witch
登場人物:8人(男:1人 女:2 不問:5)
・少女:女性
・覚 :不問
・妖狐:不問
・竜人:不問
・油澄:不問
・妖 :不問
・??:女性
・南京:不問
覚 「なんだ。ゴミか?」
覚 「……ガキ。人間か…鮮度は落ちてないな。ふんっ。」
SE:持ち上げる音。歩く音。
覚 「さて、どう調理するか。」
覚 「(ひとまずバラして……削ぐほど肉がないな。表面も傷んでいるし、味は期待できないか。)」
SE:道具を探す音
少女「……どこだ、ここは。」
覚 「!……なぜ生きている。」
少女「猿が喋ってる…?もしかして、やっと死ねたのか?」
覚 「貴様何者だ。確かに死んでいたはずだが。」
少女「そうか、やはり死ねなかったんだな。」
少女『(また死ねなかった。この猿はなんだ。なぜ喋っている。どこだここは。早く死にたい。)』
覚 「俺は猿じゃない。覚、妖だ。貴様は人間だろう。死にたいなら死ねばいい。」
少女「それが死ねないんだ。なぜかはわからないが。村では化物と呼ばれていた。村を追われ、何も食べなければ死ねるかと思ったんだが……だめだった。」
覚 「(見た目はただのガキだが、こいつはおそらく人間じゃない。人は死んだら生き返らないはずだ。)」
SE:遠くで戸を開く音
妖狐「ただいまー。覚?厨にいるのか?」
覚 「まずい。あいつが帰って来た。面倒になるから余計なことは言うなよ。」
妖狐「あれ、誰その子。」
覚 「そのあたりで行き倒れていた座敷童だ。」
少女『(座敷童…?)』
妖狐「傷だらけじゃん。大丈夫?」
覚 「酷く痛めつけられたせいで記憶が飛んでいるらしい。」
少女「お前はなんだ。喋る狐か?」
妖狐「妖狐だよ。ほら、一応化けれるんだ!」
覚 「出来損ないだがな。しっぽ残ってるぞ。」
妖狐「あっ…いいんだよ俺のことは!それより飯!今日は大量に採ってきたから、ごちそう作ってあげるよ。手洗って待ってて!」
覚 「俺は朝食べる。取り分けておいてくれ。」
妖狐「了解!」
少女「お前も化けられるのか。」
覚 「いいや。俺は相手の考えていることがわかるだけだ。」
少女「俺が何を考えているかわかるのか?」
覚 「…読むまでもないだろう。貴様も、あいつも。」
SE:足音遠ざかる。扉締まる。
妖狐「はい、お待たせ!たくさんあるから遠慮せず食べていいよ!」
少女「あつっ。」
妖狐「え、なんで手で!?とりあえず冷やして!」
少女「え、ああ。」
妖狐「匙あるんだから使えよ。危ないなぁ。」
少女「匙?」
妖狐「これだけど。あ、そうか記憶が飛んでるって言ってたな。これで掬って食べるんだよ。」
少女「ああ、村で似たようなものを見たな。妖狐なのにお前もこれを使うのか。」
妖狐「化けてない時ならそのまま食べるけど。散らかすと覚がうるさいんだよ。」
少女「まるで人間みたいだな……いや、違うか。人間は俺に優しくしたりしない。お前は変な奴だな。」
妖狐「さっきから気になってたんだけど、君、座敷童の女の子だよね。俺とかお前とか、言葉遣いがちょっと男前過ぎない?」
少女「そうなのか。今まで聞いた言葉は全部こんな感じだった。変なのか。」
妖狐「変ってわけじゃないけど……せめて僕とか、君とかの方が柔らかい感じがしていいんじゃない?」
少女「わかった。気を付ける。」
SE:木製の食器がぶつかる音。食事音。
少女「美味かった。じゃあ。」
妖狐「どこ行くんだよ。」
少女「外。」
妖狐「じゃあ俺も行くよ。もう夜だし一人じゃ危ないだろ。」
SE:弱めの風の音
少女「……。」
妖狐「今日は星がよく見えるなぁ。明日は晴れかもね。」
少女「……きらきらしている。」
妖狐「綺麗だよね。星好き?」
少女「わからない。ちゃんと見るのはとても、久しぶりだから。」
妖狐「ふーん。」
少女「動いてる。雲や星はどこへ行くんだ。」
妖狐「どこって……どこだろう。雲は消えてなくなるけど、また出てくるし。星は同じようなのをよく見かけるし。」
少女「どこにも行けないのか。あんなに自由なのに。」
妖狐「でも、こんなに大きな空を動き回れたら、それだけで楽しそうじゃない?」
少女「……そうか。そうだな。」
妖狐「冷えてきたし、そろそろ帰ろう。」
少女「帰る?」
妖狐「うん。家の場所、わかる?」
少女「それは……。」
妖狐「……じゃあ、思い出すまでここにいればいいよ。ちょっとボロいけどそこそこ立派だし、部屋も余ってるから。」
少女「だが。」
妖狐「覚と二人で退屈しててさ、話し相手になってくれたら嬉しいなって。だめかな?」
少女「……すまない。」
妖狐「こういうときは”ありがとう”でいいんだよ。部屋を準備しよう!ほら、行くよ!」
SE:扉を開く音
覚 「何の用だ。」
少女「妖狐に、ここにいていいと言われた。だがここは妖狐と覚の家だ。」
覚 「そうか。好きにすればいい。」
少女「…そうか。」
覚 「なんだ、生きたくなったか。」
少女「いいや。母も村の奴らも、昔は優しかった。だが死ねないと分かった途端、僕を化物扱いした。僕はもう化物でいることに疲れたんだ。」
覚 「…明日、知人を訪ねる。学者の端くれだ。貴様の体質について何か知っているかもしれないな。」
少女「僕は死ねるのか。」
覚 「さあな。」
少女「僕は何をすればいい。」
覚 「妖狐の相手でもしていろ。あいつの世話は骨が折れる。」
SE:炎が燃え盛る音
??「これ以上みんなを傷つけたくないの。」
??「お願い。お願いだから……して。」
覚 「!……っはぁ。はぁ。」
覚 「(夢、か。)」
覚 「…最悪だ。」
妖狐「え、今日覚いないの?」
少女「用事があると言って早くに出て行った。」
妖狐「俺が寝てる間に逃げやがって……今日こそは手伝ってもらおうと思ったのに。」
少女「手伝い?」
妖狐「畑の手入れ、道具の点検、水汲み、その他もろもろ。肉体労働は趣味じゃないって言って逃げるんだよなぁ。」
少女「僕でよければ手伝うが。」
妖狐「嬉しいけど、怪我治ってないだろ?無理はよくないよ。」
少女「別にこれぐらい。」
妖狐「でも結構キツい仕事だし……今日は見てるだけにしよう。」
少女「わかった。」
SE:ノックの音
竜人「うーむ?誰かと思えばおぬしか。久しいのう、覚よ。」
覚 「調べものだ。頼めるか。」
竜人「構わんよ。」
覚 「先日、人間のガキを拾った。だが様子がおかしい。」
竜人「なんと。様子がおかしいのはおぬしのほうではないか?人の子を喰らうわけでもなく拾うなど。」
覚 「最初は食ってやるつもりだった。道端で死んでいたからな。だが、家に着いたら生き返っていた。」
竜人「どういうことじゃ?」
覚 「どうもこうもそのままだ。確かに死んでいたはずなのに、息を吹き返した。『また死ねなかった』なんてほざきながらな。」
竜人「なるほど。して、おぬしはどう考える?そやつは人の子だと思うか?」
覚 「いいや、ありえない。便宜上人間のガキと言ったが、それは外見に限った話だ。人は死ぬ。死んだら生き返ることはない。」
竜人「その通り。まずそやつは人の子ではないじゃろう。しかし、不死の特性を持った奴なぞ異形の世界ではそう珍しいものでもない。特定するには些かヒントが足りぬぞ。」
覚 「知りたいのはあいつの正体じゃない。死ぬ方法だ。」
竜人「物騒じゃな。そんなもの知ってどうする?」
覚 「……。」
竜人「ふむ、まあよい。しかし実態がわからない以上対処のしようもないのでな。もう少し詳しく聞かせてくれぬか。」
覚 「ああ。まず発見時の様子についてだが……」
SE:土を踏む音
少女「……すごい。」
妖狐「案外ちゃんとしてるだろ?食べ物なんてわざわざ育てなくてもその辺でとってくればいいんだけどさ。」
少女「じゃあどうして。」
妖狐「さあ?覚が作ったんだ、この畑。俺がガキの頃はあいつが世話してたのに、気づいたら俺の担当になってた。」
少女「…これは?」
妖狐「南京。煮たりスープにしたりすると甘くておいしいんだ。うーん、もう少しってとこかな。」
少女「今日はとらないのか。」
妖狐「うん。今日はこっち。題して芋掘り!」
少女「いもほり。」
妖狐「まあ見てろって…っよ!あ、くっそ小柄だなぁ。しかも1本。」
少女「十分じゃないか?」
妖狐「すごいのはもっとすごいんだって。次次!…っあ、これ重いぞ。うぉりゃあー!」
少女「おお。3つ。」
妖狐「しかもデカい!いい収穫だなぁ!」
少女「僕もやっていいか。」
妖狐「いいよ。はい、手袋。」
少女「よし…ふんっ!」
妖狐「え、すご、5つ!?大きさも俺のと同じぐらいだし。」
少女「運がよかったな。」
妖狐「すげー。負けていられないな。やるぞー!」
覚 「それで、白熱しすぎて狩りに行くのを忘れたと。」
妖狐「ごめんって。」
覚 「全部芋料理とはな。食えれば何でもいいが。」
妖狐「味は保証するから!」
覚 「…まあ、いつも通りだな。」
妖狐「ほらな!ってか、今日どこに行ってたんだよ。手伝って貰おうと思ってたのに。」
覚 「野暮用だ。」
妖狐「嘘つけサボっただけだろ!明日の狩りは絶対手伝って貰うからな!」
覚 「無理。」
妖狐「おい!」
SE:扉を開く音
覚 「来たか。」
少女「なにかわかったか。」
覚 「まだ何も。今頃老いぼれの竜人が必死に調べているだろうな。」
少女「そうか。」
覚 「今日は何をしていた。」
少女「さっき妖狐が言っていた通りだ。朝食を食べ、畑仕事を眺めて、芋掘りをした。夕食の支度も少し手伝ったな。」
覚 「身体に異常は。」
少女「ない。」
覚 「そうか……あくまで可能性の話だが、俺達妖とは違う種族かもしれないと言っていた。」
少女「それはそうだろう。僕は人間だ。妖じゃない。」
覚 「人は生き返らない。貴様もわかっているはずだ。」
少女「……。」
覚 「人と妖以外の何か、それを調べている。正体が分かれば対処のしようがあるかもしれない。」
少女「どうしてそこまでするんだ。見返りもないのに。」
覚 「ただの気まぐれだ。」
少女「嘘だな。心は読めなくても、それくらいわかる。」
覚 「……昔、同じように死にたがっている奴がいた。ただそれだけの話だ。」
少女「そいつは妖か?どうなったんだ?」
覚 「俺が殺した。あいつの、妖狐の母親だ。」
SE:包丁の音。料理音。
少女「(……妖狐の母親。なぜ自らの死を望んだんだろう。なぜ覚が手をかけるに至ったんだろう。)」
妖狐「そこの調味料とってくれる?おーい。」
少女「…え?痛っ。」
妖狐「大丈夫!?手見せて。」
少女「少し切っただけだ。問題ない。」
妖狐「だめだ。洗わないと。ごめん、包丁使ってたのに声かけて。」
少女「僕が迂闊だっただけだ。いいから続き作るぞ。ほら、調味料。」
妖狐「でも……わかったよ。痛むようなら言って。手当てするから。」
SE:土の上を歩く音
少女「今日は山か。何をするんだ。」
妖狐「まずは山菜の収穫かな。籠は俺が持つからこの辺りを手分けして探そう。迷うと危ないから、あんまり遠くには行くなよ?」
少女「その鎌は?」
妖狐「力がいるものは俺が採るよ。君は手で採れるものとか、拾えるものだけでいいから。」
少女「それぞれ籠や鎌を持った方が効率よくないか?」
妖狐「ちょっと前までボロボロだったんだから無理しちゃだめだよ。今朝も怪我したし。」
少女「…わかった。」
妖狐「分からないことあったら聞いてね。じゃあ始めよう!」
覚 「西洋の妖?」
竜人「妖というと語弊があるのう。人ならざる者と人との混血、あるいはその系譜じゃ。」
覚 「具体的には?」
竜人「魔女を知っておるかの?悪魔と契約を交わした人間のことじゃ。諸説あるが、傷を負っても出血しない、呪術を使うなどじゃな。中には心臓を2つ持つという説もある。」
覚 「発見したとき、確かに心臓は止まっていた。」
竜人「文字通りの意味ではないのじゃろう。心臓のほかに生命を維持するカラクリがあるということじゃ。」
覚 「仮に魔女だったとして、どうすればいい。資料でもあるのか。」
竜人「残念じゃが決定的なものは何もない。一つ一つ方法を試していくしかないのう。」
妖狐「ふいー。だいぶ採れたなぁ。おつかれさま。」
少女「次はどうするんだ。」
妖狐「俺はこのまま狩りに行くから、籠を持って家に戻って欲しい。」
少女「なぜだ、僕も行く。」
妖狐「だめだよ。危ないし、君は怪我もしてる。このまま家に帰るんだ。」
少女「足手まといか。」
妖狐「そういう意味じゃ……でも、来てほしくないのは本当だ。わかってくれないかな。」
少女「……わかった。」
(妖狐「気を付けて帰るんだよ!」)
少女「……。」
少女「(妖狐はきっといい奴なんだろう。気遣いができて、優しくて、面倒見がいい。)」
少女「(だが、僕にそれは必要ない。だからこそ、重い。)」
少女「はぁ。」
SE:荷物を置く音
少女「……やっぱり僕も行こう。」
少女「確かこの道を……いや、こちらか?」
油燈「お嬢さん。どうされましたか?」
少女「え、ああ。連れを探していて、少し道に迷った。」
油燈「それは大変なことです。夜道は暗いですから、私の頭の油燈で照らして差し上げましょう。お連れ様の行き先はわかりますか?」
少女「山に、狩りに行くと言っていた。」
油燈「ふむ、今から立ち入るのはあまりお勧めできませんね。それにここ一帯は山に囲まれておりますから、場所が分からない以上は不用意に動くべきではないかと。」
少女「待っていろということか。」
油燈「私も共に待ちましょう。ここは冷えますが、私の明かりがあれば少しは暖かいはずです。」
少女「君はいい奴だな。」
油燈「いえいえ。私はただ、綺麗なものが大好きなだけですよ。御覧ください、あの空を。」
少女「空?」
油燈「今日は一段と、星が美しいのです。」
妖狐「ただいまー!大物捕れたぞ!」
妖狐「あれ?……もしかして、帰ってないのか?」
少女「本当に綺麗だな。」
油燈「ええ、とても美しい。私は幸運です。こんな美しい空を、あなたのような美しい方と眺めることができるのですから。」
少女「何を馬鹿な」
SE:心臓メキャァ音
少女「っ!」
油燈「ああ、やはり美しい。早く中をくり抜いて、明かりを灯して差し上げたい。」
少女「ぁ……っ……」
油燈「白い肌が朽ちる前に、蝋で覆って固めましょう。瞳は螺鈿細工に、髪はシルクに変えましょう。美しいドレスを着て、糸でつるして。暗闇の中で私の愛しいマリオネットたちとワルツを踊りましょう。いつまでもいつまでも。私のために舞うのです。嗚呼、何と甘美で素晴らしい事でしょう!!!!」
妖狐「おい。」
油燈「……おや、狐の子。薄汚れていて何とみすぼらしい…美しくない。早く失せなさい。」
妖狐「お前、何してる。」
油燈「失せなさいと言っているのです。お楽しみの最中だったのに、全く興ざめですよ。」
妖狐「その子から離れろぉ!!!!」
油燈「触るな!汚らわしい!」
妖狐「っああ!」
油燈「言葉も通じぬ獣め。消えなさい。」
妖狐「………………っ。」
油燈「それとも私が消して差し上げましょうか。跡形もなく切り刻んで…」
妖狐「……ヴゥ。」
油燈「(…なんでしょう、雰囲気が変わりましたね。さっきとは別人のような)」
妖狐「ヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
SE:炎の燃え盛る音。
油燈「な、に……!」
妖狐「ヴォォオオオゥ!!!!ヴォアアアア!!!!」
妖狐「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
妖狐「……ん。」
少女「ようやく目覚めたな。夢でも見ていたのか。」
妖狐「夢?どこからが……」
少女「『お母さん』と、しきりに呼んでいた。覚えていないか。」
妖狐「いや、全然……他に何か言ってた?」
少女「特に何も。君の母親はどんな奴だったんだ?」
妖狐「あんまり覚えてない。けど、温かかった気がする。優しくて、陽だまりみたいないい匂いがしてた。」
少女「どうして殺されたんだ。」
妖狐「え?」
少女「覚が殺したんだろう。理由は聞いていないのか。」
妖狐「なに、それ。俺、知らない……。」
少女「死にたがっていたから殺した、と。もしかして知らないのか?」
妖狐「……何も。母さんは昔病気で亡くなったって……っ!」
少女「どこに行く。おい、妖狐!」
SE:走っていく音
妖狐「はぁっ…はぁ!」
(少女「死にたがっていたから殺した、と。」)
(少女「覚が殺したんだろう。理由は聞いていないのか。」)
妖狐「(なんだよそれなんだよそれなんだよそれ!!!!意味が分からない。あいつが母さんを殺した?なんで?)」
妖狐「はぁ、はぁ……っそこの妖!」
妖 「お?なんだ狐の小僧じゃねぇか。血相変えてどうした。」
妖狐「覚、見てないか?探してて。」
妖 「いいや。この辺りでは見てねぇな。」
妖狐「もう一つ、俺の母さん知ってるか。なんで死んだ?」
妖 「お前、そんなことも知らないであいつと一緒にいたのか?つくづく馬鹿だな。有名な話だよ。お前の母さんは妖力を持て余しててな、ここいらの妖怪共を襲って回ってたんだ。」
妖狐「母さんが?どうして。」
妖 「さぁな。本人の意思じゃなかったらしいけどよ。抑えが効かなくなったから、もともと付き合いのあった覚が隙をついて殺したんだ。お前らの家、あるだろ?あれはその時の報酬で建てられたんだよ。騒がしいのは嫌いだ、とか言って集落のはずれにさぁ。」
妖狐「……っ!」
SE:走り去る音
妖 「っておい!どこ行くんだぁ!?……行っちまった。やっぱあいつも変な奴だよなぁ。」
SE:扉を開く音
少女「……覚。」
覚 「あいつはどこにいる。」
少女「覚を探しに行くと言って、出かけた。」
覚 「丁度いい。帰ってくる前に情報の共有だ。場所を変えるぞ。」
少女「つまり、色々試すしかないということか。」
覚 「貴様の実態が分からない以上はな。」
少女「……僕はここにいていいんだろうか。」
覚 「何の話だ?」
少女「きっとこの話を妖狐が聞いたら、僕も、覚のことも止めにかかるだろう。」
覚 「なぜそう思う。」
少女「覚が妖狐の母親を殺したことを、話してしまった。何も知らなかったんだな、あいつは。」
覚 「なるほど。面倒なことをしてくれたな。」
少女「すまない。でも今なら僕の狂言だったことにできる。言ってしまえば僕は赤の他人だ。そんな僕のせいで家族同然の君たちを対立させたくない。だから」
覚 「ここを出て行ったところで解決はしない。それに、自死は何度も試したんだろう。」
少女「それはそうだが。」
覚 「変に気を遣うな。そもそも俺は、あいつと家族ごっこをするような質じゃない。」
少女「罪滅ぼしか。」
覚 「…いいや、ただの気まぐれだ。」
少女「……そうか。」
覚 「あいつが戻る前に済ませるぞ。邪魔されたら敵わん。」
少女「うまくいくのか。」
覚 「駄目なら他の方法を試すまでだ。まず心臓と頭を潰す、そのうえで妖力の流れを断つ。今回は壺にぶち込んで封印だ。貴様の回復源が妖力であればこれで通用するだろう。」
少女「すまないな、手間をかける。」
覚 「泣きわめくなよ。うるさいのは御免だ。」
SE:ドスッと貫かれる音。少しして地面に崩れ落ちる音。
覚 「次は頭……」
妖狐「覚。」
覚 「!」
妖狐「なに、してるんだよ。それ。」
妖狐『(なんで覚があの子を殺してるんだよ。母さんを殺したのも本当?嫌だ信じたくない。俺も殺されるのか。違う嫌だ見たくない知りたくない信じられない信じたくないなんでなんでなんでなんで)』
覚 「うるさいな。見ての通り、殺している。」
妖狐「っ!」
SE:掴みかかる音
妖狐「なんで殺した!!!!答えろ!!!!覚!!!!」
覚 「…こいつは人間だった。妖が人を襲うのは当然だろう。」
妖狐「だとしても!今日まで仲良く暮らしてただろ!どうして嘘までついて」
覚 「ただの気まぐれにいちいち喚くな。貴様が未熟なだけだろうが。」
SE:殴る音
妖狐「…なんだよそれ。そうやって母さんも殺したのか。」
覚 「なんだ、今更知ったのか。」
妖狐「やっぱりそうなんだ。信じたくなかった。みんなして嘘ついてるんだって、本当は何か事情があるはずだって思ってたのに……なのに、なんで!なんでだよおおおおおおおお!」
SE:爆発音。炎の燃え盛る音。
覚 「っ……かはっ……。」
妖狐「なんで、なんで!!!!あああああ!ああああああああ!!!!」
SE:爆発音大。炎の燃え盛る音が続く。
妖狐「……っはぁ、はぁ……っう、うう…ああ……。」
少女「泣い、てるのか。」
妖狐「!」
少女「また火の中だ。」
妖狐「っああ、よかった。生きてる。大丈夫すぐ手当てするから…」
少女「そうか、死ねなかったんだな。」
妖狐「え?」
少女「報告、しないと。覚はどこだ。」
妖狐「何を言って。」
少女「覚、どこだ?……覚?死んでるのか?」
妖狐「……え?」
少女「酷い火傷だ。君が殺したのか?」
妖狐「違う。君を殺そうとしてたから……必死で、それで……」
少女「そう、覚は僕を殺そうとしてくれた。そこに君が居合わせてしまったのか。」
妖狐「さっきから何言ってるんだよ。それじゃまるで君が死にたいみたいじゃ」
少女「ああそうだ。僕はずっと、君と出会うより前からずっと消えてしまいたかった。でも、死ねない。いくら傷ついても、僕は生き返ってしまう。だから死ぬための方法を探していた。覚はその手伝いをしてくれたんだ。だが、今回の方法は間違っていたらしい。」
妖狐「間違ってるだろ!死ぬ必要なんてないのに。なんで!」
少女「僕は普通の人間として生きたかった。でも無理だったんだ。だからもういい。僕が何であろうと、裏切られる前にいなくなれたら、それだけでよかった。」
妖狐「……。」
少女「覚、すまなかったな。僕のせいで君たちを引き離してしまった。でも、ありがとう。君は優しい奴だ。」
妖狐「……俺、は…」
少女「なあ、妖狐。僕を殺してくれるか。」
妖狐「無理だ。君を…傷つけたくない。俺と一緒に生きてよ。じゃないと俺は!」
少女「来るな!……君の気持ちはわかった。残念だが、僕には応えられない。自分勝手なのはもう、うんざりなんだ。」
妖狐「嫌だ待って。待ってよ!」
少女「さようなら。」
妖狐「待って、置いていかないで!嫌だよ!!!!なあ!なあ!!!!!」
SE:炎が静かに消えていく
SE:力のない足取りで歩く音
妖狐「…覚。俺は、俺は……っああ、あああああああああああああああああああああああ!!!!」
SE:歩く音
少女「(煙を吸いすぎたな。頭が痛い。視界もぼやけてよく見えない。)」
少女「どこかで休まないと。」
少女「(辛いのも、痛いのも嫌だ。死ねないなら尚更。)」
少女「……明かり?」
少女「(違う。近づいてくる。あれは…)」
南京「……。」
少女「南京の頭…?」
南京「驚いたね。君、私が見えるのかい?」
少女「ああ。僕もおそらく、そちら側の人間だから。」
南京「面白いね。私達異形側の人間とは。」
少女「どこか休める場所を知らないか。少し、疲れた。」
南京「案内しよう。歩けるかい?……それにしても不用心だね。私が悪い奴だったら、とか考えないのかい?」
少女「どうでもいいな。もう、どうでもいいんだ。」
南京「…そうか。」
SE:二人の足音
少女「(失いたくないものも、期待する理由もなくなった。だから、これでいい。いつか来るその時まで、僕は。)」
SE:足音消える
少女「(僕でいられれば、それでいい。)」