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​姫事変

登場人物:4人(男:1人 女:0人  不問:3人)

・朔夜 …不問

・一姫 …不問

・喜助 …不問

・久光 …男

朔夜「おーい!」
一姫「……。」
朔夜「そこのお前!聞こえてんだろ!」
一姫「……。」
朔夜「おいこら、無視すんな!」
一姫「……。」
朔夜「こいつ……おらっ!」
一姫「!」
朔夜「うぉ!あぶねぇ!……っふー。大丈夫か?つーかまじで気づいてなかったのかよ。」
一姫「?……っ!」
朔夜「お、おい。そんなペコペコすんな。突然蹴っ飛ばした俺も悪かった。でもなんで木に登てたんだ?危ねぇだろ。」
一姫「……。」
朔夜「あ?何やってんだ……”海が見たくて”。お前、もしかして。」
一姫「……。」
朔夜「声、出ないのか。」

 


朔夜「なあ、喜助。三条の辻を少し入ったところにでかい屋敷があるの知ってるか。」
喜助「もちろん!よく裏の馬場で昼餉を楽しんでるよ。」
朔夜「馬乗れよ。いや、そんなことはどうでもいいんだ。その屋敷に住んでる娘、見たことあるか。」
喜助「うん、この間訓練中にお茶を出してくれたよ。かわいい子だよね。」
朔夜「名前知ってっか。」
喜助「いや、名前までは……なんで?」
朔夜「いや、別に。」
喜助「耳まで真っ赤……朔ちゃんもしかして~?」
朔夜「ちげえええええええええよ!いや違うって何だ!なんでもねぇよ!」
喜助「何でもない人はそんな反応しないんだなぁ。」
朔夜「うっせぇ黙れ!てめぇにきいた俺が馬鹿だった!クソッ。」
喜助「直接聞けばいいじゃん。」
朔夜「……喋れねぇんだよ。そいつ。」
喜助「へえ。じゃあ文字でやり取りすればいいんじゃない?」
朔夜「……そうだな。」
喜助「あ、そろそろ昼餉の時間だ。朔ちゃんも来る?会えるかもよ~?」
朔夜「誰があんなところで飯なんか……」

 


喜助「結局来てるじゃん。」
朔夜「うるへぇよ。んぐ。」
喜助「今日何むすび~?僕は昆布。」
朔夜「黙って食え。」
喜助「おかかかぁ~。おいしいよね。このあとの稽古どうする?見学していく?」
朔夜「……。」
喜助「朔夜~?」
朔夜「……。」
喜助「朔ちゃんはあの子のどんなところを好きになっ」
朔夜「黙れって言ってんだよこの野郎!!!!米でも食ってろ!!!!」
喜助「んがっ!!!!そんなに食べれな、ああああああああ!」


SE:足音


朔夜「……あ。」
喜助「さ、さくちゃ……僕死んじゃ……ヴェッ!!!!!」
一姫「……!」
朔夜「ああ、大丈夫だ。こいつは、まあ、その。頑丈だから。」
一姫「……。」
朔夜「そんで……その。」
一姫「……。」
喜助「げほっ、げほっ……朔ちゃん、名前。」
朔夜「わ、わかってるっての……あー、その、お、俺は朔夜ってんだ。お前は?」
一姫「……。」
朔夜「あ、悪ぃ。これ使え。」
一姫「!……。」
朔夜「……”いちひめ”か?」
一姫「!」
喜助「首振ってる。違うみたいだね。」
朔夜「ほら、書けよ。」
喜助「……”かずき”。へえ、珍しい読み方だね。」
朔夜「一姫、か。」
喜助「あは、朔ちゃん嬉しそ~。」
朔夜「うるせぇよいちいち実況すんな!」
喜助「否定しないってことは嬉しいんじゃ~ん!」
一姫「……?」
朔夜「な、なんだよ。言いたいことあるなら書け。」
喜助「”さくちゃん、って女の子なの?”……だって!あはははは!そう見える?あっはははは痛い!!!!」
朔夜「そんな訳あるかよ。男だっての。」
喜助「女の子みたいな名前してるけどね。」
朔夜「お前、字書けるんだな。親父に習ったのか。」
一姫「……。」
朔夜「”会話できないと不便だから”……まあそうだな。」
朔夜「(事情があるとはいえ、女が字を習えるってことはやっぱりいいとこの娘なんだな。屋敷もでけぇし。着物も上物だ。よくこれで木なんか登ってたな。)」
朔夜「あ、なんだよ。」
喜助「こっちきてって意味じゃないの?」
一姫「!」
喜助「ほら~。」
朔夜「なんでわかるんだよ……どこ連れて行く気だ?」
喜助「”送ってくれたお礼にお茶を振舞いたい”……送ってくれたお礼って?」
朔夜「あ?…ああ、気にすんなよ。大した事じゃねぇし。木から落ちたのも俺のせいだろ。」
一姫「……。」
喜助「いいじゃん。せっかくだしさぁ。あ、僕もついて行っていい?」
一姫「!」
喜助「やった~!ほら、行くよ朔ちゃん。」
朔夜「いや、俺は行かな」
喜助「たくさんおにぎり食べたから喉乾いちゃってさ~!ね~?朔ちゃん!」
朔夜「……くそっ。」

 


朔夜「い、頂きます。」
一姫「……。」
朔夜「おい、喜助。俺作法なんてわからねぇぞ。」
喜助「僕の真似をしていればいいよ。」
朔夜「(こいつ、稽古事は大抵こなせるんだよな。)」
喜助「……ずずずず。」
朔夜「……ずずずず。」
喜助「うん、おいしかったよ。ありがとう。」
朔夜「美味かった……俺、変なことしてなかったか?」
喜助「大丈夫大丈夫~。おいしく頂くことが一番の作法ってね。」
朔夜「そんなわけあるかよ……飲み終わったし俺はこれで」
久光「おや、もう帰るのかい。」
朔夜「あんたは……」
久光「せっかく来たんだ。ゆっくりしていくといいよ。」
一姫「……!」
喜助「一姫のお父上。お初にお目にかかります。私、喜助と申します。」
久光「ご丁寧にどうも。西園寺久光だ。君は?」
朔夜「朔夜です。どうも。」
久光「ふふ、よろしく。……ん?ああ、そうか。この子が例の。うちの一姫がお世話になったね。」
朔夜「大したことはしてねぇ……っすよ。」
久光「この子は昔からやんちゃでね。振袖でも着せればおとなしくなるかと思ったんだがどうにも器用で。」
朔夜「その恰好で木登りはやめさせた方がいいと思う……ます。」
喜助「朔夜、敬語変だよ?」
久光「ふふ、そんなに気負わなくていいよ。一姫、あれを持ってきなさい。」
一姫「……。」
朔夜「……何を取りに行ったんだ?」
久光「それは来てからのお楽しみさ。さて、君たちの話を聞こうか。一姫とはどういう関係なんだい?」
朔夜「どうって……た、たまたま会っただけっすよ。」
喜助「その場にいたのでついてきました!」
久光「なるほどね。うんうん。うちの一姫、かわいいだろう?」
喜助「はい!お茶も美味しかったですし。いいお嫁さんになりそうですよね~。ね?朔夜。」
朔夜「よ……まあ、そうだな。面はいいと思う。」
久光「そうだろう?可愛くて困ってしまうよ。縁談が後を絶たなくてね。」
朔夜「……そっすか。」
久光「名家からの申し出もたくさんあってね。まだ早いからとお断りしてはいるんだが。」
朔夜「……。」
喜助「あはは。そろそろ勘弁してやってください。」
久光「おや、すまないね。いじめすぎてしまったようだ。安心しなさい。あの子に特定の相手はいないよ。」
朔夜「はあ。」
一姫「……。」
久光「ああ、おかえり一姫。ありがとう。土産だ。持って帰るといい。」
喜助「わ~!ありがとうございます!中身なんだろ~。」
朔夜「あざす……一姫、またな。」
喜助「お茶美味しかったよ。またね~!」
一姫「……!」
久光「またいつでも遊びに来るといい。君たちは一姫の大切なお友達だからね。手厚くもてなそう。」

喜助「あはは!楽しみにしてます。」
久光「今後もうちの息子をよろしく頼むよ。道中気を付けて。」
一姫「……。」

 


喜助「いや~いいお家だったね。お父さんはおちゃめだったけど。」
朔夜「……。」
喜助「次はどんなお茶菓子が置いてあるかな~。リクエストとかしたら取り寄せてくれるかな?僕湯沢屋のまんじゅう食べてみたいんだよねぇ。」
朔夜「……。」
喜助「どしたの朔ちゃん。ずーっと黙りこくって。」
朔夜「……子。」
喜助「うん?」
朔夜「……息子って言ったよな、親父さん。」
喜助「言ったね。あれ?もしかして気付いてなかった?一姫はおと……」
朔夜「それ以上言うな!!!!……クソッ。なんで振袖なんか着てるんだよ紛らわしい。」
喜助「え~似合ってるんだからいいじゃん。」
朔夜「よくねぇよ!!!!何だよ”いいお嫁さんになりそうですよね~”って!!!!」
喜助「だってお嫁さんになれそうだったから……まあそう気を落とさないでよ。男色っていう文化もあるからさ。いいんじゃない?」
朔夜「何もよくねぇよクソがあああ!!!!」

 


久光「一姫、さっきの朔夜の顔見たかい?息子って言った瞬間にポカーンって、ポ、ポカーンって……くっ、ふふふあはははは!!!!あー面白い。」
久光「ん?なぁに一姫。なんで包丁持ってるんだい?人に切先を向けたら危ないよ。台所に戻して……なんで近づいてくるんだ。一姫。ちょっと待って。落ち着いて話し合おう。ごめん父さんが悪かった。勝手にバラしたことを怒ってるんだよな。そうだよな。え、違う?待って何をそんなに怒ってるんだ話してくれなきゃわからないぞ一姫。一姫?一姫   いいいいいいいいいいいいい!!!!!」

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