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​かわいくて、おいしそう

登場人物:5人(男:2人 不問:3)

・慈刻 …男性

・?/??/辰巳  …不問

・雨梟 …男性

・僧侶 …不問

・曹爽 …不問

SE:発砲音


慈刻「……よし。大物だといいんだが。あれは……小さいな。猪子か!」
慈刻「(久々に肉が食える。今日は鍋に……え)」
慈刻「子供……?」


慈刻「目、覚めたか。麻酔弾でよかったよ。危うく人殺しになるところだった。」
? 「……。」
慈刻「お前、どこの子だ。ここらじゃ見かけない顔だが。」
? 「……。」
慈刻「なんだ、喋れないのか。」

SE:首を振る音

慈刻「違う?……ああ、麻酔のせいで舌が回らないのか。じゃあ、とりあえず水飲め。いけそうだったらこれ食って、回復したら家に帰れ。」

SE:ごくごくと水を飲む音

慈刻「名前は。」

SE:首を振る音

慈刻「村の名前とか家の場所とか、ちゃんと覚えてるか?」

SE:首を振る音

慈刻「まじかよ。親の名前とか、街のシンボルとか何かあるだろ。」
慈刻「……わかった。宿は紹介してやる。歩けるようになったら言えよ。」

SE:服を掴む音

慈刻「厨に行くだけだ。おとなしく待ってろ。」

慈刻「(さて、どうするか。間違えて撃ったとはいえ、素性の知らない子供を家に置いておくのはな……早々に村の連中へ引き渡すか。)」
慈刻「いや、売ったら意外と金に……」

SE:スープ飲む音

慈刻「……ないな。」
慈刻「(肉もなければ愛想もない。たぶん、学もない。)」

SE:ごくんと飲み込む音

慈刻「食べ終わったら手合わせて、ごちそうさま、な。」

SE:手をたたく音

慈刻「はい御粗末さま。明日村へ行って聞き込みをしてくる。歩けそうなら連れて行くからちゃんと寝ておけよ。」

SE:大きく何度も頷く音

慈刻「動きがうるさい。わかったから、寝ろ。」

 


SE:鳥の鳴き声(朝)


? 「……z……ず……みず。」
慈刻「っ!」
? 「みず。みず。」
慈刻「喋れるようになったのか。」
? 「みず。」
慈刻「鸚鵡かよ。持ってくるから待ってろ。」
? 「わかった。」

慈刻「(歩けるようになってる。それに肉付きも心なしか良くなってる気がする……もっと小さいと思ってたが、立ち上がるとそうでもないな。齢七つ程度か。)」
慈刻「はい、水。あれから何か思い出したか?」
? 「んー、わからんない。」
慈刻「そうか。お前見た目のわりに語彙が少ないよな。文字は読めるのか。」
? 「もじ?」
慈刻「……じゃあこれ、読んでみろ。」
? 「わからんない。」
慈刻「わからない、な。これは”あ”だ。」
慈刻「(遅れ、いや単に教育されてないだけか。記憶喪失にしては質が悪い。)」
慈刻「これは?」
? 「わからない。」
慈刻「服。じゃあこれ。」
? 「みず。」
慈刻「そう、だけどそうじゃない。水が入ってるこれ。」
? 「……水がはいってるこれ。」
慈刻「器。大体分かった。村に行くから、とりあえず湯浴みして来い。やり方わかるか?」
? 「わからない。」
慈刻「だよな。こっち来い。洗ってやる。」

 


SE:足音フェードインしてきて止まる

慈刻「雨梟のじいさん。いるか。」
雨梟「おお、慈刻。なんじゃそのちっこいのは。」
慈刻「迷子だ。こいつの家知らないか。」
雨梟「さぁの……名は何という?」
慈刻「何も覚えてないらしい……いや、身振り手振りとかはわかるみたいなんだが、物の名前や地名は何も。」
雨梟「ほ~。難儀じゃの。悪いが儂は何も知らんぞ。できるのは寺院の紹介ぐらいじゃ。」
慈刻「そうか。今どこが空いてるんだ?」
雨梟「そこまでは分からん。じゃが、行ってみる価値はあるじゃろうな。一番近い北禅門寺院でよいかの?」
慈刻「ああ、頼む。」

 


慈刻「……空きがあるのに置けないって、どういうことだよ。」
僧侶「先程も申しましたように、人手が足りないのです。嬰児程度の知能ではご自身の世話もままならないでしょう。常に傍で、それこそ介護の様に見守れるほどの余裕はこの寺院にはありません。お引き取り下さい。」
慈刻「わかった。帰らせてもらう。でもその前に、こいつについて何か知っている奴はいないか。昨日より以前、こいつを見かけたとか似た人を見たとか。噂でも何でも構わない。知っていることを教えてくれ。」
僧侶「はあ、特に思い当たる節はありませんが……皆にも聞いておきましょう。何かあれば文を出します。」
慈刻「ああ。じゃあこれで。」
僧侶「……あ、そういえば。」
慈刻「何だよ。」
僧侶「一昨日のことです。此処より東南の森で赤子の声を聞きました。通り掛けだったので姿
   は見ていませんが……気の毒な身の上かも知れませんね。では。」

 


SE:足音


雨梟「おお、慈刻。戻ったか。その様子じゃと……はっは、駄目だったようじゃな。」
慈刻「分かってて行かせたのか。」
雨梟「そう睨むな。これで分かったじゃろう?拾ったものは責任を持って手元に置くか、はたまたその責任を放棄するか……二つに一つなんじゃよ。」
慈刻「育てろって言うのかよ。そんな余裕ないぞ。」
雨梟「ならば元の場所に還すが好い。それが自然じゃ。」
慈刻「……性格の悪いじじいだな。」
雨梟「はっは。なに、すぐに結論を出せとは言わん。じっくり考えることじゃ……おお、もう日没か。今日はこのまま休んでいくかの?」
慈刻「納屋借りるぞ。」
雨梟「おお、好きに使っておくれ。夕餉はどうする。」
慈刻「……いや、要らない。起きたらこいつの分だけ頼むよ。」
雨梟「なんじゃ、もう寝ておるのか。寝る子は育つぞ~はっは。」

SE:足音


SE:?を床におろす音


SE:外套を脱ぎ?にかける音


SE:慈刻が横になる音

慈刻が↑をしてる息遣いと声(※アドリブ)

慈刻「……お前、兄弟がいるのか。」
慈刻「(まだ幼い末子を背負ってこいつの手を牽くその人は、どんな心持で歩いていたんだろう。その時こいつは何を思っていたんだろう。)」

SE:腹の音

慈刻「そういえば朝から何も食べてなかったな。」
慈刻「(明日は狩りに出よう。そろそろ蕗の薹が顔を出す頃だ。肉が捕れなくても淡竹や漉油なら代わりになるだろ。それから……)」
慈刻「……。」

SE:頬つまむ音

慈刻「(やわらか。子供の頬って餅みたいだな。)」

SE:腹の音

慈刻「……寝るか。」

 


SE:鳥の鳴き声(朝)


??「……く……こく、慈刻。」
慈刻「……ん、朝か。深く眠りすぎたな。助かっ……」
??「水を飲め、慈刻。」
慈刻「うわあああああああ!」
雨梟「なんじゃ朝っぱらから喧しいのう。朝餉はできてお……おお?お主誰じゃ。」
??「え?ああ……わからない。」
雨梟「分からないって何じゃそれは。慈刻、変な輩を連れ込むのはやめんか。それより……あの小童はどこに行ったのかの。」
??「納屋。」
雨梟「納屋はここじゃが……どこにも見当たらんの。」
慈刻「……あいつだ。」
雨梟「おん?」
慈刻「そいつ、俺が拾った子供だ。たぶん。」
雨梟「おん!?そんな訳ないわい。あの小童は精々七つぐらいのもんじゃろう。」
慈刻「でも、あいつなんだろ。」
??「そう。慈刻、服ごちそうさまでした。」
慈刻「あ、ああ。そういうときはありがとうって言え。」
??「わかった。ありがとう。」
慈刻「あと、朝餉を食べてこい。母屋……あの中にある。」
??「わかった。」

SE:足音遠のく

雨梟「……なんと面妖な。あの背丈、志学程度まで成長しておる。慈刻よ、厄介なものを拾ったのう。」
慈刻「全くだ。夢なんじゃないかと疑ってる。」
雨梟「あやつ、妖の類ではないかの。これからどうするつもりじゃ。」
慈刻「さあ、どうしような。取り敢えずここから出て家に帰るが。」
雨梟「間違っても情けをかけるでないぞ。つけ入られてはたまらん。」
慈刻「化物だと分かった途端、嫌に辛辣だな。ただの病かもしれないだろ。」
雨梟「儂は老い先短いんじゃ。あやつが人間だったとて、老化促進の病などうつされたくないわい。」
慈刻「……それもそうか。」

SE:足音近づく

??「ごちそうさまでした。はい、器。」
雨梟「お、おお……満足できたなら何より。」
慈刻「家に帰る。行くぞ。」
??「わかった。雨梟のじいさん、ありがとう。」

SE:足音遠のく

雨梟「……学習しておる。あやつ何者じゃ?」

 


??「慈刻、これは食べる?」
慈刻「芹。食べれる。」
??「これは?食べれる?」
慈刻「三つ葉。食べれる。」
??「これは?」
慈刻「……食べれない。お前は食べ物じゃない。」
??「わかった。名前。これは?」
慈刻「お前の名前はわからない。お前自身覚えてないんだろ。」
??「そう、わからない。名前教えて。」
慈刻「教えろって言ったって……じゃあ”辰巳”」
辰巳「たつみ。これは名前?」
慈刻「本当の名前じゃない。でも辰巳はお前のことだ。」
辰巳「辰巳。辰巳は辰巳。慈刻、これは?」
慈刻「これは……蕗の薹だ。よく見つけたな。これと同じやつ探してくれ。」
辰巳「わかった……慈刻。蕗の薹。」
慈刻「その調子だ。こうやって採ってくれ。三つ葉と芹も。」
慈刻「(まさかここまで物覚えがいいとは。教えれば大抵のことはできそうだな。案外役に立つかもしれない。)」


SE:足音繰り返し


慈刻「……だいぶ集まったな。」
辰巳「これ今日食べる?朝餉?」
慈刻「今日の夕餉と明日の朝餉だ。久々に豪華な山菜料理が……」

SE:草の揺れる音

慈刻「止まれっ……狼だ。クソッ、猟銃のない時に。今日の鍋にしてやりたかったな。」
辰巳「……っ。」
慈刻「ここは大人しく逃げるぞ。おい、辰巳。どうした。」
辰巳「ぃ……あ……。」
慈刻「辰巳……っこっちだ。」

SE:駆け出す音
SE:遠くから走ってくる音

慈刻「……上手く撒けたな。」
辰巳「はぁ、はぁ……。」

SE:膝から崩れ落ちる音

慈刻「おい、しっかりしろ。どうしたんだ。」
辰巳「……お、狼。」
慈刻「なんだ、狼が怖かったのか。大丈夫だ。あいつらはここには来ない。……そこで待ってろ。夕餉の準備をしてくる。」
辰巳「……わかった。」

BGM:パチパチと火の鳴る音

慈刻「……何か思い出したのか。」
辰巳「わからない。でも、狼怖かった。」
慈刻「そうか。飯できたぞ。」
辰巳「ありがとう。」

しばらくBGM聴かせる

慈刻「寝てる間、何か見たりしたか。」
辰巳「……水、見た。納屋ぐらいの水。芹も。」
慈刻「山の中か。」
辰巳「たぶん。」
慈刻「(朝にはきっと、辰巳は成長している。何か思い出すかもしれない。)」
慈刻「食べ終わったら今日は早めに寝ろよ。疲れをとらないといけない。」
辰巳「明日も山行く?」
慈刻「そうだな。どうしたら狼が怖くなくなるか教えてやる。」
辰巳「!ありがとう。……蕗の薹、三つ葉、ありがとう。」
慈刻「そういう時は”おいしい”って言うんだよ。」
辰巳「おいしい。これおいしい。」
慈刻「よかったな。」

BGM:フェードアウト

 


SE:鳥の鳴き声(朝)

慈刻「……これはまた。随分大きくなったな。」
辰巳「朝餉食べる。」
慈刻「ああ、ちょっと待ってろ。」
慈刻「(丈は俺とそう変わらないな。齢は弱冠ってところか。これなら銃も扱えるだろ。)」

 


慈刻「よし、昨日の狼を狩るぞ。」
辰巳「狩る?」
慈刻「どうしたら狼が怖くなくなるか教えてやると言っただろ。こいつを使う。」
辰巳「これ、慈刻の家で見た。」
慈刻「銃だ。こうやって構えて、引き金を引くと先端から弾が飛んでいく。弾には即効性の麻酔薬が塗り込んであるから、撃たれるとすぐに動けなくなる。襲ってこなければ怖くないだろ。」
辰巳「怖くない……っ!」
慈刻「いたな。下がってろ。すぐ終わる。」

SE:発砲音

辰巳「……。」
慈刻「やったな。ゆっくり近づくぞ。」
辰巳「……寝てる。」
慈刻「ああ、起きる前に〆るぞ。こいつが今日の夕餉だ。」
辰巳「〆ると起きない。」
慈刻「起きないな。永遠に。これなら怖くないだろ。」
辰巳「狼、怖くない。」
慈刻「ん、あっちにもいるな。群れの仲間というより子供か。」

SE:発砲音

慈刻「狼は群れで移動する。まだ近くにいるかもしれないな。」
辰巳「狼じゃない。狼もっと大きい。」
慈刻「お前と同じで狼にも小さい時ってのがあるんだよ。でもこいつは……確かに狐だな。」
辰巳「狐?」
慈刻「よく見てみろ。毛の色も、体格も違うだろ。狼はもっと……ごつい。あと犬っぽい。」
辰巳「狐……きつ、ね……!」
辰巳「……これ、食べる?」
慈刻「臭いがきついから食べないが、毛皮は使えるな。こいつも〆るか。」

(辰巳「〆ると起きない。」)
(慈刻「起きないな。永遠に。これなら怖くないだろ。」)

辰巳「……ぁ、っ!」
慈刻「おい辰巳、どうした。」
辰巳「!」(SE:辰巳走り去る音)
慈刻「待て。まだこの辺りに狼が……クソッ、待て!」

SE:走って追いかける音

 


BGM:パチパチと火の鳴る音フェードイン


慈刻「……どうしたんだあいつは。」
慈刻「(何か思い出したんだろうが、あの気の動転しようは異常だな。正気に戻れば帰り道ぐらいはわかるだろうが。)」
慈刻「……生きているとは限らないか。」
慈刻「(あいつは、辰巳は何だったんだろう。どうして俺は。)」
慈刻「……寝よう。今は少しでも体を休めないとな。」

BGM:パチパチと火の鳴る音フェードアウト

 


SE:発砲音

慈刻「!……辰巳、何してんだ。」
辰巳「寝て。起きる前に〆る。」
慈刻「そういうことじゃねぇよ。なんでお前が俺を殺す必要がある。」
辰巳「わからない。怖くて。でも慈刻と狼が同じはもっとすごく怖くて。食べるなら、慈刻食べないと。怖い。」
慈刻「何言って……」
辰巳「思い出した。狼が辰巳と同じ、狐を食べてた。でも辰巳逃げれなくて。怖くて、痛かった。慈刻は狐を食べない。でも〆る。毛皮を使う。辰巳はそれが怖い。辰巳と同じを〆る慈刻が、怖い。だから辰巳が慈刻を」
慈刻「辰巳、お前」
辰巳「ありがとう慈刻。三つ葉おいしかった。名前も教えてくれた。ありがとう。ありが」

SE:発砲音

慈刻「……はっ、はぁ……はぁ……は……っ。」

 


SE:鳥の鳴き声(朝)


雨梟「言わんこっちゃない。生きていただけ儲けものじゃな。それで仕留められたのかの?」
慈刻「いや、あいつは死んでない。抜け殻みたいに、皮だけを残してあいつは消えた。」
雨梟「不気味じゃな。報復には重々注意するのじゃぞ。」
慈刻「わかってる。」
慈刻「(わかってる。もし次に会うときがあれば、それはもう辰巳じゃない。辰巳はあの時俺が……)」
曹爽「雨梟じい、いるかい?」
雨梟「おお、曹爽。どうしたんじゃ。」
曹爽「実は子供を拾ってね。こいつの家、知らないかい?」
雨梟「いつぞやに聞いたような話じゃな。どれ小童……な。」
曹爽「何か知ってるのかい?」
雨梟「知っとるも何も、そやつは……」
慈刻「(……ああ、よく知っている。こいつが何者で、この後どう成長し、果てに何を行うかを、俺は知っている。だから。)」
慈刻「曹爽、そいつは俺が預かる。」
雨梟「慈刻。」
曹爽「何だ、慈刻の知り合いかい?なら話は早いよ。こいつ森の中でうずくまってたんだ。家まで届けてやってくれ。」
慈刻「ああ、後は任せてくれ。俺が責任を持って」
雨梟「慈刻!」
慈刻「心配するな。こいつがあれば道中も安泰だろ。」
曹爽「そうだよ。じいだって慈刻の実力は知ってるだろ?狼なんて目じゃないさ。」
雨梟「しかし……。」
慈刻「さて、善は急げだ。出発するぞ小童。」
? 「たつみ。」
慈刻「……は。」
? 「たつみ。」
慈刻「……そうか。」
曹爽「じゃあ任せたよ。気を付けて!」
慈刻「ああ、行ってくる。」
慈刻「行くぞたつみ。お前をあるべき場所へ送ってやる。」

 

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