青のない春
登場人物:5人(男:1人 女:1 不問:3)
・越谷:男性
・清水:不問
・足立:不問
・母 :女性
・店員:不問(兼役可)
BGM:教室がやがや ※まで
越谷「清水、今日って曇ってるか。」
清水「え?」
越谷「いや、ここからだとよく見えないから。」
清水「あ、ああ。そうだね雲は多め、かも。でも雨はふ、降らないんじゃない、かな。」
越谷「ふーん。ありがと。雨降らないって。どうする?」
足立「えー絶対外練じゃん。サボらね?俺、海行きたいんだよ!」
越谷「嫌だよ海嫌いだし……またこの前みたいに絞られるんじゃないの?」
足立「結果出せばいーの!じゃ、放課後忘れんなよ。」
越谷「おー。」
清水「……。」
越谷「……なに?」
清水「え、いや。なん、でも……。」
越谷「いつも一人で本読んでるよね。そんな面白いの?」
清水「へ……ぁ、ま、まあ学ぶことは多いよ僕って足りないものばっかりだしこれといった趣味もないから……越谷、くんは……本とか、よ、読まない、よね。」
越谷「人を見た目で判断すんな。確かに昔は全然興味なかったけど、最近は読んでるよ。」
清水「あ、ごめ……え、な、何読むの?文学?」
越谷「んー。図鑑とか。」
清水「へ、へぇ。図鑑。面白いよね色々載ってて小学生の時よく読んでたな人体の本と か…はは。」
越谷「そそ、人体解剖図ってやつ。まあ読んでもさっぱりわかんないけど。」
清水「はは……。」※
清水「(陽キャって人体解剖図見るの……?)」
SE:波
清水「(……気になってつけてしまった。やばいよねこれストーカーだよね、バレたら確実に教室での居場所がなくなるよ今だって窓際なのに!)」
足立「じゃ、俺そろそろ帰るわ。越谷は?」
越谷「俺はもうちょっといる。」
足立「そうかい。風邪ひくんじゃねーぞ!」
越谷「おー。気を付けて。」
SE:波
越谷「……いつまで隠れてんの。」
清水「ひぇっ、な、なな、なんのこと、ですか。」
越谷「いやバレバレだって。何の用?」
清水「……と、特に、何も。」
越谷「え、用もないのに待ってたの?意外とキモイな。」
清水「ああっ、ご、ごめんなさいごめんなさいいいい!違うんです決してやましい気持ちとかそういうのじゃなくてただ純粋に興味というかなんというかストーキングしてたのは事実なんだけど違くてそのっ」
越谷「わかったから落ち着け。早口すぎて何言ってるかさっぱりだから。」
清水「はぇ、ごめん、なさぃ……」
越谷「俺に聞きたいことでもあるの?」
清水「……その……本屋、があって。」
越谷「本屋?」
清水「駅のすぐ、近くに、専門、的な本とか、マニアックなやつ、取り扱ってる本屋があるんだけど。ひ、昼に図鑑って、言って、たから……。」
越谷「なに、案内してくれるの?」
清水「あ、その店、閉まるの早、くて。今日はもう……」
越谷「営業何時まで?定休日は?」
清水「確か15時?だった、かな。水曜定休、のはず。」
越谷「じゃあ土曜でいいか。12時に駅集合で。」
清水「……いいの?」
越谷「いいのってなに。むしろこっちがいいの?って感じだけど。」
清水「え、いや、なんかまるで……」
清水「(友達みたいだよね、って言ったらまたキモがられるかな。)」
清水「は、ははは!いい例えがう、浮かばなかった。」
越谷「なんだそれ。」
SE:大きい波
越谷「……そろそろ帰るか。暗くなってきたし。」
清水「そう、だね。今日はその、あ、ありがとう。」
越谷「何が?」
清水「話、き、聞いてくれて。」
越谷「っは。なにそれ。清水って変なやつ?」
清水「そ、そう、だね……。」
越谷「いや悪口じゃないから。面白いってこと。また明日な。」
清水「う、うん!また明日……!」
(越谷「面白いってこと。また明日な。」)
清水「面白い……また明日……また、明日……んふふふ!」
母 「何にやけてるの。いいことでもあった?」
清水「へ、いや、なんでも。別に普通だよ。」
母 「そう?じゃあ早く夕飯食べてお風呂入っちゃって。」
清水「わかってるって。うるさいなぁ。」
清水「(また明日……明日も話していいってことかな。何話そう。とりあえず挨拶?おはようだけだと味気ないから何か……テレビとか?陽キャってバラエティとか好きだよね。あ、でも見てなかったら気まずいから普通に天気の話とかでもそれって社交辞令みたいに感じるんじゃかといって距離詰め過ぎたらキモがられるだろうし待って何話したらいいんだっていうか会話ってどうやるんだっけどこ見て話せば確か眉の間を見ていれば相手は目が合ってると勘違いしてくれるってどこかで聞いたような)」
母「さっさと食べなさい!」
清水「ひゃいいいいい!」
BGM:雨フェードイン
越谷「……死んでる?」
清水「……本日は……お日柄もよく……」
越谷「雨だけど。今日の小テストってそんなに範囲広くないよね。」
清水「色々あって……あ、でも狐の嫁入りだね。綺麗だ。」
越谷「え?……あー。気づかなかった。」
清水「土曜日、晴れるといいね。」
越谷「…まずはちゃんと寝ろ。」
清水「うん、おやすみ……。」
越谷「今かよ。」
足立「越谷ぁ~!ヤマ教えてくれ~!」
越谷「うわ、めんどくさ。たまには補習受ければ?」
足立「頼む!今日は絶対早く帰りてーの!一生のお願い!ジュースおごるから!」
越谷「俺はそんなに安くない。ワーゲンダッツで手を打とう。」
足立「悪魔かよ俺の懐事情知ってんだろ……!」
越谷「彼女に貢いでるじゃん。たまには俺にも貢いでよ。」
足立「じゃあパチコでどうにか!頼むって!」
越谷「二本とも俺のな。おーし始めるぞ。一回しか言わないからそのつもりで。」
足立「横暴!でもありがとうございまああああす!」
BGM:雨フェードアウト
BGM:街のがやがや
越谷「あっつ。」
清水「35度、だってさ……。」
越谷「昨日まで雨だったのに。情緒不安定かよ。」
清水「た、たぶん、店の中は涼しい、から。」
越谷「昼飯食べた?俺まだ。」
清水「ぼ、僕も……先にどこか、で食べようか。」
BGM:店内BGM小さめに
SE:入店音
清水「ふぁ、ファミレス……。」
越谷「ん、どこか行きたい店あった?」
清水「いや違、くて。ふぁ、ファミレス……と入ったの、初めて、で。」
越谷「何?よく聞こえなかった。」
清水「な、なんでも……あ、涼しい。」
越谷「すみません。2名で。ほら、こっち。」
清水「……。」
越谷「ふー。何食べるか…お、ランチある。俺これにしよ。」
清水「あ、じゃあ同じので。」
越谷「飲み物は?」
清水「み、水でいいよ。」
越谷「おっけー。すみませーん……Bランチ2つとメロンソーダ1つお願いします。」
清水「……あ、ありがとう。オーダー、して、くれて。」
越谷「あのさ、気になってたんだけど。」
清水「へ、な、なに。」
越谷「なんでそんなにどもるの。早口なときは一個も嚙まないのに。」
清水「それ、は……癖、だと思う。昔からこうで。変なのは自覚、してるんだ、けど。」
越谷「寝ぼけてるときは普通に喋ってたけど?」
清水「え、え!?寝ぼけ、え、いつ?」
越谷「小テストの日、朝から死にそうな顔してたアレだよ。覚えてないの?」
清水「あの時は、なんか、ふ、ふわふわし、てて。よく覚えて、ない、かも。」
越谷「……まあなんでもいいけど。そんなに気負う必要ないんじゃない?誰だって噛むときは噛むし、言い間違えなんてザラだし。」
清水「ご、ごめん、なさい。聞きづらい、よね。」
越谷「んー、正直半分ぐらい何言ってるかわかんないときあるけど、それよりもさ。」
清水「?」
越谷「俺ってそんなに怖い?」
清水「へ、いや、え?なんで?」
越谷「あ、やっぱビビられてるわけじゃないんだ。よかったー。」
清水「だ、だって、こんな僕、にも優しくして、くれるし。こ、怖くなんか。」
越谷「いや、俺って結構スパッと物言うからさ。あと目つき悪いし。」
清水「……ごめん。ほんとは、その……怖い人、だと思ってた。陽キャグループって、僕とは住む世界が、違いすぎて……でも、気さくで優しいんだって、知ったから。今は楽し」
店員「お待たせいたしました。Bランチ2つとメロンソーダになります。ご注文のお品は以上でお揃いでしょうか?」
越谷「…はい。ありがとうございます。」
店員「失礼します。」
越谷「っあははは。タイミング!あれはないって。」
清水「え、えっと、住む世界が、その」
越谷「わかったから。いいよもう。」
清水「……僕も、聞きたいこと、があって。」
越谷「なに?」
清水「どうして、図鑑を読もう、と思ったの。今まで、ほ、本に興味、なかったって言ってたから。気になって。」
越谷「んー、大した理由じゃないよ。自分の体について知っておきたいってだけ。今まで授業とかちゃんと聞いてなかったから、頭に入ってないんだよ。教科書だと読みにくいし。」
清水「そう、なんだ。も、もしよければ、だけど。教えようか?教科書レベルでいいなら」
越谷「それはいいや。人から教わるの苦手だし。」
清水「そ、そっか。」
越谷「……ちょっとトイレ。」
清水「うん、いってらっしゃい……。」
清水「(何か怒らせるようなこと言ったかなやっぱりでしゃばりすぎた?そうだよねいきなり教えようかなんて上から目線も甚だしいよ僕ってキモいキモ過ぎるうううう!)」
清水「……あぁ、終わった。」
越谷「ほんとにこっちで合ってんの?」
清水「あ、合ってるよ。ここ、道がほ、細いんだ……あ、ほら、あそこ。」
越谷「おー。古き良きって感じ。」
清水「じゃ、じゃあ僕はこれで。」
越谷「帰るの?」
清水「僕がいると、その、探しにくい、だろうし。」
越谷「あー、そう。道案内ありがと。」
清水「あと、こ、これ。さっきのご飯代。」
越谷「いいよ、道案内料ってことで。財布出すのめんどいし。」
清水「そ、そっか。えっと、その、いい本見つかると、いいね。じゃあ!」
越谷「おー、気を付けて。」
越谷「……。」
足立「なーあー。教えろよー。」
越谷「しつこい。」
足立「最近よく話してたじゃん?何かあったんだろ?言ってみろって。」
越谷「うざ。何もないっての。」
足立「じゃあ土曜日のあれはなんだよ?俺見たんだぞ。お前が清水と人気のない道に入っていくの。」
越谷「ただの道案内。はいこの話終わり。」
足立「ああ、悪かったって茶化さねーから!あのな、休みの日に遊びに行って、次の週には一言も口きいてないってどういうコト?って話。お前も機嫌悪いし。ほら、目がキー!って。」
越谷「元々こんな顔だよ……いや、案外これが原因かもな。」
足立「お前笑ってないとこえーんだよ。笑ってても別の意味で怖いけど。」
越谷「は?」
足立「ほらそういうところ!」
越谷「…まあ、元に戻っただけだし。いいんじゃない別に。」
足立「ほーん。まあ、お前がいいなら……うん。いっか。じゃあ放課後ボウリングな!」
越谷「今日家に親戚来るからパス。三浦たち誘いなよ。寂しがってたから。」
足立「まじ?三浦~!ボウリングしようぜ~!」
越谷「……。」
清水「……っ!」
SE:走り去る音
越谷「……はぁ。」
SE:波
(清水「も、もしよければ、だけど。教えようか?教科書レベルでいいなら」)
(越谷「それはいいや。人から教わるの苦手だし。」)
越谷「(……アレだよな、原因。言い方きつすぎてビビられたか、気を遣われたか。)」
越谷「……どのみち悪いのは俺だな。」
BGM:雨フェードイン ※で止むようにフェードアウト
越谷「まじか傘ないんだけど。最悪。」
越谷「(もう少し待てば日没…って思ってたけど。この様子じゃ今日は見れないか。)」
越谷「……もういいや、どうとでもなれ。どうとでも……」
清水「あ、あの!」
越谷「!」
清水「か、傘。よかったら、その、使って。」
越谷「…ありがと。なんでここにいるの。」
清水「いや、その……ごめん。嫌、だよね。こんな、き、気持ち悪い、ただの陰キャにつ、付きまとわれて。」
越谷「は?なに話が見えないんだけど。俺にビビって気を遣ってたんじゃないの?」
清水「え?ビビッては、いない、と思う。越谷くん、や、優しいし、怒らせた僕が全面的に悪くて……その、ごめん。」
越谷「あー、そういうこと。あのさ、俺怒ってないから。言い方きつくてよく勘違いされるんだけど。」
清水「へ、そ、そうなの?」
越谷「だから気にしなくていいよ。あと、突き放したような感じになって、ごめん。」
清水「そっか……そう、だったんだ。よ、よかった……。」
越谷「俺も謝れてよかったよ。すっきりした。」
清水「じゃあ、か、帰ろう?雨、強くなっ、なったら、困るし。」
越谷「あー……俺はもうちょっとだけいるから。先帰りなよ。」
清水「ど、どうして?このままだと体、冷えて……あ、ごめん。余計なお世話、だよね。」
越谷「いいよ。心配してくれてるんでしょ。」
清水「ご、ごめん……。」
越谷「……夕陽が見たくて。」
清水「え……?」
越谷「さすがに今日は無理だろうけど、日課みたいなものだから一応待とうかなって。」
清水「日課……でも、海嫌いって前に、言ってた、よね。なんで、ここに?」
越谷「嫌いだよ、海も空も。」
清水「……。」
越谷「清水は海って綺麗だと思う?」
清水「え、うん。そう、だね綺麗だよ。」
越谷「俺も夕暮れ時だったら、綺麗だなって思う。でも昼間は……わからないんだよ。」
清水「?」
越谷「一か月ぐらい前かな。俺、青色が見えなくなったんだ。」
清水「え。」
越谷「変だよな、青色だけ見えないなんて。病気かと思って医者に行ったけど、どこにも異常はなかった。色々調べたけどお手上げで。」
清水「それで、本を?」
越谷「めぼしいものは見つからなかったけどね。でも、もういいや。吹っ切れた。」
清水「よ、よくない、危ないんじゃ。失明とか、したら」
越谷「その時はしょうがないでしょ。未知の病だったってことで。それに慣れたし。」
清水「……。」※
越谷「……あ、やんでる。通り雨だったのか…傘ありがと。今度ジュースでもおごるよ。」
清水「……うん。」
越谷「今日は諦めて帰るけど。清水は?」
清水「…あ、あのさ。」
越谷「うん?」
清水「ジュースはやっぱり、いい、から。晴れてる日に、また、ここに来よう。」
越谷「言われなくても来るけど……?」
清水「え、あ、えと、そうじゃなくて。その……一緒に、来てもいい、かな。」
越谷「…好きにすれば?海眺めてるだけだし、面白いかわかんないけど。」
清水「楽しいよ、きっと。あ、その、少なくともぼ、僕は楽しい。だから……越谷くんが退屈しないように、なにか、話すよ。日が暮れるまで、面白い……かわからないけど、話す。」
越谷「っは。なにそれ。落語でもしてくれるの?」
清水「落語!?は……れ、練習する。今は無理、でも、いつか」
越谷「冗談だって。いいよ、無理しなくて。」
清水「で、でも……」
越谷「清水が友達想いってことはよくわかったから。その気持ちだけで十分。」
清水「と、もだち……?僕、越谷君と、と、友達で、いいの……?」
越谷「え、違うの?」
清水「いや、ちが、違わない。友達、がいい。……へへへ。」
越谷「なんでにやけてんの。きも。」
清水「へ、あ、ごめん僕キモいんだ友達辞めたくなったらいつでも言ってねできれば辞めたくないけど迷惑は掛けたくないから……。」
越谷「怖い怖い怖い。辞めないから。急にヘラるのやめて。」
清水「あ、ご、ごめん。友達になれたのが、その、う、嬉しくて……あ、明日晴れると、いいね。」
越谷「どうかな、最近雨多いし。」
清水「帰ったら、て、てるてる坊主…作ろうかな。なんて。」
越谷「小学生かよ。楽しそうでいいけど。」
清水「…あ、ぼ、僕こっち、なんだ。越谷くんは?」
越谷「ん、俺こっち。」
清水「じゃあ、ここで……きょ、今日は、ありがとう。風邪、ひ、ひかないように、ね。」
越谷「ありがと。清水も気を付けて。」
清水「うん、じゃあまた、また明日。」
越谷「おー。また明日。」