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​語り種

登場人物:4人 (男:1人 不問:3)

・嵐(あらし)   :不問

・春原(すのはら) :男性

・月狐(げっこ)  :不問

・青鴉(せいあ)  :不問

SE:歩く音

嵐 「解、放、された~!これでしばらく勉強とはおさらばだな!」
春原「赤点は回避できたのか?」
嵐 「もうばっちり!自己採で50点は取れてる。」
春原「珍しいな。勉強したのか。」
嵐 「せざるを得なかったんだよ。暇すぎて。遊ぼうぜ~って誘っても”勉強するから無理”って断り続けたのはお前だろ?」
春原「そんなに遊びたいなら他のやつ誘えばいいのに。」
嵐 「ぐっ…それは……んむむ。」
春原「?ああ、そっかお前…」
嵐 「言うなわかってるから!それより、パーッと遊びに行こうぜ!あそことかどうだ?駅前に新しくできた」
春原「悪い、この後用事あるから無理だ。」
嵐 「えー!なんだよ付き合い悪いな。」
春原「どうしても外せないんだよ。また今度な。」
嵐 「ちぇ。わかったよ。絶対埋め合わせしろよな!忘れんなよ!」
春原「ああ、じゃあな。」

SE:歩く音遠のく

嵐 「……はぁ。」
嵐 「(暇になっちまった。帰ってゲームしてもいいけど……うーん。仕方ない。)」
嵐 「あいつのところ、行くか。」

 

 


嵐 「おーい、月狐。」
嵐 「(……寝てるのか?)」
嵐 「月狐、俺だ。嵐だ。…入るぞ。」

SE:襖を開ける音

青鴉「…あ?」
嵐 「あ、どうも。」
青鴉「坊主。何の用だ。」
嵐 「月狐に会いに来た。ってかいるなら返事しろよ。」
青鴉「俺も客なんでな。対応する義理はない。」
嵐 「あっそ。…ん?うわ月狐!なんでそんなとこで寝てるんだよ!」
青鴉「あ?他人様の膝をそんなとこ呼ばわりとはいい度胸だな小僧。」
嵐 「なんだ、やるか?」
青鴉「はっ。人の子如きが俺に敵うとでも?寝言は寝て言うんだな。」
嵐 「はぁ!?身動きの取れない鳥目野郎に喧嘩で負けるわけ…」
月狐「静かにせんか。馬鹿者ども。」
青鴉「な。」
嵐 「月狐!」
月狐「あまりの喧しさに目が覚めてしもうたわ。ふわああ……青鴉、茶を。客人はつべこべ言わずもてなせ。」
青鴉「俺も一応客だが?」
月狐「して、何の用じゃ。嵐よ。」
青鴉「無視かよ。」
嵐 「暇だから遊びに来た。なんか話そうぜ。」
月狐「よいぞ。そうじゃな…近頃目を引いたもの、はどうじゃ。」
嵐 「目を引いた…あ、駅前に新しくカラオケ屋ができたんだけど…そもそもカラオケ、知ってるか?」
月狐「からおけ。なんじゃそれは。」
嵐 「部屋の中で音楽をかけて歌うんだ。マイク…あー、声を大きくする機械を使って、歌手みたいに歌える、ってやつ。」
月狐「ああ!昔、往来で見かけたことがある。そやつは弦楽器を片手に歌を歌っておった。」
嵐 「それはたぶん違う。確かに路上で歌う人もいるっちゃいるけど…一般人はマイクなんか持ってねーし、そもそも人前で歌ったりしねーよ。…あ、どうも。」

SE:茶を注ぐ音
SE:湯呑をテーブルに置く音

月狐「青鴉、からおけを知っておるか。わしは今知った。」
青鴉「なんだ、行きたいのか。」
月狐「うむ。どうじゃ嵐、共にゆかぬか。」
嵐 「え、それは……無理。」
月狐「なぜじゃ。」
嵐 「だって、お前ら普通の人間には見えないだろ!俺が一人で盛り上がってる変な奴みたいになるから嫌だ!」
月狐「おん、部屋を覗いてくる不届きものでもおるのか?ならば目を潰そう。歌を聴かれたくないなら鼓膜を…いや、それも面倒じゃな。周りの人間をまとめて食らえばよいかの?」
嵐 「いいわけないだろ!あーもう、これだから妖怪は…。」
月狐「?どうしろというのじゃ。」
嵐 「とにかくお前らとは行かない!ハイこの話終わり!」
月狐「む…なぜへそを曲げる。話さなければ伝わらんぞ。」
嵐 「あのなぁ、お前らとは感覚が違うんだよ!人間の常識を身に着けてから出直せ!」
月狐「ならば人の子と行けばよい。感覚とやらが合うのじゃろう?」
嵐 「なっ…それは……。」
青鴉「……。」
月狐「どうした。行く相手がおらんのか。」
嵐 「い、いるに決まってんだろ!バーカ!無神経!」

SE:走り去る音

月狐「…人の心は複雑怪奇よの。」
青鴉「はっ。言えた口か?貴様も友達いないだろう。」
月狐「友達…一体何を以って、友と呼ぶのじゃろう。」
青鴉「さあ。少なくとも、情を持っていれば赤の他人ではないだろうな。」
月狐「ふむ…わしは青鴉の友達か?」
青鴉「は?本人に聞くか普通。」
月狐「友達か?」
青鴉「……あの坊主は。貴様に懐いているだろう。」
月狐「あやつは…ただの暇つぶしじゃ。我ら妖と人の子では生きる時間が違いすぎる。情など持たぬ方が良い。」
青鴉「(気に入ってるくせに。不器用だなこいつ。)」
青鴉「そのうち愛想つかされるぞ。」
月狐「…さてな。」

 

 


SE:チャイムの音

嵐 「なんだよ話って。埋め合わせの件か?」
春原「それもあるんだけど。なんか、ずっと隠してるのきついなって思って。」
嵐 「?」
春原「あのさ、俺……彼女できた。」
嵐 「…え、え?ええええええええええ!?いつの間に?いつから?」
春原「先週。」
嵐 「せ、先週?でも勉強してたって…はっ!まさかお前…」
春原「違う違う。嘘じゃない。彼女に勉強教えてたんだ。」
嵐 「ああ、そうか……春原に彼女。おお、まじかよ。」
春原「まじ。彼女優先したいから遊びに行く頻度減ると思う。」
嵐 「そ、うだな。うん。」
春原「あと、放課後は彼女の部活終わるまで待ってることにしたから。先に帰っていいよ。」
嵐 「…うん。」
春原「でさ、埋め合わせの件なんだけど。お前が言ってたのって駅前の……嵐、どうした?」
嵐 「あ、いや、その……ハ、ハハハ~!オシアワセニナ!ハハハハ!ハハ……ハ……。」
春原「え、ああ、ありがとう…?」

 

 


嵐 「(…彼女。カノジョ。かのじょ。)」
嵐 「……う。うわああああああ!!!!なんだよ彼女って抜け駆けしやがってこのやろー!!!!」
青鴉「はっ。荒れてるな。」
嵐 「お前っ!……何の用だよ。」
青鴉「見てたぞ。人間の友情ってのはあっけないもんだな。」
嵐 「なっ、うるせぇよ!お前に関係ないだろ!」
青鴉「ああ、関係ないな。だから笑いに来た。」
嵐 「こいつ…!」
青鴉「落ち着け、用はそれだけじゃない…そら、おつかいだ。これを月狐のところに持っていけ。」
嵐 「は?自分で行けばいいだろ。今はあいつの顔見たくないんだよ。」
青鴉「急な仕事でな。こいつが無駄になるのももったいないだろ。」
嵐 「別にそれくらい……え、これめっちゃ高いやつじゃん。いつも行列の。」
青鴉「届けたらおこぼれがもらえるかも知れないな。そういうことだ。じゃあな。」
嵐 「あ、おい!……仕方ねーな。」

 

 


SE:襖を開ける音

月狐「…嵐。」
嵐 「お届け物。あの黒いやつから。」
月狐「そうか。ありがとう。」
嵐 「それじゃ。」
月狐「待て。褒美に食っていくといい。一人では有り余る。」
嵐 「…うん。」

月狐「今日は何があった。」
嵐 「……友達に彼女ができてた。」
月狐「思ひ人か。よいのう。」
嵐 「よくない。彼女優先するから遊べないし、放課後は彼女送っていくから一人で帰れって…なんだよそれ!仕方ないけど納得いかねー!」
月狐「んふ、ぬははは!」
嵐 「面白がってんじゃねーよ!」」
月狐「ははは!はぁ、ふぅ。すまぬ。おぬし、思いのほか独占欲が強いのう。」
嵐 「はぁ?そんなこと…普通だこれぐらい。」
月狐「うむ。まだ童じゃったな。忘れておったわ。」
嵐 「子供扱いすんな!なんだよ、くそっ…話すんじゃなかった。」
月狐「すまぬ。浮いた話なぞ永く聞いていなかったものでな。舞い上がってしもうた。気を損ねたか?」
嵐 「もぐもぐ…別に。」
月狐「おぬしの話はいつも愉快じゃ。もっと人と触れ合い、楽しめ。そして聞かせよ。」
嵐 「なんでだよ。それじゃお前に話すために生きてるみたいだろ。」
月狐「よいではないか。人の生など一瞬じゃ。謳歌しろ。」
嵐 「は?謳歌してたらこんなとこ…あ。」
月狐「…おぬしにとって、我らは人の子の代替品か?」
嵐 「や…そういうつもりじゃなくて、その……」
月狐「…いや、今のはわしが悪かった。すまぬ。もうじき夜になるな。早う帰れ。」
嵐 「うん……あのさ。」
月狐「うむ?」
嵐 「また面白い話、できたら来てやるよ。だから次は、お前の話も聞かせろよな。それならフェアだろ。」
月狐「…そうじゃな。茶菓子のついでに用意しておこう。」

 

 


嵐 「なあ、直近で暇な日ある?」
春原「明後日なら。この間言ってたやつ…カラオケだよな?駅前にできたっていう。」
嵐 「うん。何人か呼んで行けたらって思ったんだよ…みんなでわいわい、みたいな。でも俺友達いないからさ。」
春原「それなら、何人か声かけようか。」
嵐 「まじで?助かる!お前が誘う方が人来てくれるだろうし。」
春原「そんなことないだろ。ああ、あいつに言っておかないとな。」
嵐 「彼女も呼べば?お前が一緒なら来るんじゃねーの。」
春原「でも…いいのか?」
嵐 「もちろん。あ、でもあんまりイチャコラするなよ?むかつくから。」
春原「はは。しねぇよ。」

 

 


月狐「ふん、ふふん。ふん~ふん。」
青鴉「上機嫌だな。」
月狐「あの甘味、なかなか美味かったぞ。また買うてこい。」
青鴉「何のことだ。」
月狐「文まで添えておいて何を言う。これはおぬしの筆跡じゃろう。」
青鴉「ただのメッセージカードだろ。」
月狐「まめよのぉ。お節介で心優しい、よい奴じゃ。」
青鴉「は?湧いてるのか貴様。」
月狐「んふふ…よい話題ができたな。書き留めておくとしよう。」
青鴉「なんだそれ。日記か?」
月狐「語り種じゃ。なに、ただの暇つぶしよ。」

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