!魚魚!いっぱいいる!」
修二「そりゃ川なんだから魚くらいいるだろ。」
奈緒「馬鹿!馬鹿修二!」
修二「あぁ?」
達也「魚が居ることじゃなくて、これを皆で太陽の下で見ることが楽しいんだよ。」
奈緒「そう!よくわかんないけど多分そう!さっすが達也!」
修二「おい、あいつも良く分かってないじゃねーか。」
達也「あはは……」
奈緒「どれどれー?鰻はいるかなー?今日の晩御飯にしてやるぞー!」
修二「おい馬鹿。足元気を付けろよ馬鹿。」
奈緒「わかってるわかってる。子供の頃近所の川でひっくり返ってびしょ濡れになってベソかいてたアンタとは違うんだから。」
修二「おまっ!」
奈緒「やーい泣き虫ー!」
達也「……」

 


SE:ドアの開く音

修二「よぉ奈緒、元気してっか?」
達也「お邪魔します。」
奈緒「……お兄ちゃんたち、誰?」

 

修二「……奈緒の奴…段々記憶が無くなってるって……」
達也「そんな……」
修二「もう俺のことも覚えてないくらいぶっ飛んじまったらしい。」
達也「修二……」
修二「お前は……こんなに辛かったのかよ。」
達也「そうだね……」
修二「すまねぇ……俺舐めてたわ…忘れられるってこんなに辛いんだな……」
達也「……これは……僕たちへの罰なんじゃないかなって、思うんだ…」
修二「は?」
達也「あの日、あんなことをしてしまった僕たちへの、罰。」
修二「なんだよそれ……ふざけんなよ!」
達也「ねぇ修二。」
修二「んだよ。」
達也「君は今でも奈緒のこと、好き?」
修二「何言って……」
達也「ごめんね、誤魔化さなくていいよ。ずっと知ってたから。」
修二「性格悪……」
達也「話を戻すけど。今でも、記憶の無くなった奈緒でも好き?」
修二「意味わかんねーんだけど。」
達也「今の奈緒は、抜け殻だよ。僕と、君と一緒に作った思い出の無い、ただ奈緒の顔をした誰か。」
修二「てめぇ!!」

SE:壁にたたきつける音

達也「修二、僕はわからないんだ。今の奈緒をまた好きになるってさ?それって奈緒の性格じゃなくて見た目が好きだったっていうことなのかな?」
修二「……」
達也「僕は奈緒が好きだった。太陽みたいに明るくて、いつも笑顔で、優しくて。そんな奈緒が好きだったんだ。じゃあそうじゃない今の奈緒を好きって言えるのかな?言ってしまったらそれは、口では中身が好きって言っておきながら見た目が好きだっただけに、なってしまうんじゃないかって。」
修二「知らねぇよ、んなこと。好きなんてモン、いちいち形に見えてねーんだからわかるわけねーだろ」
達也「……」
修二「俺なんてな、この好きって気持ちがどんな好きって気持ちなのかさえわかってねーんだから。」
達也「馬鹿修二。」
修二「うるせぇよ、てめぇも大概だろうが。」
達也「そうだね。僕たち二人、大馬鹿だった。」

 


SE:蝉の鳴き声

達也「(あの日、僕は修二に足を引っかけて転ばせてやろうとした。奈緒を小馬鹿にするアイツに苛ついていた。いつまでも保護者気取りなその態度をへこませてやりたかったんだ。)
修二「(あの日、俺は後ろから奈緒にちょっかいをかけて驚かせようとしてた。俺達の間に割り込んできたアイツに苛ついてて、だからいつも通りの俺たちのやり取りをアイツに見せつけて優越感に浸りたかったんだ。)」


奈緒「え?」


SE:ぶつかる音
SE:河に落ちる音

 


奈緒「ねーねー」
達也「どうしたの、奈緒ちゃん。」
奈緒「なんで冬に花火?」
修二「お前がやりたがってたから。」
奈緒「私が?」
達也「うん、だからいっしょにやろうかなって。」
奈緒「ふーん、あっ、私これがいい!」
修二「ほら、よこせ。」
奈緒「はやくはやくー」

SE:ライターの音

修二「…ちっ、しけってやがる。」
達也「あ、こっちも。」
奈緒「花火、できないの?」
修二「ちょっと待ってろって…」

SE:連続するライターの音
SE:手持ち花火の音

修二「ほら。」
達也「気を付けてね、人に向けちゃいけないよ。」
奈緒「はーい!」

達也「ねぇ、修二。」
修二「どした。」
達也「多分、もう奈緒の記憶は戻らない。」
修二「…そうだな。」
達也「君はどうするの?」
修二「わかんねー。」
達也「うん、僕もわかんないや。」
修二「お前は前にこれは俺達への罰だとかなんだとか言ってただろ?」
達也「うん。」
修二「これは俺達の贖罪なんじゃねーかなって。」
達也「……そうかもしれないね。」

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