ヒーローの代わり
登場人物:3人(男:2人 女:0人 不問:2人)
・榊 …男性
・来栖 …不問
・少年 …不問
・サンシャイン(台本表記は太陽)/怪人 …男性
榊 「あ…あ…」
太陽「大丈夫…か?少年……間に合って良かった……」
榊 「サンシャイン…なんで…僕なんかをかばって…」
太陽「僕…なんか、じゃないさ…君は僕の守るべき子供で…未来だ。」
榊 「未来…?」
太陽「そう…だ…ゴフッ!」
榊 「サンシャイン!」
太陽「大丈夫…ああ、大丈夫だ…君が大人になって…沢山の人を助けたとしよう…そうすればそれは君を救った私が…沢山の人を救ったことに…なる…」
榊 「……うん。」
太陽「ここで私が死んでも…君の未来さえ守れれば…この先もずっと…私は…ヒーローでいられるんだ……」
榊 「うん…うんっ…」
太陽「だから少年……私の死を、犬死にするか、意味のあるものにするか…それは君次第だ…わかるな?」
榊 「わかった…わかったよ!僕…サンシャインに負けないくらい凄いヒーローになって、沢山の人を助けるよ!」
太陽「ああ、それは…良かった…頑張れよ……」
榊 「サンシャイン?サンシャイン!」
榊 (あの日世界は偉大なヒーローを失って、俺は呪いを受け継いだ)
榊 「はぁ…めんどくさ。」
来栖「何言ってるんです、お仕事です。しっかりしてください。」
榊 「お仕事っつってもなぁ。」
来栖「なんです?嫌ならやめてもいいですよ?」
榊 「そうは言ってないっしょ?来栖製鉄所所属ヒーロー、アイアンクロウ出撃します。」
来栖「コード認証。アイアンクロウセットアップ。無抵抗滑走路展開。現場まで約15秒。」
榊 「この移動手段慣れないんすけど?現場まで原チャリで行っちゃ駄目すか?」
来栖「駄目に決まってるでしょう?そもそもこの無抵抗滑走路の宣伝も兼ねて君には自社ヒーローをやってもらっているんですよ?」
榊 「へーへーわかりましたって。そんじゃアイアンクロウ、スクランブル!」
SE:爆音
来栖「はぁ…まったく。一体何なんですかねあの人。全っ然やる気ないくせに淡々と人助けだけして…」
榊 「はぁ…到着っと。アイアンクロウ現場に到着。指示を。」
来栖「現在ビル火災が発生。数名が取り残されてる模様。」
榊 「消防士の仕事でしょコレ。」
来栖「文句を言わないでください。ヒーロー庁から近隣のヒーロー企業にスクランブル要請がかかってるんですから。…どうやら怪人の仕業のようですね。消防士に数名けが人が出てる。」
榊 「怪人だぁ?どこの馬鹿だ、んなことするのは」
来栖「わかりません。最近ヒーロー企業の急激な増加と共にアンチヒーロー組織、いわゆる悪の組織ってやつも増えてるんですよ。」
榊 「悪の組織ねぇ。」
来栖「酷い所だと人間を改造して怪人にしてるところもあるそうです。」
榊 「はぁ?なんすかそりゃ?んじゃ俺が倒してる怪人も元は人間だったやつもいるっていうんすか。」
来栖「そういうことになりますね。」
榊 「ふざっけんな!俺は、人助けの為にヒーローやってんだぞ!」
来栖「怪人を倒すことだって人助けです。たとえ元人間だろうとも彼らは人を不幸にするのですから。誰かが倒さないといけないんです。」
榊 「クソッ!アイアンクロウ突貫するっ!」
榊 (あの時サンシャインに言われた言葉は呪いだ。大人になって理解した。つまりあのヒーローはこう言ってたんだ。これから先大勢の人を救うはずだった俺がお前を助けたばっかりに死ぬんだから、お前が責任もって俺が助けるはずだった人間を助けろよって。)
榊 「熱い…痛い…死ぬかと思った…」
来栖「お疲れ様です。これでまたうちの名前が売れました。お、無抵抗滑走路の注文早速入ってますね。」
榊 「詐欺企業。」
来栖「なんですか?文句でも?」
榊 「あんな馬鹿みたいな負荷のかかる移動手段、普通の奴だったらまず持たねぇ。」
来栖「そうですね。馬鹿みたいに鍛えた君の肉体と、アイアンクロウの装甲があってこそ耐えうる装置です。」
榊 「やっぱ詐欺でしょ。」
来栖「こっちはきちんとご一緒にヒーロースーツのご注文はいかがですか?って聞いているのでセーフです。」
榊 「はっ。」
来栖「それより君にに聴きたい事があるんですけど?」
榊 「なんすか?」
来栖「君、なんでヒーローなんてやってるんです?」
榊 「人助けがしたいから。後お金欲しい。」
来栖「本当にそれだけですか?」
榊 「なにか?」
来栖「いえ…それならいいんです。」
榊 「それじゃあ定時なんで帰りますね。」
来栖「お疲れ様です。」
榊 「はぁ、めんどくさ。人助けに理由がいるのかねぇ。」
榊 「人助けをするためだけに生きてる、それしか生きる意味が無い、それ以外の生き方を知らない。まぁ誰にも理解できないか。」
少年「うぅ…お父さん…お母さん…」
榊 「なんだ?坊主、迷子か?」
少年「お兄ちゃん、誰?」
榊 「俺か?俺ぁ…ヒーローだ。」
少年「ひーろー?」
榊 「なんて言ったらいいんだ?あー、困ってる人を助ける人、かな。」
少年「え!?凄い!じゃあ僕も助けてくれる?」
榊 「しゃーねぇな。俺はヒーローだからな。」
少年「ありがとう!」
榊 「礼は俺じゃねぇ人に言いな。」
少年「誰に言ったらいいの?」
榊 「太陽、かな。」
少年「太陽?」
榊 「昔、昔な、サンシャインっていうすげぇヒーローがいたんだ。」
少年「さんしゃいん…」
榊 「俺なんかじゃ比べられないほど沢山の人を救ったヒーローだ。今の俺が生きてるのもサンシャインに救われたからだ。」
少年「凄いんだね!さんしゃいん!」
榊 「ああ、滅茶苦茶凄いんだぜ。」
少年「僕もさんしゃいんやお兄ちゃんみたいなひーろーになりたい!」
榊 「なるんならサンシャインにしときな、俺なんてそう大したもんじゃない。」
少年「なんで?お兄ちゃんも僕を助けてくれた凄いひーろーだよ」
榊 「……そうかよ。」
榊 「もうはぐれんなよー!…これからホテルでディナー、いいもんだ。また一つ笑顔を守れ たよ。サンシャイン。」
SE:爆発
榊 「爆発?あのホテルはさっきの坊主が…チッ。スクランブルも待ってられねぇか。ヒーロースーツ無しで行くしかねぇな。」
榊 「大丈夫か?坊主。」
少年「ヒーローのお兄ちゃん…?」
榊 「そう、俺は…ヒーロー。アイアンクロウだ。」
少年「あいあんくろう。」
榊 「鉄の烏っていう意味だ、カッコいいだろ?」
少年「うん。」
榊 「ケガは…ないみたいだな?」
少年「お父さんとお母さんは?」
榊 「おいおい、もしかしてあの中にまだいるってのか?」
少年「僕だけ先に逃げなさいってお母さんが…」
榊 「クソっ。近くのヒーローどもは何してやがる。」
少年「あいあんくろう…」
榊 「わかったよ!俺が行ってきっとお前の父ちゃんと母ちゃん助けてきてやるから。」
少年「本当?」
榊 「ああ、任せとけ。」
少年「ウソツキ」
来栖「榊君、出撃要請がかかっています。」
榊 「うっす。」
来栖「君、ちゃんと寝てますか?」
榊 「なにがっすか?」
来栖「声に生気がない。顔に覇気がない。まるで死人みたいです。」
榊 「死人、死人ねぇ。五年前のあの時。俺が何も救えないヒーローだったあの時から俺は死人みたいなもんっすよ。」
来栖「あの時の君はヒーロースーツも見につけていない只の人間だったんです。そんなあなたに何が出来るって言うんです?」
榊 「出来る出来ないじゃないんですよ。俺はやらなきゃいけなかったんだ。そうじゃなきゃ俺の生きてる意味なんて無い。」
来栖「榊君…五年前のあの時からおかしくなったと思っていましたが、違いますね。もっと根本的な部分が狂っている。なにが君をそうさせたんです?」
榊 「偉大なるヒーローの命と引き換えに生き残ったのが俺なんすよ。だから、彼が救うはずだった人たちは俺が救わないと。」
来栖「そんなこと……」
榊 「ははは。自分でもおかしいと思ってるっすよ?でもこれしか知らないし出来ない。やめるつもりもない。だから血反吐吐いてもやるしかないんすよ」
来栖「やはり君は狂っています。」
榊 「知ってます。」
来栖「……五年前。」
榊 「はい?」
来栖「五年前、君は何も救えなかったって言っていましたが、ちゃんと一人救いましたよね?男の子を一人。」
榊 「救ってないっす。あの子の心を、俺は救えなかった。」
来栖「はぁ。なにを言っても無駄みたいですね。」
榊 「なんすか?心配してくれてたんですか?」
来栖「それは、そんな調子で出撃されたら誰でも心配しますよ。」
来栖「まぁいいでしょう。アイアンクロウの装甲ならそうそうやられないはずなので。出撃、行けますか?」
榊 「いつでもどうぞ。」
来栖「コード認証。アイアンクロウセットアップ。無抵抗滑走路展開。現場まで約15秒。」
榊 「アイアンクロウ、スクランブル」
怪人「待っていたぞ、アイアンクロウ。」
榊 「名指しでご指名とは、俺も有名になったもんだ。」
怪人「そうやってへらへら笑ってやるヒーローごっこは楽しいか?」
榊 「誰のなにがヒーローごっこだって?」
怪人「貴様の存在そのものがだよ。」
榊 「ふざけんじゃねぇ!俺は、真面目にヒーローを、人助けやってんだよ!やらなきゃいけねぇんだよ!」
怪人「はっ。笑わせるな。五年前、誰も救えなかったお前がヒーローなわけないだろう。」
榊 「なんでお前がそれを知ってる?」
怪人「お前が、うそつきなことも知ってるぞ。」
榊 「っ!お前…まさか!?」
怪人「思い出したかい?ヒーローのお兄ちゃん。」
榊 「なんで…お前が怪人になんか……」
怪人「わかってるんだろう?お前に復讐するためだ。」
榊 「俺は…お前に」
怪人「隙だらけだぜ!」
榊 「ぐはっ!」
怪人「どうしたどうしたヒーローさんよ。」
榊 「待て…」
怪人「待たねぇよ!」
榊 「あっっがぁ!」
怪人「へっ、大したことねぇよなぁ?偉そうに人助けなんて言ってる割りによぉ。所詮お前はその程度の男だったってことだ。ここで死にな。」
榊 (ははっ。やっぱり俺じゃあ駄目だった。アンタじゃなきゃ駄目だったんだ、サンシャイン。アンタだったら、あの子供も救えてたんだろ?俺を救ったみたいにさ。俺には…出来なかった…あの子の心を救えなかった。)
怪人「じゃあな、アイアンクロウ。これで俺はやっと五年前の悪夢から解放される。」
榊 (誰かの代わりのヒーローなんて、結局こんなもんさ。)
SE:爆音