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都市伝説

登場人物:4人(男:2人 女:2人)
・近藤 …男性
・橘  …女性
・佐々木…女性
・新堂 …男性

 

 

近藤 「というわけで今回の赤霧高校オカルト部定例会の議題なわけだが」

橘  「はいはいはーい」

近藤 「よし、橘」

橘  「今日ケーキバイキング半額デーなんで早く帰ってもいいですか?」

近藤 「却下、次」

橘  「ちょっとぉ!なんでですかぁ!」

近藤 「あのなぁ橘」

橘  「なんですか部長ー」

近藤 「お前はな、成績が赤点ギリギリでそれを何とかしてもらうためにうちの顧問に頼み込んだ結果、このオカル

    ト部に在籍することになった、ここまではいいな?」

橘  「はい……」

近藤 「橘、今の現状を考えろ、ここを退部になったらお前、赤点からの留年コースまっしぐらだぞ?」

橘  「真面目に活動します……ハイ……」

新堂 「このやりとり何回目だっけ?」

佐々木「……フフ……10回以降は数えてないわ……」

近藤 「そこ、内緒話する余裕があるなら何か良いアイディアはあるんだろうな?」

新堂 「おっとこっちに矛先がきましたよっと、佐々木さんはなんかアイデアある?」

佐々木「…そうね…私たちでオリジナルの都市伝説を作る…なんてどうかしら…?」

近藤 「ほう」

橘  「なにそれ!おもしろそう!」

新堂 「自分たちでオリジナルの都市伝説をつくるかぁ…それって口裂け女とか人面犬みたいな?」

近藤 「情報が古いぞ、新堂、今の流行りは八尺様やくねくねだ」

橘  「そのへんももう結構古臭くないです?」

近藤 「うるさい、橘、いいものは時代を超えて語り継がれていくものなのだ」

新堂 「さっきと言ってること違くないです?」

近藤 「うるさいぞ、平部員、部長様に意見をするな」

橘  「でたー近藤部長の独裁政権だー!」

近藤 「えぇい、黙れ黙れ、せっかく佐々木からいい意見が出たんだ、今日はその議題について語っていくとしよう

    じゃないか」

橘、新堂「はーい」
佐々木「……フフ……」


近藤 「と、いうわけで、言い出しっぺの佐々木、主にどんな形で新しく都市伝説を作って行こうというんだ?」

佐々木「……そうね……私たちでオリジナルの全く新しい都市伝説を作って……それを、SNSなどで拡散する、とい

    う形かしら……」

橘  「SNS!twitterとかだ!私そういうの得意!」

新堂 「ネットの掲示板なんかは僕に任せてください、主戦場です」

近藤 「ふむふむ、拡散力は問題なさそうだな、後は…そうだな、噂の拡散の仕方、広がる時間などをデータとして

    取ることにより、より科学的な観点から都市伝説というものを見ることが出来るな」

新堂 「部長、そのためにはまず、拡散に値する都市伝説を作ることが先決かと」

近藤 「ふむ、流石は知将で知られた新堂だ、まったくもってその通り」

橘  「さっき平部員とか言ってなかったっけ?」

新堂 「シッ!まためんどくさくなるから早く帰りたいんだったら話合わせといて」

橘  「ラジャー」


近藤 「と、いうわけでお前ら、なにかいい都市伝説のアイディアはないか?」

橘  「ハイ!」

近藤 「良し次!」

橘  「ちょっと!ハイって言ってるんですけど!」

近藤 「…まぁ、聞くだけ聞いてみるか…」

橘  「ハイ!私が考えた都市伝説は【自分の体重と同じだけケーキを食べる女】ですっ」

近藤 「それ橘じゃないか、次」

橘  「ちょっ!流石にそこまでは食べませんよ、私は」

近藤 「で、それどこが怖いんだ?」

橘  「何言ってるんですか部長、自分の体重と同じだけケーキを食べるとか物理的に無理なことやってるのが怖い

    んじゃないですか」

近藤 「急にマジトーンになるな」

橘  「そもそもね?世の中の女の子はみんなケーキを食べる時はものすごい葛藤を抱えているんですよ?」

近藤 「はぁ」

橘  「このケーキ一個を食べるのにどれだけ運動してカロリーを消費しなければならないのか、頭の中でペンタゴ

    ンのスパコンなみに計算して、それでやっと食べるかどうか決断するんです」

近藤 「良くペンタゴンとか知ってたな」

橘  「それなのに…それなのに!自分の体重と同じだけケーキをバクバク食べるとか、そんなの全女子から見たら

    恐怖でしかないですよ!」

近藤 「そうですね」

橘  「怖くないです?怖いですよね?体重計!」

近藤 「趣旨変わってるぞ、タイトルが【恐怖の体重計】になってるぞ」

橘  「私だってお腹いっぱいケーキが食べたいんです!」

近藤 「お前はこの後死ぬほどケーキ食って死ぬほど後悔しろ、はい次」

橘  「なんでですかぁ!」

 

近藤 「で、次は新堂、なにかいい都市伝説のアイディアはあるか?」

新堂 「こっちですか?先に佐々木さんに行くと思ってました、佐々木だけに」

近藤 「違う意味で場を寒くするな、なにせアイツはこの議題の発案者だ、おおとりに取っておこうというやつだ

    よ」

新堂 「なるほど、僕と橘さんはさしずめ前座といったところですか」

近藤 「橘は前座にすらならなかったがな」

新堂 「やめてあげましょうよ、あれでも頑張ってるんですから」

近藤 「努力は認めよう、結果がついてくるかは別だがな」

新堂 「まったく…それで、僕の考えた都市伝説でしたっけ?」

近藤 「うむ、期待してるぞ知将新堂」

新堂 「その呼び方を流行らせようとしないでください」

新堂 「僕の考えた都市伝説は【普通】です」

近藤 「普通?なんか【現実(リアル)】っぽいな」

新堂 「こういうのは変に凝ったタイトルより普通のタイトルの方が興味を惹かれますからね」

近藤 「確かに、して、その内容とは?」

新堂 「主人公はごく普通の高校生なんですが」

近藤 「自己紹介かな?」

新堂 「やめてください、自覚はあるので」

新堂 「で、その普通の高校生、仮にA君としましょう 彼はごくごく普通の生活を送るごくごく平凡な高校生なん

    ですよ」

近藤 「ますます新堂っぽいな」

新堂 「茶化さないでください、で、そんな彼がある日、ちょっとした視線を感じるんですね」

近藤 「良くある展開だな」

新堂 「はいはい、それでその視線はA君が『普通』ではないことをしようとした瞬間に感じるんです」

近藤 「ほう」

新堂 「それは電車でお年寄りに席を譲ろうとした瞬間であったり、街で不良に絡まれている人を助けようとした瞬

    間であったり、コンビニで万引きをしようとした瞬間であったり、A君が自分の『普通』に嫌気がさして、

    『普通』ではないことをしようとした瞬間に感じるんですよ」

近藤 「面白くなってきたな」

新堂 「それでA君はその視線におびえて、結局いつも通り『普通』の生活を送るしかなくなるんですね」

新堂 「それでもA君はなんとか『普通』から脱却しようと、その視線の正体を探ろうとするんですよ」


新堂 「で、最終的にA君は自殺してしまう、それを見ていたのは血まみれのA君だったっていうオチなんですけど

    も」


近藤 「普通に怖いな、新堂、お前都市伝説の才能あるよ」

新堂 「なんですか都市伝説の才能って、普通にネットに転がっているようなお話をつなぎ合わせて作っただけです

    よ」

近藤 「なるほど、新鮮味には欠ける、といったところか」

新堂 「そうですね、ただただそれっぽいって言う感じです」

近藤 「しかしいい出来だった、佐々木の話を聞いてそれほどでもなかったら【普通】を採用しよう」

新堂 「ありがとうございます」

 


近藤 「さてさて待たせたな、本命の佐々木よ」

佐々木「…あまり過度な期待をされても…こまるわ…」

近藤 「まぁそういうな、とりあえずは佐々木の都市伝説、聴かせてもらおうか」

佐々木「…まぁいいわ…」

佐々木「タイトルは…【友達】よ…」

近藤 「これまたシンプルなタイトルだな」

佐々木「そうね…とあるところに…ひとりぼっちの女生徒がいました…」

佐々木「彼女は…いつもひとりでいることが多かったため…いつしか幻が見えるようになっていました…」

近藤 「いきなりぶっとんだ内容だな」

佐々木「幻たちはそのうち…彼女に語り掛けるようになりました…」

佐々木「「僕たちは幻の存在だ…でも君の協力があればこの世界に体を持つことが出来る、君と友達になることが出

    来る」と…」

佐々木「ひとりぼっちが辛かった彼女は幻の声に突き動かされるように行動しました」

佐々木「幻の形そのままの都市伝説を、作ったのです」

佐々木「それは、自分の体重ほどのケーキを平らげる可愛い後輩の女の子の話であったり」

佐々木「どこにでもいる普通の男子高校生のお話でした」

佐々木「その都市伝説の知名度が上がり、多くの人が知ることになったころ、幻たちはその姿を現実に表すようにな

    りました」

佐々木「知らぬ間に、彼女の先輩に、後輩に、友人になっていました」

佐々木「だれもそれを疑問に思いませんでした」

佐々木「彼らは『都市伝説』」

佐々木「友人の友人であったり友人の先輩であったり」

佐々木「実在しているはずなのに見たことはない、幻と現実の狭間に存在する彼ら」

佐々木「知らぬ間にそこにいて、何食わぬ顔で居座っている、それが彼らです」

佐々木「それでも彼女は嬉しかったのです」

佐々木「例え幻でも、たとえ都市伝説でも、自分に先輩が、後輩が、友人が出来たことが嬉しかったのです」

佐々木「でも、今日気づいてしまいました」

佐々木「全てが幻で、現実には存在しないものだということを、彼女は思い出してしまいました」

佐々木「だから……これでお別れです……」

佐々木「優しい優しい都市伝説【友達】さん……ほんとうにありがとう……」

 


 

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