遠くて近い光
登場人物:6人(男:3人 女:2 不問:1)
・ジーノ :男性
・イルダ :女性
・ミーナ :女性
・バルド :男性
・カルロ :不問
・ルッキーノ:男性
・??? :ルッキーノ
???(イルダ…愛しいイルダ。すまない。私は君を迎えに行くことができない。)
???(私は殺されてしかるべき人間だ。今まで周りに沢山酷いことをしてきた。だ
が、君は違う。何も知らない君を巻き込みたくなかった。だから距離を取っ
た。)
???(君は私に嫌われていると思っているだろう。そんなことは決してない。私は
君を愛している。できることなら、大人になった君を一目見たかった。)
???(どうやらその願いはかなわないみたいだ。だからどうか、せめて君が幸せで
あるように、祈らせてほしい。イルダ、愛しているよ。君に幸あれ。)
SE:銃声
SE:ドアを蹴破る音
ジーノ「ルッキーノ・カロッサ、ツケを払う時だ。」
SE:銃声
SE:倒れる音
ジーノ「意外とあっさりだったな…後は……あった、スマホ。こいつはもらってい
くぞ。」
SE:遠くで足音
ジーノ「じゃあな、ルッキーノ。」
SE:ガラスの割れる音
SE:雨の降る音
SE:歩く音
ジーノ(おあつらえ向きの天気…だが念には念を入れてもう少し適当にうろついてか
ら帰るか…)
SE:歩く音
イルダ「……」
ジーノ「っ……おい、そんなところで何をしている?」
イルダ「誰?」
ジーノ「只の通りすがりだ。」
イルダ「あ、ごめんなさい…ここにいたら邪魔だよね。」
ジーノ「…ミーナ?」
イルダ「ん?」
ジーノ「いや、知り合いに似ていただけだ。」
イルダ「そうなんだ。」
ジーノ「で?雨の中そんなところで座り込んで何をしている?」
イルダ「……お父さんにね、会いに来たんだ。」
ジーノ「お前の父親は路地裏に住んでいるのか。」
イルダ「違うよ。本当は迎えに来てくれるはずだったんだけどね…私、お父さんに嫌
われちゃってたみたい。」
ジーノ「なにか事情があったんじゃないのか?」
イルダ「約束の時間からもう10時間、連絡もずっと取れないんだ。」
ジーノ「そうか。」
イルダ「急に呼び出したと思ったらほったらかしってどういうこと?私が嫌いなら最
初から連絡なんてしなきゃいいじゃん……」
ジーノ「泣くな、俺が泣かせてるみたいだろ。」
イルダ「ごめんなさい……」
ジーノ「……はぁ…ついてこい。」
イルダ「え?」
ジーノ「行くところがないんだろ?一晩くらいなら泊めてやるから来るなら勝手につ
いて来い。」
SE:歩き出す音
イルダ「ちょ、ちょっと待ってよ。」
ジーノ「もう夜だ、静かに歩け。」
SE:鳥の鳴く音
ジーノ「朝か…なんで俺は床で……あぁ…」
イルダ「……」
ジーノ(そうだった…なにをやってるんだ俺は……)
ジーノ「朝飯、なにかあったか?」
イルダ「おはよう。」
ジーノ「おはようさん、朝飯だ。腹減ってるなら食え。」
イルダ「なにこれ?」
ジーノ「クロワッサンとコーヒー。」
イルダ「そういうことじゃなくて、え?おじさんお金無いの?」
ジーノ「おじ…別に金には困ってない。」
イルダ「それならもうちょっとこう…」
ジーノ「嫌なら食うな。」
イルダ「や、ちょ!食べる!食べます!」
ジーノ「ったく。」
イルダ「あ、おいし。」
ジーノ「そういえば、お前名前は?」
イルダ「あっ、お互い名前も知らなかった!私はイルダ!」
ジーノ「イルダ、ね。」
イルダ「おじさんは?」
ジーノ「…俺はジーノと呼ばれてる。」
イルダ「なにそれ、明らかに偽名じゃん。」
ジーノ「名前なんてなんでもいいだろ、呼び方に困らなければ。」
イルダ「それは…そうだけど。」
ジーノ「それで?」
イルダ「それで?」
ジーノ「お前、これからどうするつもりだ?」
イルダ「どうする?」
ジーノ「父親に連絡をとるのか家に直接行くのか、それとも元居た所に帰るのか。」
イルダ「…どうすればいいと思う?」
ジーノ「知らん、お前が決めろ。」
イルダ「うーん。」
SE:コーヒーをすする音
イルダ「あの、」
ジーノ「なんだ?」
イルダ「もうちょっとここにいてもいいかな?」
ジーノ「勘弁してくれ、お前を拾ったのは気まぐれだ。」
イルダ「もうちょっと気まぐれを続けよう!」
ジーノ「店じまいだ、それ食ったら帰れ。」
イルダ「えー。」
SE:ドアの開く音
ジーノ「ほら、さっさと帰れ。そのでかい荷物も忘れずにな。」
イルダ「待って待って!」
カルロ「あら、ジーノ。」
ジーノ「カルロか。」
イルダ「誰?」
ジーノ「お前に関係ないだろ。」
カルロ「ちょっとちょっとジーノ、流石にその年齢はまずくないかしら?」
ジーノ「は?何がだ?」
カルロ「連れ込むにしたってちょっと幼すぎるわ。管理人として犯罪は見逃せないわ
ねぇ。」
ジーノ「待て!お前は勘違いをしている。こいつは…あー」
イルダ「!!私、ジーノの妹です!」
ジーノ「おい。」
カルロ「妹?にしてはちょっと歳離れすぎてないかしら?顔もそんなに似てない
し。」
イルダ「お父さんが違うんです!だから一緒には暮らしてないんだけど久しぶりに会
いに来たんです。」
カルロ「そうだったのねぇ。久しぶりに会えてよかったわね。」
イルダ「はい!しばらくお世話になるつもりなのでよろしくお願いします。」
ジーノ「おい。」
イルダ「いいの?このままだと通報されちゃうよ?」
ジーノ「このっ……あ、ああそうだ、しばらくはうるさいかもしれん。」
カルロ「いいのいいの。久しぶりの兄妹水入らず、ゆっくりしていきなさい。」
SE:ドアの閉まる音
ジーノ「お前……」
イルダ「というわけでしばらくお世話になります!」
ジーノ「…はぁ……わかった、ここに勝手に住み着いてもいい。」
イルダ「やった!」
ジーノ「ただし。」
イルダ「?」
ジーノ「一つ、俺のことは詮索するな。二つ、必要以上に関わるな、この二つは必ず
守れ。」
イルダ「わかった!」
ジーノ「ほんとにわかってるのか……」
ジーノ「ちょっと出かけてくる。」
イルダ「どこ行くの?」
ジーノ「一つ。俺のことは」
イルダ「あ、行ってらっしゃい。」
ジーノ「生憎TVはおいてないが、その辺の本は読んでいいし腹が減ったら冷蔵庫の中
の物勝手に食え。」
イルダ「はーい。」
ジーノ「何かあったらカルロ…さっきのやつが一階の管理人室にいるからそこに行
け。」
イルダ「うん。」
ジーノ「じゃあな。」
バルド「やったな英雄。」
ジーノ「バルドか。」
バルド「おいおいもっとはしゃげよ。」
ジーノ「別に、はしゃぐほどのことでもないだろ?俺はいつも通り仕事をこなしただ
けだ。」
バルド「おいおい、この街を牛耳ってたクソ野郎をぶっ殺したんだぜ?皆今頃お祭り
騒ぎさ。」
ジーノ「おめでたい奴らだな。クソ野郎の首がすげ変わるだけだろ。」
バルド「そうなりゃこっちもまた同じことをするだけだ。」
ジーノ「そうだな…ああそうだ、これ。」
バルド「これが?」
ジーノ「ターゲット、ルッキーノのスマホ。」
バルド「グラッチェ!上出来だ!これ一つで街の大掃除ができる。」
ジーノ「そいつは良かった。」
バルド「他人事だな?こいつの中身次第ではお前にも仕事が回ってくるんだぞ?」
ジーノ「そいつはありがたいことだな。ところで、」
バルド「なんだ?」
ジーノ「ポルコを探してるんだが。」
バルド「あいつを?なんか欲しい情報でもあるのか?」
ジーノ「ちょっと拾い物をしてな、持ち主を探してもらいたいんだ。」
バルド「なんだそりゃ?」
ジーノ「気まぐれだよ…只の気まぐれだ。」
イルダ「お帰りなさい!」
ジーノ「ああ。」
イルダ「見て見て!ごはん作っておいたよ!」
ジーノ「材料はどうした?冷蔵庫にはハムかチーズくらいしか入ってなかったはずだ
が。」
イルダ「カルロさんに聞いて買い物行ってきた!」
ジーノ「そうか。」
イルダ「ジーノに任せてたらパンばっかり食べさせられそうだったからねー。」
ジーノ「文句を言うなら出て行け。」
イルダ「ないよ!感謝してる!だからこれはお礼みたいなもんなんだよ。」
ジーノ「そうかよ。」
イルダ「ささ、座って座って。」
SE:椅子に座る音
ジーノ「じゃあ食べるか。」
イルダ「うん!」
SE:しばらく食事の音
ジーノ「父親と連絡はとれたのか?」
イルダ「んーん。昨日から連絡してない。」
ジーノ「直接家には行かないのか?」
イルダ「住所わからないんだ。私が知ってたのは待ち合わせ場所だけ。」
ジーノ「父親の名前は?」
イルダ「人に教えちゃダメなんだって、お父さん有名人らしいから。」
ジーノ「なんだそれ。」
イルダ「私にもよくわかんない。」
ジーノ「父親に会いに来たって言ってたが、別々に暮らしてたのか?」
イルダ「うん、私しばらくアメリカに留学してたから。っていうかさせられてたって
言った方が正しいかな。」
ジーノ「させられてた?」
イルダ「昔お母さんが死んじゃってね、その時にお父さんが別々に暮らした方がい
いって。」
ジーノ「仲悪いのか?父親と。」
イルダ「そもそもどんな人かも覚えてないよ。一緒に暮らしてたのは小さいころだ
し、手紙も電話もしたことなかったし。でも、一緒に暮らさないってことは
多分私のこと嫌いだったんだよ。」
ジーノ「そうか。」
イルダ「だから、びっくりした。お父さんから急にお手紙来たから。」
ジーノ「それでこの街に?」
イルダ「うん、最初は意味わからなかったし、何年も放っておいて急になんだー!
って気持ちだったけど……ちゃんとお話ししないとなって思って。でも結局
はほったらかし。」
ジーノ「なにか事情があるんじゃないのか、わざわざお前を呼び出したんだろう?」
イルダ「わかんないや、あれから連絡の一つもよこさないし。」
ジーノ「そうか……ところで」
イルダ「なに?」
ジーノ「お前作りすぎだ、この量を二人で食べられるわけないだろ、加減しろ馬
鹿。」
イルダ「いいじゃん!おいしかったでしょ?」
ジーノ「旨かったのは事実だがな、食材を無駄にするな。」
イルダ「はーい。次から気を付けるね。」
ジーノ「まったく。」
ミーナ(お兄ちゃん…)
ジーノ(ミーナ!大丈夫だ!今救急車を呼んだから!)
ミーナ(お兄ちゃんは無事だったんだね…良かった……)
ジーノ(ああ!俺は全然大丈夫だ!)
ミーナ(よかっ…た……ねぇお兄ちゃん……)
ジーノ(なんだ?ミーナ。)
ミーナ(あのね…お兄ちゃんは頑張って生きてね…)
ジーノ(何言ってるんだ、ミーナ!そんな言い方…)
ミーナ(いいんだ…もう、自分が駄目だなって…わかるし…)
ジーノ(そんなことない!大丈夫だ!きっと助かるから!)
ミーナ(お兄ちゃんは…優しいね……私…心配だよ……)
ジーノ(こんな時まで人の心配するな!ミーナ!)
ミーナ(だから…約束……私の分まで…頑張って生きてね……)
ジーノ(おい、ミーナ…そんなこと言うなよ…)
ジーノ「またあの夢…か。」
ジーノ(俺は優しくなんか……ん?)
ジーノ「何やってるんだ?」
イルダ「なんかうなされてたから。」
ジーノ「で?」
イルダ「私が小さいころ泣いてたらお母さんがこうしてくれたんだよ。」
ジーノ「だから手握ってたと。」
イルダ「うん!」
ジーノ「はぁ……あまり気にするな。ずっとこの調子だ。」
イルダ「えぇ…そんなんでちゃんと眠れてる?」
ジーノ「余計なお世話だ。」
イルダ「心配してるのに!」
ジーノ「お前は自分の心配してろ。」
イルダ「うー。」
ジーノ「それじゃあ、仕事に出てくる。」
イルダ「はーい。そういえばお仕事って何してるの?」
ジーノ「一つ、」
イルダ「そうだった!」
ジーノ「まぁいい。電気工だよ、電線とか電柱の修理をやってる。」
イルダ「へぇ。」
ジーノ「遅くなるようだったら先に飯食ってていいからな。」
イルダ「うん!行ってらっしゃい!」
SE:ドアの閉じる音
バルド「よう、ジーノ。」
ジーノ「今仕事中だ。」
バルド「真面目だねぇ、本職じゃないのに真昼間から街灯の修理なんて。」
ジーノ「ほっとけ。それで、何の用だ?」
バルド「お前がでっかい動物を拾ったって情報が。」
ジーノ「なんだと?」
バルド「慌てるな、俺の方で握りつぶしといた。大分かかったがな。」
ジーノ「そうか、助かる。後で俺の方に請求してくれ。」
バルド「で?」
ジーノ「なんだ?」
バルド「どういう風の吹き回しだ?」
ジーノ「別に、只の気まぐれだ。」
バルド「お前、俺にそんな言い訳が通用すると思ってるのか?どれだけの付き合いだ
と思ってる?」
ジーノ「……妹に似てた。それだけだ。」
バルド「はぁ…なるほどな、それなら納得だ。」
ジーノ「なにがだ。」
バルド「なんでも。仕事に支障はないんだろうな?」
ジーノ「どうせすぐに出ていくだろうよ。気にするな。」
バルド「本当だろうな?」
ジーノ「ああ。」
SE:食事の音
イルダ「ねぇねぇジーノ。」
ジーノ「なんだ?」
イルダ「ミーナってだれ?」
ジーノ「どこでその名前を聞いた?」
イルダ「うなされてる時に時々呼んでる。」
ジーノ「そうか、それは知らなかった。」
イルダ「で、誰?というか奥さんとか恋人とかだったら私気まずいんだけど…」
ジーノ「そんなんじゃない、妹だ。」
イルダ「本当に妹居たんだ。」
ジーノ「ああ、居た。」
イルダ「居たってことは」
ジーノ「ああ、今はもういない。大分前に死んだ。」
イルダ「ごめんなさい。」
ジーノ「なんで謝る?」
イルダ「うなされてるってことは今も夢に見るくらい辛いんでしょ?だから」
ジーノ「気にするな、さっきも言ったが本当に昔の話だ。」
イルダ「うん…」
ジーノ「…少し雰囲気はお前に似てたかもな。」
イルダ「そうなの?」
ジーノ「もう20年も昔のことだから記憶も曖昧だが。」
イルダ「そうなんだ……えへへ、私のこと妹と思ってもいいよ。」
ジーノ「調子に乗るな。」
イルダ「なんだよー!」
ジーノ「そんなことより。」
イルダ「なに?」
ジーノ「野菜を俺の皿に移すな、ちゃんと食え。」
イルダ「だってブロッコリー苦手なんだもん。」
ジーノ「じゃあ最初から入れるなよ。」
イルダ「だってレシピには書いてたよ。」
ジーノ「食えないもん入れたらもったいないだろ。食いもんを無駄にするな。」
イルダ「ジーノが食べるからいいじゃん。」
ジーノ「食わない、自分で食え、残したら追い出す。」
イルダ「それはずるじゃん。」
ジーノ「文句言うな、ここは俺の家だ。」
イルダ「もううなされてても手握ってあげないから。」
ジーノ「なんで俺が握ってもらいたい前提なんだよふざけるな。」
イルダ「ふん!」
バルド「おい、ジーノ。話がある。」
ジーノ「なんだ?仕事中だから手短にな。」
バルド「嬢ちゃんのことだよ。すぐ出ていくって言ってただろう?」
ジーノ「俺もそうだと思ってたんだがな。」
バルド「もう二週間だ。お前どうする気だ?」
ジーノ「どうもしない。」
バルド「そういうわけにはいかないだろう。俺も嬢ちゃんの事情は聴いた。同情だっ
てしてる。けどな、俺たちの仕事が仕事だ。このまま置いといたら碌なこと
にはならない。」
ジーノ「それは…わかってる。」
バルド「別にお前が絆されたっていうならそれでもいい。とっとと仕事を辞めて遠く
へ引っ越せ。」
ジーノ「馬鹿言え。俺が今更平穏な暮らしをできるわけないだろ?妹の、家族の仇を
討ったあの日から、俺の手は汚れに汚れてるんだ。今更まともな人間になん
てなれるかよ。」
バルド「それだったらとっとと元の所に返してやれ。さっきも言ったが俺らの近くに
いたって最後は不幸になるだけだぞ。」
ジーノ「そうだな…お前の言うとおりだ。」
バルド「ああ。」
ジーノ「話は終わりか?」
バルド「ああ…いやついでにもう一件だ。」
ジーノ「なんだ?」
バルド「さっきポルコから連絡があった。そろそろルッキーノの携帯から情報が抜き
終わる。お前も忙しくなるぞ。」
ジーノ「大掃除の始まりってわけか。」
バルド「そういうわけだから、嬢ちゃんのことちゃんとケジメつけとけよ。」
ジーノ「わかってるよ。」
バルド「……」
SE:食事の音
ジーノ「イルダ。」
イルダ「なにー?」
ジーノ「お前、いつまでいるんだ?」
イルダ「急にどうしたの?」
ジーノ「もう二週間だ。そろそろどうするか決まったかと思ってな。」
イルダ「私がいると迷惑?」
ジーノ「別にそういうわけじゃない。だがな」
イルダ「まだわかんないんだ。元の場所に戻るのがいいのか、お父さんを探すべきな
のか。」
ジーノ「そうか。」
イルダ「お願い!もうちょっとだけ居させて?ブロッコリーもちゃんと食べるか
ら!」
ジーノ「はぁ……しょうがないな。」
イルダ「やった!」
ジーノ「だけど、ちゃんと考えておけよ?今後のこと。」
イルダ「わかってるって。」
ジーノ「……」
SE:歩く音
ジーノ「バルドに偉そうなこと言っといてこのザマとはな…」
SE:スマホの着信音
ジーノ「誰だ?…ポルコ?」
ジーノ「俺だ、どうした?なにか問題でもあったか?……ああ、ああ。例のスマホの
解析か…それで?……なんだと?……ああ。ちょっと確認したい。データ
を送ってくれ。」
ジーノ「これが、ルッキーノの……」
バルド「で?その情報を買ってったのは?……ああ…クソッ!あの連中もかよ……
それで?ジーノにもそのデータは送ったんだな?…いや、そうじゃねぇが
……」
バルド「……チッ、忙しくなりそうだな。」
(イルダ(私、お父さんに嫌われちゃってたみたい。))
ジーノ「俺は……」
(イルダ(見て見て!ごはん作っておいたよ!))
ジーノ「俺はどうしたらいい?」
(イルダ(私が小さいころ泣いてたらお母さんがこうしてくれたんだよ。))
ジーノ「俺がすべきこと。」
(ミーナ(お兄ちゃんは…優しいね……))
ジーノ「ミーナ…俺は……」
SE:ドアの開く音
イルダ「おかえりー、今日は早いんだね。」
ジーノ「……話がある。」
イルダ「今からご飯作るからそれ食べながらにしない?」
ジーノ「いや、急ぎだ。」
イルダ「ふぅん?」
SE:座る音
ジーノ「お前、元の所へ帰れ。」
イルダ「急に何?朝はもうちょっと居させてくれるって言ってたじゃん。」
ジーノ「事情が変わったんだよ、とっとと荷物まとめろ。移動費くらいは出してや
る。」
イルダ「なにそれ!事情も話さず急に追い出すなんて!ジーノもお父さんと一緒じゃ
ん!」
ジーノ「違う。」
イルダ「じゃあちゃんと説明してよ!納得させてよ!」
ジーノ「……納得したら、帰るんだな?」
イルダ「……。」
ジーノ「お前の父親の名前は、ルッキーノ・カロッサだな?」
イルダ「なんでジーノが知ってるの?」
ジーノ「そうか。じゃあやっぱりお前は帰るべきだ、今すぐにでも。」
イルダ「お父さんが関係あるの?」
ジーノ「いいか、よく聞け。お前の父親はこの街のマフィアのボスだった。」
イルダ「お父さんが…?」
ジーノ「娘のお前の前でいうのははばかられるが、かなり敵の多い男だった。今もこ
の街にはやつに恨みをもった連中がごまんといる。」
イルダ「そんな…」
ジーノ「あいつに恨みを持った連中がお前のことを知ったらお前も只じゃすまない。
だから」
イルダ「嘘でしょ?なんでそんな嘘つくの?そんなに私を追い出したい?」
ジーノ「嘘じゃない。」
イルダ「じゃあなんでジーノがそんなこと知ってるの?お父さんがマフィアのボス
だって、私だって知らなかったのに。」
ジーノ「……数日前、お前の父親は殺された。」
イルダ「えっ…?」
ジーノ「さっきも言ったが大勢に恨まれている男だった。そんな連中に暗殺者を雇わ
れて、な。」
イルダ「お父さんが…死んだ…?」
ジーノ「お前を迎えにこれなかったのもそれが原因だ。」
イルダ「待って!全然頭が追い付かない!お父さんがマフィアのボスで?沢山恨まれ
てて?それで殺された?そんな馬鹿な話、あるわけないじゃん!」
ジーノ「事実だ。」
イルダ「だからなんでジーノがそれを知ってるの?おかしいじゃん!」
ジーノ「これを聴いたからだ。」
SE:スマホを置く音
イルダ「なにそれ?」
ジーノ「お前の父親が最後に残した言葉だ。聴け、お前には聴く義務がある。」
SE:再生ボタンを押す音
???(イルダ…愛しいイルダ。すまない。私は君を迎えに行くことができない。)
SE:停止ボタン
イルダ「意味…わかんない……今更なに?…今更…死んでからこんなこと言われ
ても……」
ジーノ「こいつとお前の写真がルッキーノのスマホに残っていたらしくてな?危ない
連中がお前を探しているらしい。」
イルダ「……え?」
ジーノ「だから、お前はとっととこの街を出て行かなくちゃならないんだよ。」
イルダ「私関係ないじゃん、だって知らなかったんだよ?」
ジーノ「連中にそんな言葉通用しない。マフィアの恨みつらみってのはそんな簡単な
もんじゃないんだ。」
イルダ「なにそれ…」
ジーノ「だからお前の父親はお前を遠ざけたんだろうな。」
イルダ「結局これなんだから意味なかったじゃん。」
ジーノ「それは…タイミングが悪かったな。」
イルダ「最悪だよ。」
ジーノ「まぁそういうわけだ、納得したな?足くらいは用意してやるからとっととこ
の街を出ろ。流石に街のやつらも海外までは追いかけていかないだろ。」
イルダ「このままここにいたらバレないとか…ない?」
ジーノ「一生家の中に引きこもってるつもりかよ。元居た場所に帰った方が自由に暮
らせるだろうが。」
イルダ「…わかった、ジーノに迷惑もかけれないもんね。」
ジーノ「そうだな、それじゃあ知り合いに連絡して車回してもらうから荷物まとめと
け。」
イルダ「うん。」
バルド「こんにちは嬢ちゃん。ジーノの友人、バルドだ。」
イルダ「よろしく、バルドさん。」
バルド「で、どうするジーノ。」
ジーノ「海だな。ポルコの話だと空と陸は連中がわんさか沸いてるみたいだ。」
バルド「了解。じゃあ俺は便を予約するから運転頼む。」
ジーノ「ああ。」
SE:車の発進する音
イルダ「あの…」
バルド「なんだい嬢ちゃん。」
イルダ「二人は普通の人…じゃないよね?」
バルド「おいジーノ。」
ジーノ「説明してる暇なかったんだよ。」
イルダ「あの。」
バルド「まぁお察しの通り二人とも真っ当な生き方はしてねぇな。」
イルダ「電気工って嘘だったんだね。」
ジーノ「そのおかげでお前のやばい状況知れたんだからいいだろ。」
イルダ「まぁいいけどさ。」
バルド「嬢ちゃんはあんま落ち込んでねぇな?親父さんのこと知ったんだろ?」
イルダ「正直色々急すぎて全然わかんないんだ。お父さんがマフィアだって知ったの
もついさっきだし、何年も会ってなかったから死んだって言われてもピンと
こないんだよね。」
バルド「なるほどな。」
イルダ「二人は私の味方して大丈夫なの?お父さん、敵多かったって聞いたけど。」
ジーノ「お前が心配することじゃない。」
バルド「バレなきゃいいんだよバレなきゃ。」
イルダ「バレたらやばいんだ…お父さんほんとになにやってんだよぉ。」
バルド「まぁ無事元の所まで送り届けてやるから安心しな。」
イルダ「うん、ありがと。」
SE:船着き場
ジーノ「あの船だ、30分後には出向する。」
イルダ「思ったよりおっきい船だ。」
バルド「釣り船でも想像してたか?海外まで行くんだからあれくらいじゃないと
な。」
ジーノ「予約はもう取ってある。時間はちょっとかかるが元居たところまで無事つけ
るだろ。ほら、とっとと乗れ。」
イルダ「一緒に行かないの?」
ジーノ「なんで行くと思ったんだ…」
イルダ「だって一人だと心細いし…」
ジーノ「俺はお前の保護者じゃない、いつまでも甘えるな。」
イルダ「…うん。わかった、今までありがと。」
ジーノ「……元気でな。」
イルダ「ジーノもね、あとバルドさんも。」
バルド「俺はついでかよ、達者でな。」
SE:立ち去る音
バルド「…いいのかよ?」
ジーノ「なにがだ?」
バルド「嬢ちゃんの父親はもういない。あの子はこの先一人で生きていくんだ。」
ジーノ「そうだな。」
バルド「誰のせいだ?」
ジーノ「仕事を持ってきたのはお前だろうが。」
バルド「ルッキーノをやったのはお前だ。」
ジーノ「だからなんだ?お前の父親を殺したのは俺だから責任取って面倒見ますって
あいつに言うのか?」
バルド「そうじゃねぇよ。」
ジーノ「じゃあどうしろっていうんだよ?」
バルド「そもそもお前、なんで嬢ちゃんを拾ったんだ?」
ジーノ「前にいっただろうが、妹に似てたからだって。」
バルド「妹に似てたら誰にでも親切にするのか?」
ジーノ「別に…偶々だ。偶々あいつが困ってて、そこに俺が通りかかって、妹に似て
たから気になって、しょうがなく面倒見てた。」
バルド「前から言おうと思ってたけどよ。」
ジーノ「なんだよ。」
バルド「お前、この仕事向いてないぞ。」
ジーノ「今更言うことかよ?何年やってると思ってる。」
バルド「お前は優しすぎるんだよ。未だに寝る時うなされてるんだろ?」
ジーノ「昔のことをいつまで言ってるんだ。」
バルド「家族の仇を撃って、まともな生活に戻れなかったからしぶしぶクソみてぇな
生活を続けてる、それがお前だ。」
ジーノ「それ以外に俺に何ができる。」
バルド「嬢ちゃんの面倒みてやれ。」
ジーノ「だから」
バルド「別にルッキーノのことは言わなくたっていい。」
ジーノ「あ?」
バルド「ただ、嬢ちゃんにはお前が必要なんだよ。それでお前にも嬢ちゃんが必要
だ。」
ジーノ「なんで俺に、」
バルド「お前、嬢ちゃんを拾ってから自分がどれだけマシな顔になったかわかって
ねぇだろ?」
ジーノ「なんだよそれ。」
バルド「お前がまともな人間に戻れる最後のチャンスだ。」
ジーノ「人殺しが今更か?」
バルド「あの嬢ちゃんならきっとお前をもとに戻してくれる。たまには元相棒の言葉
を信じろよ。」
ジーノ「俺は……」
バルド「行けよ、後片付けは俺がしといてやる。」
ジーノ「……昔っから言い合いじゃお前に勝てないな、バルド。」
バルド「当たり前だ。誰がお前を育ててやったと思ってるんだ。」
ジーノ「ああ、そうだな。」
バルド「お前の分も予約とってあるからとっとと行きな。きっと嬢ちゃんも待って
る。」
ジーノ「助かる、最後まで迷惑をかけたな。」
SE:遠ざかる足音
バルド「そこはありがとうって言うんだよ、馬鹿野郎が。」