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罪喰いEpisode_IV

登場人物:6人(兼ね役有)(男:2人 不問:4)

・シン:男性
・オーム:男性
・テッド:不問
・ウィル:不問
・村人 :不問
・騎士長:不問

SE:足音

シン 「……森か。」
シン 「(ここを超えればA国のはず。日没までに抜けないとまずいな。)」

SE:足音(暫くループ)
BGM:木々のざわめき(暫くループ)

SE:遠くで銃声(フェードイン。セリフの後ろでも鳴らす)

シン 「(銃声?狩りでもしているのか。それにしては多い気が……)」

SE:銃声

シン 「!?」
テッド「止まれ!……お前何者だ。A国の兵か。」
シン 「は。いや、違うが……お前こそ誰だ。なぜ銃口を向ける。」
テッド「黙れ!どうせA国が送ってきたスパイだろ。ここで返り討ちにしてやる。」
シン 「話を聞け、俺はただの旅人だ。武器も持っていない。」
テッド「嘘だ。そう言ってまた俺たちを連れて行こうとするんだろ。言うこと聞かなきゃ力でねじ伏せられて……もうそんなのは御免なんだよ!」
シン 「!」

SE:銃声

テッド「な……。」
シン 「……外れた、のか。」
テッド「なにすんだよジジイ!もうちょっとで」
オーム「むやみに殺生をするでない。失礼しました、東洋のお方。失礼ついでに、もう一つ無礼を。失礼しますぞ。」

SE:縄で縛る音

シン 「な、おい、やめろ。何を」
オーム「話は村でゆっくりと。あまり抵抗はしないでくだされ。じじいゆえ、手元が狂ってしまいます。」

 


オーム「重ね重ね失礼を。私はオーム。この村で長をしております。この子はテッド。」
シン 「……なぜ俺は椅子に縛り付けられているんだ。」
テッド「名前を言え。どうしてここに来た。」
シン 「俺はシン、旅人だ。A国に用があって来た。」
テッド「何の用だ。まさか鉄道の」
オーム「テッド。外で少し待っておれ。よいな。」
テッド「……ちっ。」
シン 「こんな小さな集落があったんだな。」
オーム「ええ、地図にも載っていない小さな村です。足止めをして申し訳ない。」
シン 「さっきの銃声はなんだ。鉄道と関係があるのか。」
オーム「随分と勘のいい。やはりA国と繋がりがあるのですか。」
シン 「いや。巻き込まれたからには知る権利ぐらいあるだろうと思っただけだ。」
オーム「であれば、あなたの正体も明かして頂きたい。我々にも知る権利はあるでしょう?」
シン 「……罪喰い。故人の罪を喰らい、引き受ける存在だ。人口の多いA国へ仕事を探しに来たが……正直、場所はどこでもいい。食い物と寝床があればそれで。」
オーム「捕虜の立場を甘んじて受け入れると。面白い人じゃ!フォッフォ!……しばらくしたらまた来ます。それまで大人しくしていてくだされ。」
シン 「おい、質問に答えろ。じいさん。」
オーム「フォッフォッフォ。」
シン 「……とんだ狸だな。」
シン 「(捕虜なら殺されはしないだろうが、面倒だな。早く出て行きたい……。)」
テッド「おい、お前。」
シン 「さっきの、テッドだったか。何の用だ。」
テッド「見張りと尋問。答えなかったら死なない程度に殺すから。」
シン 「……ああ、わかった。」
テッド「まず一つ目、食えないもの、ある?」
シン 「……は。」
テッド「食えないものあるかって聞いてんだよ。耳遠いの?」
シン 「特に何も……ゲテモノでなければ食べるが。何故だ?」
テッド「よそ者は、ここの食事が体に合わない奴も多いから。吐かれても面倒だし。」
シン 「俺以外にもよそ者がいるのか。」
テッド「……うるさい。次、持病もしくは治療中の病気は?」
シン 「ない。」
テッド「手先は器用?」
シン 「どちらかというと不器用だ。」
テッド「力仕事は?」
シン 「あまり得意じゃない。」
テッド「つかえなっ。何ができんの。」
シン 「故人の罪を喰らい」
テッド「聞いてたから知ってる。他に何かないのかよ。」
シン 「……旅の中で色々なものを見てきた。俺にはそれしかない。」
テッド「(知識がある、ってわけじゃなさそうだな。ただの思い出話か。)」
テッド「なんで旅してるんだよ。家とかあった方が楽だろ、色々。」
シン 「……。」

   (「あんたみたいな下男、一日家に置いておくだけで周りから白い目で見られちまう。わかったらとっとと失せな。」)
   (「そんなにポンポン知り合いが死んでしまったらやってられないよ。この時期だし、そのあたり歩いてたら仕事が見つかるんじゃないかな。」)

シン 「さあな。」
テッド「は?なんだそれ。まあいい、次は……」

 


シン 「尋問は終わりか。」
テッド「疲れた。お前ほんとに何も知らないんだな。」
シン 「ああ、このあたりには詳しくない。鉄道を敷いているのか。」
テッド「敷こうとしてるのはA国だ。俺らは反対してる。あいつらは村を潰して、更地にしようとしてるんだよ。」
シン 「村を潰して……住民はどうするんだ。」
テッド「A国で働けって。誰が従うかよそんなもん。俺たちはここから出るわけにはいかないってのに。」
シン 「出るわけにはいかない?一体どういう……」
オーム「失礼しますぞ。おや、まだ尋問中でしたかな。」
テッド「終わったよ。疲れたから交代。」
オーム「楽しそうに喋っておったのに、よいのかの?」
テッド「俺は忙しいんだよ!クソジジイ!」
オーム「……まったく、口が悪くて困りますなぁ。誰に似てしまったのやら。」
シン 「こんな状況じゃ心も荒むだろう。」
オーム「それもそうですなぁ、フォッフォ。気分転換に少し、散歩なぞどうですか。縄付きのままで恐縮ですが、案内しましょう。」

 


テッド「ウィル。悪い、遅れた。野暮用があって。」
ウィル「テッド!ううん、いいんだ。テッドは村を守る兵士だからね。」
テッド「そんなんじゃないけど……これ頼まれてたやつ。何に使うんだ?」
ウィル「遊ぶんだよ。端の線に沿って木を置いて。小さい方ね。」
テッド「いつの間にこんな線ひいたんだよ……このでかいやつは?」
ウィル「それは真ん中の線の中心に置くんだ。テッドはあっちから僕の目の前にある木に目がけて、この棒を投げて。僕は逆に、テッドの前にある木に向かって投げるから。交代交代に投げていって、相手の木を全部倒せたら、中央の木を狙うことができるんだ。先にこれを倒せた方が勝ち。簡単でしょ?」
テッド「投擲勝負ってことか。やるからには負けねーぞ?」
ウィル「そう来なくっちゃ!じゃあ、僕から投げるね。えい!」
テッド「上手いな。俺も……おらぁ!っしゃあ!二本獲り!」
ウィル「え、ずるい!僕だって……おりゃー!」
テッド「外してんじゃねーか!っはははは!」
ウィル「わ、笑うなよー!もー……えへへ。」

 


オーム「ここがかつて最前線だった場所です。今は停戦していますが、交渉と称して度々A国の兵が訪れます。」
シン 「A国に降伏すると不都合でもあるのか。移住を受け入れる程度には温情があるんだろう。」
オーム「テッドから聞きましたか。その通り、A国は何も、我々を皆殺しや奴隷として徴用しようとしているわけではありません。ですがね、応じるわけにはいかんのですよ。我々には守らなければならないものがある。」
シン 「この村か。行き過ぎた愛国心は身を滅ぼすぞ。」
オーム「どのみち滅びるのですよ。A国だけではない、どこか他所へ行けば皆狂ってしまう。我々はね、この村でしか生きられない命なのです。」

 


ウィル「負けた……テッド強すぎだよ。」
テッド「当然、温室育ちに俺が負けるわけないだろ。」
ウィル「うぐ、そうだよね。僕も力つけないとなぁ。」
テッド「力っていうか、タイミングだな。投げるとき、手を離すタイミングがいつもバラバラだから運任せになってるんだよ。」
ウィル「すごいね、テッド。遊びながら僕の分析してたなんて。父様もみんなも、そんなこと教えてくれなかったよ。」
テッド「別に、目についただけ。楽しかったからまたやろうな、この……なんて名前なんだこの遊び。」
ウィル「クッブだよ。北の国に行ったとき、現地の子に教えてもらったんだ。」
テッド「まじでいろんなところ行ってるな。この間は確か、東の国の遊びだったろ。」
ウィル「連れまわされてたからね。大変だったけど、楽しかったよ。」
テッド「いいな、なんか。」
ウィル「テッドもさ、いつか一緒に行こうよ。世界は広くて、目まぐるしくて、でもワクワクするんだ。」
テッド「……考えとく。夕飯の仕込みあるから、またな。」
ウィル「うん。行ってらっしゃい。」

SE:足音

(ウィル「テッドもさ、いつか一緒に行こうよ。」)


テッド「……ごめん、ウィル。」

 


シン 「この村でしか生きられない?それはどういう……」
村人 「村長!オーム村長!」
オーム「おぉん、どうした。」
村人 「大変なんです!またA国のやつらが!」

オーム「サラサ、パウロ、モンド。三人同時に連れ去られたということで間違いないかの?」
村人 「村中どこを探しても見つからないんです。A国のやつら、また……!」
オーム「ふむ…今日はもう遅い、また明日探すとしよう。憎んでもあやつらは帰ってこん。」
シン 「……。」
オーム「まずは飯の支度じゃ。腹が空いてはいい案も浮かばぬ。皆は持ち場に戻れ。しばらくは大人数で行動し、一人にならぬよう心掛けよ。」

SE:村人たちが去っていく足音

オーム「……何か言いたげな顔をしておりますな。」
シン 「別に。あんたらの事情に口を出すつもりはない。」
オーム「そうですか。では、部屋に戻りましょう。食事は後ほどお持ちします。」

 


シン 「……なんでお前がいるんだ。」
テッド「見張りだ。」
オーム「一人では退屈でしょう。どうぞごゆっくり。」
テッド「……ちっ。」
シン 「嫌なら帰っていいぞ。」
テッド「どうせ空いた器回収するの俺だからいい。」
シン 「……お前もA国の仕業だと思っているのか。」
テッド「は?何が。」
シン 「さっきの、3人いなくなった件だ。」
テッド「そりゃそうだろ。他に誰があんなことするんだよ。」
シン 「自らA国に亡命した可能性はないのか。」
テッド「それはない。お前はよそ者だからわかんないだろうけど、俺たちはこの村を捨てて出て行ったりしない。」
シン 「出て行くとどうなる。死ぬのか。」
テッド「お前に話すことじゃない。いいから黙って食えよ。」
シン 「……苦い。これはなんだ。」
テッド「見ればわかるだろ。山菜のスープだよ。文句言うならよこせ。」
シン 「いや、頂く……もし死人が出るなら、俺にも関係はある。」
テッド「罪喰いだっけ。故人の罪を喰らう?聖人気取りかよ。」
シン 「そんな崇高なもんじゃない。後から食費や宿代を請求されたら面倒なだけだ。」
テッド「……残念だけど、お前の仕事はないよ。あと、捕虜に宿代を請求するほど俺たちは外道じゃない。」
シン 「そうか。ならいい。」

 


SE:鳥のさえずり。朝。


テッド「入るぞ。朝飯だ。食べ終わったら適当に……どうした。」
シン 「昨日の晩飯……何か盛っただろ……。」
テッド「そんなわけあるか。体に合わなかっただけだろ。」
シン 「……。」
テッド「とりあえずパンだけ食べろ。これで具合悪くなるなら今度はスープだけな。」
シン 「ああ……水はあるか。」
テッド「あるけど……まさかお前、水にあたってるとか言わないよな。だとしたら貧弱すぎるぞ。」
シン 「貧弱でいい……ゔっ。」
テッド「死ぬ前に見張りに言えよ。薬ぐらいならあるから。じゃあな。」
シン 「くそ……。」
シン 「(早く出て行きたい……。)」

 


テッド「入るぞ。」
ウィル「テッド!おはよう。今日はなにして遊ぶ?」
テッド「悪い、しばらく遊べそうにないんだ。これ、朝飯。食べ終わったらそのへんに置いといて。」
ウィル「そっか……お仕事頑張ってね。」
テッド「ああ。じゃあな。」
ウィル「……テッド!あのさ、まだ外は危ないの?最近、テッド以外の人に会えてないんだ。村のみんなは、大丈夫なの?」
テッド「お前は心配しなくていい。安全になったらまたみんなで遊ぼう、な。」
ウィル「……うん、わかった。無理しないでね。」
テッド「ああ。」
ウィル「(ここに来てからどれぐらいたったんだろう。戦争が起こって家に帰れなくなって。お母様、お父様、姉様、ベネット……みんな元気にしてるかな。)」
ウィル「いつになったら、おうちに帰れるんだろう。」

 


ウィル「(それからしばらくの間、テッドは僕の部屋に来なかった。代わりに他の人が来て伸びていた髪を切ってくれた。久々に会えたのは嬉しかったけど、なんだか心がざわざわした。)」

 


SE:鳥のさえずり


オーム「朝早くにお呼びだてして申し訳ありません。応じて頂けて助かりました。」
騎士長「停戦中とはいえ、こんな国境付近まで迎えに来られたら応じないわけにはいかないでしょう。いよいよ受け入れる気になってくださりましたか。」
オーム「フォッフォ。まさかそんな。四日ほど前、三人の村人が行方不明になりました。連日捜索を試みましたが村内では見つからず、また帰ってきた形跡もありませぬ。心当たりはありませんかな。」
騎士長「我々騎士団を疑っているのですか。」
オーム「そのような声もあります。しかし、咎めているわけではないのです。そちらにいるのでしたら、三人をお返しください。取り返しのつかなくなる前に、早く。」
騎士長「……それはできません。」
オーム「そうですか。残念ですな。では……連れて来なさい。」

SE:足音

騎士長「!?黒髪の青年……!」
シン 「……。」
オーム「東洋の出のお方です。お仕事で世界中を飛び回っているとか。現在は我々の村に滞在しておられます。」
騎士長「それがどうしました。」
オーム「あなたがたA国は東の国と親交が厚いでしょう。その領土内で東洋人の死体が上がったとなれば、大きな問題になるのではないですか?」
騎士長「貴様……!」
シン 「(こいつ……!)」
オーム「さあ、三人を返してくだされ。応じて頂ければ、手荒な真似はしませぬ。」
騎士長「……連れて来ましょう。しかし、帰るかどうかは本人が決めることです。」
オーム「ええ、それで構いません。」

シン 「……おい、どういうことだ。」
オーム「ああ、申し訳ありません。交渉の材料にするなど、失礼でしたなぁ。」
シン 「本気で俺を殺すつもりか。」
オーム「まさか。しかし、戦争とはこういうものでしょう。このような戦い方をするほか我々に勝ちはないのです。」
騎士長「お待たせしました。」
オーム「おお、三人とも生きておったか。さあ、帰って来なさい。」
シン 「おい、これは……。」
オーム「サラサ、パウロ、モンド。どうした、こちらに……」
騎士長「昨晩からこの調子です。錯乱状態になり、暴れ、ひとしきり叫んだあとこのように……医者に調べさせましたが、原因はわかりませんでした。」
オーム「そうか、動けないか。ならば手を引こう。ほらこちらじゃ。ゆっくりでよい。」
騎士長「我々は何もしていないのです。彼らが日に日におかしくなって」
オーム「ええ、わかっています。少し時間がかかりすぎてしまったのでしょう。村を出たものは皆こうなる定めなのです。」
騎士長「そんな、特定の土地を出ただけで廃人になるなどあるわけがないでしょう。」
オーム「これが事実です。もうお引き取り下さい。」
騎士長「嫌です。調査を、村の調査をさせてください。我々はこの村を知らな過ぎている。話せることは全て話してください。わからないなら我々も共に考えます。」
オーム「お引き取り下さい。お互い干渉せず、ただ平穏に生きられればそれでよいのです。」
騎士長「それができないからこうして歩み寄っているんです!もうじきに鉄道の敷設作業が強行されます。我らが王は、貴殿らを土地ごと灰にするつもりであられる。我々騎士団は、できることなら貴殿らを救いたいのです!どうか手を」
オーム「くどいと言っているのです。武力で制するならば、それも受け入れましょう。ただしそれ相応の対処は致しますゆえ。ゆくぞ。」

 


SE:足音


テッド「……飯、今日はここで食う。」
シン 「俺が死んだら困るからか。」
テッド「それもあるけど……さすがに今日のは、悪かった。」
シン 「なんで謝るんだ。出会い頭に殺そうとしただろ。」
テッド「あれは敵だと思ったから反射的に……勝手に巻き込んで、命まで奪われたらたまったもんじゃないだろ。」
シン 「そう思うなら早く解放してくれ。まともな飯が食いたい。」
テッド「お前が貧弱なのが悪い!俺だってお前の世話はもう飽きたよ。」
シン 「……おい、なんだそれは。」
テッド「え?何って……この粉?調味料だけど。」
シン 「違……くはないが、その横にあるのは何だ。」
テッド「種。これすりつぶして調味料にするんだよ。この辺によく生えてる植物で、食い物にも薬にもなる便利なやつだ。」
シン 「それは……ケシだろう。」
テッド「ケシ。初めて聞いた。有名なのか?」
シン 「……いや。飯はいい、寝る。」
テッド「は、もったいな……おいマジで寝るのかよ!はぁ……飯、片付けるからな。腹減っても我慢しろよ。」

SE:足音

シン 「(ケシ、つまるところ中毒性のある麻薬だ。村人たちが無気力になって帰ってきた原因はこれだろう。このままここに留まるわけにはいかない。だがどうやって…)」

 


SE:足音


騎士長「……あ、起きましたね。静かに。貴殿を保護しにきました。」
シン 「昼間の……なぜここに。」
騎士長「潜り込みました。帰って来た三人の世話で人手が足りないのでしょう、あってないような警備でした。よいしょ。」
シン 「おい、なぜ担ぐ。」
騎士長「昼間の様子を見るに、自力で逃げる力がないのでしょう?落ちないように頑張って掴まっていてください。ひとまず安全なところまで走ります。」
シン 「見張りがいただろう。」
騎士長「ぐっすり寝てますよ。気絶、とも言いますが。」
シン 「……領土侵犯じゃないのか。」
騎士長「貴殿さえ保護できればあとは一掃しても構わない、との命を受けました。納得はしていませんがね。」
シン 「……この村は放っておいた方がいい。」
騎士長「どういう意味ですか?」
シン 「その安全なところとやらで飯が出るなら話す。」
騎士長「強かな方ですね。いいでしょう、全力でお守りします。」

SE:走り去る音

SE:足音

テッド「おい、もう交代の時間すぎてるぞ。何して……な、なんで寝てんだよ!おい起きろ!
    シン、おい居るか?シン!……嘘だろ。」

 


騎士長「こんな離れですみません。どうぞ。」
シン 「十分贅沢な部屋だ。頂く。」
騎士長「……それで、放っておいた方がいいというのは?」
シン 「村の人間は日常的にケシを摂取している…当人たちは気づいていないようだがな。」
騎士長「なるほど合点がいきました。それならば尚更、適切な治療を行わないと。」
シン 「無駄だ。あいつらはあの村でしか生きられないと言っていた。おそらく、それが村のしきたりか何かだと勘違いしているんだろう。」
騎士長「その洗脳を解けばいい!そのための治療でしょう?」
シン 「嫌がる患者を治療してどうする。お前はお前の正義感のために、村人を苦しめたいのか。」
騎士長「……そうですね。すみません。ですが、我々も彼らを殺したくはないんです……真実を伝えれば、分かってくれるのではないでしょうか。我々騎士団の言葉では届かなくとも、貴殿であれば」
シン 「話は終わりだ。俺は寝る。」
騎士長「……はい。おやすみなさい。」

 


SE:鳥のさえずり


騎士長「相変わらず朝が早いですね。」
オーム「フォッフォ。申し訳ないですが、談笑しに来たわけではないのですよ。」
騎士長「要件は何でしょう。」
オーム「このまま埒が明かず皆を廃人にされては困りますゆえ、決着をつけに来たのです。」
騎士長「受け入れてはくれないのですか。」
オーム「当然。しかしこのままではいずれ、そちらの武力で制圧されてしまうでしょう。その前に終わりにせねば。人質がいるうちに。」
騎士長「その件ですが、はったりは通用しませんよ。あの東洋のお方はこちらで保護しています。」
オーム「フォッフォ!そうでしたか、彼はそちらに。無事なのですか。」
騎士長「ええ。居場所は明かせませんがね。」
オーム「それはよかった。人質は二人も必要ない。」
騎士長「二人?」
オーム「こちらを見て頂ければ、わかりますでしょう。どうぞ。」
騎士長「これは……!」

 


ウィル「なんで手紙?眠いよ……」
テッド「悪い。今日の早朝だったら届けられるかもってじいさんが言っててさ。父さんたちに元気だって知らせたいだろ?」
ウィル「そっか。じゃあ……」

 


騎士長「頭髪と、筆跡、それにこの封蠟印……」
オーム「心当たりがあったようですなぁ。我々の要求は二つ、鉄道敷設を辞めること、そして我々の生活に今後干渉しないことです。」
騎士長「それは……騎士団の一存で決められることではありません。一度持ち帰って」
オーム「年寄りは気が短いのですよ。手元も覚束ないゆえ、今度は髪だけでなく首元まで掻き切ってしまうかもしれません。」
騎士長「くっ……。」
オーム「さあ、決断してください。騎士団長、ベネット=グルエフ!」
騎士長「……わかりました。ただし、こちらにも条件があります。」
オーム「ほう、条件とな。」
騎士長「人質、ウィル皇子の生存確認をさせてください。直接この目で見るまで、取引に応じるわけにはいきません。」
オーム「ふむ。承知しました。連れて来させましょう。」

 


ウィル「すぅ……すぅ……。」
テッド「……。」
村人 「思いつめた顔してるな。」
テッド「……交代の時間はまだだろ。」
村人 「村長からウィルを連れてくるよう命じられた。」
テッド「!それって……」
村人 「相手さんが直接生存確認をしたいんだと。そのために連れて行くだけだ。手荒な真似はしない。」
テッド「……俺が行く。俺がこいつを連れて行く。」
村人 「テッド……わかった。俺が抱えていくから、お前は敵襲に備えて守ってくれ。それでいいな?」
テッド「ああ、もちろん。」

 


SE:足音


オーム「来たようですなぁ。」
騎士長「ウィル様!ご無事ですか!」
ウィル「……ん、ベネット?」
騎士長「そうです。あなたのパラディン、ベネット=グルエフです。どこかお怪我は。」
ウィル「僕は平気……ここは?あれ、テッドと村長もいる。」
オーム「さて、生存確認はこのくらいでよいでしょう。交渉に応じて頂けますかな?」
騎士長「もちろんです。鉄道の件を撤回し貴殿らへの干渉を禁ずるよう上に掛け合います。」
オーム「フォッフォ。話が分かる人で助かります。では正式に契約を交わしましょう。武具を捨て、こちらにおいでください。」
騎士長「承知しました。皆はここで待機していてください。代表である私が行きます。」
?? 「待て……お待ちください団長。」
騎士長「なんですか。これは命令で……!なぜここにいるんですか。離れにいたはずでは?」
?? 「野暮用だ。この交渉、そのまま応じたら死ぬぞ。おそらくここで騎士団を壊滅させA国の戦力をそぐつもりだ。」
騎士長「そんな戦力がこの村にあるとは思えませんが。」
?? 「被害は覚悟の上だろう。異国で苦しむよりも、この村で戦いながら生きることを選んだんだ。」
騎士長「なるほど。忠告感謝します。では。」

SE:武器・鎧を捨てる音。

騎士長「そのときは、本気で向き合わないといけませんね。」
?? 「!」
騎士長「これでいいですか。」
オーム「ええ。どうぞこちらに。」
ウィル「ベネット!やっと会えた!ねえ、おろして。」
村人 「悪いがそういうわけには……」
騎士長「お迎えに上がりました、ウィル様。」
テッド「!だめだウィル。そいつに近づいたらお前も」
オーム「さあ、茶番は終いにしましょう。」

SE:銃声

ウ・?「「「!」」」
?? 「ベネット!」
ウィル「嘘。ベネット。ベネット!」
テッド「とりあえず避難するぞ!こっちだウィル!」
オーム「テッド!そやつは捨て置け。まずは目の前の敵じゃ。」
テッド「は。クソジジイ何言って。」
村人 「村長!話が違……ゔがぁッ!」

SE:村人がぶっとばされる音

テッド「な……」
騎士長「今”捨て置け”って言いましたか。」
オーム「お主生きて……!」
騎士長「誘拐、監禁、どれも犯罪ですがそれ以上に今の言葉は頭に来ました。交渉決裂です。そちらがその気なら、我々も本気でお相手します。」
オーム「おのれ……!」
オーム「総員戦闘開始!一人残らず敵を殲滅せよ!」
騎士長「総員戦闘開始!一人も殺さず敵を捕らえよ!」

BGM:戦闘音

?? 「テッド。こっちだ。」
テッド「!おまえ……なんでここに。」
シン 「さあな。お前に巻き込まれたからじゃないか。」
テッド「悪かったよ。こんな不毛な争いに首突っ込ませて。」
シン 「そうだな。食事は酷かったし、状況は今も最悪だ。だが……おかげで食いぶちは見つかった。」
テッド「は……?」
シン 「ウィルだったか。お前を保護しに来た。連れ帰ったものには報酬を出すと、裏で王が直々に捜索依頼を出している。」
ウィル「父様が?」
テッド「そんなの応じるわけないだろ!A国側に着くなら、お前も俺の敵だ。ウィル、後ろに隠れてろ。」
シン 「……そいつを村にとどめたところで、抑止力にはならない。」
テッド「そんなこと、言われなくても分かってる。」
シン 「なら、こちらに渡せ。もう関係ないだろう。」
テッド「関係ないのはお前のほうだろ。これはA国と俺たちの戦いだ。部外者は黙って」
シン 「こいつも巻き込まれた側の人間だ。それとも、A国の人間は全て関係者だとでも言うつもりか。」
テッド「それは……」
シン 「一人残らず敵を殲滅しろとオームは言っていたな。こいつも殺すのか。」
ウィル「!?」
テッド「そんなことしない!俺はこいつを守りたいだけだ。」
シン 「それなら戦地に置いておくべきじゃない。わかるだろう。」
テッド「わかってる。そんなこと言われなくても……でも、お前には渡せない。お前は敵だ。俺たちを村から連れ出そうとするやつはみんな」

(ウィル「テッドもさ、いつか一緒に行こうよ。」)

テッド「……ぁ。」
ウィル「テッド……?」
テッド「違……違う。そんなつもりじゃ……なくて……俺は……」
シン 「そいつをこちらに渡せ。」
テッド「来るな!……近づいたら撃つ。だから、来るな。」
シン 「そうか。」
テッド「来るなよ。来るなって言ってるだろ。くそっ。くそっ……くそおおおおおおおお!」

SE:銃声

シン 「……また外したな。」
ウィル「テッド。」
テッド「……ごめん。ごめん、ウィル。」
ウィル「なんで謝るの。」
テッド「巻き込んで、ごめん。怖い思いさせて、一人ぼっちにさせて。」
ウィル「一人じゃないよ。テッドがいるから、怖くない。だから謝らないで。」
テッド「違う。俺が全部悪いんだ。俺が、俺……うぅ……っあああああああああああああああああ。」

 


騎士長「まだ抵抗しますか?オーム村長。」
オーム「まさかここまでやり手とは。見くびっておりました。」
騎士長「大人しくお縄についてください。誘拐と公務執行妨害の現行犯です。」
オーム「……我々を生かしておいたのはなぜですか。正気を失った我々を見世物にでもするつもりなら、今すぐ舌を嚙みちぎりますぞ。」
騎士長「話を聞いてもらうためです。あなた方がA国で正気を保つ方法を、まだ推測の域ではありますが見つけました。村の調査が進めばきっと実現できるでしょう。」
オーム「馬鹿な。これは我々の定めです。覆すことなどできませぬ。」
騎士長「貴殿らは少々思い込みが過ぎる。それもこの排他主義的な環境がもたらした悪習の一つなのでしょう。……我々と共に生きてください。貴殿らと共存する道を探すための一歩。それがこの制圧です。」
オーム「戯言を……信じるとでもお思いですか。」
騎士長「さあ。信じてくださらなくとも、貴殿らを生かしたいという思いが成就するのであればそれで構いません。これは私のエゴですから。」
ウィル「ベネット!」
騎士長「ウィル様!ご無事ですか。」
ウィル「僕は大丈夫。ベネット、頭血だらけ。」
騎士長「弾がかすっただけです。大したことありませんよ。貴方が連れてきてくださったのですか。」
シン 「まあな。」
騎士長「正直、戦地に居られて困りましたが……よく取り戻してくれました。ありがとうございます。後ほど報酬をお渡ししましょう。」
シン 「落ち着いてからでいい。」
騎士長「ええ、そうします。そちらに戦傷者はいますか。傷の深い人はこちらに。救護兵を連れてきます。それから……」

オーム「……終わってしまいましたなぁ。こんなにも虚しく、あっけない。」
シン 「戦争なんてそんなもんだろ。」
オーム「うまいこと立ち回ったものです。こうして生きて、一番おいしい思いをしているのは貴方でしょう。」
シン 「それなりにリスクもあった。報酬がそれを上回っただけの話だ。」
オーム「それはそれは、見習うべき姿勢ですなぁ……一つだけお願いをしても?」
シン 「なんだ。」
オーム「今後、我々が死に向かうようなことがあれば……そのときは仕事をお願いしたい。」
シン 「ベネットの話は無駄骨だったようだな。」
オーム「すぐには信じられますまい。それに我々がどう考えようと、彼らには関係ないのですよ。村の調査も、我々の定めを覆すことも、全てエゴだと彼は言いました。そんな相手に今更何を言ったところで聞きはしないでしう。」
シン 「……それはあんたの主観だ。俺にはただ対話をしたいだけに見えた。まあ、そんな簡単なこともできなかったから戦争になったんだろうがな。」
オーム「……。」
シン 「さっきの件だが、あんたの仕事を受けるつもりはない。A国から報酬を受け取ったら俺はこの街を出る。」
オーム「なぜ旅を続けるのですか。生きるだけなら、安全な国で暮らした方が身のためでしょう。」
シン 「テッドにも同じことを言われた。その通りかもしれないな。だが。」
オーム「……。」
シン 「俺はこのままでいい。あんたたちを見てそう思った。」
オーム「これは……一本取られましたなぁ!返す言葉もありませぬ!フォッフォッフォ!貴方ならうまく生きられるでしょう。いつかまたお会いできた時は、旅の話を聞かせてください。」
シン 「ああ。覚えていたらな。」

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